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悪役令嬢は婚約破棄を言い出した王子様に決闘を申し込む。  作者: 藤宮サラ
第一章 決闘まで

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【閑話】レオンハルトの冬休み2(レオンハルト視点)

ブックマーク等、ありがとうございます。

引き続きレオンハルト視点の閑話です。


 お淑やかに挨拶をするエリスだった。急に女性らしくなったエリスに驚くが、これが恋の力なのだろうと、納得してしまう。


「エリス、暫く見ない間に仮面を被るのが上手くなったな。」


「バカ!せっかく大人しくしたのに!」

 エリスの変わらないところに、ホッとする。昔から兄妹の様に育った俺たちは、敬語などは使わない。


「で、ルイスと上手くいっている様だな。」


「ええ、ありがとう。」

 エリスは蕾が綻ぶような笑顔を見せた。


 本当に良かったと、俺も胸を撫で下ろす。

 俺と婚約解消する事は合意とはいえ、彼女が幸せにならなければ、俺はこの婚約を後悔した事だろう。


「先程、陛下から早々に婚約解消の発表をすると言質を取った。侯爵家へは俺の方の事情だと説明がいくはずだ。婚約解消が遅くなり申し訳ない。」


「ありがとう。レオンが協力してくれなかったら、今頃、あのじじいのところに嫁いでいたかもしれないから、感謝しているわ。」


「本当に感謝するよ。」

 横からルイスが彼女の肩に手を置きながら、礼を言う。ルイスも落ち着いた顔をしている。

 守る者ができたら、こんなにも変わるのか。

 俺も早くそうなりたい。


「そう思うなら、協力しろよ。」


「そうよ!ルイス、力になってあげてよ。」


「そう言っても、アリアナ嬢は手強いぞ。身分や顔に惑わされる様な令嬢ではない。俺も全く相手にされなかった。」


 お前もアプローチしていたのか?だがアリアから相手にされなかったと聞いて安心する。


 だが、エリスは違うようだ。俺がいる事などお構いなしに、ルイスに詰め寄る。


「それって、アリアナ様をルイスも口説こうとしたって事?」


「いや…そういう訳では…」

 ルイスはタジタジである。こうなると、どちらが年上なのかわからない。もう尻に敷かれている様だ。


「そう言えば、留学中、女子生徒の方々と仲良くされていたそうよね。」


「あれは情報収集だよ。決して疾しい事はしていない。」


 これ以上、放って置くと、ロクなことにならない。

 俺は話に割って入った。


「おいおい、仲が良いのは結構だが、ここで痴話喧嘩は止めてくれ。それより、エリス、俺がアリアナ嬢と親しくなれるようないい方法はないか?彼女はとてもしっかりした女性だ。」


 彼女は考え込む素振りを見せるが、首を横に振る。

「そんな会った事もないのにわかる訳ないわ。」


「会いに行くか?」


 俺は思い付いた事を口にしていた。前々からアリアの誤解を解くのは、エリスから説明してもらうしか方法が無いと考えていた。今回がいい機会だ。これを逃せば、アリアの誤解を解いて、親しくなる事は難しいだろう。


「はぁ?」「えっ?」

 ふたりが揃って声を出す。


「アリアナ嬢から、俺は婚約者がいるにもかかわらず、彼女を口説いている不誠実な奴だと思われている。エリスから説明すれば少なくとも誤解は解ける。」


「普通そう思うわよ。だいたい普段のレオンの態度が不誠実に見えるのよ。誤解を解いても、アリアナ様はレオンの事を見る目は変わらないかもよ。」


 エリスは容赦なく俺を攻撃してくる。

「お前なぁ。俺はルイス程ではないと思うが?」


「おい!そこで俺を引き合いに出すな。」


「私もアリアナ様にはお会いしたいわ。とても気が合いそうだし。だけど両親が許すかどうか…」


「婚約解消の憶測から逃れる為に、短期留学はどうか?そう王家から話を通そう。今回はあくまで政治的な理由での婚約解消だ。その詫びとして、短期留学を世話する事は不自然ではない。1ヶ月ぐらいなら侯爵も許してくれるだろう。何ならルイスもその間はフランブールの大使館で仕事をさせるか。」


