【番外編】レオンハルトとアリアナの攻防(レオンハルト視点)
ブックマーク等ありがとうございます。
レオンハルト視点の続きです。
名前を呼び、そうだという返事を期待している自分がいる。彼女の返事を待つ時がとても長く感じる。
だが、彼女は黙ったままだ。
俺はもう一度問う。
「アリアだろう?」
「私はリアと申します。アリア様ではございません。」
彼女は頭を下げたまま、否定した。
否定の言葉にがっかりする。
だが、この声、間違い無い。
俺はルイスに目配せする。
ルイスは軽く肯くと、案内役に声をかけ、この場から外してくれた。
『顔を見せてくれ。アリアだろう。意識が無いと聞いて、心配していたんだ。姿を変えても無駄だよ。解術されて困るのは君だろう?』
すると、彼女は頭を上げ、俺と目を合わせた。
ああ、この空色の瞳はアリアだ。
『アリア様とは、アリアナ様の事でしょうか?私は遠縁の者で、良く間違われるのですが。』
遠縁設定に思わず笑みが溢れる。
アリアと数回会っただけの者には十分通用するだろう。だがここ数ヶ月、アリアと一緒に過ごした時間は伊達ではない。
『いや、絶対アリアだ。』
『アリアナ様は魔法師団で治療中でございます。』
これはクロードから口裏を合わせる様言われているな。
『それならアリアナ嬢の所へ連れて行ってくれ。』
『申し訳ございません。魔法師団へは団員しか入れません。』
冷静を装って、否定する姿もアリアを思い起こさせる。
しかし、魔法師団の制服姿は様になっており、身のこなし、礼の執り方も軍人そのものだ。とても公爵令嬢であるとは思えない。普通なら、別人だと思うだろう。
だが俺は、他国の王族に対しても動じていないところが、逆にアリアだと思ってしまう。
俺は口角を上げ、片手で髪に触れる。
『アリア、髪の色が金に変わっているぞ。』
『えっ、嘘!』
彼女は慌てて髪を確認しようと、後ろに束ねた髪を前に引き寄せた。やっぱりアリアだ。こんな言葉に騙されるところが、また可愛い。
『ほら、アリアだ。』
彼女は自分の髪を確認した後、私を睨み付ける。
そんな姿でさえ、愛おしく感じる。
『ひどい!騙すなんて。』
『最初に俺を騙したのは、アリアだろう?別人の振りをして。』
アリアは一瞬、困った顔を見せたが、直ぐに令嬢の仮面を貼り付ける。
『レオンハルト殿下、ご機嫌よう。わたくしの事は、内緒にしてくださいな。バレたら兄達に叱られます。せっかく脱走をしたのに。』
だが、口調は普段のアリアになっていて、変わらない彼女にホッとする。
俺はアリアの無事な姿を見て、抱きしめたい衝動を必死に抑えた。
『やっぱり、アリアだった。無事で良かった。怪我は大丈夫なのかい?脱走って、どこから逃げてきたんだ?』
逃げられないように、彼女の両肩に手を置き、彼女に会えた嬉しさから、矢継ぎ早に質問を重ねてしまう。
『怪我は治りました。多少は跡が残るらしいですが、痛みもありません。でも殿下はどうして私だとわかったのですか?上手く化けたつもりだったのに。』
ガッカリ肩を落としている彼女が可愛いと思う。
『他人はわからないよ。私だからわかったんだ。ルイスも君じゃないって言っていたよ。だけど声はアリアの声だった。しかし、その姿も似合うな。』
そう言って、頬に右手を当てる。
だがアリアはさりげなく俺の手を外す。
『殿下、今のわたくしは魔法師団の一員ですから、わたくしに構わないでくださいませ。誰かに見られたら大変です。』
『嫌だな。やっと見つけたんだ。このまま連れて帰ろう。』
『それは困ります。ところでエリス様はお変わりありませんか?』
『エリスは元気だが、アリアの事を心配していた。早く戻って来ておくれ。』
『わたくしも戻りたいと申しているのですが、過保護な兄達がなかなか許可を出してくれなくって。エリス様には、わたくしは元気だと、こっそりお伝えくださいな。』
『では、自分で伝えれば良い。このままアカデミーに戻るか?連れて帰るぞ。脱走中なのだろう?』
本当は我が国に連れて帰りたい。だが焦りは禁物だ。アカデミーでも構わない。側にいて欲しい。
『いえ、兄達を怒らせると後が大変なので。これは魔法師団の訓練の一環ですから、放って置いてくださいませ。』
魔法師団の訓練?何故アリアが魔法師団の訓練を受けているのか?
こんな会話をしていると、足音が聞こえる。
『あっ!兄達だわ。』
『隠れるぞ。』
俺はアリアを抱き抱え、回廊に面した庭に飛び降りた。
庭木の間に身を潜め、アリアを腕の中に閉じ込める。
彼女は抜け出そうと必死だが、離してやらない。
『静かにしていろ。見つかると厄介なんだろう?それともこのまま抱きしめてクロードに見せつけてやるか?』
そう言えば、彼女はブンブンと首を横に振る。諦めた様に静かになった。
こんなに近くにアリアを感じる事はいつ以来だろうか。
腕の中で大人しくしているアリアが、賊相手に交渉したなど、今でも信じられない。そんな危ない目に二度と遭わせたくはない。このまま腕の中に閉じ込めておければ、どんなにいいだろう。
クロードは回廊で足を止めて、庭に目を向ける。
見つかったか?
