【番外編】クリストファーの見舞い(アリアナ視点)
ブックマーク等、ありがとうございます。
更新遅くなり申し訳ありません。
アリアナ視点です。
今、物凄く重たい空気に包まれている。
私の与えられた部屋にいるクリストファー殿下。
無言で立っている。
私はベッドの上に襟ぐりの広い夜着にショールを掛けて、上半身を起こしているだけ。
今まで意識不明だったのだからと、この状態での面会となったのだが…
何故か二人きり。あり得ない。
一体どうしてこうなったのか…
遡れば、野外活動で私が攫われた事から始まる。
エリス様まで巻き込んで、大事件となってしまった。
私はその際に怪我を負い、魔法師団に連れてこられ、治療を受けたまでは、良かった。
だけど二日も寝込んでしまった私を心配した過保護な兄達が、なかなか私をアカデミーに戻してくれない。
アリアナは意識不明だと、周囲には伝えて、私には魔法師団から出してもらえなかった。
仕方なしに、姿を変えて魔法師団の仕事を手伝いながら、こっそり抜け出して、王宮内を探索する事を日課にしていた。
その散策の最中に、レオンハルト殿下と王宮の回廊で、鉢合わせしてしまい、拉致?救出?されてしまう。
そこにクロード殿下と兄が、駆けつけて来て…どうなる事かと心配したけれど、アカデミーに戻れる事なって、ホッとした。
けれど、アカデミーに戻るなら、私の意識が戻ったと報告を上げる事になった。そして、王妃陛下が見舞いに来てくださったまでは、予想通りだったのだけど。
王妃陛下が置き土産とばかりに、今、部屋に立っている人を置いて行くまでは。
ああ、過去を振り返って、現実逃避している場合じゃないし。
お互いが無言のまま、時間が過ぎていく。
「傷はもういいのか?」
耐えられなくなったクリストファー殿下が、声を出した。
私もビクリとしてしまう。
そんな私を怪訝そうに見ている殿下。
「はい。傷は治癒魔法で治してもらったようで、痛みはありません。傷痕が残るかもしれませんが。」
「傷痕…」
傷痕と言うと、殿下が反応する。
私の肩に視線が刺さる。
彼がベッドの側まで歩いてきた。
一体何を考えているのか。
「酷いのか?」
「わたくしはまだ直接見てはおりません。」
「見せてみろ!」
そう言って、私のショールを引き剥がす。
私は慌てて、掛け布団を引き上げるが、肩は見えた様だ。クリストファー殿下が息を呑む。
私の肩には、布が当てられている。
少し大袈裟なぐらいに当てられた白い布は痛々しく見えたのかもしれない。
「嫌です。殿方に肌を晒したくはありません。」
「俺は婚約者だ。」
都合の良い時だけ、婚約者の肩書きを持ち出すのは、やめてほしい。
「結婚した訳ではありません。殿下もわたくしと結婚する気はないのでしょう?」
「クロードには見せたのだろう?」
だから何だというのか。
あの時は緊急事態だったから、仕方がないのに。
「確かにクロード殿下には、治癒魔法で応急処置をして頂いたそうですので、傷はご覧になられたとは思います。しかし、あくまでも緊急事態だったと伺っています。その場には兄もいましたし。わたくしは気を失っていましたので、覚えておりませんが。」
「そんなに酷い傷なのか?見せろ!」
彼はそう言って、当てられていた布をずらした。
「きゃっ!」
私は慌てて押さえたが、間に合わなかった様だ。
彼が絶句している。
やっぱり傷痕は酷いのだろう。
私は掛布を引っ張り上げ、肩まで覆う。
咄嗟に私も大声を上げてしまう。
「もう満足でしょう!傷のある娘との結婚など望まないと、陛下に仰ってください。殿下はお気に入りの方をお迎えすればよろしいのですわ!」
クリストファー殿下の相変わらずの横暴さに、呆れてしまうが、私も言った後に大人気なかったと反省する。
恐る恐るクリストファー殿下を見ると、何故か彼は顔を歪ませていた。
「お前はどうする?クロードの元へ行くのか!」
クロード殿下の名前が出て来て、首を傾げてしまう。
確かに兄と同じ様に親しくさせて頂いているけれど。
「何故クロード殿下の元へ、行かなければならないのですか?確かにクロード殿下にはわたくしが幼い頃より、妹の様に気にかけて頂いておりますが、それは殿下の婚約者であるからですわ。クリストファー殿下とは、これ以上お話しすることはございません。どうぞお引き取りくださいませ。」
「アリアナ…」
クリストファー殿下が私の名を呼び、手を伸ばしたところで、扉がバタっと開き、兄と王妃陛下が入って来た。
「アリアナ!大丈夫か?」
きっとさっきの私の叫び声を聞いた侍女が伝えてくれたのだろう。
二人は私が押さえている肩と、剥がれた当て布、クリストファー殿下を見て、事態を把握した様だ。
「クリストファー!貴方何をしたの!アリアナは病み上がりなのに!」
王妃陛下がクリストファー殿下を叱責する。
「殿下、これはどういう事ですか?場合によっては、公爵家から正式に抗議させていただきますが。」
兄も殿下に詰め寄る。
