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悪役令嬢は婚約破棄を言い出した王子様に決闘を申し込む。  作者: 藤宮サラ
第一章 決闘まで

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【番外編】レオンハルトとクロードの対峙(レオンハルト視点)

ブックマーク、評価、感想、そして誤字報告、ありがとうございます。

稚拙な文章にお付き合い頂き、感謝です。

レオンハルト視点の続きです。

 クロードはアリアの側に駆け寄ろうとする。

 後ろには、アリアナの兄がいた。


 アリアは驚いて、立ち上がっていた。

 俺はアリアの片腕を取りながら、後ろに庇う。


「お掛けになって下さい。ここは我が屋敷です。客人としていらしたのですよね。」


 クロードは鋭い視線を向けてくる。

「アリアナを返して貰おう。」


 俺は口角を上げながら、挑戦的に睨み返す。

「アリアナ嬢がそれを望むと?」


「当然だ。アリアナ、さあ帰ろう。」


 クロードは手を伸ばす。

 俺はクロードの手を遮った。


「アリアナ嬢を軟禁していた貴殿に、返す訳にはいかないな。」


「お前こそ、勝手に連れ去ったではないか!」


「貴殿から救い出しただけだ。アリアナ嬢には危害を加えていないし、彼女が嫌がる事はしていない。彼女が脱走していると言うから、手伝っただけだ。」


 クロードはアリアに声をかける。

「アリアナ、そうなのか?」


 アリアは何と答えるだろうか?

 俺が強引に連れて来た事は事実だ。

 攫われたと言われてもおかしくはない。


 アリアは俺の後ろから顔を出す。


「クロード殿下もレオンハルト殿下も落ち着かれてくださいませ。わたくしが脱走したのが、悪かったのです。クロード殿下、レオンハルト殿下はわたくしの言葉をそのままの意味で解釈されて、わたくしの為に、ここに連れて来てくださったのです。」


 アリアの言葉にホッとする。

 彼女が攫われたと言ったとしても、勿論手放すつもりはない。だが、彼女は攫われたとは言わなかった。

 それだけでも、俺は嬉しく感じてしまう。


 彼女の兄が訝しげに問う。

「お前、何をレオンハルト殿下に言ったんだ?」


 アリアは俺の横に出てきた。クロードは今すぐにでも、アリアを取り戻そうと機会を伺っている。俺は彼女を奪われない様に、彼女の肩に手を置いた。


「脱走しているから、放っておいて欲しいと。」


「やっぱりお前が原因か。」


「だって、お兄様達が一向にわたくしをアカデミーに戻してくださらないから。もうすぐ卒業ですから、わたくしも色々と予定があるのに。」


「だから事件の黒幕と手引きした者がわかるまで、安心して戻せないと言っているだろう?どうして大人しく出来ないのか。」


「わたくしは大人しくしていましたわ。」


「脱走したのは、誰だ?」


「誰でしょう?」

 アリアは首を傾げる。


「お前だろう!」


「外に出たのは魔法師団のリアです。アリアナではありません。ちゃんと変身していたからいいではないですか。」


「リアもアリアナだろう!変身しても脱走していい訳がない!」


「あら、バレない自信はありましてよ。」


「だが、レオンハルト殿下にバレたのだろう?」


「あれはレオンハルト殿下が悪いのです。殿下だって最初はわたくしとは思わなかった筈ですわ。鎌をかけられてしまったから、バレただけで。警備兵などには全く疑われずに部屋から出る事ができましたわ。」


 突然始まった兄妹のやりとりに呆気に取られる。

 いつの間にか、アリアだと見破った俺が悪い事になっている。確かにあの変身?変装は普通は見破る事はできないだろう。


「お前なあ。怪我したのに、全然懲りないな。」


「お兄様こそ、わたくしを甘く見過ぎですわ。あれくらいの怪我など平気です。」


「怪我した後、意識を失っていたのは誰だ?」


「だって、睡眠不足だったから仕方ないじゃない!」


「睡眠不足で2日も眠らないだろう?」


「わたくしは眠れますわ。」


「お前、周りにどれだけ心配かけたか、わかっているのか?」


「ご心配をかけた事はお詫びしますが、攫われた事はわたくしの責任ではありませんわ。エリス様を巻き込んでしまった事は反省しておりますが。」


「お前、そんなんだから、クリストファーに避けられるんだろう?」


「あら、お兄様がクリストファー殿下とわたくしの仲を心配していただくなんて、一体どんな風の吹き回しかしら?ご心配を頂かなくとも、絶賛仲違い中ですから。先が楽しみですわ。」


