【番外編】レオンハルトとアリアナの攻防2 (レオンハルト視点)
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レオンハルト視点の続きです。
俺は無事に転移出来た事にホッとする。
転移した先は、この国にある別邸の俺の執務室だった。一気に我が国に行けない事もないが、二つの魔法を同時に発動させる為にはかなりの魔力を使う。
アリアも一緒だから、無理は避けたい。
転移し終わった事を知ったアリアは、俺の腕から抜け出そうと必死だ。
苦笑しながら、そっと下に降ろし、腕で囲い込んだ。
彼女も転移魔法が使えるのであれば、逃げるかもしれない。彼女の魔法力がどの程度かまだ把握出来ていない以上、離すわけにはいかない。
『殿下、離してくださいませ。』
彼女は俺を見上げ、恨めしそうな顔をする。
俺はそんな顔でさえ、俺に関心を向けられているかと思うと、嬉しく感じてしまう。
相当アリアに入れ込んでしまった様だ。
彼女は美しい。だがただ美しいだけであれば、国にも沢山いる。
彼女のコロコロ変わる表情、大胆な行動、打てば響く様な会話、俺を前にしても媚びることもなく、萎縮するでも無く、堂々としているところ、全てが俺を惹きつける。
最初は魔法力が強い女子生徒という事で興味を持ったはずなのに、今はアリアの魔法力が弱ければ、簡単に国に連れて帰れるのにと思ってしまう。
もう彼女の魔法力はどうでも良かった。
俺を見て欲しい。関心を持って欲しい。
そう思いながら、この数ヶ月を過ごして来た。
残念ながら、彼女は俺のことは友人としか思ってくれなかった。婚約者がいるアリアにとって、男は皆友人枠だ。
今、この腕の中にいる。こんなまたと無い機会、逃すわけにはいかない。俺は彼女の髪に指を絡める。
『嫌だね。離すと逃げるだろう?アリアの姿に戻って欲しいな。』
アリアは必死で腕を突っ張り、俺を見上げる。
『逃げるも何も。ここが何処か存じませんのに、逃げる事など出来ませんわ。だいたい急に転移など、無謀ですわ。』
だから近くに転移したのだが。
逃げる事が出来ないという言葉は思いの外、嬉しく感じる。
彼女は片手を髪に触れる。ふんわりと髪が光り、アリアの姿になった。
『アリアだ。銀色もいいが、この姿が落ち着くな。アリアも疲れただろう。座るか。』
もう一度、アリアを抱き上げ、ソファーに移動する。
『自分で歩けますわ!』
アリアはそう言って、降りようとする。
『危ないぞ。そこのソファーまでだ。大人しく掴まっていてくれ。』
二人掛けのソファーにアリアをそっと下ろした後、隣に座り、彼女の両手を包む。アリアは手を離そうともぞもぞと手を動かしているが、俺は無視して話を続ける。
『俺にとって、これくらいの転移は造作も無い。アリアもあの場にいたら、困っただろう?』
『だからと言って、今の方が状況は悪くなりました。ところで、ここは何処ですの?』
アリアは部屋の中を見渡している。
部屋には薄いカーテンが掛かっており、外の様子は見えない。
『この国にある我が国所有の屋敷だ。特別な防御魔法が掛かっているから、安心していいぞ。』
『安心できるわけないでしょう!クロード殿下が踏み込んで来たら、どうなさるのですか!その前にわたくしは帰らないと。』
彼女は必死だ。
『ダメだよ。返さない。クロードが踏み込むなら、踏み込めばいい。俺が反撃するまでだ。ここには、我が国の精鋭の近衛も控えている。心配ない。』
そう、クロードが踏み込んで来るだろう事は織り込み済みだ。
可能な限りの防御魔法をかけ、魔法が出来る近衛を配置している。
だが、彼も事を起こす事は望まないだろう。
アリアを取り戻すべく、本人が乗り込んで来ると踏んでいる。
その前にアリアをここにある転移ポイントから我が国に移すか、クロードと交渉するか、悩むところだ。
『そんな事になれば、国際問題になるじゃないですか!』
彼女はその空色の瞳が驚愕の色を浮かべる。
俺はフッと笑い、彼女を宥めた。
『そうなれば、それなりの対応をするだけだ。』
『ダメです。その前にわたくしを戻してくださいな。』
アリアは首を横に振る。
俺は彼女の両肩に手を移し、顔を覗き込む。
『クロードはアリアナが意識不明と言っている。このまま王宮に閉じ込められてもいいのか?』
彼女は首を横に振るが、クロードへの信頼は揺らがないらしい。
『クロード殿下は、過保護な兄と一緒なのです。安全だとわかれば、出して貰えるはずです。』
『アリアナは意識不明のままにして、リアとして囲い込むつもりかもしれないぞ。』
『それはわたくしの父も兄も許しません。それにそうなる前に、自分で逃げ出しますわ。』
そんなところは、アリアだと思う。
アリアの意思に反して連れて帰れば、彼女は俺の手からも逃げ出すのだろう。
『逃げ出すのであれば、俺の国は丁度良いではないか?追手も手出しできないぞ。』
暗に逃げ場として、我が国に来ないかと勧誘してみる。
『わたくしの脱走はいつもの事ですから、いいのです。彼らも慣れています。』
いつも軟禁されて、脱走しているのか?