「何で俺が出て行かないといけないんだ?」

 ルイスは不満そうだ。だがフラン語も得意なルイスは役に立つだろう。


「エリスと離れるのは嫌だろう?それにアリアナ嬢の事を協力しろよ。」


「レオン、でも私は魔法力はそんなに強くはないわ。」


「アカデミーは魔法力が強くない生徒の為のクラスもある。心配する必要はない。」


「本当に?」

「ああ、いい気晴らしになるだろう?」

「嬉しいわ!」


 あっという間に、冬休みが終わる。

 俺たちはフランブール国へと旅立つ。


 アカデミーに到着し、エリスを教務課に連れて行く。1ヶ月の短い期間であったが、快く引き受けてくれた事に感謝する。

 無事に挨拶が終わったところで、案内の女子生徒を待つ。ノックの音と共に現れたのは、アリアだった。

 変わらない姿で現れた事にホッとする。

 実は休みの間にアリアがアカデミーを辞めさせられていたらと心配していたのだ。


「レオンハルト殿下、ご機嫌よう。エリス様、わたくしはアリアナと申します。」


「アリアナ様、お初にお目に掛かります。ベルンブルク国から参りましたエリスです。短い間ですが、よろしくお願い致します。」


「アリアナ嬢、元婚約者だったエリスだ。今はルイスと婚約している。よろしく頼む。」


「ええ、こちらこそ、宜しくお願いします。」

 彼女がニッコリ笑う。


「ああ、やっとアリアナ様にお会い出来たわ。楽しみにしておりましたの。アリアナ様はベルン語がお上手ですのね。」


「わたくしもエリス様とお会いできて嬉しいですわ。ベルン語は幼い頃に学ぶ機会がございましたので。」


 二人が打ち解けた様子で話している事に安心する。


「アリア、エリスの事を宜しく頼む。ちょっと気が強いが、根は優しい娘だ。」


「ええ、殿下の大切な方ですから。」


「何か誤解していないか?さっき元だと言っただろう?エリスは妹のような存在だ。婚約は先日正式に解消され、エリスはルイスと婚約した。」


「アリアナ様、私もこんな俺様で手の掛かる弟との結婚など、お断りですわ。婚約が解消され、ホッとしているのです。」


「誰が俺様で手の掛かる弟だって⁈」


「キャー!怖い!」


「ふふふ…本当に仲がよろしいのですね。」


「だから誤解するなって!」

「婚約解消は本当です!」


「そうですか。ご婚約は解消されたのですね。羨ましいですわ。」

 アリアは表情が曇ったが、すぐに笑顔を貼り付けた。


「羨ましい?」

 アリアの言葉を見逃さなかったエリスが尋ねる。

 アリアとクリストファーの関係をエリスはまだ知らない。


「いえ…今のは失言でした。どうぞなかった事にして下さいませ。」


「アリアナ様も婚約されていらっしゃるのですか?」


「ええ、わたくしは婚約しております。」


「アリア、羨ましいと思うなら、さっさとクリストファーとは婚約解消しろよ。我が国が後ろ盾になるぞ。」


「そうよ。レオンはこう見えても策士だから、きっと何とかしてくれるわ。」

 エリスも何か察したのだろう。俺の後押しをしてくれる。


「お気持ちだけ、有り難く頂きますわ。ありがとうございます。わたくしは大丈夫ですわ。」


 アリアはそう言いながら、アカデミー内を案内してくれた。

 その間にエリスはすっかり打ち解けたようだ。


 案内が終わり、二人が女子寮へと向かう前に、アリアと会う約束を取り付けなければ。


「アリア、エリスが寮の部屋を確認したら、談話室に連れて来てくれないか?君にも土産がある。」

「承知いたしました。半刻程お時間頂きますが、よろしいでしょうか。女子寮もご案内したいので。」


「ああ、わかった。エリスを頼む。」

「ええ。もちろんですわ。」

 アリアはそう言って、笑顔を見せてくれたが、その空色の瞳に影がかかっていた。


 談話室で二人を待つ。

 アリアに用意したアクアマリンのイヤリングとネックレスは気に入って貰えるだろうか?

