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悪役令嬢は婚約破棄を言い出した王子様に決闘を申し込む。  作者: 藤宮サラ
第一章 決闘まで

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【番外編】レオンハルトとクロードと兄(レオンハルト視点)

ブックマーク等、ありがとうございます。


レオンハルト視点、前話の続きです。

 クロードが一人の側近を伴い、部屋に入って来た。

 彼も笑顔ながら、鋭い視線を投げつけてくる。


「レオンハルト殿下、この度は我が国の中で貴国のご令嬢を危険に晒してしまい、申し訳ない。彼女はお元気ですか?」


「こちらこそ、エリスの救出に力をつくして下さり、感謝します。」


「レオンハルト殿下はご存知かな?アリアナ嬢の兄のエリックだ。」


 クロードはそう言って、隣の男を紹介する。

 ああ、アリアの兄か。どこかで会った気がしていたが、アリアに似ているからだろう。

 私は彼に簡単に挨拶をする。

 ルイスは二人とは既知であった。アカデミーで同期だとは知っていたが、それなりに付き合いはあったらしい。


「ルイス、久しいな。君も席に着きたまえ。エリックも。」


「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて。」

 ルイスも挨拶をしたあと、席に着く。


 クロードは、皆が席に着いたのを見計らい、話を切り出す。


「で、今日はどの様なご用件で。」


 知っているはずだろうと、視線を向けるが、あくまでも知らないフリをしている。


「アリアナ嬢に見舞いをお持ちしました。お加減はいかがでしょうか?」


 彼女の兄が応えた。

「お心遣いありがとうございます。妹はまだ意識を取り戻してはおりませんが、一命は取り留めました。後は回復を待つだけですが、今しばらく時間がかかるようです。」


 それほど怪我が酷かったのか。母君の様子では、それほど酷い状態では無いと判断したのだが。

 例え、意識が無くとも無事な姿を確認したい。


「そうですか。エリスからアリアナ嬢が助けて下さったと伺いました。意識がなくともお顔だけでも拝見させて頂けませんか?」


「そのお気持ちだけ有り難く頂戴いたします。妹の伏せっている姿など、家族ではない男性にお見せする訳には参りません。どうぞご理解いただけますよう。」


 兄は慇懃無礼に断った。だが、簡単に諦めるつもりは無い。

 私はクロードに視線をぶつける。

「クロード殿下はお会いになっているのでは?」


 クロードはニヤリとする。

 相変わらず嫌味な奴だ。クリストファーと違い、何を考えているのか、わからない。

 頭の回転も早く、判断力やリーダーシップも抜群である。彼が王になれば、この国と交渉する事は難しくなるだろう。


「確かにクロード殿下にはお見舞いいただきました。ですが、彼は国王陛下の名代として、お見舞いを頂きました。何も問題ありません。」


「では、私も我が国の国王からの名代だといいのですね。エリスが助けて貰ったのです。我が国からの使者として、お見舞いに伺いましょう。」


「一介の公爵令嬢如きに、隣国の王家からのお見舞いなど、恐れ多い事です。どうかご容赦下さいますよう。ところで、エリス嬢はいかがお過ごしでしょうか?」


 彼女の兄は、終始にこやかに、それでいて一歩も引かない姿勢で、対応している。サラリと話題を変えるところなど、侮れない。

 クロードも厄介だが、この側近もかなり出来る人物なのだろう。アリアの兄なら当然か。


「変わりなく過ごしています。ですが、アリアナ嬢に会いたいと申しております。エリスは卒業前に国に帰らなければならないので。彼女だけでも、アリアナ嬢を見舞う事が出来ないでしょうか?エリスは責任を感じているのです。自分を助ける為に、アリアナ嬢が無理をしたのではないかと。」


「アリアナが目覚めましたら、エリス様にはご連絡を差し上げます。どうかご理解ください。」


 クロードは最初の挨拶以外は黙っている。

 彼の表情は読み取れない。

 だがアリアが意識が無いと焦っている様子はない。

 やはりアリアは魔法師団に留められているのか。


「では、今回の事件、賊は?目的は何だったのですか?」


 クロードが口を開く。

「賊は捕らえた。目的は今取り調べ中だ。」


「アリアナ嬢は何故怪我をしたのですか?エリスが救出された時には、賊も捕らえられていたと聞きましたが?」


 そう言えば、クロードの眉がよる。

「思わぬところに賊がいたのだ。」


「クロード殿下ほどの方であれば、十分魔法で守る事も出来たのではないですか?」

 そう言えば、彼の目が一瞬曇る。


「何が言いたい?」


「アリアナ嬢が貴国にて、命の危険に晒されているようでしたら、我が国にお迎え致します。兄君でしたら、賛成してくださいますよね。愛の無い結婚を強いられたり、命を狙われる立場にあるより、我が国で安心して過ごして頂く事を。」


 私は彼女の兄に視線を向ける。

 彼は眉間にシワを寄せている。直ぐに返事をしないところをみると、アリアの身を大事に思っている事がわかる。


 クロードは膝の上で握っていた拳が震えている。

 俺はそんな彼を無視して、言葉を続ける。


「私はアリアナ嬢を我が妃としてお迎えしたい。数日中に我が国からの外交文書が、貴国へ届くかとは思います。私とアリアナ嬢の縁組が両国の友好条約と和平の証になる事を願っています。彼女と会わせて頂け無いようでしたら、今日のところは失礼します。」


