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悪役令嬢は婚約破棄を言い出した王子様に決闘を申し込む。  作者: 藤宮サラ
第一章 決闘まで

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【番外編】野外活動(イスマエル視点)

ブックマーク等、ありがとうございます。


 冬休みが終わり、アリアも戻って来て、私はホッとした。


 もしかしたら、この休みの間に彼女の結婚の話が進んで、戻ってこれないのではないかと危惧していたのだ。

 一応、間諜も入れ、動向は探っていたが、本人の姿を見るまでは安心できなかった。


 だが、授業が始まってみると、アリアとは、クラス内て話すことはあるが、なかなか二人きりになれない。

 レオンハルトやルーカスも同じ様に、アリアを狙っているが、彼らも同じ状況だった。

 アリアは誰か一人に誘われると必ず別の生徒を連れて来る。なかなか、距離を縮める事が出来ないまま、時間が流れていく。


 気が付くと、卒業まであと一月となる。

 明日から、卒業前の野外活動に行く。

 この活動は自由参加であるが、アリアが参加するとい言うので、私も参加する事にした。


 聞けば、昨年まで、この活動は海近くで行われていたらしいが、海賊の襲撃があった為、今年はこの国の王家所有の離宮になったそうだ。

 離宮の側には、湖や森があり、野外活動には最適な場所だと教師は言っていた。


 昨年の海賊の襲撃も被害は無かったそうだが、引率していた教師はさぞかし肝が冷えた事だろう。

 アリアはその場にいたのだろうか。


 そんな事を考えていたら、当日となる。

 朝から快晴で気持ちが良い。

 数台の馬車で移動する事となるが、男子は馬での移動も許可されていた。私も馬を選んだ。見ればレオンハルトもルーカスもヨハネスも馬だ。王族で馬車を選んでいる者は、クリストファーしかいない。


 アリアはもう馬車に乗ったのだろうか。

 周囲を見渡すが、女子生徒の一団は見えるが、アリアの姿が見えない。一体どうしたのか?


「ご機嫌よう。イスマエル様。」

 後ろから声を掛けられ慌てて振り返ると、乗馬服に身を包んだアリアだった。


 普段と違う姿に見惚れてしまう。体の線に沿った、白いシャツと茶色のタイツに緋色のベストとブーツ。ベストとお揃いの生地で出来ているマントを羽織って、体の線を隠しているとはいえ、他の男に見せたくないと思う。出来る事ならば、アリアを自分の馬に乗せて、彼女の存在を身近に感じたい。そして彼女は自分のものだと、他の男に知らしめたい。