『いつもって?そんなに脱走しないといけないのかい?』
『レクレーションの一環ですわ。ですが、わたくしは殿下を巻き込むつもりはございません。第一、殿下もわたくしをここに閉じ込めるのであれば、クロード殿下と同じではありませんか?』
彼女が俺の事をクロードと同じ殿下と呼ぶ事が気に障る。俺の事を少しでも特別に感じて欲しい。
『名前で呼んでくれないか。レオンと。アリアの周囲は殿下と呼ばれる奴ばかりだろう?』
『ふふふ…確かに殿下とお呼びする方は多いですわ。』
彼女はふんわりと笑う。緊張が解けた様だ。
『俺はアリアをここに閉じ込めるつもりは無い。ここから、我が国に連れて帰るつもりだ。もちろん我が国でも、籠の中の鳥にするつもりは無いぞ。』
『レオン様、わたくしは確かにクリストファー殿下との婚約は不本意ですが、だからと言って、婚約を解消しないまま、他の方の元へ行くつもりはございません。』
律儀なアリアらしい。俺も一日も早くクリストファーとアリアの婚約は解消させたい。彼女の言う事はもっともだった。
『レオンハルトと婚約解消されれば、俺との結婚を考えてくれるか?』
『何度でも申し上げますが、わたくしには、他国の王太子妃の荷は重すぎます。』
それは全く杞憂だ。アリアのベルン語は完璧だし、教養、所作、ダンス、社交、どれを取っても、一国の王妃の振る舞いとして遜色ない。
『アリアなら十分王太子妃が務まると思うが?それに俺が全力でサポートするし、エリスもいる。俺の両親もアリアを迎える事を喜んでいるぞ。』
『無理ですわ。それに婚約解消したとしても、わたくしは国を出るつもりはございません。』
そう聞いただけで、グサリと胸を抉られた気分になる。国を出るつもりはないという事は、他国の王子達には興味が無いという事だろう。俺以外の王子であれば、それはいい。だが国に残りたいというのであれば、アリアもクロードを意識しているのか。
『それはクリストファーから、クロードに乗り換えるという事か?』
『どうしてクロード殿下のお名前が出てくるのか、理解できませんわ。』
彼女はキョトンと首を傾げている。
その様子は取り繕っている様子も動揺している様子もない。
『クロードはアリアを隠そうとしているではないか?』
『幼い頃から一緒に育ったので、妹の様に心配してくださるだけですわ。』
クロードの想いは、全くアリアには届いていない様だ。俺としては、その方が有難いと安堵する。しかし、俺の気持ちも同じ様に友人の一括りにされているのかと思うと、落ち込みそうだ。
『クリストファーと婚約解消となれば、クロードが名乗りを上げるだろう。国をでた方が良いのではないか?アリアがこの国に留まれば、この国の後継者争いが起きて、国を二分する事になる。そうなれば、我が国だけでは無く、この国を得ようと周辺国が動く。多くの民を巻き込む事になるぞ。』
我ながらズルいと思わない訳でもなかったが、優しいアリアの気を引きたかった。
それにこれはクロードがアリアに求婚すれば、十分に考えられる事態だ。
『レオン様は我が国に戦を仕掛けるおつもりですか?』
『アリアを手に入れる為なら何でもしよう。』
『冗談でも止めてくださいな。わたくしは戦は望んでおりません。』
『では、アリアが俺と結婚すれば良い。それを条件に友好条約を結ぶと、我が国から親書を出した。』
『友好条約?先程も仰っていましたわよね。』
