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悪役令嬢は婚約破棄を言い出した王子様に決闘を申し込む。  作者: 藤宮サラ
第一章 決闘まで

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【番外編】救出(アリアナ視点)

ブックマーク、誤字報告等、ありがとうございます。


更新遅くなり、申し訳ありません。

 兄からの連絡は私をホッとさせた。

 先ほどの通信機器が役に立ってくれて、良かった。


「お兄様?わたくしは今監禁されているけれど、怪我はないわ。それより、私と一緒に二人、それと別に一人、女子生徒が囚われているわ。私が魔法を使うと、彼女達の命がないと脅されているの。わたくし一人で対応は難しいから、魔法師団から応援を出してくださる?」


 何故こんな事態になったのかと、兄から叱られるだろうと思いながら、返事を待つ。


「もう近くで待機している。」

 今、兄が何を言ったのか、一瞬理解できなかった。


「えっ!もう?」


「クロードがお前の様子がおかしいと言って、夜中に飛び出したから、俺も部下達を連れて、今お前の近くに転移して来た。」


「クロード殿下?」


 クロード殿下?もう来てくれたの?

 何故場所がわかったのだろう?いや、どうして私が攫われた事を知る事が出来たのだろう?

 私がGPSを使ったのは、ついさっきだ。

 いくら転移魔法を使ったとしても早すぎる。

 色々と疑問は浮かぶけど、今は私一人では無い。助けが来てくれた事を素直に喜ぼう。


「ああ、今クロードが指揮を取って、周囲は取り囲んでいるから安心しろ。いいか、お前は無理をするな。合図をしたら、その場にいる生徒を防御魔法で守れ。もう一人の生徒はこちらで対処する。いいな。絶対、一人で無理をするなよ。」


 いつの間に…

 仕事は相変わらず早い。いや、早すぎる。

 助かった事は確かだけど。


「ええ、わかったわ。今中にいる賊は7人ぐらいだと思うわ。外はわからないけれど。中にいる賊は酒盛りをしているから、今なら油断しているわ。賊と一緒にカーラがいるから、保護してね。事情を聞かないといけないわ。」


「カーラ?」

 兄は一瞬誰の事かわからなかったのだろう。


「クリストファー殿下の恋人よ。囚われている女子生徒の内の一人で、何故か賊と一緒なの。」


「ああ、わかった。クロードに伝えておく。だからお前はその場を動くな。わかったな。」


 やはり私は信用がないらしい。


「そんなに念押ししなくてもわかっているわ。ありがとう。兄様。」


 多少不満は残ったけれど、助けが近くまで来ている事に安堵する。

 殿下と兄が来てくれたのであれば、直ぐに解決できるだろう。


『エリス様、助けがもう側に来ています。もう少ししたら、助けて貰えますので、後少しだけ辛抱してくださいませ。』 


『もう助けが来るのですか?凄いわ。』


『わたくし達を追っていた様です。わたくしから離れないでくださいね。』


『ええ。』


 エリス様に安心させる様に、助けが来た事を説明する。エリス様もホッとした表情になったが、すぐに興味津々といった目に変わった。


『さっきクロード殿下って、聞こえたのですが?』


 彼女はクロード殿下の事は知らないはずなのに、何か気になるらしい。


『ええ、我が国の第一王子ですわ。兄が仕えています。』


『私達のために、わざわざクロード殿下がいらっしゃるのですか?何故クリストファー殿下ではないのかしら?クリストファー殿下はアリアナ様の婚約者なのでしょう?』


 彼女は矢継ぎ早に質問を重ねる。


『クロード殿下は魔法師団の団長を務めていらっしゃるので、救出の指揮を取られている様です。』


『クリストファー殿下はいらっしゃらないのですか?』


 ああ、彼女は婚約者を助ける王子様が見たいのかしら。クリストファー殿下が出てくれば、私の事など構わず、カーラとうるさいだけで、邪魔なだけ。それだけは勘弁して欲しい。


『クリストファー殿下は魔法師団には関わっていませんから。まだわたくし達が攫われた事自体をご存知では無いのでしょう。』


『そうなのですか。』

 そう言っているが、エリス様の目は輝いている。一体何を考えているのかしら?

