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悪役令嬢は婚約破棄を言い出した王子様に決闘を申し込む。  作者: 藤宮サラ
第一章 決闘まで

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【番外編】傷を負ったアリアナと兄とクロード(クロード視点)

ブックマーク等、ありがとうございます。


前話の続きです。


 エリックはそっと部屋へと入って来る。


「アリアナは?」

 そう言って、心配そうにベッドに視線を向ける。

 まるで恋人に向けるような眼差しに、胸の内が騒めく。 彼は兄だ。そう理解している。だがエリックとアリアナの深い絆にはつい嫉妬してしまう。アリアナが唯一心を許す存在だからだろうか。


「傷は浅い。一応治癒魔法で治療は済んでいる。ただ痛みが出る事があるらしい。まだ意識は取り戻していないが、疲れが溜まっているからだろうと医師は言っていた。」


 なるべく平静を装い、医師からの説明された事を伝える。


「そうか。」

 彼はそう言って、椅子を持って来て、私の隣に座り、アリアナの顔を覗き込む。そしてそっと額にキスを落とした。


「無事でよかった。」

 彼は独り言の様に呟く。

 そして彼女の頭を撫でていた。


 彼は本当に心配していたのだろう。だが、その姿は恋人同士の様で、兄とわかっていても許せなかった。


「触れるな!」

 無意識の内に声に出していた。


 だが彼は動じていない。

「俺は兄だ。家族としての触れ合いだ。お前とは違う。」

 そう言って、彼はニヤリとする。


 その言葉にますますイライラが募る。


「アリアナは私のものだ。いくら兄だとしても不用意に触れて欲しくはない。」


「まだお前と結婚するとは決まっていないだろう?お前も立場は兄だ。今、アリアナはお前の弟の婚約者だからな。」


 彼は私が一番気にしている事を持ち出す。

 私の性格を熟知している彼だからだろう。


「相変わらず、いい性格をしているな。」


「お前ほどじゃないさ。しかし、最後に油断したとは。不覚だったな。アリアナらしくもない。」


「いや、私が油断したのが悪い。」

 そう、アリアナを腕の中に収め、安心した一瞬の隙だった。


「まさか囚われている生徒が牙を剥くとは、思わないさ。アリアナも保護されて、気を抜いていたのだろう。」


 アリアナが先に気付き、私を庇ったのだ。

 私が早く気付けば、彼女が傷を負う事はなかった。


「アリアナは私を庇おうと傷を負った。命に別状はないが、傷痕は残るかもしれない。申し訳ない。私が必ず責任を取って彼女を貰い受ける。」


 私がそう宣言すると、彼は頭を振る。


「いや、責任は取らなくていい。っていうか、お前ドサクサに紛れて、アリアナを手に入れようとしていないか?アリアナは傷の事など気にしないぞ。それどころか傷の事を知ったら、クリストファーとの婚約解消の理由ができたと喜ぶだろう。」


 アリアナがクリストファーとの婚約を解消したがっている。その事が私の希望だ。だが若い女性にとって、傷痕が残る事は苦痛だろう。

 傷があろうが、私にとって、アリアナは大事な女性だ。


「クリストファーとの婚約解消は願ってもない事だが、私は本気だぞ。」


「アリアナの事は心配しなくとも、兄の俺が責任持って面倒を見るさ。第一アリアナに責任を取ると言ったら、かえって面倒な事になるぞ。責任で結婚してもらうのは嫌だと絶対言う。」


 エリックの面倒をみるという言葉に焦りを覚える。

 兄とはいえ、アリアナが一番信頼している男。

 彼自身は自分の兄としての立場を弁え、私の事を応援してくれている。一方で、アリアナの意思が一番だと公言しており、アリアナが私を拒否すれば、彼は彼女の味方をするだろう。


