【番外編】救出(アリアナ視点)
ブックマーク、誤字報告等、ありがとうございます。
更新遅くなり、申し訳ありません。
兄からの連絡は私をホッとさせた。
先ほどの通信機器が役に立ってくれて、良かった。
「お兄様?わたくしは今監禁されているけれど、怪我はないわ。それより、私と一緒に二人、それと別に一人、女子生徒が囚われているわ。私が魔法を使うと、彼女達の命がないと脅されているの。わたくし一人で対応は難しいから、魔法師団から応援を出してくださる?」
何故こんな事態になったのかと、兄から叱られるだろうと思いながら、返事を待つ。
「もう近くで待機している。」
今、兄が何を言ったのか、一瞬理解できなかった。
「えっ!もう?」
「クロードがお前の様子がおかしいと言って、夜中に飛び出したから、俺も部下達を連れて、今お前の近くに転移して来た。」
「クロード殿下?」
クロード殿下?もう来てくれたの?
何故場所がわかったのだろう?いや、どうして私が攫われた事を知る事が出来たのだろう?
私がGPSを使ったのは、ついさっきだ。
いくら転移魔法を使ったとしても早すぎる。
色々と疑問は浮かぶけど、今は私一人では無い。助けが来てくれた事を素直に喜ぼう。
「ああ、今クロードが指揮を取って、周囲は取り囲んでいるから安心しろ。いいか、お前は無理をするな。合図をしたら、その場にいる生徒を防御魔法で守れ。もう一人の生徒はこちらで対処する。いいな。絶対、一人で無理をするなよ。」
いつの間に…
仕事は相変わらず早い。いや、早すぎる。
助かった事は確かだけど。
「ええ、わかったわ。今中にいる賊は7人ぐらいだと思うわ。外はわからないけれど。中にいる賊は酒盛りをしているから、今なら油断しているわ。賊と一緒にカーラがいるから、保護してね。事情を聞かないといけないわ。」
「カーラ?」
兄は一瞬誰の事かわからなかったのだろう。
「クリストファー殿下の恋人よ。囚われている女子生徒の内の一人で、何故か賊と一緒なの。」
「ああ、わかった。クロードに伝えておく。だからお前はその場を動くな。わかったな。」
やはり私は信用がないらしい。
「そんなに念押ししなくてもわかっているわ。ありがとう。兄様。」
多少不満は残ったけれど、助けが近くまで来ている事に安堵する。
殿下と兄が来てくれたのであれば、直ぐに解決できるだろう。
『エリス様、助けがもう側に来ています。もう少ししたら、助けて貰えますので、後少しだけ辛抱してくださいませ。』
『もう助けが来るのですか?凄いわ。』
『わたくし達を追っていた様です。わたくしから離れないでくださいね。』
『ええ。』
エリス様に安心させる様に、助けが来た事を説明する。エリス様もホッとした表情になったが、すぐに興味津々といった目に変わった。
『さっきクロード殿下って、聞こえたのですが?』
彼女はクロード殿下の事は知らないはずなのに、何か気になるらしい。
『ええ、我が国の第一王子ですわ。兄が仕えています。』
『私達のために、わざわざクロード殿下がいらっしゃるのですか?何故クリストファー殿下ではないのかしら?クリストファー殿下はアリアナ様の婚約者なのでしょう?』
彼女は矢継ぎ早に質問を重ねる。
『クロード殿下は魔法師団の団長を務めていらっしゃるので、救出の指揮を取られている様です。』
『クリストファー殿下はいらっしゃらないのですか?』
ああ、彼女は婚約者を助ける王子様が見たいのかしら。クリストファー殿下が出てくれば、私の事など構わず、カーラとうるさいだけで、邪魔なだけ。それだけは勘弁して欲しい。
『クリストファー殿下は魔法師団には関わっていませんから。まだわたくし達が攫われた事自体をご存知では無いのでしょう。』
『そうなのですか。』
そう言っているが、エリス様の目は輝いている。一体何を考えているのかしら?
そんな事を、考えていると、兄から連絡が入る。
「アリアナ、今から突入する。防御魔法を使え!」
「了解」
私はこの部屋に防御魔法をかける。
その様子をエリス様は目を丸くして見ていた。
したから、剣が交じる音やドタバタと騒がしい音が聞こえる。
この部屋の扉もガタガタと揺さぶられ、鍵が回る音がした。
扉が開き、リーダーの男が入ってくる。
私と目が合い、睨み付けられる。
「お前!何をした!」
そう言って、彼は私の側に来ようとした。
だが、防御魔法が発動し、彼は近寄れない。
何度も近寄ろうと足を進めるが、弾かれている。
それではと、ナイフを投げて来たが、見えない壁に当たり、カランと落ちた。
唖然としてこちらを見ている。
これほどの防御魔法は、普通の女子にかける事はできないと世間では思われている。
彼は私が使える魔法は通信魔法ぐらいだと踏んでいたのだろう。
「お前、魔法を使ったな!」
「誰も使わないなんて言っていないわ。それより、貴方達を雇った黒幕は誰?」
「ふん!教えてやるもんか。」
「それなら教えたくなるまで付き合って貰おうか。」
一瞬部屋の温度が下がった気がした。
男の後ろに、冷たい顔をしたクロード殿下が立っていた。
殿下は目で男に魔法をかける。
それは彼の周囲から空気がだんだんとなくなっていくという、物質変化魔法だった。
「うー息が…」
「話す気になったか?」
「誰が!」
「ほう、まだ頑張るか?」
男は呻き声を上げながら、倒れていった。
私は思わず叫んでしまう。
「クロード殿下!殺してないでしょうね!」
本当は助けてくれたお礼を言わなければいけないのに、彼の暴走を止めないといけないという思いが強く出てしまう。
犯人は生かして、黒幕を突き止めなければならない。
彼は冷たい笑みを浮かべる。
「アリアナ、大丈夫だよ。本当は殺したいけど、黒幕を白状させるまでは、生かしておくよ。」
彼も理解しているようであるけれど、もう一度念を押しておこう。
「殿下、行き過ぎはいけませんわ。」
「君を攫うなんて、死に値する。」
やっぱり、殺すつもりだった?
