【閑話】星降る夜の物語(ヨハネス視点)
ブックマーク等ありがとうございます。
ヨハネス視点の閑話です。
読まなくても、本編?番外編?には支障はありません。
今日はこの国で聖なる星の祭りが行われている。
一年の中で一番夜が長い日で、星が長く見えるのだ。
アカデミーはこのお祭りの前に、冬休みに入っていた。近隣の者は自宅に戻り、この祭りを家族で過ごす。
寮には遠方の者が数名残っているのみだった。
僕はこの国の祭りを見たいと思い寮に残った。というのは表向きの理由で、我が国は冬は深い雪に包まれ、帰るだけで一苦労だったからだ。
転移魔法を使うこともできるが、魔法力の強い者は限られている。両親からは、部下を危険に晒す訳にはいかないから、帰ってくるなと言われた。本当にその通りだと思う。
去年はニコラスから誘われて、彼の領地で過ごした。今年は親友のニコラスも残っている。
彼は王都にもタウンハウスがあるはずだが、家族は皆領地へと戻っているので、寮に残ったそうだ。
「お前を一人にしては置けないだろう?今年も一緒に年を越すのも悪くない。これを逃せば、王子様と年越しなんて、二度とそんな機会は無いかもしれないからな。それに王都の祭典の星の乙女は特別だ。」
そう言って、彼はニヤリとした。
「星の乙女?」
「ああ、毎年10名ほどの乙女が選ばれるのだが、幅広い階層から選ばれるから、貴族の令嬢も入る。」
「それはお前にとっては、楽しみだな。」
この国の貴族であるニコラスにとっては、星の乙女に選ばれるような令嬢に興味を持つ事は当然だ。
「お前もだろう?歌と踊りが上手く、乙女に相応しい令嬢。アカデミーには女子は少ないから、楽しみにして何か悪い。」
確かに女子は少ないよなぁ。
魔法力がある女子が少ないという事もあるが、魔法を学ぶより、女性としての嗜みを身に付ける方が大事だという古い概念がまだ残っているらしい。
そんな中、アリアナ嬢は公爵家の令嬢であるにも関わらず、在籍している。やっぱり彼女は素晴らしいよなぁと思う。
そんなやり取りをしながら、俺達の冬休みは始まった。校内は閑散としていたが、それなりに楽しい。
女子は皆、帰省したので、残っているのは、男子ばかりだ。
好きなスポーツの話や、騎士団や軍の話から始まって、好みの女の子の話や、彼女の話など、男同士でないと話せない事で、大いに盛り上がった。
雪が積もった日には、雪合戦をしたり、スキーやソリ遊びで盛り上がった。冬のスポーツは僕の得意分野で、皆の尊敬の眼差しが気持ちがいい。
そして、今夜は残った皆で、街の祭典を観に行く予定だ。
星の乙女が舞い歌い、1年の感謝とこれからの安寧を祈るこの祭典は、僕の国にも噂が聞こえるほど、有名だった。
星の乙女に選ばれた者は、それから1年、星の女神の加護を受けられるという。
実際、僕も楽しみにしていた。
話しかける事や知り合いになる事は、まず無いだろうけれど、可愛い女子がいるかもしれないと思うとワクワクする。
夕方から、寮監の付き添いの元、残った皆で街に繰り出す。
街の広場には、特産品や温かい飲み物や食べ物の屋台が所狭しと並んでいた。
ニコラスが、「これが我が国の名産だ!飲め!」と、温かいワインを差し出して来た。ワインにスパイスやフルーツを入れて温めたものらしい。
ほんのり甘く、フルーツとスパイスの香りがして、飲みやすい。体がじわりと温まる。
焼いた栗や揚げたジャガイモ、串焼きの肉などを買い食いしながら、店を見て回る。
お店には、様々な地方の特産品が並んでいた。
どんな物が売れるのかと、見て回っていると、一際女性が群がる店があった。
一体何の店だろうと思って、覗いて見ると、我が国の特産品が並んでいた。特にフワモコシリーズのぬいぐるみ、イヤリングやブローチなどが飛ぶように売れている。
ぬいぐるみも若い女性が買い求めていた。
まさかこんなところに出店しているなんて。
「あれはお前の国の特産品でないか?」
「ああ、あんなに人気があるとは、思わなかった。」
「良かったな。」
「うん。アリアナ嬢のおかげだな。」
「そうだな。」
アリアナ嬢の紹介で、我が国の特産品の販売ルートが広がり、冬場の内職もそれなりに収入に繋がるようになった。特に女性が収入を得る事に役立っている。その事は子供達の就学率の向上にも役に立つ事だろう。自由になるお金が無いから、学校に通わせない母親が多かったのだ。年の三分の一を雪に閉ざされる我が国では、子供も大事な働き手と、学校より仕事をさせる考えが主流だったのだ。
国に戻ったら、その事も改善していかなければならないな。
そんな事を考えながら、市を回った後、ステージがある野外劇場へと足を運ぶ。
シンシンと寒さが身に染みるが、所々で薪が焚かれ、暖が取れる様になっている。
その近くに席を取り、星の乙女の踊りを楽しみに待つ。
音楽が流れて、乙女達がステージに出てくる。
シャンシャンと鈴の音と共に、乙女が歌い出す。
僕は乙女の一人から目を離せなくなった。
腰まである銀色の髪に、サファイアの瞳、白い衣装がとても似合っていて、本当に女神に見える。我が国に伝承されている雪の精そのものだった。
冷たい美しさなのに、歌声が温かい。
我を忘れて、すっかり魅入ってしまった。
彼女が歌うと、雪がキラキラと光ながらゆっくりと落ちてくる。
乙女達の歌と踊りが終わると、すっかり幸せな気分になっていた。
「ニコラス、彼女は誰だか知っているか?」
「彼女?」
「ああ中央で歌っていた乙女。」
「彼女は雪の精らしい。」
「おい!冗談ではなく、私は本気で聞いているのだが?」
「皆知りたがっているんだが、プログラムにも雪の精としか、書いていないんだ。他の乙女は名誉ある役だから、名前が書いてある。だから、彼女は雪の精なんだよ。」
「そうか…」
「もしかして、惚れたか?」
「いや…だが、目を奪われた事は確かだ。どこかで見かけた気がしたのだが…気のせいか。」
「あんな綺麗な娘、見かけていたら、忘れないだろう?」
「そうだよなぁ。」
そんな会話をしながら、僕たちはまた広場へと戻る。
食べ物の屋台を見ていると、後ろから声をかけられた。
「ヨハネス殿下とニコラス様ではありませんか?」
そう声をかけてくれたのは、アリアナ嬢だった。
彼女は白いボアが付いている赤いマントを羽織っている。頭に被ったフードの中から、金色の髪が零れ落ちている。
さっきの雪の精に似ていると思ったが、髪の色は全く違い、アリアナ嬢からは温かい雰囲気が漂っている。
彼女の両隣には、若者二人が寄り添っていた。護衛だろうか?
