【番外編】アリアナとレオンハルトとエリス(レオンハルト視点)
ブックマーク等ありがとうございます。
更新遅くなり、申し訳ありません。
今日はアリアを戻すと約束した日だ。
いつ戻って来るかと、心待ちにしていた。
夕方になっても、アリアは戻って来ない。
やはり、約束は守られないのか、次の手を考えなければと思いながら、誰もいない教室の2階から、正門を眺めていた。
すると一台の馬車が学校の正門に滑り込んで来る。
馬車にある紋章は、ファーガソン公爵家のものだった。
俺は、慌てて、エントランスに転移する。
馬車から、背の高い美丈夫の男性、アリアの兄が最初に降りて、その後から、アリアが兄にエスコートされて降りて来た。
彼女は、シンプルなボルドー色のドレスを着ている。
顔色は良いが、首まで覆われたレースが、傷を隠す為かと思うと、苦々しく思う。守ってやれなかった後悔が込み上げてくる。
だが、彼女は傷の事など全く感じさせず、凛としおり、いつもの様に優雅にエントランスへ入って来た。
『アリア!』
『レオンハルト殿下、ご機嫌よう。』
『私がエスコートしよう。』
俺がエスコートしようと、手を差し出そうとしたところに、イスマエルとルーカスもやって来た。
「アリア!」
「リナ!」
二人はアリアの名を呼びながら、彼女に近寄って来る。アリアは彼らにも礼を執る。
「イスマエル殿下、ルーカス殿下、ご機嫌よう。」
『チッ』
思わず、舌打ちをしてしまう。
こうなれば、さっさとアリアを連れて行こう。
そう思って、手を差し出した。
『レオンハルト殿下、折角お申し出いただきましたが、兄と今から先生の所へご挨拶に伺わなければなりませんので。先日はご心配をおかけしました。改めてお詫び申し上げます。』
アリアは優雅に礼を執る。
『謝罪は良い。私が勝手にした事だ。では、教務室まで、私がエスコートしよう。』
『いえ、兄がおりますので、殿下のお手を煩わせるわけには参りません。では、御前失礼致します。』
アリアは軽く会釈をして、兄の方を向く。
彼女の兄もアリアに優しく微笑んでいた。
側から見たら、美男美女でお似合いだ。
アリアの全面的な信頼を置いている兄が、羨ましくも、妬ましくもある。兄だとわかっていてもだ。
『待て!後で話がしたい。時間を取ってくれないか?』
そう声を掛ければ、兄の方が答える。
『レオンハルト殿下、妹はクリストファー殿下と婚約しております。不用意なお声掛けは、ご遠慮頂きたい。』
『友人としてなら、問題ないだろう?』
「レオンハルト、抜け駆けは許さない!」
「そうだ。私達もアリアとゆっくり話がしたい。」
ルーカスとイスマエルが口を挟む。
「お兄様、わたくしの女子の友人と殿下方とご一緒であればよろしいでしょうか?殿下方は女子の間で人気がありますのよ。」
アリアはそう言って、兄を見上げて微笑む。
俺たちには絶対見せない、心からの笑顔だった。
しかし、彼女の言葉は許せない。
他の令嬢への橋渡しをするとも取れる。
俺が話したいのは、アリアだけだ。
しかもコイツらと一緒など、言語道断だ。
彼女の兄も、アリアに向かっては、優しく微笑み、彼女に耳打ちする。
その様子は兄妹というより、恋人同士の様だ。
「何だか許せないよなぁ。彼女の兄上だと知っていても。」
いつの間にか、隣に来ていたルーカスが呟く。
本当に、許せない。
彼女の信頼しきった微笑みを、俺にも向けて欲しい。
彼女の特別になりたい。
彼女の兄より、信頼され、その身を預けて貰える様になりたい。
「皆さまご一緒であれば、晩餐後に談話室でご挨拶致しますわ。では、後ほど。ご機嫌よう。」
彼女はそう言って、兄と教務室へと向かう。
その後ろ姿を見ながら、とにかくアカデミーに戻って来てくれてよかったと思う。
エリスがこの国に滞在するのは、後数週間だったか。
