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悪役令嬢は婚約破棄を言い出した王子様に決闘を申し込む。  作者: 藤宮サラ
第一章 決闘まで

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【番外編】誘拐事件の取り調べ(クロード視点)

ブックマーク等ありがとうございます。

クロード視点の続きになります。

 取り調べ室へと入ると、椅子に拘束られているミレーヌが目に入る。


 エリックが私に目配せする。

 私は肯く。


 エリックが娘に向き合う。


「お前はモラン伯爵家のミレーヌだな。」


「はい…」


「刃物を向けたのは、お前1人の考えか?誰かから、そうする様に言われたのか?」


「それは…」


「お前の父か?」


「違います!父は関係ありません。お咎めは私1人に。」

 娘は取り乱す。


「その様な訳にはいかないな。お前の監督責任は父に有る。お前の両親だけでなく、弟妹にも咎がが行くだろう。良くて伯爵の位と財産、領地の没収、悪ければ一族郎党死罪だな。王族に(やいば)を向けたのだから、それくらいの覚悟はあったのだろう?」


 エリックのその言葉に、娘は真っ青になった。

 だが、彼は構わず、立て続けに娘を責め立てる。

 次期公爵家の当主だけあり、非情な部分も持ち合わせており、大変有能な部下だ。


「お前の弟はまだ12歳だったか。妹は7歳だよなあ。可哀想に。こんな姉のせいで、人生が終わってしまうなんて。」


「どうか弟と妹だけでもご慈悲を。」

 娘は懇願しているが、エリックは知らない顔をする。


「お前、知っているか?罪を犯した貴族の家族の末路を。例え命が助かってもその後は無一文だ。しかも生活能力もない。親戚も罪を犯した者の家族を引き取ろうとなど思わない。行き着く先は路上で生活するか、悪い奴らに捕まって売られてしまうかだな。姉のせいで処刑されるのも地獄だが、生きることも地獄だよ。」


「私…」


「お前が知っている事を全て話せば、そうだな。弟妹の命ぐらいは助けてやってもいい。」


 そうやって、エリックが聞き出した内容は、酷いものだった。


 まず、商人を装った者が伯爵に投資話を持ちかけ、破産寸前に追い込む。そこへ別の人間が、助けを装って伯爵に近づく。その者からの紹介で若い騎士を、将来有望な若者として娘に紹介。

 その騎士が、自分は第二王子のクリストファーに取り立て貰っている。クリストファーは将来の王だと言われているが、兄のクロードがいれば、必ず王になれるとは限らない。クロードが王になれば、自分は下級騎士のまま。だからクロード殿下を排除する事に協力すれば、自分も爵位が貰え、ミレーヌと結婚できるのにと、吹き込む。