 そんな事を、考えていると、兄から連絡が入る。


「アリアナ、今から突入する。防御魔法を使え!」

「了解」


 私はこの部屋に防御魔法をかける。

 その様子をエリス様は目を丸くして見ていた。


 したから、剣が交じる音やドタバタと騒がしい音が聞こえる。

 この部屋の扉もガタガタと揺さぶられ、鍵が回る音がした。


 扉が開き、リーダーの男が入ってくる。

 私と目が合い、睨み付けられる。


「お前!何をした!」


 そう言って、彼は私の側に来ようとした。

 だが、防御魔法が発動し、彼は近寄れない。

 何度も近寄ろうと足を進めるが、弾かれている。

 それではと、ナイフを投げて来たが、見えない壁に当たり、カランと落ちた。

 唖然としてこちらを見ている。


 これほどの防御魔法は、普通の女子にかける事はできないと世間では思われている。

 彼は私が使える魔法は通信魔法ぐらいだと踏んでいたのだろう。


「お前、魔法を使ったな!」


「誰も使わないなんて言っていないわ。それより、貴方達を雇った黒幕は誰?」


「ふん!教えてやるもんか。」


「それなら教えたくなるまで付き合って貰おうか。」

 一瞬部屋の温度が下がった気がした。

 男の後ろに、冷たい顔をしたクロード殿下が立っていた。


 殿下は目で男に魔法をかける。

 それは彼の周囲から空気がだんだんとなくなっていくという、物質変化魔法だった。


「うー息が…」

「話す気になったか?」

「誰が!」

「ほう、まだ頑張るか?」


 男は呻き声を上げながら、倒れていった。


 私は思わず叫んでしまう。

「クロード殿下!殺してないでしょうね!」


 本当は助けてくれたお礼を言わなければいけないのに、彼の暴走を止めないといけないという思いが強く出てしまう。

 犯人は生かして、黒幕を突き止めなければならない。


 彼は冷たい笑みを浮かべる。

「アリアナ、大丈夫だよ。本当は殺したいけど、黒幕を白状させるまでは、生かしておくよ。」


 彼も理解しているようであるけれど、もう一度念を押しておこう。

「殿下、行き過ぎはいけませんわ。」


「君を攫うなんて、死に値する。」

 やっぱり、殺すつもりだった?


