【番外編】レオンハルトと野外活動と事件(レオンハルト視点)
ブックマーク等、ありがとうございます。
更新遅くなり、申し訳ありません。
野外活動から、前話までのレオンハルト視点です。
アリアナが参加すると言ったので、参加を決めた野外活動。
アリアナがエリスと仲良くしてくれたので、私とエリスの関係の誤解も解けたと思う。
初日のアリアナの乗馬服姿は、とても凛々しく見えた。
と同時に女性としての魅力が溢れている。
体の線が現れているその服装は、いくらマントで覆っても、男達の視線を釘付けにしている。
他の男にアリアを見せたくはない。このまま連れ去ってしまいたい。
だが、周辺国の王子達もアリアナに張り付いている。
イスマエルなどは、図々しくアリアに話しかけている。腹が立って、割って入ってやった。
目的地に着いても、他の王子達は何とかアリアに構って貰おうと、彼女の周囲から離れない。
俺が牽制しても全く動じない。同じ立場に立つ身だから、皆引く気はない様だ。
当のアリアナは、俺たちを上手にあしらいながら、手際良く作業を進めている。常にエリスと女同士で仲良くして、俺たち王子には一線引いて接していた。
だが、普段見ないアリアの違う一面を見る事ができて、楽しかった。もっともっと、アリアの色々な面を見たい。アカデミー卒業後、どうすればアリアを連れて帰る事が出来るだろうか?
そんな事を考えながら、1日目は終わる。
そして、その2日目。
気持ちの良い朝を迎えるはずだった。
明け方の曙色の空の中、離宮の方から悲鳴が聞こえる。アリアナやエリスに何かあったのかと慌てて駆け付けると、彼女達の姿がなかった。
一体何があった?
周囲にいた他国の王子達も一様に驚き、慌てている。
イスマエルかルーカスが強硬手段に出たのかと、思ったが違う様だ。
アリアナに付けていた護衛を魔法通信で呼ぶ。
「一体何があった?」
護衛から、アリアとエリスが攫われたと聞く。
アリアは魔法が使えるはずなのに、何故だ?
彼女達はすでに魔法師団に救出され、保護されている。だがアリアが怪我をしたらしいとの報告だった。
一体護衛は何をしていたのか。
詳しく聞けば、他にも攫われた生徒がおり、確実に救出できるタイミングを探していたらしい。救出しようとしたら、魔法師団の方が先に踏み込み込み、皆を救い出し、犯人を捕らえたという。
とにかくアリアの怪我が心配だ。
「今回の失態を挽回したければ、アリアナ嬢の正確な居場所と状態を早急に突き止めろ!」
気付けば、そう怒鳴っていた。
部下の失態に憤っていると、教師から呼ばれた。
エリスは無事で、アリアナの家で保護されているという。疲れもあり、落ち着くまで預かってくれるらしい。
「アリアナ嬢は一緒ですか?」
怪我をしたのであれば、自宅に戻っているはず。
「彼女は魔法師団の方に保護されていると聞いている。他の2人の生徒も一緒だ。エリス嬢は留学生だから気を遣って下さったのだろう。」
何故、アリアを魔法師団で保護したのか?
普通であれば、自宅で治療を受けさせるだろう?
とにかく、エリスに話を聞くしかない。
エリスに連絡を取りたいと言うと、ファーガソン公爵家から、迎えの馬車が来ているから、荷物を纏めたらそちらに向かう様に言われた。
ファーガソン公爵家では、夫人が出迎えてくれる。
アリアは母君に似ているのか。アリアに似た美しい夫人だった。
「ようこそおいでくださいました。生憎、主人は留守にしておりますが、エリス様はお待ちになられています。」
そう言って、エリスの元へと案内された。
部屋に入ると、上品なドレスを着たエリスが出迎えてくれる。
「エリス、大丈夫か?」
ひとまず、エリスが無事だった事に安堵する。
エリスに何かあれば、ルイスが煩い。
「ええ。私は大丈夫。それよりアリアナ様は?」
「エリスは聞いていないのかい?魔法師団に保護されたと俺は聞いたが。」
「そう。助けが来た時はお元気だったのに。私が先に救出された後、怪我をされたらしいの。詳しくは教えていただけなかったのだけど。」
「そうか。」
エリスは顔を曇らせる。
だが、すぐに興奮した様に話し出した。
「でも、アリアナ様は凄いわ。両手両足を縛られていたのに、隠し持っていたナイフで縄を切ってくださったの。」
アリアは縛られていたのか!