事件に巻き込まれた事を心配した彼女の両親が、ルイスとの結婚の準備を理由に呼び戻したのだ。元々約束していた期間であったが、アリアと意気投合したエリスが卒業まで期間延長を申し出ていたのだが。
期間は短いが、エリスに頼もう。
彼女とアリアは仲が良い。
そんな事を考えていると、ルーカスから声がかかる。
「レオンハルト、お前、アリアナ嬢と会ったのか?」
「何だって!」
イスマエルも俺を睨むが、俺は冷笑する。
アリアはお前たちに渡さない。
「お前たちに話す義理はない。悪いが失礼する。」
そう言い放ち、エリスに連絡を取るため、談話室へ向かう。
エリスは直ぐに談話室に来てくれた。
『レオン!アリアナ様がお戻りになられたって?』
相変わらずのエリスに苦笑が漏れる。
元気がいいのは、良い事だ。
事件の事は、彼女の武勇伝の一つになるらしい。
すでにルイスとの結婚が決まっており、評判など気にしない性格なのも幸いした。
『ああ。だが兄も付き添いで来ていて、アリアと話せなかった。エリス協力してくれないか?アリアとゆっくり話がしたい。』
『ああ、アリアナ様が戻ってみえて、嬉しい!レオン、独り占めはダメよ。私のアリアナ様なんだから。』
人の話を聞いていないところも変わらない。
『いつアリアがお前のものになったんだ?』
『あら、アリアナ様はレオンより私の方が仲良くしているもの。そうだ!今日はお泊まり会をしましょう!』
『エリス!お前俺の話を聞いていたか?』
『何か言った?アリアナ様がレオンと二人で会ってもいいって言ったら、考えてあげる。私はアリアナ様の味方だから、アリアナ様が想いを寄せられている方であれば、協力するけど。』
『俺には協力しないのか?アリアは誰か想いを寄せる奴がいるのか?』
まさかと思うが、誰かアリアが好きな人がいるのか?
クロードに対しては兄と言っていた。その言葉には嘘が無いと思う。では、誰なのか?
『だって、アリアナ様には幸せになって欲しいもの。想いを寄せる方がいらっしゃるなら教えて欲しいと話したところで邪魔されたから、アリアナ様が想い人がいるかどうかはわからないけど。』
『この俺が幸せにする。』
『俺様レオンに、アリアナ様は勿体ないわ。』
『俺のどこが俺様だって?』
『全部!』
『エリス!』
『きゃっ!こわーい!』
エリスはふざけて声を出す。
『アリアが俺の妃になれば、エリスとはいつでも会えるぞ。』
『それはとても魅力的だけど、アリアナ様の気持ちが一番だわ。』
『アリアがこの国にいたら、クリストファーと結婚しなければならないが。』
『クリストファー?ああ、あの人…あの人だけは無いと思うけど…だけど、そのお兄様であるクロード殿下は素敵だったわ。クロード殿下の方がお似合いなのに。』
自分でも驚くほど不機嫌になってしまう。
『俺とアリアの方が似合うと思うが?』
『美女と野獣よ。』
『野獣はないだろう?酷いな。』
見た目ならクロードにも負けていないはず。
『アリアナ様が野獣でもいいって言えば協力してあげる。』
『エリスはアリアの気になる男がいるかどうか、聞いた事があるか?』
『アリアナ様は王子様達の事は、皆友人にしか思っていないわよ。レオンを含めてね。』
わかっているとはいえ、はっきり言われると落ち込む。仲の良い女子同士なら、何か俺の事を話していないかと期待したのだが。
だが、アリアを狙っている他の王子達も、立つ位置は同じだ。
だが、国としても同規模で国境を接している隣国で、俺の妃となる条件は悪くは無い。
そんな話をエリスとしていたら、晩餐の時間になる。
やっとアリアの顔が見れると思ったのだが、彼女は姿を現さなかった。
聞けば、別館で兄と晩餐を取っているらしい。
晩餐後の談話室は生徒達で溢れていた。
どうやらアリアの言葉を聞きつけたらしい。