 そう。両国は、表だって対立している訳ではないが、友好条約を結んでいる訳でもない。過去には何度か戦もあった間柄だ。

 我が国の軍もかなりの実力だ。この国と拮抗しているだろう。お互いに今は睨み合いだが、友好条約が結べるのであれば、国としても歓迎するはず。

 公爵令嬢が嫁ぐという条件は、王家にとって悪い話ではないだろう。もちろん、クロードかクリストファーにこちらの王家に連なる家の令嬢を差し出す準備をしている。


 俺は、徐に立ち上がり、扉へと歩き出した。

 だが数歩歩いたところで、クロードが私の前に立ち塞がる。

 どうやら、王子の仮面は捨てた様だ。

 ならば、俺も王子の仮面は外そう。一人の男として、対峙する。


「アリアナは渡さない。お前は手を引け。」


「お前にはそんな権利はないだろう?彼女はお前のものではない。」


「だが、お前のものでもない。」


「だからそれが何だ?今は俺の方が彼女の近くにいる。彼女も俺の事は嫌ってはいない。」


「私の方が付き合いが長い。少なくともお前よりは彼女から信頼を得ているし、親しくしている。お前の事は女誑しと思っているぞ。」


「俺に対する誤解は解いた。お前の事は兄だと言っていたぞ。彼女はクリストファーとの結婚は望んでいない。だからと言って、お前との結婚も望んでいないだろう。」


「お前に何がわかる!」

 クロードは俺の胸ぐらを掴みかかる。

 俺はその手を振り落とす。

 ルイスもエリックも慌てて俺たちを止めに入った。


「アリアナ嬢は兄弟の争いは望まないぞ。」


「争わなくとも、アリアナは私と結婚する。」

 クロードの本音が出た。

 やはり彼が一番の障害になるか。


「クリストファーとの婚約がお互い納得の上での破談となったとしても、彼女はこの国には居づらくなるだろう。お前と結婚すれば、尚更だ。」


「アリアナは私がいるし、彼女の兄もいる。肩身の狭い思いなどさせる訳はない。」


「お前に何が出来る?クリストファーと破談になり、お前と結婚となれば、乗り換えたと口さがない貴族の噂の餌食となる事が目に見えている。そんな貴族を表面上は抑える事が出来ても、人の口に戸は立ててられぬ。お前が王太子になれば尚更だ。」


 そんな針の筵の様な場所にアリアを置くわけにはいかない。


「アリアナは噂など気にしない。お前の話は仮定の話だ。何があっても私がアリアナを守る。お前の元へ行かせる事はない。諦めてくれ。」


 そんなに簡単に諦められるのであれば、とっくに諦めている。初めて自分が欲しいと思った女性だ。一目惚れに近いのかもしれない。


「女性の付き合いは、男が思うほど簡単では無い。噂ほど怖いものは無いぞ。いずれにしろ、お前が彼女に執着をすれば、彼女がどちらに嫁いだとしても、兄弟間に遺恨があると勘繰られる。だが、私に嫁げば、両国民の皆から祝福される結婚となるだろう。」


「アリアナを国の犠牲にする事はない。」


「国の犠牲になるのは、この国の王家に嫁ぐ方だろう?我が国では、我が両親も彼女を迎える日を楽しみにしている。後ろ盾としても、エリスの父が後見を買って出てくれている。破談など気にする者もいない。もちろん私は彼女だけを大事にするし、彼女の行動を制限するつもりは無い。彼女は生き生きしているところが魅力だからな。」


「アリアナはお前の事は友人の一人にしか思っていないぞ。」


 そこは十分わかっている。だが、自分に振り向かせる楽しみもある。


「今はだ。これから口説き落とす。幸い、嫌われてはいないからな。賢い彼女の事だ。友好条約の事を話せば、興味を持って貰えるだろう。卒業すれば、我が国にゆっくり遊びに来て頂くよ。エリスが世話になった事だし、両親にも紹介したいからな。では、失礼する。」


 そう言って、俺はクロードを避けて、部屋を出た。


 謁見の間の一つである応接室から、回廊を通って出口に向かう。監視を兼ねた案内役が付いている。


『あれがいなければ、潜り込むのだが。』


『今日は警戒されているはずだ。後日にしよう。』

 ルイスもチラリと案内役を見る。


 そう言っていたら、前から魔法師団の制服を着た者が歩いてくる。

 長い銀髪を後ろで一つに括り、紺色のトラウザーズに銀糸で飾りが付いた丈が長めの上着を着ている。階級章が付いており、それなりに上位の者だとわかる。

 女性なのか男性なのか、どこか中性的な雰囲気を漂わせている。

 こちらに気が付くと、脇に寄り頭を下げて、俺達が通り過ぎるのを待っていた。


『レオン、彼女だ。海賊退治の時にいたのは。』

 ルイスが俺に小声で告げる。


『何だって?あれは女性か?』


『間違いない。彼女だよ。』


『アリアか?あれが?いや、違うだろう?』

 海賊退治に参加した女子はアリアだと思っていた。だが前方にいる女性は、髪の色はもちろん、纏う雰囲気も全く違う。軍人に近い気を纏っていた。


『あの時はアリアナ嬢だと思ったんだが。こうして見ると、違うみたいだ。』


 アリアではないのか?そんなバカな。

 彼女だと確信したはず。では、ここにいる女性は誰だ?アリアか?

 クロードが王宮に留めているなら、彼女かもしれない。彼女の魔法力は未知数だ。姿を変える事も出来る可能性がある。


 彼女を凝視しながら、近付き、頭を下げたままの彼女の前に立つ。

 俺の心臓も騒がしい。アリアだったら?俺はどうするのか。いや、まずは確かめなければ。煩い心臓を何とか押さえつけ、声を掛けた。


『アリアか?』

お読み頂き、ありがとうございました。


ブックマーク等、本当に感謝しております。

週末、更に仕事が忙しくなりそうで、心が折れそうですが、何とか頑張ります。


次回も明後日か明々後日かに更新予定です。

お付き合い頂けますと嬉しいです。

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