『ああ、我が国とこの国は、今は表だって対立はしていないが、大陸内で力を二分する大国同士だ。過去には何度も刃を交えている。』
『それは存じておりますが。』
『今までに友好条約は結ばれた事はない。今回この条約が結ばれれば、画期的な事になる。大国同士が手を結べば、周辺国も手出しは出来なくなるだろう。結果、戦は減るはずだ。』
『友好条約は婚姻以外の条件で結べませんか?』
『ダメだな。アリアが嫁に来てくれる事が条件だ。』
友好条約は我が国の貴族内でも賛否両論だった。
今のところ、戦の気配は無く、表面上は穏やかに国交を保っているので、必要ないと反対意見があったのだ。だが、アリアの国と戦はしたくはない。
将来状況がどう変わるかわからないが、条約があればと提案したのだ。
アリアがそれで我が国に来てくれるのであれば、国内貴族の声など、抑える事は簡単だ。
『何故、わたくしなのですか?わたくしは一介の貴族の令嬢でしかありません。』
『だが、筆頭公爵令嬢だろう?王家から分家した。十分資格はある。』
『わたくしはレオン様の元へ嫁ぐ事は出来ません。わたくしは他国へは出して貰えませんわ。父も兄も過保護ですから。』
やはり出して貰えないのか。
アリアの魔法力を知った時から、この国が彼女の魔法力を外部に漏らさない様に、国から出さない様にしているのだろうとは思っていた。
『本当は魔法力の問題ではないのか?アリアの魔法力は強い。国が君を囲い込んでいるのだろう?』
『囲い込まれている訳ではありませんわ。』
『君の力を使えば、俺の元から逃れる事も容易いのではないか?』
そう、それを危惧して、今まで連れ出す事が出来なかった。
『わたくしは防御魔法は得意ですが、転移魔法はそんなに得意ではありません。』
『ふ〜ん。本当かなぁ?他にも色々と出来るよね?転移魔法も得意じゃないだけで、出来るって事だ。』
『わたくしの転移魔法は出来ないのと一緒ですわ。後の魔法は生活魔法程度です。』
そんな筈はない。彼女の能力は未知数だ。
現に先程も別人と思うほど、姿や雰囲気を変えていた。出会ったばかりの頃には、俺の防御魔法を楽々解いて、部屋から出て行ったアリアだ。あの時の衝撃は忘れられない。
『変身魔法に魔法解術も出来るよね?』
『何の事でしょう?魔法解術など難しいですわ。』
彼女は知らない振りを貫いている。
そこへノックの音が聞こえた。
『殿下、お客様がおみえです。いかが致しましょうか?』
来たか。と思う。やはり単身乗り込む方にでたか。
思ったより早かったので、国に連れ帰る事は難しそうだ。ならばアリアを一旦アカデミーに戻す様、交渉するか。
わかってはいたが、念のため誰が来たのかを確認する。
『客?誰だ?』
『クロード殿下とその側近のエリック様でございます。フランブール国の紋章も確認致しました。』
『そうか。今は立て込んでいる。別の日にするか、暫く待つよう伝えてくれ。』
そう言ったが、執事が返事をするよりも早く、怒りに任せた男の声が聞こえて来た。
『私の方も急ぐのだがな。』
クロードが無理矢理ドアを開けて、部屋へと入って来た。そしてアリアを見つけ、叫んだ。
「アリアナ!無事か?」
お読み頂き、ありがとうございました。
誤字脱字報告、本当に感謝です。
不甲斐ない自分を反省しております。
次回は明後日か明々後日に。
稚拙な文章ですが、お付き合い頂けますと幸いです。