だが、肝心のアリアがなかなか現れない。
ヤキモキしていると、エリスが近付いて来て、アリアがエリスのところには、挨拶に訪れたと教えてくれた。
『俺とアリアを二人で会わせて欲しい。アリアの嫌がる事は絶対にしない。ただ話したいだけだ。後少しで卒業だろう?頼む。』
『レオンも必死ね。アリアナ様に伺ってみるわ。だけど絶対変な事しないでよ。』
エリスから承諾を貰った時、アリアが談話室に入って来た。
「皆さま、この度はご心配をおかけいたしました。お陰様で、元気にアカデミーに戻る事が出来ました。どうぞこれからも宜しくお願いいたしますわ。」
その場にいた生徒から歓声が上がり、彼女は生徒たちに囲まれている。
そんな中、アリアの左右にイスマエルとルーカスがそれぞれ立っている。その姿を見るだけで苛立ちを感じる。
『ルーカス殿下もイスマエル殿下もアリアナ様と並ぶと、とてもお似合いだわ。だけどやっぱりお兄様のエリック様と並ばれると、美男美女で絵画の様で素敵だわ。』
さっき俺が思った事を口に出すエリスに眉を寄せる。
あの二人にも腹が立つ。
アリアを取り戻そうと、動き出したが、アリアは談話室を退出してしまった。
彼女は女子寮と繋がる扉の奥へ消えていく。
『後で連絡するわね。』
エリスはそうウインクして、アリアを追いかけて行った。
次の日から、アリアは授業に参加していたが、彼女の周りは女子生徒が囲み、なかなか近付けない。
イスマエルもルーカスも同じだ。
そんなある日、エリスが放課後に呼び出して来た。
一定の身分以上しか使えない小談話室だ。
入ってみると、エリスとアリアがお茶をしていた。
『アリア!』
そう言って、駆け寄り手を握る。
『レオン、手を出さない!』
そう言って、エリスがパチンと俺の手を叩いた。
『ふふふ。仲がよろしいですのね。』
『腐れ縁なの。こんな俺様だけど根は悪い人では無いのよ。意外と優しいし。』
『俺様と言うな!アリアが誤解するだろう?』
『あら、だって本当の事じゃない。』
『レオンハルト殿下は確かに、俺様のところはありますわね。ですが、一国をこれから導かなければならない方は、多少は強くいらっしゃらなければ、国を纏める事が難しいですわ。余りに横暴でも困りますが。』
『ほら、アリアはわかってくれる。』
彼女が俺を援護してくれただけでも、心が喜ぶ。
『アリアナ様、ハッキリ振ってあげてくださいね。付け上がるだけですから。』
『わたくしは、レオンハルト殿下のお申し出を受ける事は出来ないとお断りしているのですが…』
『アリアはクリストファーと結婚したいのか?』
『わたくしの意思は関係ありません。』
アリアは俯く。
『俺が助けてやるぞ。』
『何度も申し上げますが、わたくしは自分の問題は自分で解決いたします。今は婚約している身です。どうぞわたくしの事は、お捨て置きくださいませ。レオンハルト殿下のご温情には感謝いたしますわ。』
『嫌だね。諦めない。俺はアリアだけだ。』
俺は改めて宣言する。
アリアが無事にアカデミーに戻って来た。
今はそれで良い。
『ね?こんなところが俺様なのよ。』
エリスが呟いた声に、アリアが笑う。
無邪気な笑い顔は大いに癒される。
やっぱり側にいて欲しい。
それから俺たちは事件の話や世間話を1時間ほど楽しんだ。
『アリア、エリスを観光させたいのだが、一緒に付き合ってくれないか?』
『ご案内だけでよろしければ。』
そう、エリスをだしにして、アリアをデートに誘ったのだった。
お読みいただき、ありがとうございました。
次回もお約束は難しいのですが、週1〜2回を目標に更新したいと思います。
ものもらいは完治しましたが、眼精疲労は様子見ながらです。パソコンとスマホの使用制限…辛い…
皆様もお体をお大事になされてください!




