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悪役令嬢は婚約破棄を言い出した王子様に決闘を申し込む。  作者: 藤宮サラ
第一章 決闘まで

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【番外編】ミモザとアリアナとクロード(アリアナ視点)

ブックマーク等、ありがとうございます。

大変励みになります。

前話の続き、アリアナ視点です。

「ご機嫌よう。クロード殿下、お兄様。」


「アリアナ、座りなさい。」

 兄から言われたので、冷気を発している人から一番離れた席に着こうと、ソファーに近付く。


「そっちでは無い。ここに来なさい。」

 そう言った後、クロード殿下が私の腕を引き、隣に座らせた。


「殿下、わたくしはあちらで。」


「ダメだ。ここに座りなさい。」


「はい…」

 私は早速白旗を揚げた。

 クロード殿下から発せられる冷気が、凄すぎる。

 やっぱり帰れば良かったかも…


「久しいな。アリアナ。」


「この間まで、お世話になっていたではありませんか。」

 ちょっとだけ、抵抗してみる。


「魔法師団に週2回は顔を出す様、申し伝えていた筈だが。」

 冷気からブリザードになりそうだ。


 勇気を振り絞り、言い訳をする。一応、予想はしていたのよね。絶対怒られると。

「忙しく行けないと、連絡はいたしましたわ。」


「レオンハルトと親しくしているのではないか?」

 クロード殿下の声が一段と低くなった。

 やっぱり怖いかも。頑張れ、私。


 う〜ん。やっぱりアカデミー内の事は、筒抜けなのね。確かにエリス様と一緒にいると、レオンハルト殿下がいらっしゃる事が多くなってしまう。だけど二人きりで会った事は無い。


「レオンハルト殿下?別に親しくしておりません。わたくしはエリス様とは、親しくさせて頂いておりますが。」

 ちょっと言い訳にしては、苦しいかな。レオンハルト殿下は俺様ではあるけれど、エリス様とのやり取りは面白いので、つい一緒に聞いてしまうのよね。


「レオンハルトも一緒にいるのではないか?」


「時々は。」

 私の顔はきっと引きつっているはず。


「やはりアカデミーは辞めろ。」


 やっぱりそう来ますか。もう何度も言われるので、反射的に返事をしてしまう。


「嫌です。」


「何故だ?勉強はもう十分だろう?」


「あと少しで卒業ですから、それまではアカデミーに行きたいですわ。あっ、お兄様、これ。」

 私はバスケットを差し出す。

 話題を変える絶好機会だとばかりに、兄に差し出す。


「何だ?」

 今まで、黙って私たちの会話を聞いていた兄が、不思議そうに、バスケットを受け取る。


「嫌だわ。今日はミモザの日よ。クロード殿下とお兄様に、ミモザとケーキとクッキーを用意したの。」


 そう私が答えた途端に、兄は相好を崩す。

「ああ、そうだったな。」


「あら、それで呼び出されたのだと思ったのだけど。お兄様方はどなたかに贈られたの?」


「それどころでは無かった。」

 兄がボソッと言う。


 事件の後始末で忙しい事は知っていたので、仕方がないかとも思う。

 そう言えば、二人とも疲れている様子だし。

 せめて今ぐらいはゆっくり出来ればいいけれど。


 そう思うと、私がここに居ていいのかしら?どなたか意中の方と過ごさなくとも良いのかしら?と、急に不安になる。だけど、冷静に考えると、二人に意中の方がいる気配はない。それなら、まぁ妹が一緒でもいいのかな、と一人で納得した。


「ですわよね。お茶入れて来ましょうか?」


「いや、侍従に頼んでくるよ。」


 兄はそう言って席を立ち、部屋を出て行った。クロード殿下と二人きりになるじゃないと、頭の中で、兄に悪態をつく。ブリザードをまともに受ける私を、見捨てないで欲しい。妹の事が心配じゃないの?