犯人に殺意を覚える。
エリスは、今回の事件で精神的なダメージを負ったのではないかと危惧していたが、全く心配いらない様だ。いや、ワクワクしていたのではないかと疑いたくなる。
しかし、今エリスはなんと言った?アリアが自分で縄を切ったと?ナイフを隠し持つ?
「え⁈アリアが?」
「ええ。とても手慣れた様子でしたわ。」
「手慣れた?」
公爵令嬢がナイフの扱いを手慣れている?
「だって、小型のナイフを足にベルトで取り付けていらっしゃったのです。普通休む際には、枕の下に短剣を忍ばせる事はあっても足にまで着けませんわ。」
「彼女は魔法は使わなかったのかい?」
そう、何故魔法を使わなかったのか、彼女の魔法力であれば、賊など簡単に撃退出来ただろうに。
「魔法を使うともう一人の生徒を殺すと脅されていたのよ。だから彼女はナイフを使ったみたい。」
エリスは嬉々として続ける。
なるほど。賊だけで考えたとは思えない。魔法を使わない様に脅すよう、誰かの入れ知恵されたか。
アリアの他人を見捨てられない優しい性格と魔法力を知っている者が、手引きしたに違いない。
「で、その後はどうしたんだ?」
「アリアナ様が外部への連絡手段を持っていらっしゃって。彼女のお兄様に連絡を入れたら、直ぐに助けて頂いたの。魔法師団は連絡を入れた時には、私達が囚われていた家を取り囲んでいたらしいわ。」
「連絡手段?」
「魔法具の一種ですって。ピアスに付いていると仰っていたわ。」
「そんな物も普段から持っているのか…」
俺は溜息を吐く。
彼女が俺の手を取ってくれなかった場合、最悪、攫う計画を立てていた。意識がない間であれば、魔法を使う事ができないだろうと、思っていたのだが。
今回の件で、彼女に何かあれば、魔法師団が直ぐに出てくる事がわかった。もう一度計画を練り直さなければなるまい。
「どうしたの?」
黙り込んだ俺を見て、エリスが声をかけてくる。
「いや、アリアが深窓のご令嬢だと思っていたから、驚いていただけだ。」
いや、あの事故の時にそう思ったな。
なかなか活発なご令嬢だと。
彼女と過ごした日々で、俺はますます惹かれている。
やっぱり彼女が欲しい。
「とても凛々しく素敵でしたわ!賊に怯む事無く、交渉されて。」
エリスの目はキラキラ輝いている。褒め言葉だけ聞けば、どこの王子に向けたものかと思う。
「交渉?」
「ええ、気を失っている方の拘束を解いて欲しいとか。賊に凄まれても、全く動じていらっしゃらなかったのです。私は気を失わない様にするのが精一杯でしたのに。アリアナ様が男性でしたら、間違いなく恋していましたわ。」
全く、アリアは賊相手に何を言ったのだろうか。
度胸が座りすぎでいる。
「で、エリスは何もされていないな。」
「ええ、拘束されていただけ。少し怖かったけれど、アリアナ様と一緒だったから、心強かったわ。」
「アリアの怪我は賊にやられたのか?」
「私もよくわからないの。私は先に部屋を出たから。その時、部屋にはアリアナ様ともう一人攫われた女子と魔法師団の方だけで。賊は捕らえられた後だったのに。どこかに潜んでいた賊がいたのかしら?」
彼女は首を傾げる。
「怪我は酷かったのか?」
「わからないわ。アリアナ様は抱き抱えられていたから。」
「そうか。」
そこへノックの音が聞こえる。
執事らしき者が、私を呼ぶ。
ルイスが来たと。ルイスにも連絡を入れていた。
エリスが喜ぶだろう。
応接室では、ルイスがアリアナの母君と談笑していた。
「ルイス!」エリスが駆け寄って行く。
「エリス、大丈夫かい?怪我は?」
恋人達は抱擁して、再会を喜んでいる。
「私は大丈夫。でもアリアナ様が…」
エリスは申し訳なさそうに、アリアナの母君を見る。
だが、母君は微笑みを浮かべていた。
