【番外編】レオンハルトと他国の王子達(レオンハルト視点)
ブックマーク等、ありがとうございます。
更新遅くなり、申し訳ありません。
アリアナがアカデミーに戻った後、前々話の続きの場面です。
ルーカスからアリアナがイスマエルに攫われたと聞いて、居ても立っても居られないと、部下に探らせるが、なかなか足取りが掴めなかった。
しばらく悶々と時間を過ごしていると、ルーカスから連絡が入る。
「アリアナ嬢が見つかり、無事だと連絡があった。」
ルーカスの方が見つけるのが早かったか。
「お前が見つけたのか?」
「連絡があったと言っただろう?アリアナ嬢の兄君から連絡が入ったんだ。彼女は無事だと。」
アリアの兄か。
それを聞いてホッとする。だが、彼女はルーカスと一緒にいるのか。
「お前は会ったのか?」
「いや、まだ会えていない。」
その答えに安心する。
「何処にいたのか?」
「詳細は不明だ。」
「そうか。」
「俺も詳しくは把握していない。だが、兄君はアリアナ嬢に追跡魔法をかけていると言っていた。だから直ぐに場所がわかったのだろう。」
「そうか。」
追跡魔法か。俺も掛けたいが、アリアからは警戒されている。アリアナの兄も追跡魔法を使えるほど、魔法力が高いのか。
「心配をかけて悪かった。」
彼がアリアの身内の様に言う事に腹が立つ。だが彼は今回の件を俺に黙っている事もできたはずだと、思い直す。イスマエルという強力なライバルがいる事を考えれば、今のところはルーカスと敵対する事は得策ではないだろう。
「お前に謝れる筋合いは無い。だが知らせてくれた事には礼を言う。」
「お前も素直では無いな。」
「お前ほどでは無いさ。」
そんな会話をして、魔法通信を終えた。
アリアが無事だと聞いて、ひとまず安心する。
だが、イスマエルには要注意だ。
いや、ルーカスもか。彼は魔法力が弱いが、彼の率いる特殊部隊は侮れない。きっと一部は、今も彼の手足となって、この国で働いているだろう。
アリアが俺以外の男と一緒にいる所を見ると、このまま奪い去ってしまいたいとの衝動に駆られる。
俺も強硬手段に出る事も考えた。今回もイスマエルに先を越されたとも思ったぐらいだ。
だが、アリアの魔法力を考えると、実力行使は躊躇われていた。
アカデミーを卒業するまで、後数ヶ月だ。
それまでには、アリアを手に入れたい。
卒業後はアリアと会う事も難しくなるだろう。いや、噂通りなら、卒業後すぐに結婚となってもおかしくない。
それまでに、アリアを手に入れる為の計画を立てなければと思う。
彼女自身が我が国に来たいと思ってくれれば、何も問題ない。クリストファーとの婚約も我が国の力を持てば、解消することは簡単だ。
だが、彼女が納得していない場合は、どう手を打つか。
そんな事を考えていたら、いつの間にか時間が過ぎていた。
晩餐の時間になったと侍従が伝えてくる。あまり腹は減っていないが、今回の件で何か情報が入るかもしれないと思い直す。
ダイニングルームへと移動していたら、目の前をイスマエルとアリアが歩いていた。俺は目を疑う。
イスマエルにアリアが連れ去られたと聞いていたが、目の前の二人は親しげにしている。何故だ?