「アリアナ嬢、良くお気付きになりましたね。」
「アリアナ嬢、ご機嫌麗しく。」
僕たちが揃って挨拶をする。まさかアリアナ嬢に会えるとは。
「ご機嫌よう。ヨハネス殿下とニコラス様もお祭りにいらしていたのですね。」
「ええ、寮の居残り組で遊びに来ました。」
「ちょうど良かったですわ。寮にお届けしようと思っていたのです。よければ皆様で召し上がって下さいませ。」
そう言って、彼女は後ろの若者が持っていた籠の中から、紙袋を取り出す。
「これは?」
僕は紙袋を受け取る。
「ジンジャークッキーですわ。わたくしが作りましたの。お口に合えば、嬉しいのですが…」
「ありがとうございます!喜んでいただきます!」
この場でアリアナ嬢に会えるだけでも、奇跡的なのに、クッキーまで貰えるとは。
「アリアナ嬢、宜しければ、ご一緒に祭りを観て回りませんか?」
僕は勇気を出して、誘ってみた。隣で生暖かい視線を感じる。
「申し訳ありません。先約があって、ご一緒する事は叶いません。では、ヨハネス殿下もニコラス様も良い聖夜の星祭りをお過ごし下さいませ。」
そう言って、彼女はまた人混みの中に入っていった。やっぱりと思うが、会えただけでも良しとするか。
「アリアナ嬢に会えるとは、今年はラッキーだったな。」
隣にいたニコラスが、呆れたように、俺の肩に手を掛けた。
「お前、良く誘えたよな。背後にいた二人はクロード殿下とアリアナ嬢の兄君だったぞ。」
「そうだったのか!護衛に見えたのだが。」
「俺が挨拶しようとしたら、目で制された。」
「アリアナ嬢はこの国の王子を護衛に付けているのか…」
「いや、そうじゃないだろう?お忍びのデートじゃないか。」
「だが、兄君も一緒だったのだろう?」
「アリアナ嬢はクリストファー殿下の婚約者だ。二人きりで出かける訳にはいかないだろう?兄君はクロード殿下の側近だから、3人一緒にいる事は不思議ではない。」
「だが、デートだったら、俺たちに構う暇は無いんじゃないか?」
「それはそうだが。じゃあさっきの雪の精はやっぱりアリアナ嬢だったのか…あり得ないと思っていたのだが。」
ニコラスはブツブツと言いながら、考え込む。
「雪の精?髪の色は全く違うだろう?」
「アリアナ嬢と似ているとは思ったが、有り得ないと考えてもいなかったんだ。だけど、さっきのマントの下のドレスが似ていたし、デートでないなら、星の乙女として参加していてもおかしくない。」
「まさか、彼女とは雰囲気が全く違うだろう?」
「やっぱり俺の気のせいか。」
「まぁ、俺たちにとっては、いい夜には違いない。まさかアリアナ嬢のクッキーが手に入るとは、思わなかった。」
「ああ。帰りの時間まで、あと少しだ。祭りを楽しもう!」
「そうだな。」
そう言って、俺たちは祭りを楽しんだのだった。
お読みいただき、ありがとうございました。
アリアナ達のお祭りでの会話です。
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「お兄様、何故クロード殿下がいらっしゃるのですか?」
「お前の星の乙女を見たかったそうだ。」
「だからと言って、終わった後すぐにいらっしゃらなくても。せっかく髪を銀色にしたのだから、もう少し町娘を楽しみたかったのに。」
「アリアナが逃げるからだろう。」
「殿下、わたくしは逃げるなんて考えておりません。ただ街やアカデミーのお友達に挨拶をしたかっただけですわ。」
「挨拶は終わったから、もういいだろう?何か欲しい物があるか?」
「いえ、お祭りに参加できただけで十分ですわ。」
「じゃあ、あそこの屋台でアリアナの好きなショコラショーを買おう。」
「殿下、わたくしはもう子供ではありませんわ。」
「だけど好きだろう?」
「ええ、好きですが…」
「クロードはお前に何かしてやりたいんだよ。素直に買って貰えよ。」
「お兄様まで。」
「さあ、行こうか。エリック、お前はヴァンショーだな。」
その後、3人でお祭りを楽しんだのだった。
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皆様も良いクリスマスをお過ごし下さい!