 私は煩悩を振り払う様に、首を振り、アリアに向き合う。

「アリア、馬車じゃないのか?」

 出てきた言葉は凡庸だった。


「わたくしは馬の方が好きなのですわ。今年は近くですから、馬でもいいと許可が出ましたの。」


「アリアナ様は乗馬姿も素敵ですわ。」

 もう一人の乗馬服に身を包んだ女性がアリアの隣に馬を寄せる。ベルンブルク国からの留学生だったか。最近アリアと一緒にいる事が多い。


「アリア!乗馬服も似合っているな。今度、乗馬服一式を馬と一緒にプレゼントしよう。」

 レオンハルトは私達の間に割って入り、褒め言葉をサラリと口にする。


 本当は私もアリアを褒めたかった。

 彼はいつもアリアとの会話を邪魔する。

 嫌な奴だと、つい眉を寄せてしまう。


「レオン様、ご冗談はほどほどになさってくださいませ。馬はこの愛馬がおりますし、乗馬服も間に合っています。」

 彼女がレオンハルトの事を愛称呼びしている事に驚く。


「アリア、一緒に行こう。」

 レオンハルトは堂々と彼女を誘う。


「抜け駆けは許さないぞ。」

「そうだ!」

 ルーカスやヨハネスも反論していた。

 彼らはいつの間にか彼女の側にいる。

 皆の行動の素早さには、舌を巻く。


「皆さま、わたくしはエリス様とのんびり走らせますわ。どうぞお先に馬を走らせてくださいませ。」

「そうですわ。殿方はどうぞお先に。」


 女性二人は仲良く口を揃える。


「そんな訳にはいかないだろう?何かあったらどうするのだ?」

 私が諭す様に言うと、彼女はニッコリ笑い反論する。


「それは殿下方ですわ。皆様大切な御身ですから、しっかり騎士団に守られてくださいませ。」


「アリアとて、大事な身だろう?」


「わたくしの事はご心配無く。自分の身は自分で守れます。」


 頑ななアリアをどう説得するかと、考えを巡らす。

「そうか。では、私に道すがらこの国について教えてくれないか?」


「教える?」

 アリアは首を傾げる。


「道中、民の暮らしも見る事が出来るだろう?我が国にも参考にできる事があるかもしれない。何時ぞやの町歩きの時の様に。」

 そう、我ながら姑息だとも思ったが、こう言えばアリアは断らない。彼女と一緒に過ごす時間は一時でも惜しい。


「そうですね。イスマエル様のお国の為になるのであれば。」

 彼女は微笑み、了承してくれた。これで彼女は私と並んで行く事になる。


 結局、他の王子達もアリアと一緒に行くといい張り、皆で馬を並べる事となる。

 アリアは馬を上手に乗りこなしていた。


 アリアと一緒に行きたい為に出た言葉ではあったが、実際に庶民の暮らしにも興味はあり、見る物全てが新鮮である。街道沿いの庶民の暮らしは、なかなか落ち着いている様であった。アリアに聞けば、王都周辺なので恵まれているところらしい。

 辺境の地や、領主が民の暮らしなど考えない地域はまだまだ貧しいところがあると言う。


「ここは街道沿いなので、現金を手に入れる事が比較的に容易にできるのです。作物を作って糧を得ている家は、天候に左右される事もありますし、一度戦になれば、全てが無になってしまう。また治める領主が独善的であれば、領民は苦しみます。」

 そう言うアリアは悲しそうな顔を見せた。


「ファーガソン公爵家の民は幸せだな。こんなに民のことを考えてくれる領主の娘がいて。」


「わたくしがいくら心を痛めても、彼らの助けになる事が難しい事は十分承知していますが。」


「アリアが我が国に来て貰えたら、我が国の民も救われる。考えて貰えないか?」

 民の事を出せば、考えてくれるのではないかと、わざと民の話を振る。あれだけ我が国の民の事を考えてくれた彼女だ。少しは考えてくれないだろうか?


「それは難しいですわ。」


「何故だ?クリストファーとの婚約は不本意なのだろう?なんなら国として正式に申し込むが。既に準備はできている。」


 そう、国として、彼女の家とこの国に結婚の申し出をする手続きがつい最近、全て整った。後は正式な使者を遣わすだけだ。


「何度も申し上げておりますが、この婚約に関してはわたくしが決める事ではありませんわ。」


「アリアは自分の意思をしっかり持っている女性だと思っていたが。」


「それは買い被りです。わたくしも普通の娘ですから。」


「何を話している?」


「レオン様、大した事ではありません。街道沿いのご説明をしておりました。」


「アリアは今日行く所を知っているのかい?」

 レオンは私に構わずアリアに話しかける。


「はい。幼い頃に何度か行った事があります。」


 そんなこんなしながら、馬を走らせていると、目的地の離宮に着いた。


 近くに森があり、男子は野外でテントを張り、そこで一晩過ごし、女子は離宮に部屋が用意されている。

 食事は野外で自分達で作る事になっている。


 我が国では、野営は日常茶飯事なので、テントを張ることも食事を作る事も問題ない。

 レオンハルトもルーカスもヨハネスも王子ではあるが、難なくテントを張っていた。

 反対にクリストファーは腰巾着にやらせて、自分はカーラとイチャイチャしている。


 テントを張ると、次は料理だ。

 これはグループでの作業になるので、女子生徒も一緒だった。

 私のグループにはアリアとレオンハルト、ルーカス、ヨハネス、エリス嬢のグループだった。


「なんだか隔たりのあるグループ分けですわ。」

 アリアが不満げに言う。


「仕方がないだろう?皆、リナと一緒がいいのだから。」

 ルーカスが親しげにアリアに話してくる。リナと呼んだ事に苛立ちを感じる。何故リナと呼ぶのか?