「アリアナが手に入るなら、どんな手でも使うさ。嫌だと言っても私が諦める訳がない。」


 そう言えば、彼は私を見据える。

「お前の執着は怖い。少しは自制しろ!アリアナが嫌と言ったら諦めろ。」


 嫌だと言われる事など、考えたくもない。


「それは無理な話だ。それにアリアナは私の事は嫌ってはいない。誰かに取られる前に、手元に置きたいと思う事は当然だろう?」

 そう、彼女は私の事もエリックと同様に慕ってくれている。兄としてではあるが、エリックの次に信頼されていると自負している。


 エリックは呆れた様にため息を吐く。


「全く…女はアリアナ以外にもいるだろう?」


 私にとって、一生をともにしたい女性はアリアナだけだ。今まで来た縁談は全て断っている。


「それは同じ言葉を返すよ。エリックにも縁談の話が色々と来ているのだろう?早く結婚して妹を安心させてやれ。」


「俺は後でいい。主君を差し置いて、結婚する訳にはいかない。」


 私を理由にしているが、エリックも溺愛しているアリアナが、自分の手の内にある間は結婚など考える事はできないのだろう。


「遠慮なく私より先に結婚していいぞ。邪魔者は少ない程いいからな。」

 私はそう言って、口角を上げる。


「俺を邪魔者にするな。」

 エリックも笑いながら、私の背中を軽く叩いた。


「冗談だよ。未来の義兄上。」


 お互い言いたい放題ではあるが、この親友との会話は心地よい。彼は私が王子だと特別扱いはしないし、裏表なく接してくれる。アリアナに関しても私に厳しい事を言うが、それは叱咤激励だと思っている。


 彼はもう一度、大きな溜息を吐く。


「とりあえず、アリアナの今後については後だ。それより、この事件の件で報告しておこう。」


 そう言って、彼は私をベッド近くにあるソファーに移動するよう促す。そして一枚の書類を差し出した。

 そこには、賊の人数、応酬した武器などが書いてある。


「ナイフはどうだった?」


「簡易検査では何も出ていない。一応、毒に詳しい研究所に検査に出している。」


 それを聞いて、安堵した。普段元気な彼女が意識を失う場面は心臓に悪い。


「良かった。」


「ああ。多分普段使いのナイフだったのだろう。」

 エリックもホッとしたようだ。


「賊は全員捕らえ、牢に繋いでいる。詳しい取り調べはこれからだな。囚われていた留学生は、とりあえず我が家のタウンハウスで預かっている。アリアナを刺した娘とカーラは、それぞれ魔法師団の一室で拘束している。だが事情聴取はまだだ。」


「娘の身元は?」

「モラン伯爵令嬢だ。」

「モラン伯爵か。」

 私は第二王子派の貴族に連なる貴族の名を思い浮かべる。


「モラン伯爵は第二王子派ではなかったよな。」


「ああ。だが、お前を推す一派でもない。中立派だ。だから彼女の行動が解せない。」


「詳しく調べる必要がありそうだな。」

「ああ、部下には指示を出している。」


 中立派まで、アリアナを害するとは考えたくはないが。

 アリアナを得る為には、王太子になる必要がある。

 今までは、急いては事を仕損じると、慎重に進めていたが、少し急がなければ、国を揺るがしかねない。

 ファーガソン公爵と今後の対応を相談しなければ。


 もう一つ、気になっていた事を確認する。


「アカデミーに連絡は?」


 4人も生徒がいなくなったのであれば、今頃大騒ぎだろう。特にアリアナに付き纏っている王子たちは、アリアナが攫われた事で行動を起こす可能性がある。

 今回の件に他国は関わっていないだろう。だが、王子たちの対応もしなければならないかと思うと、頭が痛い。


「部下に連絡を入れさせている。とりあえず4人は助け出したと伝えている。だが、アリアナを含めてすぐに帰す訳にはいかないだろう?どうするか?」


「黒幕を牽制する為、アリアナは賊に刺され、意識不明とするか。警備に関しても、もう一度調べ直さなければならないだろう。こんなに簡単に賊の侵入を許すとは、手引きした者がいるはずだ。」