だが、バタバタと足音が聞こえ、何か叫んだ後、魔法師団の方へと駆けて行った。
クロード達が駆けて行った後、アリアは腕の中から逃れようと、動き出す。
そんなアリアの動きを封じ、頭にそっとキスを落とした。俺の追跡魔法をかけながら。
もう今回の様な思いはしたくは無い。
アリアの居場所がわかるだけでも安心できる。
彼女は真っ赤な顔で俺を見上げ、抗議する。
「殿下、お戯れもほどほどになさって下さいませ。」
その可愛らしい顔で言っても、逆効果だと知っているのだろうか?
無自覚なのだろうが…
『戯れなどでは無い。本気だ。我が妃に迎える準備は整っている。やはり、このまま我が国へ連れて帰るぞ。』
そう宣言する。今がチャンスだ。
こんな機会はそうそう無い。このまま攫ってしまおう。
ついさっき、焦りは禁物だと己を戒めた筈だが、アリアを前に、前言撤回する。
『寝言は寝て仰ってくださいませ。何度もお断りしていますわ。それに傷痕があるような娘は殿下に相応しくありません。』
あまりにも頑ななアリアを無理矢理連れて国に帰る事は難しいか。だが、やはり諦められない。
今手放すと、もう会えない様な予感がする。
『傷痕など気にしないぞ。傷痕があっても、アリアには変わらない。もうすでに国として、アリアを嫁に欲しいと申し込んでいる。クリストファーと婚約解消して、俺と結婚して欲しい。』
アリアは傷痕があっても、アリアだ。俺は表面上の美しい妃が欲しい訳ではない。なんでも言い合う事が出来るアリアが欲しいのだ。
『わたくしは殿下の事は、お友達以上には考える事が出来ません。だいたい殿下もお国に決まった方がいらっしゃるのではないですか?』
お友達という言葉は、わかっていても心臓に悪い。アリアはまだエリスが婚約者だと思っているのか?
『だから、エリスとの婚約は解消したと言っただろう。俺の次の婚約の話なら、相手は君だよ。もうすぐ我が国からの外交文書が届く筈だが、その前に、自分の口から伝えたい。もう一度言う。アリアナ、俺と結婚して欲しい。一生大事にする。こんなにも惹かれた女性は初めてなんだ。俺の手を取って欲しい。今は友人でも構わない。普通は政略結婚は、結婚してから、愛を育むものだろう?クリストファーより、俺の方がアリアを幸せに出来るぞ。』
『わたくしは、まだ婚約解消した訳ではありませんし、殿下の元へ嫁ぐつもりもありません。だいたい殿下の次の婚約者は、殿下のお国の方だと伺っていますが。』
全く、彼女は我が国の状況をよく知っている。
エリスとの婚約解消が知れ渡った途端に、貴族令嬢や近隣諸国の王族からの縁談が持ちこまれている。
父はアリアとの婚約を後押ししてはくれているが、正式に決まったものではない為、はっきりと断れない状況となっている。
そんな中、自分が次の婚約者だと吹聴する者まで出てきていると、報告があったばかりだ。
『どこからの情報かは知らないが、俺の次の婚約者候補の筆頭はアリアだよ。確かにエリスとの婚約解消した後、俺の元には色々と縁談が持ちこまれている。』
『でしたら、殿下はその中からわたくし以外の方を、お選びになられたらよろしいのでは?』
『俺はアリアがいい。』
『わたくしは国を出るつもりはございません。』
頑ななアリアをどうにか説得したい。
優しいアリアなら考えてくれるだろうと、友好条約のことを持ち出す。
『俺たちの結婚が両国の友好条約の条件だったとしても?』
『友好条約?』
「そこまでだ!」
クロードの姿が現れた。全くいいところだったのだが。俺はアリアを背に庇う。
「どういうつもりかな。レオンハルト。」
「それはこちらの台詞です。アリアナ嬢のどこが意識不明なのですか?」
「彼女はリアだ。魔法師団の者だ。言い掛かりはよしてくれ。リア、かくれんぼは終わりだ。こちらにおいで。」
アリアが先ほど名乗っていた名を呼ぶ。アリアは魔法師団に所属しているのか?だから魔法師団の制服が板に付いていたのか。
クロードの目には、嫉妬の炎が浮かび上がる。
彼はこちらに近寄り、アリアの腕を取ろうとする。
俺はクロードがアリアの腕を取る前に、彼女を抱き上げる。
「きゃっ!」
『転移する。しっかり捕まっていろ!』
そう言って、アリアを抱き抱えたまま、転移魔法を発動させた。
「アリアナ!」
クロードが叫ぶ。
彼も魔法を発動させて、転移魔法を止めようとしたが、俺は防壁魔法も同時に発動させる。
クロードの魔法は俺の防壁魔法に阻まれ、俺たちには届かなかった。
お読み頂き、ありがとうございました。
次回も明後日か明々後日に。