 クリストファーの名前が出て来て、複雑な気分になるが、それ以上にこの二人のやり取りは、面白い。他国の王子と自国の王子の前で繰り広げる兄妹喧嘩に、思わず笑いが出てしまう。

 ふと、クロードを見れば、彼は額に手をやっていた。


 俺はすっかり毒気を抜かれてしまった。


「エリック、アリアナ、それくらいにしておけ。レオンハルトが呆れている。」

 クロードが二人を諫める。


「いや、呆れている訳ではないが…とにかく掛けてくれ。座って話そう。」


 俺はアリアを隣へエスコートする。

 それを見たクロードがあからさまに嫌な顔をした。


「レオンハルト殿下、失礼致しました。妹はどうもこの様にお転婆で、気が強くて。外では猫を被る事が上手なのですが、本来はこの様な娘です。殿下のお相手は務まる訳がありません。せっかくお申し出頂きましたが、他国へは嫁がせる訳にはいきません。ご了承下さい。」


 彼女の兄が慇懃無礼に言う。


 確かに兄妹のやり取りには、驚いた。

 だが、俺にも毅然とした態度で接するアリアなら、これくらい普通なのだろう。

 むしろ兄妹で言いたい事が言える仲の良さは羨ましい限りだ。


「いや、兄妹が仲が良い事はいい事だな。私はアリアナ嬢の元気がいいところも好ましいと思っている。だから諦めるつもりはない。」


 クロードが俺を見据えながら言う。

「諦めてくれ。アリアナは他国には出せない。」


「それは彼女の魔法力の為ですか?その為にクリストファーと結婚させると?」


 クロードが答える前にアリアが口を出して来た。


「レオンハルト殿下、わたくしとクリストファー殿下との婚約は魔法力の為ではありません。単純な政略結婚ですわ。わたくしの魔法力は防御魔法ぐらいしか役に立ちません。王妃陛下がクリストファー殿下の出来ないところを補える相手という事で、わたくしを選ばれただけですわ。」


「政略ならば我が国の力で婚約を解消させよう。アリアも望んでいないのだろう?」

 俺は、アリアナに向き合って、手を握る。


「手を離せ。国の力を使うとは、どういう意味だ?」


「そのままの意味ですよ。最初は外交から。それでダメなら最終手段を使うだけです。」

 俺はワザと挑発的に言う。クロードはあからさまに嫌な顔をする。


「我が国の問題は我が国で解決する。余計な手出しは無用だ。」


 アリアは俺の手を解き、俺に目を合わせる。

「レオンハルト殿下、どうぞご心配なく。殿下のお手を煩わせる事など、出来ません。先ほど殿下が仰っていた様に、わたくしもクリストファー殿下との関係が少しでも良くなるよう努力したいと思いますわ。殿下もお国で婚約者候補の方が待ち構えていらっしゃるのでしょう?どうぞその方々から殿下に合う方をお選びになって下さいませ。」