「アリアナの事は、お気遣いなく。あの子も公爵家の娘です。何かあったとしても覚悟はできています。今回は、エリス様を巻き込んでしまい、申し訳無く思っております。」
私は母君にアリアの事を聞いてみる。
「アリアナ嬢が怪我をされたと伺いましたが、お加減はいかがでしょうか。」
「あの子はまだ意識は戻っていないそうですが、命の危険がある訳ではないと連絡がありました。今は王宮で治療を受けております。」
「そうですか。お見舞いに伺いたいのですが。」
「お心遣いありがとうございます。ですが、ご心配を頂かなくとも、数日もすれば元気に戻って参りますわ。全く、幾つになってもお転婆で困ります。卒業すれば、王宮へ上がるというのに。」
呆れた様に溜息をついている。
アリアが怪我をして、意識がないというにも関わらず、落ち着き過ぎている。
娘に全く興味が無いか、彼女は無事だと知っているのか。
「アリアナ嬢は完璧なレディと思いますが?」
「そんな事ありませんわ。」
この様子、間違いなくアリアナが無事だと知っている。
「アリアナ様はご卒業後、直ぐにご結婚されるのですか?」
エリスが尋ねる。
「直ぐにではありませんわ。色々と準備もございますから。ですが、なるべく早くと望まれているのです。」
やはり、卒業までに、手を打つ必要があるのか。
母君はアリアの婚約に付いて、どう思っているのかが、知りたかった。
「アリアナ嬢は納得されているのでしょうか?失礼ですが、クリストファー殿下はアリアナ嬢を大事にされている様には思えませんが。」
「アリアナとクリストファー殿下との婚約は幼い頃から決まっていた事です。我が家からはお断りする事はできませんわ。」
「政略結婚など、彼女には似合わない。彼女自身を大事にする者こそ、彼女の隣に立つ権利があると思いますが?」
「まぁ!殿下はロマンティストですのね。ふふふ。殿下のお妃様になられる方は幸せですわ。」
「私はアリアナ嬢に妃になって頂きたいのですが。公爵には何度も書状を送っています。」
「あら、殿下でしたら、もっと素敵なお嬢様がお似合いですわ。アリアナには王太子妃など務まりません。」
母君はそう言って、ニコリと微笑んだ。
母親から取り崩す事が出来ればと思ったのだが、あっさり躱されてしまう。
こんなところはアリアは母君から学んだのかと、妙に納得してしまった。
アリアナ嬢は1週間経っても、アカデミーに戻って来ない。クリストファーに問い詰めるが、まだ意識が戻らないと言う。どうやら彼は見舞いにも行っていない様だ。婚約者が怪我をしたのに、気にならないのかと問い詰めるが、関係ないと言う。
やはりクロードの方の方が、アリアナを隠しているのか。
私はクロードに面会を申し込んだ。
魔法師団の方へ案内されると思ったのだが、案内されたのは、謁見の間近くの応接室で、魔法師団とは別の建物だった。
窓から周囲を見渡す。
「ルイス、魔法師団の建物はどれだ?」
「魔法師団は別棟だな。東側の建物だ。」
「警備はどうなっている?潜り込めるか?」
「警戒魔法がかかっている。かなりの魔法の使い手でなければ、解くことは難しいだろう。」
彼女はどの辺りにいるのだろうか?
直接乗り込むとしたら、どの経路がいいか。
なるべく建物の位置を記憶しようと、集中する。
集中し過ぎていたのか、クロードが入って来たとルイスに教えられるまで、気付かなかった。
「お久しぶりです。クロード殿下。」
俺は笑顔を貼り付けながら、鋭い視線を送った。
お読みいただき、ありがとうございました。
昨日更新するつもりでしたが、まさかの寝落ち。
反省です。
次回も明後日か明々後日に更新できるよう頑張ります。お付き合い頂けますと、嬉しいです。