「アリアナ、傷は痛まないか?」

 殿下は私の肩に視線を向ける。ブリザードが和らいだ。とりあえず、説教では無さそう。ホッと一息つく。


 傷痕があるので、事件以降は、なるべく首まで覆われているドレスを着ている。今日も傷痕が隠れるドレスを着て来たので、殿下を心配させてしまったかも。


「ええ、もう痛みはありません。ご心配をおかけしました。」


「傷痕はどうなった?」


「さあ?見ておりません。侍女が薬は塗ってくれていますが。」

 傷痕が少し残ったとしても気にしていない。むしろこれを理由に、婚約破棄されればいいのに。


「傷痕をみせろ。治癒魔法をかけてやろう。」


「治癒魔法なら、治療院の先生にお願いしますわ。」


「アリアナの肌を見せたくはない。」


「肌って…肩ですから。ドレスを着れば出ていてもおかしくない場所ですわ。それに今日のドレスだと、すぐには肩を出せません。」


 そうお断りしていたはずなのに、クロード殿下は、私の体を斜めに動かし、背中を殿下に向けさせた。そして、私の傷痕に服の上から手を当てた。

 ふんわり温かい。

 本当に心配させてしまったのだと、反省する。


「やはり、服の上からだと難しいな。傷痕を見せなさい。」


 襟ぐりの開いたドレスでは、問題ないのに、今のドレスで肩だけを出す事は、恥ずかしい。

 いくらクロード殿下でも。

 殿下は純粋に心配してくれているのに。

 何も動かず、言葉も出さない私を不審に思った殿下は、更に爆弾発言を落としてくれた。


「ああ、ドレスのボタンが後ろだから、自分でできないのだろう?私が外すぞ。」


 私が応える前に、クロード殿下は首の後ろ側にあるボタンに手を掛けた。

 殿下は器用に背中にあるボタンを外していく。

 いや、ダメでしょう。いくら兄の様な方とはいえ、男性と二人きりで、服のボタンを外されている状況。

 誰かに見られたら、大変だ。


「殿下、ダメです!」


「何がダメなんだ?二人きりだ。他に見る者はいない。」


 それが問題なのですが…


「いえ、殿下の名誉に関わるかと。」


 私がそう言えば、殿下は肩を震わせた。


「クックック…それを言うならば、アリアナの名誉だろう?心配するな。ここには防音、防御、目眩しの魔法をかけている。エリックしか入って来れない。」


「兄でも問題があると思いますが。」


「エリックなら、何も問題ない。」


 いえ、問題大有りなんですが…

 そもそも殿下が私の服のボタンを外している事自体が。


 私の心臓はドクドクと忙しく、顔はきっと真っ赤になっている。

 殿下は責任を感じて、傷痕を自分で確認したいだけ、これは治療で、兄に見せるのと一緒だと、言い聞かせ、落ち着きなさいと、自分を叱咤する。


 殿下は、上から五つほどボタンを外すと、そっと右肩側のドレスを外す。

 私は慌てて胸の前で、ドレスを抑える。


「ああ、悪かった。」

 殿下はそう言って、彼の上着をサッと脱ぎ、私の反対側の肩から、前面に掛けてくれる。


「ありがとうございます。」

 上着からは、殿下がいつも使っている柑橘系のオーデコロンの香りがした。幼い頃はよく抱きついていたんだっけと、現実逃避してしまう。


 殿下の手が傷痕の上に、直接触れる。

 温かい掌の感触を感じたと思ったら、殿下の指先が傷痕を撫でていく。


「殿下、擽ったいです!」


「動くな!もう少しで済むから、我慢しろ!」


 傷痕に沿って、ふんわり温かくなったと、思ったら、私のドレスが肩まで引き上げられた。


「終わったぞ。随分薄くなったが、後、数回は治療が必要だな。」


 そう言いながら、また器用に背中のボタンをかけてくれた。変わらない優しさが、身に染みる。

 妹同様に可愛がってくれた殿下には、幸せになって欲しい。いつまでも、私が側にいては邪魔よね。


 殿下に上着を返しながら、お礼を言う。

「ありがとうございました。ですが、これ以上は殿下のお手を、煩わせる訳にはいきません。」


 自分でも可愛くないなぁと思うけれど、これ以上、殿下の優しさに触れたら、卒業式の断罪パーティーに立ち向かえない。


「いや、私が最後まで面倒をみるから、心配するな。」


 最後までとは、傷痕が無くなる迄かな。殿下には責任を感じて欲しくは無い。


「殿下、もう十分です。わたくしは傷痕があろうとも、わたくしには変わりありません。クリストファー殿下との婚約解消が成れば、殿下に甘える訳にはいきませんわ。」