気が付けば、俺はイスマエルの肩に手を掛けて、振り向かせていた。
「イスマエル!お前、アリアナ嬢をどうするつもりだったんだ!」
「なんの話だ?私とアリアナ嬢の事に、貴殿は関係ないだろう?」
彼は俺の手を払い落としながら、アリアを後ろに隠す。その行動にまたイライラが増幅する。
「ルーカスがアリアナ嬢が攫われたと、騒いでいたが?」
「攫ったのではない。そうであれば、今この場に彼女といる事はおかしいだろう?ルーカスが、騒ぎ過ぎなのだ。嘘だと思うなら、彼女に聞いてみればいい。」
「そうなのか?アリア」
アリアは彼の後ろから出て来て、令嬢の仮面を付けた微笑みを見せる。無事な姿にはホッとしたが、俺はそんな微笑みが見たい訳ではない。
「ご機嫌よう。レオンハルト殿下。ええ、わたくしはイスマエル殿下と、お話をしていただけです。殿下とルーカス殿下にはご心配をおかけしまい、申し訳ありませんでした。」
「攫うとしたら、お前の方だろう?お前が疾しい事を考えているからじゃないか?」
「お前には言われたくはない。」
「お二人とも、もうそれくらいで収めてくださいませ。晩餐の時間です。参りましょう。」
アリアに促され、俺たちは専用のダイニングに入った。ここは各国の王族や高位貴族だけしか、入れないダイニングであった。
「アリアナ嬢!無事だったか?」
そう言って、ルーカスが近付いてくる。
俺がアリアの前に出たが、それと同時にイスマエルも前に出た。
「アリアナ嬢と話したいんだ。二人とも退いてくれ。」
すると、イスマエルが、彼を睨みつけながらいい放つ。
「アリアナ嬢はお前はただの知り合いだと言っていた。昔からの知り合いだからと言って、馴れ馴れしくするんじゃない。」
「お前に言われる筋合いは無いぞ。」
一触触発かと思ったが、アリアが止めに入ってきた。
「お二人とも、今は晩餐の時間ですわ。ルーカス殿下、わたくしは少しイスマエル殿下とお話をさせて頂いただけですわ。皆さまがお待ちです。今は晩餐をいただきましょう。」
その言葉を合図に、皆で席に着いた。
なかなか居心地の悪い晩餐だったが、アリアは普通に会話をしていた事に、俺はホッとする。
晩餐が終わり、談話室に場所を移し、お茶を楽しむ。
アリアにイスマエルとどんな話をしたのか、聞きたくて仕方がないが、皆がいるこの場で素直に話すとは思えない。俺は別の話題を振る。
「アリアは冬の休みはどう過ごすのか?」
「わたくしは、王都の家に帰る予定ですわ。」
「我が国に遊びに来ないか?」
この休みに我が国に来て貰えば、アリアの気持ちも手に入れる事が出来るかもしれない。
「いや、それなら我が国に。」
ルーカスが慌てて追随する。
「我が国の方が暖かいから、休暇には最適だ。アリア歓迎するよ。」
イスマエルも負けてはいない。彼には絶対に負けられない。
「皆さまお国へ帰省されるのですね。お誘いは嬉しいのですが、冬休み中に自宅で色々と済ませないといけない事があり、必ず戻る様に両親に言われておりますの。」
「アリアナ嬢は王都にいらっしゃるのですね。」
それまで大人しくしていたヨハネスがアリアに確認する。
「ええ。ヨハネス殿下はどうされるのですか?」
「私は寮に残ります。我が国は冬は雪深く、なるべく皆に負担をかけたくはないので。」
「ヨハネス殿下はお優しいのですね。では、聖なる星の祭りをご覧になられるのですか?」
「ええ、そのつもりです。」
ヨハネスと話すアリアは、とても穏やかだ。いつものアリアが、如何に皆に気を遣い、過ごしているのかがわかる。そう思えば、その穏やかな笑顔を俺にも見せて欲しいと、話に割り込む。
「聖なる星の祭りとは?」
アリアが俺にも、穏やかな笑顔を見せてくれる。
「ご存知ではありませんでしたか?我が国で毎年、夜が一番長い日に行われるお祭りです。星の女神に一年の安寧を祈るのです。」
「アリアは行くのか?」
アリアが行くのであれば、エスコートする事も悪くない。
「わたくしは行きたいのですが、許可が出るかどうか。昔は領地の祭りに兄と行っていたのですが…今年は王都に滞在予定なので、行けるといいのですが。」
「そうか。」
残念だが、アリアが行かないのであれば、一度国に帰り、アリアを手に入れる為の策を練った方がいいだろう。エリスとの婚約もきちんと解消しなければならない。