 野外活動だと自分が警備に配置されると、計画を立て実行した。

 クロードの側近であるエリックの妹アリアナを、自分が雇ったならず者を使って攫い、クロードを誘き出す。その後はならず者達が、彼を亡き者にしてくれる。


 娘は疑われない様に一緒に攫われ、途中で逃げ出し、その騎士が助け出すという筋書きだったそうだ。

 筋書きとは違い、踏み込まれてしまい、パニックになって、クロードに刃を向けたと。

 好きな男を守る為だったらしい。


 相手の男が警備に当たっていた騎士団に所属している下級騎士で、ならず者達はその男の手引きによって、離宮に入り、離宮内へはミレーヌの手引きだったと。


 話を聞いたエリックは、急ぎ騎士団に伝令を飛ばす。

 しかし該当の騎士は、行方不明になっていた。


「失敗したと知ったから、身を隠したか。」


「ああ。騎士団まで入り込んでいるとは思わなかった。手配をかけだが、消されるかもな。」

 エリックは悔しそうだ。


「間違いなく、口封じされるだろう。」

 私も肯く。


「娘も魔法師団を出れば、同じ運命だろうな。」


「そうだな。彼奴らのやりそうな事だ。」


「恋は盲目というが、ここまで信じ込むとは。」

 エリックはやり切れない気持ちなのだろう。

 取り調べの際は非情に対応していたが、個人的には妹と同じ年頃の娘で、彼なりに思うところがあってもおかしくない。


「世間知らずの令嬢だからこそか。」


「で、アリアナには何と説明する?」


「そうだな。男に騙されていたが、はっきり私を亡き者にする意思があった。だから罪は免れないだろうと、言うしかないだろう。」


「だよな。まあ、アリアナも理解してくれるさ。お前も疲れているだろう?今日はゆっくり休め。」


 エリックは労ってくれるが、私は今日は気分が良い。


「昨日アリアナの隣で眠ったので、熟睡出来た。大丈夫だよ。」


「なに!」

 彼は目を見開く。


「隣で寝ただけだよ。手は出していない。」


「当たり前だ!全く何しているんだか…」

 エリックは頭を抱えている。


「仕方がないだろう。気が付いたら隣で寝ていたんだ。手を出さなかった私を褒めて欲しい。」


 そう、最初はベッドの横で座っていたはずだ。

 自分の無意識の行動なのか?と疑問に思ったが、ぐっすり眠れたし、アリアナの隣は心地良かった。

 防御魔法をかけていたから、誰も入ってくる事は出来ない。アリアナは意識を失っていたので、私が自分でベッドに上がったと考えるしかないだろう。

 その時の事を考えるだけで頬が緩む。


「褒めるって…やっぱりアリアナは家に戻そう。」

 エリックは溜息を吐き、とんでもない事を言い出す。


「いや、それは絶対ダメだ。警戒出来ない。」

 慌てて止める。


「じゃあ自制しろよ。」


「わかっているよ。アリアナが望まない事はしない。誓う。」

 彼女が私を必要としてくれれば、手を出さない自信はないが。


「本当だな。」


「ああ。義兄上。」

 そう言って、口角を上げると、エリックは呆れた顔を見せる。


「お前、わざと俺を苛立たせているな。言っておくが、まだお前にアリアナを任せると決めた訳ではない。」


「わかっているよ。」


 そんな事を言い合いながら、アリアナの部屋へと二人で向かう。


 アリアナはかなり退屈していた。


「お兄様、わたくしはいつまでここにいればいいのですか?退屈です。せめて魔法師団のお手伝いをさせてくださいませ。」


「ダメだな。お前が元気な事がバレたら、また命を狙われる。」


「姿を変えても?」

「ダメだな。」

「ひどい!」


 相変わらずの兄妹の会話だ。私は微笑みながら提案した。


「私の執務中に執務室にいるぐらいはいいだろう。姿を変えれば。書類整理ぐらいだが、それでいいか?」


 元気なアリアナを退屈させたままで、放置する方がリスクがある。何をしでかすかわからない。

 第二王子派だけでなく、周辺国の王子達も虎視眈々と彼女を狙っている。側に置く方が安心だ。


 アリアナはニッコリ笑う。


「クロード殿下、ありがとうございます。なんでも嬉しいですわ。流石にジッとしている事に飽きました。」


 そうして、アリアナは私の秘書として、魔法師団の仕事を手伝ってくれる。日中も側に居てくれる事に満足感を覚える。


 事件から数日後、王都外れの川に身元不明の若い男の死体が上がる。


「一足遅かったか。」

 エリックからの報告を聞く。

 アリアナが今この場にいなくて良かった。

 傷の手当てがある為、今日はエリックの部屋で大人しくしている。


「ああ。伯爵も捕らえ、近づいた者を確認したが、あの騎士だった。騎士は平民から騎士学校を卒業後、騎士団に入ったらしい。あの騎士を操っていた黒幕を知りたかったのだがな。」


「あの侯爵のやりそうな事だ。幾ら問い質しても知らぬ存ぜぬで済ますのだろう。」


「あの娘も哀れだな。で、どう処分するか?」


「騙されていたとはいえ、私を亡き者とする事を知った上で、手を貸した。その結果アリアナを傷つけた。責任は取ってもらうよ。」


「まぁ、そうだよなあ。伯爵家は爵位、財産、領地の没収、両親は投獄、弟妹は修道院か孤児院か。まぁ財産はほとんどないだろう。娘は流刑にするか?」


「もう少し調べてからな。ただ家族は早急に身柄を確保して欲しい。消されてはたまらないからな。それと、もう一度、アカデミーの生徒の家を含めて調べてくれ。」


「ああ、背後まで、念入りに調べておくよ。ところで、これはどう処理するか?」


 エリックが文箱を差し出してくる。

 そこには、アリアナへの面会を求める周辺国の王子たちからの書状が積んであった。


「全く、毎日と飽きないものだ。」


「まぁ、正式なルートで届いたものだ。捨てる訳にもいかない。最近はお前に面会を求める王子もいるぞ。」


「クリストファーに回せ。」

 投げやりにそう言えば、エリックは苦笑いだ。


「クリストファーなら王子達はアカデミーで毎日会っているさ。彼では話にならないのだろう。だからお前なんだよ。第一クリストファーはアリアナが本当に重体と思っている。」


「で、クリストファーは何と言っている?」

 クリストファー自身の気持ちも知りたかった。アリアナに気持ちがないと思うが、内心はわからない。


「相変わらずカーラとベタベタしているらしい。アリアナが重体と聞いても、何も言ってこない。見舞いすら送ってこないからな。」


 その事実に安心する。

「それはよかった。興味を持って貰うとうるさいからな。」


「陛下には伝えているのだろう?」


「ああ。事件の概要は伝えている。私に全権を任せると言質を取った。」

 父も私の事を後継者として、認めてくれた。発表はクリストファーがアカデミーを卒業してからになるが、その際にアリアナとの事も考えてくれると言っていた。


「王妃陛下には?」


「もちろん知らせていない。母にもだ。アリアナが元気でここにいる事は、父と公爵とお前しか知らない。」


「それならいい。親父は今回の事件について、全面的にお前を支持するとさ。アリアナとの事はクリストファーとの婚約解消が済んだら、正式に認めると言っていた。」


「それは心強い。」


「だが、俺はアリアナの気持ちが一番だ。何度も言うが、彼女が別の男を望み、そいつも見込みがあれば、俺はアリアナを応援する。」


「アリアナが別の男の元へと行くなどないよ。私が幸せにする。心配するな。」

 全く親友が一番の障害になるとは。相変わらずのシスコンの様だ。アリアナとの婚約が無事に整えば、エリックにもふさわしい令嬢を世話しなければ。




 それから数日後、レオンハルトとルイスが王宮に尋ねて来た。エリス嬢の事があり、断る事が出来なかったのだ。


 謁見の間に向かいながら、エリックに確認する。

「アリアナには知らせていないよな。」

「ああ、知らせたら何をするかわからないからな。」


 部屋に入ると、既にレオンハルトとルイスが入っていた。


「お久しぶりです。クロード殿下。」


 彼は表面に笑顔を貼りつけていたが、鋭い眼差しを向けて来た。以前見かけた時と同じ眼差しだ。

 私も笑顔を貼りつけながら、睨み返す。

 お前などにアリアナは渡さない。そう思いながら。






お読みいただき、ありがとうございました。


明日から2週間ほど、臨時の仕事が増えてしまいました。更新が3日に1回ほどになるかと思いますが、お付き合い頂けますと嬉しいです。

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