「わたくしは無事ですから、そんな物騒な事仰らないでくださいませ。彼女が怖がってしまいます。」
そう言えば、彼はエリス様に一瞥した後、私に視線を戻す。
「アリアナ、怪我は無いか?」
「この通り、無事ですわ。」
そう返事をしていたら、兄が部屋に入って来た。
「クロード、下は押さえたぞ。おい、こいつも縛って連れて行け!」
兄は一緒に入って来た騎士に命じる。
「お兄様!」
兄の姿に私もホッとする。兄は賊が下に連れて行かれた事を確認して、私に視線を向ける。
「アリアナ、防御魔法は解いていいぞ。」
「はい。ありがとうございます。」
私は防御魔法を解く。そして両手を口に当てて、成り行きを見ていたエリス様に声をかけた。
『エリス様、大丈夫ですか?』
『私は大丈夫。アリアナ様、凄いわ。高度な魔法がお出来になるなんて。』
『たまたまですわ。』
「アリアナ、大丈夫か?」
「お兄様、わたくしは無事ですわ。お兄様、エリス様をお任せしてもよろしいですか?ベルンブルク国からの留学生なのです。」
「お前に巻き込まれたのか?それは申し訳なかったな。とりあえず安全な所へお送りするよ。」
「お願い致します。」
私はエリス様に兄を紹介する。
『エリス様、兄です。兄がご案内しますから、先に降りて下さいませ。わたくしもミレーヌ様と一緒に後から行きます。』
兄もベルン語で対応してくれる。
『アリアナの兄のエリックです。この度は事件に巻き込んでしまい、申し訳ありませんでした。今から安全な所までご案内いたします。』
『エリスと申します。こちらこそ助けて頂き、ありがとうございました。アリアナ様、先に降りていますね。』
彼女と兄が部屋を出るところを確認した後、私はミレーヌの側に駆け寄った。彼女が息をしている事を確認し、声をかけた。
「ミレーヌ様、怪我はありませんか?」
私は床に横になっていたミレーヌに声をかける。
ミレーヌは目をゆっくりと開いた。
「アリアナ様…ここは?」
「私達は攫われてしまったのだけど、今、助けが来てくれたの。貴女は怪我はない?」
「怪我はありません。」
彼女はどこか虚な目をしている。
「座れるかしら?」
「はい。」
彼女はゆっくりと起き上がり、床に座る。
私が手を貸そうとするが、大丈夫だという。
「じゃあ、騎士を呼ぶから少し待っていてくださる?」
「わかりました。」
彼女は怪我も無さそうで、意識を取り戻した事にホッとする。
ドアの所にいたクロード殿下の元へと足を進め、側にいた騎士にもう一人騎士を呼ぶように頼む。
二人いれば、ミレーヌが動けなくても、下に連れて行く事は問題無いはず。
そして、クロード殿下に向き合って、礼を執る。
「殿下、助けて頂き、ありがとうございました。わたくし一人では、動く事が難しかったので、助かりましたわ。」
「全く、助けが遅くなったら、どうするつもりだったのか。」
彼の目には、怒りが浮かんでいる。
一瞬怯みそうになるけれど、ここは頑張らないと。
私は微笑みを浮かべた。
「その時はその時で、わたくしにでき得る限りの手段を使い、逃げ出していますわ。」
「いい加減に…」
そう言って、彼は私を腕の中に抱きとめた。
えっ、私はまた地雷を踏んだかしら?
「クロード殿下?」
「心配させるな。」
彼の声は、本気で心配しているとわかる。
「ごめんなさい。殿下。」
クロード殿下に心配させてしまったと、反省して、顔を上げようと頭を動かすと、視界の端に銀色に光る物が見えた。
それが何か認識するよりも早く、私はその銀色の光から殿下を庇おうと、自分の体を殿下と光の間に滑り込ませ、防御魔法を掛けた。
だが一歩遅かったようだ。
背中に痛みが走る。
痛みを堪えて、後ろを振り向くと、床に落ちていたナイフを持ったミレーヌが立ち尽くしていた。
「ミレーヌ様、何で?」
「わたし…」
彼女は震えていた。
「アリアナ、大丈夫か!」
彼はそう言って、私の傷に手を当ててくれる。
肩甲骨周辺に生温い感覚が広がった。
「殿下、わたくしは大丈夫ですから、彼女の事を任せてくださいませ。」
背中は焼けつく様に痛いが、ミレーヌが何故この様な事をしたのか、わからない。
クロード殿下に刃物を向けたとあっては、死罪は免れない。その前にどうにかしないと。
「ミレーヌ様、その刃物を置いてくださいませ。」
「わたし…」
「アリアナ!近付くな!」
「いいえ。殿下。大丈夫です。」
私はそう言って、彼女に近付き、ナイフを取り上げた。
「ミレーヌ様、落ち着いて。」
そう言って、彼女に魔法をかけた。
一時的に気を失わせる魔法だ。
彼女がガタっと倒れる。
私は彼女を支えながら、自分も倒れてしまう。
緊張から解かれ、強烈な痛みを感じ、意識を手離してしまったのだった。
お読み頂き、ありがとうございました。
誤字報告、ありがとうございました。
自分で見直したつもりでも、なかなか気付けないもので、反省しています。
次回も明後日か明々後日に更新をと思っています。
お付き合い頂けますと幸いです。