「ああ、アリアナ、可哀想に。」
王妃陛下が、私の側に来て手を握ってくれた。
だけど、私はこれ幸いとばかりに婚約解消をお願いしようと、俯き、なるべく可哀想に見える様に声を出す。
「陛下、クリストファー殿下はわたくしに傷痕が出来たので、妃に相応しくは無いと。ですので、婚約解消させてくださいませ。わたくしはこれ以上の蔑みは耐えれません。」
「そんな事言わないで。少しぐらいの傷痕など、気にする方が悪いのです。アリアナ、クリストファーを見捨てないで。」
「王妃陛下、クリストファー殿下がお望みなのです。わたくしはアカデミーで蔑ろにされ、傷を負ってもこの様な仕打ち、もう将来を共にすることなど考えられません。どうぞクリストファー殿下に相応しい別のご令嬢を、婚約者にされてくださいませ。」
そう言って、涙を出そうと努力するが、私には演技力が足りないらしい。仕方がないので、片手を目に当て、泣くのを堪えている振りをする。
「アリアナ、そんな事言わないで。クリストファーには良くいい聞かせますから。クリストファー!貴方アリアナに謝罪なさいなさい。」
王妃陛下の言葉を無視して、クリストファー殿下は部屋を出て行こうと扉に歩いていく。
扉を出る際に、振り向き、
「覚えていろ!」と言い放った。
「アリアナ、ごめんなさいね。クリストファーには良くいい聞かせますから。またゆっくりお話ししましょうね。」
王妃陛下はそう言って、慌ててクリストファー殿下を追いかけて行った。
「アリアナ、大丈夫か?」
「ええ。大丈夫ですわ。お兄様、傷痕って酷い?」
「ああ、これは念のため、誰かが見たら酷く見える様に、薬を塗る時に頼んで赤い染料を付けて貰ったから、酷く見えたのだろう。」
染料?ああ血に染まった様に見えたのか。
「お兄様、もしかして予想されていたの?」
「ああ、あのクリストファーならやりかねないと思ったからな。」
「さすがお兄様。でも教えてくださればよかったのに。」
「知らない方が自然に対応できるだろう?」
「お陰さまで、声を荒げてしまいましたわ。」
そんな話をしていたら、クロード殿下が入って来た。
「クリストファーが来たと聞いたが?」
「ああ、さっき帰ったばかりだ。」
「何故知らせない?」
「お前に知らせたら、ややこしくなるだろう?」
クロード殿下は顔を顰めている。
さっきのクリストファー殿下の行動を知ったら、また大騒ぎになる。そう思った私は黙っておく事を選び、そっとショールをかける。
が、見過ごす様なクロード殿下ではなかった。
「それはどうした?」
「何の事でしょう?」
と、惚けてみる。
「肩はどうした?」
「ああ、これは外れただけですわ。」
クロード殿下は眉を顰める。
「クリストファーか?」
「ああ。無理矢理剥がした様だ。だが、傷を見て固まっていたぞ。」
「お兄様!」
「いいじゃないか。クリストファーに傷を見せつけたんだから。これで婚約解消が進めばいいじゃないか?」
クロード殿下はますます険しい顔になっていく。
「殿下、傷と言っても肩だけですわ。」
「だが、アリアナの傷を見せたくは無い。」
「もう痛みもほとんどありませんし、多少の傷痕など、わたくしは気にしません。」
「私が責任を取るから心配するな。」
どんな意味の責任だろうか?深入りしない方がいいと私の本能が警鐘を鳴らす。
「殿下に責任を取って頂こうなど考えておりません。この傷痕でわたくしが自由になるのでしたら、これはわたくしにとって、勲章ですわ。」
クロード殿下は顔を曇らせているが、兄は笑っていた。
「クロード、アリアナは変わらない。気にするな。」
そう言って、兄はクロード殿下を連れ出してくれた。
一人になった私はホッとする。
明後日、アカデミーに戻る。
卒業パーティーまでに、やらなければならない事を整理しなければ。
アカデミーに戻る日。
「いいか、絶対無謀な事はするなよ。何かあったら俺を呼べ。」
「お兄様、大丈夫ですわ。困ったら一番に頼りますから。」
「私を一番に頼る様に。」
「殿下のお手を煩わせる訳にはいきませんわ。」
「ダメだ。私に何でも相談して頼る様に。間違っても他国の王子たちに頼ったりするなよ。もちろん二人きりになるのもダメだからな。」
クロード殿下は鬼の形相で私に詰め寄る。
「クロード、それくらいにしないと、アリアナが怖がっているぞ。アリアナ、事件の黒幕はまだ野放しだ。いつ手を出して来てもおかしくない。気を付ける様に。」
「ええ、わかりました。」
そうして、私はアカデミーに戻っていった。
お読みいただき、ありがとうございました。
金曜日に眼精疲労、ものもらいで、眼科のお世話に。週末スマホを見ることが難しく。
お約束の日に更新出来ず、申し訳ありませんでした。
幸い、ものもらいは良くなりました。
眼精疲労はお医者様に叱られましたので、今後は更新の期間を少し時間を頂きたいと思います。
週に1回か2回はと思っていますので、お付き合い頂けますと、幸いです。