 彼女が言ったことは、地味に傷付けられる。

 自分の言葉がブーメランのように返ってくる。


 ふと、クロードに視線を向けると、彼もなんとも言えない顔をしていた。確かにアリアからクリストファーとの関係改善の話が出れば、心中穏やかではないだろう。


 俺にとっても、クリストファーだけはアリアは選ばないと思っていただけに、つい、声を荒げてしまう。

「アリアはクリストファーと結婚するというのか?」


「わたくしの意思は関係ないですわ。政略結婚ですから。」


 サバサバとしたアリアと対照的に、俺たち三人に眉間にシワが寄る。


「同じ政略結婚であれば、俺のところでもいいではないか?俺は側妃も愛妾も持たないし、アリアを大事にするぞ。」


 クロードがイライラしながら、俺に言い放つ。

「アリアナは他国には出さないと言っただろう。いい加減にアリアナから離れろ。」


「貴殿はアリアナ嬢が不幸な結婚をしてもいいと言うのか?」


「レオンハルト殿下、わたくしの事はお構いなく。自分の事は自分でどうにかしますわ。」


「だが今、結婚に自分の意思は関係ないと言ったではないか?」


「わたくしにも考えがございます。どうぞご心配なく。わたくしは不幸になるつもりはございません。自分の幸せは自分で掴んでみますわ。」


 彼女のその言葉はクリストファーを自分に振り向かせると宣言した様にも受け取れる。


 クロードは険しい顔をしながら、アリアに視線を合わせる。

「アリアナは我が国で幸せにする。他国へは出さない。心配するな。」


「心配はしていませんわ。自分で何とかするつもりですから。ですから、クロード殿下、わたくしをアカデミーに戻してくださいませ。次に襲われる事があれば、上手く立ち回りますわ。」


「お前、囮になるつもりか?」

 彼女の兄が驚いて口を挟む。


「まさか。彼らも今は動けないでしょう?お兄様方が目を光らせていますから。」


「だが、アリアナを攫った一味だけではなく、ここにいる奴の様に、隙あらばアリアナを連れ去ろうとする連中もいる。危なさすぎて戻せないな。」

 クロードはアリアを説得しようとしている。しかも俺を牽制しながら。


「アリアナ嬢を閉じ込める貴殿には、言われたくはないな。私はアリアナ嬢の意思を無視する様な事はしない。貴殿と違って。アリアがアカデミーに戻りたいと言っているのだ。戻すのが筋だろう?危険な目に遭わない様、私も守ろう。」


 アリアは心外だと俺と目を合わす。

「レオンハルト殿下に守って頂くほど、弱くはありませんわ。」


「そんなにつれない事を言うな。困った時には頼って欲しい。いや、困らなくても頼って欲しいが。」


「お前に頼らずとも、私がいる。」

 クロードが口を挟む。彼からは怒気をヒシヒシと感じる。


「お二人にはご迷惑をお掛けしませんから、アカデミーに戻して下さいませ。」


「お前、それだけは信じられないぞ。」

彼女の兄が呆れた様に言う。


「お兄様、酷いわ。」


「だって事実だろう?大人しくする事が出来ないから、クロードが心配しているのだろう?」


「だからって、いつまでもアカデミーを休む訳にはいきませんわ。」


 二人のやり取りが平行線になりそうだったので、アリアを援護する。

「そうだな。私がアリアが元気だと皆に伝えれば、良いのか。それともこのままアリアをアカデミーまで連れて行けば良いか?」


「お待ちください。アリアナをアカデミーに戻す件、数日お時間を頂きたい。レオンハルト殿下にとっても、今問題を起こす事は得策とは思えません。妹は必ずアカデミーに戻すと、私がお約束致しますので、殿下も妹を返して頂けますか?今回は妹がご迷惑をお掛けした事を幾重にもお詫びいたします。」


 俺はアリアを見る。

 アリアは小さく首を縦に振った。

 確かに、アリアが俺を庇ってくれた。嫌われてはいないだろう。

 アカデミーに戻って来てくれれば、チャンスはまだあるはすだ。


 クロードがこの場にいる以上、アリアを巻き込む可能性がある衝突は避けたい。彼の魔法力と俺の魔法力は多分拮抗している。衝突すれば、被害は少なくはない。


「承知した。三日後迄に戻して欲しい。それまでは、私も口を噤んでおこう。」


「ありがとうございます。では、今日は妹を返して頂いてもよろしいですか?」


「仕方ないな。アリア、三日後、会える事を楽しみにしているよ。」

 俺はそう言って、アリアの手を取り、甲にキスを落とした。


「レオンハルト殿下、ご心配とご迷惑をお掛けしました。どうぞエリス様にも宜しくお伝え下さいませ。」


 彼女はそう言って、兄達に連れられて行った。


 三日後が待ち遠しい。

 アリアの笑顔が早く見たい。


 今回は国には連れて帰れなかったが、彼女の心さえ手に入れれば、国に連れて帰る事は容易いだろう。


 これから、どう彼女を落としていくか、そんな事ばかりを考えていたら、彼女がアカデミーに戻る約束の日を迎えた。




お読み頂き、ありがとうございました。


バレンタインですね。

皆さまも素敵な一日である事をお祈りしています。


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