 私がそう言えば、クロード殿下は眉を顰める。


「クリストファーと婚約解消が成った暁には、アリアナはどうするつもりか?他国の王子の元へ、嫁ぐのか?」


「まさか!王子様方は、皆様良い方ばかりですが、わたくしには、勿体ないお話です。」


「その王子達から、求婚の申し込みが来ているが?婚約解消後、いや、早急に婚約解消し、我が国に来て欲しいと何件も。」


「もちろん、国王陛下や、父から嫁げと言われれば、嫁がなければならないかもしれませんが。」


「アリアナは、他国へ嫁ぐというのか?」


 折角、暖かくなった空気が、一気に冷えて行く。


「今の立場のわたくしには、選ぶ事など出来ません。貴族の娘として、それは充分承知しております。自分が想う方と一緒になる事など夢のまた夢ですわ。」


 すると、クロード殿下は私の両腕をガシッと掴む。

「誰か好きな男がいるのか?」

 ドスの効いた声で、私を睨みながら、掴んだ指に力を入れてくる。


「まさか!今想う方はおりません。殿下、腕が痛いですわ!」

「ああ、悪かった。」

 そう言って、力は抜いてくれたが、拘束は解いてもらえない。


「婚約する方とは、結婚してからでも、愛情を育む事ができればと思っているだけです。本当はクリストファー殿下と、その様な関係になる事が一番良かったのでしょうけれど。」

 そう、彼は婚約者としては、問題だらけだ。だけど、彼だけが悪い訳ではない。私も彼と結婚したくないという気持ちがあったし。今更、過ぎた時は戻せない。お互いの幸せの為に、婚約を解消した方がいい。


「クリストファーと本気で結婚する気か?」


 殿下は何か勘違いをしているのだろうか?

「……クリストファー殿下から、婚約破棄を言われると思いますわ。」


「その後はどうするつもりか?他国の王子の元へ行くのか?我が国の貴族に嫁ぐのか?」


 それは無い。婚約解消後は田舎に籠り、魔法具の開発に没頭する予定だし。


「クリストファー殿下と破談になった娘を望む方は、いらっしゃらないでしょう。その後は領地の隅にでも居を構え、のんびり暮らしますわ。」


「アリアナが破談になれば、喜ぶ男が大勢押し掛けるというのにか?」


「まさか!皆様わたくしの家と持参金が魅力的なだけですわ。わたくし自身の事など二の次でしょう。わたくしの本性を知れば、皆逃げ出しますわ。」


 卒業パーティーが何事も無ければ、確かに次の婚約を決められるかもしれないけれど、断罪イベントが待ち構えていれば、私も無傷ではいられない。名誉は地に落とされるはず。

 落とされたついでに、今までの鬱憤を晴らして何が悪い?と、色々と準備しているのよね。


「アリアナは何か誤解している。本当のアリアナを知れば、益々男が寄って来る。」


「そんな事はありませんわ。婚約解消した後は誰も寄っては来ません。たぶん?」


私がそう言えば、クロード殿下の眼差しが鋭くなる。


「何を企んでいる?」


「内緒ですわ。ご心配無く。」

 まさか逆断罪を計画しているとは言えず。


「心配しないわけはないだろう!アリアナの事は大事に思っている。」


「ありがとうございます。わたくしも殿下に妹の様に可愛がって頂き、嬉しかったですわ。」


 そう言ったところで、兄がティーセットが載ったワゴンと共に、部屋に戻って来た。


「お兄様、わたくしがお茶を入れますから、ゆっくりされてくださいな。」


「ああ、頼む。アリアナのミモザケーキは楽しみだなぁ。今年も食べれて良かった。」


「やっぱりケーキ目当てでしたの?」


「いや、クロードが煩くって。お前が魔法師団に来ないから、悪いんだぞ。」

 そう言いながらも、兄は嬉しそうだ。


「だって忙しかったのです。だいたい週に2回も顔を出すなど難しいですわ。」


「ダメだ。必ず週2回は顔を見せてくれ。私が心配でたまらない。」

「ほら、煩いだろう?」

「ふふふ…」


 いつもの他愛もない話をしながら、こんな時間を持てるのも今だけよねと、一人感慨に浸ってしまったのだった。






お読み頂き、ありがとうございました。


次回はクロード視点を予定しています。

不定期更新で申し訳ありませんが、お付き合いいただけますと、嬉しいです。



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