「わたくしは無事ですから、そんな物騒な事仰らないでくださいませ。彼女が怖がってしまいます。」


 そう言えば、彼はエリス様に一瞥した後、私に視線を戻す。

「アリアナ、怪我は無いか?」


「この通り、無事ですわ。」


 そう返事をしていたら、兄が部屋に入って来た。

「クロード、下は押さえたぞ。おい、こいつも縛って連れて行け!」

 兄は一緒に入って来た騎士に命じる。


「お兄様!」

 兄の姿に私もホッとする。兄は賊が下に連れて行かれた事を確認して、私に視線を向ける。


「アリアナ、防御魔法は解いていいぞ。」


「はい。ありがとうございます。」

 私は防御魔法を解く。そして両手を口に当てて、成り行きを見ていたエリス様に声をかけた。


『エリス様、大丈夫ですか?』


『私は大丈夫。アリアナ様、凄いわ。高度な魔法がお出来になるなんて。』


『たまたまですわ。』


「アリアナ、大丈夫か?」


「お兄様、わたくしは無事ですわ。お兄様、エリス様をお任せしてもよろしいですか?ベルンブルク国からの留学生なのです。」


「お前に巻き込まれたのか?それは申し訳なかったな。とりあえず安全な所へお送りするよ。」


「お願い致します。」


 私はエリス様に兄を紹介する。


『エリス様、兄です。兄がご案内しますから、先に降りて下さいませ。わたくしもミレーヌ様と一緒に後から行きます。』


 兄もベルン語で対応してくれる。

『アリアナの兄のエリックです。この度は事件に巻き込んでしまい、申し訳ありませんでした。今から安全な所までご案内いたします。』


『エリスと申します。こちらこそ助けて頂き、ありがとうございました。アリアナ様、先に降りていますね。』


 彼女と兄が部屋を出るところを確認した後、私はミレーヌの側に駆け寄った。彼女が息をしている事を確認し、声をかけた。


「ミレーヌ様、怪我はありませんか?」


 私は床に横になっていたミレーヌに声をかける。

 ミレーヌは目をゆっくりと開いた。


「アリアナ様…ここは?」


「私達は攫われてしまったのだけど、今、助けが来てくれたの。貴女は怪我はない?」


「怪我はありません。」

 彼女はどこか虚な目をしている。


「座れるかしら?」

「はい。」


 彼女はゆっくりと起き上がり、床に座る。

 私が手を貸そうとするが、大丈夫だという。


「じゃあ、騎士を呼ぶから少し待っていてくださる?」

「わかりました。」


 彼女は怪我も無さそうで、意識を取り戻した事にホッとする。


 ドアの所にいたクロード殿下の元へと足を進め、側にいた騎士にもう一人騎士を呼ぶように頼む。

 二人いれば、ミレーヌが動けなくても、下に連れて行く事は問題無いはず。


 そして、クロード殿下に向き合って、礼を執る。


「殿下、助けて頂き、ありがとうございました。わたくし一人では、動く事が難しかったので、助かりましたわ。」


「全く、助けが遅くなったら、どうするつもりだったのか。」

 彼の目には、怒りが浮かんでいる。

 一瞬怯みそうになるけれど、ここは頑張らないと。

 私は微笑みを浮かべた。


「その時はその時で、わたくしにでき得る限りの手段を使い、逃げ出していますわ。」


「いい加減に…」


 そう言って、彼は私を腕の中に抱きとめた。

 えっ、私はまた地雷を踏んだかしら?


「クロード殿下?」


「心配させるな。」

 彼の声は、本気で心配しているとわかる。


「ごめんなさい。殿下。」


 クロード殿下に心配させてしまったと、反省して、顔を上げようと頭を動かすと、視界の端に銀色に光る物が見えた。


 それが何か認識するよりも早く、私はその銀色の光から殿下を庇おうと、自分の体を殿下と光の間に滑り込ませ、防御魔法を掛けた。


 だが一歩遅かったようだ。

 背中に痛みが走る。


 痛みを堪えて、後ろを振り向くと、床に落ちていたナイフを持ったミレーヌが立ち尽くしていた。


「ミレーヌ様、何で?」


「わたし…」

 彼女は震えていた。


「アリアナ、大丈夫か!」

 彼はそう言って、私の傷に手を当ててくれる。

 肩甲骨周辺に生温い感覚が広がった。


「殿下、わたくしは大丈夫ですから、彼女の事を任せてくださいませ。」


 背中は焼けつく様に痛いが、ミレーヌが何故この様な事をしたのか、わからない。

 クロード殿下に刃物を向けたとあっては、死罪は免れない。その前にどうにかしないと。


「ミレーヌ様、その刃物を置いてくださいませ。」

「わたし…」

「アリアナ!近付くな!」

「いいえ。殿下。大丈夫です。」

 私はそう言って、彼女に近付き、ナイフを取り上げた。


「ミレーヌ様、落ち着いて。」

 そう言って、彼女に魔法をかけた。

 一時的に気を失わせる魔法だ。


 彼女がガタっと倒れる。

 私は彼女を支えながら、自分も倒れてしまう。

 緊張から解かれ、強烈な痛みを感じ、意識を手離してしまったのだった。



お読み頂き、ありがとうございました。


誤字報告、ありがとうございました。

自分で見直したつもりでも、なかなか気付けないもので、反省しています。


次回も明後日か明々後日に更新をと思っています。

お付き合い頂けますと幸いです。




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