「リナ?」


「アリアナ嬢を昔そう呼んでいたんだ。なぁリナ?」


「ええ。ですがルーカス殿下、わたくしは昔とは違います。そのように親しく呼ばれても困りますわ。」


「そんなつれない事を言わないでくれ。」


「ルーカス殿下、そんな事を言っている暇があれば、薪になる木を集めて来てくださいな。」


「仕方がないな。」


 二人のやり取りに親しさを感じ、先日の光景が蘇る。

 私の知らない時間を二人が共有していると思うと、焦りを覚える。


 アリアはそんな会話をしながら、手早く野菜や肉を切って、鍋に入れていく。

 食材は用意されていたので、そこから献立を考え、作るという、普段縁のない生活をしている生徒たちにとって、ハードルの高い課題だったが、アリアには簡単らしい、


「アリアは料理ができるんだな。」


「あら、イスマエル様はご存知でしょう。」

 彼女はクスクスと笑う。


「何でイスマエルが知っている?」

 レオンハルトが訝しげな顔をする。


 普通、令嬢が料理などする事はない。彼女がクッキーを作り、慈善事業に協力している事は皆知っているが、まさか料理まで出来るとは思わないのだろう。


「それは内緒です。」

 そう言って、彼女は悪戯っ子の様に笑う。


 この野外活動では、彼女は良く笑い顔を見せてくれる。それだけでも来た価値がある。


 なんだかんだいいながら、手を動かしているアリアに関心しながら、私も彼女を手伝う。


 流石に他の王子達は、料理は難しいらしく、火の番や焚き木集めに勤しんでいるが、レオンハルトだけはアリアに張り付いていた。


 我がグループの晩餐は、鶏肉の香草焼きとポトフで、簡素ではあったがとても美味しかった。

 他のグループはとても食べられた物ではなかったらしい。


 食後のお茶もアリアが用意してくれた。

 私達は焚き火を囲んで、会話を楽しむ。

 外の空気はとても澄んでいて、星が綺麗だ。


「アリアはどこでそんな技術を身につけたのかい?」

 私がお茶を飲みながら聞く。


「内緒です。」

 彼女は答えた。


「また内緒かい?秘密主義だな。」

 レオンハルトがまた割って入ってくる。


「リナは何でもできるよな?」

 ルーカスが彼女の事は何でも知っているという言い方に苛立ちを感じる。


「ルーカス、馴れ馴れしいのではないか?いくら昔の知り合いだからと言っても、礼儀は必要だろう?」

 俺はルーカスを睨みつける。


「そうですわ。アリアナ様に失礼ですわ。」

 エリス嬢も援護してくれた。


「ルーカス殿下は昔からこの様なお方なので、わたくしは気にしておりません。もう少し大人になられたかとは思っておりましたが。」


「何だって!」

「ほら、見ろ、アリアに呆れられているぞ!」


 たわいのない事を言い合う関係も今だからこそだろう。確かにアリアを巡ってのライバル関係だが、まだ国を背負っている訳ではない。こんな時間もきっとアリアがいなければ、味わう事が出来なかっただろう。

 改めて、アリアの存在の大きさに気付く。


 夜も更けて、彼女達を離宮まで送って行く。


「では、皆様、おやすみなさいませ。」


「おやすみ、アリア、エリス、良い夢を!」

「おやすみ。アリア、また明日!」


 挨拶を交わし、明日の朝に、また変わらない笑顔を見るはずだったのだが…


 次の日の早朝、離宮の方から悲鳴が聞こえ、慌てて飛び起きた。


 アリアとエリスとカーラの姿が無く、彼女達が行方不明だと騒いでいたのだった。



お読みいただき、ありがとうございました。


不定期ながらに仕事が入って来て、しばらく思うように書く時間が取れそうにありません。

今回も更新が遅くなり、申し訳ありませんでした。

3日に1回は更新したいとは思いますが…

お付き合い頂けますと幸いです。

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