「そうだな。警備は厳重にしていた筈だ。警備の者か離宮の者か。アカデミーの生徒とは考えたくはないが、そちらも調べよう。我が家の手の者を使うがいいか?」


「頼む。」


「留学生の娘はアカデミーに帰していいか?」


「ああ、彼女にはアリアナは怪我をしていて、暫く戻れないと伝えてくれ。」


「わかった。カーラはどうする?泳がせるか?」


「ああ、話を聞いた後、戻そう。いつまでも拘束しているとクリストファーもうるさいだろう。それに黒幕に下手に警戒されたくはない。」


「アリアナを刺した生徒はどうするか?まだアリアナの魔法が効いていて、意識は戻っていないが。」


「魔法は解術できるか?」

「ああ。」

「では、後で事情聴取するから、その前に解術を済ませておいてくれ。」


 こんな話をしていたら、アリアナが仰向けに寝返りを打つ。

 傷口が当たったのか、「うっ」と声をだす。

 慌ててベッドの側により、アリアナの手を握る。


「アリアナ、痛むか?」


 だが、彼女の瞳は一瞬開きかけたがまた閉じ、返事はなかった。

 額に汗をかいており、手も熱い。


「エリック、医師を呼んで欲しい。」

「どうかしたか?」

「アリアナが熱を出している。」

 彼は慌てて医師を呼ぶ。


 医師はもう一度肩の傷を確認する。

 席を外すよういわれが、一時でも離れたくはない。

 エリックと一緒に強引に側に張り付いた。

 傷口に巻かれた布を外していく。

 白い肌に現れた赤い傷が痛々しい。だが私を守ってくれた傷だと思うと愛おしくもある。

 医師は傷からの熱だろうといい、治癒魔法をかける。そして目が覚めたら薬も飲ませるようにと薬を置いていった。


 治癒魔法のおかげか、少しアリアナの表情が和ぐ。

 私はアリアナの汗を手巾で拭う。


「普段元気なだけに、こんな時は尚更心配だ。」

 そう呟けば、隣でエリックも肯定する。


「ああ。いつも振り回されているから、大人しくして欲しいと思っていたが、これはこれで心臓に悪い。」


 そう言って、彼は徐に立ち上がる。


「俺はそろそろ取り調べに立ち会わなければならない。何かあれば呼んでくれ。くれぐれもアリアナが寝ているからといって、手出しするなよ。」


「わかっているよ、義兄上。」


 ワザと義兄と呼んでみる。エリックは笑いながら、

「義兄はまだ早い。クロード、お前も一息休憩したら執務に戻れよ。アリアナの看病には侍女を付けるから。」


 執務は溜まっているだろう。今回の事件についても、これから色々と調べなければならない。


「アリアナが目が覚めたら、側にいたい。仕事はここでするから、持って来てくれ。」


「全く…わかったよ。後で用意して持って来る。その間に着替えでも済ませておけ。」


 そう言われ、改めて自分の服装をみると、所々に血が着いていた。


「そうだな。ありがとう。」


 その日はアリアナが眠るベッドの横で、書類を片付ける。夕方には彼女は熱も下がり、落ち着いているが、なかなか目を覚まさない。


「アリアナ、早く目を覚まして、私を安心させておくれ。」


 そう言ってみるが、彼女の反応はない。


 私はアリアナのベッドの横の椅子に腰掛け、朝まで看るつもりだったのだが。

 気が付けば、カーテンの隙間から陽の光が射しており、私は、ベッドの上で横になっていた。


 慌てて隣を確認すれば、横でぐっすり眠るアリアナがいてホッとする。

 そっと額に触れて、熱が下がった事を確認し、そのまま、額にそっとキスを落とす。これくらいは許して欲しい。


「早くその笑顔を見せておくれ。」


 彼女は無邪気に眠っている。

 このまま奪ってしまいたいという欲望を理性で押さえつけ、そっとベッドから降りる。


 今日も忙しい一日になるだろう。アリアナが目を覚ましてくれればいいのだが。


 彼女が目を覚ましたのは、その日の夕方だった。








お読みいただき、ありがとうございました。


次回は明後日か明々後日の更新を目標に頑張りたいと思います。

お付き合い頂けますと幸いです。

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