「アリアは冬休みに何をしないといけないのか?」
そう、あの噂が気になっていた。
「それは…色々ですわ。」
「まさか噂通りで、結婚式の準備ではないよな。」
「そんな噂、存じませんわ。」
その言葉に俺はホッとする。周りの面々も同じように思ったようだ。
「アリアが休んでいた間に、その様な噂があった。」
「王宮にはお世話になっておりましたが、結婚式の準備ではありませんわ。クリストファー殿下はアカデミーにいらっしゃいましたし。」
そうアリアがいい終わらない内に、クリストファーが入って来た。彼は俺たちに囲まれているアリアナを一瞥し、顔を歪ませる。彼はアリアに近寄って来た。
「アリアナ、いいご身分だな。乗り換える相手でも探しているのか?」
彼の言い方には、腹が立つが、本当に乗り換えてくれれば良いと思う。多分他の王子達も同じだろう。
アリアは席を立ち、クリストファーに礼を執る。
「クリストファー殿下、ご機嫌よう。皆様同期のお友達として、親しくさせて頂いております。その物言いは他国の殿下方に大変失礼ですわ。」
同期の友人か。確かに皆立つ位置は一緒だ。クリストファー以外は。
「お前の態度が問題なんだろう?」
「わたくしは殿下と違いますわ。それとも殿下はわたくしが男性と会話する事を禁止されるのですか?でしたら、わたくしも殿下に特定の女性と、親しくしないでくださいませと、申し上げますが。」
アリアが凛として言い返している姿は、以前の俺に対しても一緒だった。その姿は見惚れてしまうほど美しい。
「お前、言わせておけば!」
クリストファーがアリアナの腕を掴みにかかる。
俺は慌てて、クリストファーの手を遮った。
「クリストファー、お前がアリアナ嬢の事が気に入らないからと言って、手を出すとは、紳士の風上にもおけないな。」
俺はアリアの前に立ち、彼女を庇う。
「お前は関係ないだろう!アリアナは私の婚約者だ。何をしようが、私の勝手だ。」
その言葉は俺の神経を逆撫でした。
「大いに関係ある。私はアリアナ嬢を貰い受けたいと思っている。お前がその様な態度であるならば、彼女は今すぐ我が国に連れて行く。」
すると、イスマエルもアリアの前に立ち、横にいる俺を一瞥する。
「レオンハルト、お前だけではないぞ。ここにいる者はアリアナ嬢の事を大事に思っている。もちろん我が国にもお迎えする準備は整っている。クリストファー、アリアナ嬢と結婚する気がないのであれば、早々に婚約は解消してくれ。」
「ふん。お前たちがいくら足掻こうが、アリアナが私と結婚する事は変わらないさ。アリアナ、母上が冬休みには王宮へ顔を出す様にと言っていたぞ。結婚式の準備だとさ。有り難く思えよ。俺のお飾りの妃にしてやる。」
クリストファーはそう言い捨てて、アリアの返事を待たずに出て行った。
「アリア、本当なのか?」
「王妃陛下がそうお望みである事は存じておりますわ。」
彼女はその空色の瞳に一瞬、憂いを浮かべたが、すぐに笑顔を貼り付けた。
俺はアリアの肩に手をかけ、彼女の顔を覗き込む。
「アリア、本当に我が国に来ないか。お飾りの妃などにさせたくは無い。」
「レオンハルト、抜け駆けはよせ。私の国でも彼女を受け入れる準備は出来ている。」
イスマエルが俺の手を彼女から離しながら、アリアに話しかける。
「お前たち、彼女の気持ちを無視するなよ。俺の国でも大歓迎だ。」
とルーカスも割り込んで来た。
「ありがとうございます。お気持ちだけ、有り難く頂戴致します。わたくしの事はご心配要りませんわ。お飾りの妃などになるつもりはありませんから。」
そう言って、彼女は微笑んだのだった。
お読み頂き、ありがとうございました。
風邪をひいてしまい、頭がボーとしていて、思うように書けず、更新が遅れてしまいました。申し訳ありません。幸い薬が効いたようで、随分楽になりました。どうぞ皆様もお気をつけてください。
この3ヵ月、皆さまにお読み頂き、大変励みになりました。感謝の言葉もございません。
年内の更新は今回が最後とさせて頂きます。病み上がりの身で、私自身は望んでいませんが、帰省しなければならないので、次回は年明け1月5日以降を予定しております。
どうぞ、皆さまも良いお年をお迎えください。