 これを見た時に、アリアの瞳だと思ったのだ。雫の形をしたアクアマリンに、金で出来た飾りが付いている。その部分には目立たないが、我が国の紋章が入っている。

 本当は指輪を送りたかった。

 だが、指輪だと受け取って貰えない可能性がある。指輪でなくとも、アリアには私の選んだ物を身に付けて欲しかった。


 そんな物思いに浸っていると、談話室に他国の王子たちも入ってくる。


 ルーカスやイスマエルもいた。

 ヨハネスが聖なる星の祭りについて話していた。

 星の乙女がとても美しかった事と、祭りの会場でアリアと会ったと自慢していた。

 アリアは祭りには行けないと言っていたが、許しが出たのか。


 そんな事を考えていると、アリアとエリスが入って来た。二人は他の男子生徒に囲まれる。


「皆さま、本日よりベルンブルク国より短期留学されるエリス様ですわ。」

「エリスでございます。短い間ですが、お世話になります。」


「エリス!アリア!こっちだ。」

 俺は二人を生徒の輪から引っ張りだす。

 だが、アリアはエリスを連れて来ると、役目は終わりとばかりに、席を外そうとした。


「アリアナ様、まだご一緒にいて下さいませ。」

 エリスが助け舟を出してくれた。


「アリア、土産だ。受け取って欲しい。」

 そう言いながら、箱を開ける。


「まぁ、こんな高価な物は頂けませんわ。」


「アリアナ様、いいのよ。私がお世話になるのだから。受け取ってあげて。とてもお似合いになると思うわ。」


「俺がアリアに似合うと思って用意した物だ。だから受け取って欲しい。我が国の特産品だ。アリアが付けてくれるだけで、宣伝になると思えば、安い物だ。」


 そう言えば、アリアは断らない。少しズルい方法だとも思うが。


「そうよ。それにレオンだって自分で事業を色々立ち上げているのだから、気にしなくていいのよ。」


 エリスも後押ししてくれる。

 周囲から鋭い視線を感じる。イスマエルとルーカスなどは、今にもアリアを奪い取りたいと待ち構えているのがわかる。だが、エリスの存在が彼らを押し留めている様だ。

 やはりエリスを連れて来たのは正解だった。

 俺はほくそ笑む。


「レオンのそんなところが、俺様で嫌われるのよ。ねえ、アリアナ様?」


「ふふふ…エリス様、レオンハルト殿下も女子生徒の中では人気があるのです。ご婚約がなくなれば、皆様から熱い視線を送られる事と存じますわ。」


「俺はアリアだけでいい。」

 そう、他の女性は必要ない。


「わたくしは婚約しております。」


 そんな事はわかっている。

「だからその婚約も解消しろよ。」


「無理仰らないで下さいませ。」

 アリアはやはり頑なだ。


「レオン、アリアナ様にも事情があるはずよ。困らせてはダメよ。ねえ、アリアナ様?」


「エリス様はお優しいのですね。」

「ねえ、アリアナ様、お友達になって下さらない?」

「わたくしで宜しければ、喜んで。」


 二人の会話を聞いて、俺もホッとした。

 エリスにも同性の友人は必要だし、アリアにも同性の友人が貼り付けば、他の男もおいそれと近付く事は出来ないだろう。


 この冬はエリスとの婚約解消が無事に終わり、懸案の一つが解消した。

 アリアとの関係は、まだ変わらないが、エリスという味方が増えた。数ヶ月後の卒業時にはアリアを手に入れよう。


 そう、心内で決心しながら、目の前の二人が会話を楽しむ様子を眺めていた。






お読みいただき、ありがとうございました。


頭が正月休みの帰省の疲れから、なかなか回復してくれません。なかなか先が思うように書けず…

次回は明後日か明々後日には、投稿できるように頑張ってみます。

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