【番外編】エリックとルーカスとアリアナ(エリック視点)
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投稿遅くなり申し訳ありません。
エリック視点の続きです。
執務室では、二人がけのソファーに二人が仲良く座っていた。
アリアナの手はルーカスの手に包まれている。
それを見た瞬間、俺はアリアナを取られてしまう様な不安感に襲われた。嫉妬だろうか。
俺の視線に気付いたのか、アリアナが慌てて手を外して立ち上がり、俺の方へと歩いてきた。
「お兄様!どうされたの?」
俺はアリアナを引き寄せ、頬にキスを落とす。
幼い頃からの家族の挨拶だ。挨拶の度に抱きしめ、恋人のキスを落としたいと思ってしまう。だけど、アリアナは妹だと、自分自身に言い聞かせ、気持ちを落ち着かせる。
「アリアナ、これはどういう事かな?俺は他国の王子達と二人きりで会うなと言ったよな。」
アリアナは悪戯がバレた子供の様な顔をした。
「ここはアカデミーじゃないから、いいじゃない。」
「はあ?」
「わたくしはアカデミーでは二人きりにならないと、お約束しましたが、アカデミーの外で二人きりにならないとは言っていませんわ。」
そう言えば、あの時、アカデミーって言っていたか?
「お前なあ。」
俺は呆れたが、あの時、素直過ぎると思ったのも確かだ。最初からこのつもりだったのだ。
「アカデミーの外でもダメだ。わかったか?」
俺は幼い子供に言い聞かせる様に、アリアナの両肩に手を置き、顔を覗き込む。
「わからないわ。わたくしだって、お付き合いがあるわ。別に疾しい事をしている訳ではないし。」
「じゃあ、なんで手を繋いでいた?」
「別に手を繋いでいた訳ではないわ。当たっていただけよ。」
いや、それはかなり無理がある。
ルーカスはしっかりアリアナの手を包んでいたぞ。
「お前なあ。いくら何でも、その言い訳には無理があるぞ。お前はクリストファー殿下と婚約しているのだろう?もう少し自重しろ。」
アリアナは上目使いで、俺を見る。
「お兄様はわたくしをクリストファー殿下と結婚させたいの?」
「いやって、話を逸らすんじゃない!」
アリアナは相変わらず、話を逸らす事が上手い。
「失礼、エリック殿、アリアナ嬢をあまり責めないで欲しい。私が東の国の話をしたいと無理を言ったんだ。」
ルーカスが立ち上がり、私の元まで歩いて来た。
俺は慌てて、アリアナを後ろに隠し、挨拶をする。
「ルーカス殿下、ご挨拶が遅れまして、失礼致しました。この度は貴重な情報をありがとうございます。」
「礼には及ばない。」
「ですが、ルーカス殿下、妹は嫁入り前で、婚約者がいる身です。いくら殿下と言えども、二人きりで会うことは、今後はご遠慮ください。」
彼にも釘を刺す必要があると思い強く言うが、流石王族だけあって、全く動じていない。
「それは難しい。私はアリアナ嬢に惹かれているからな。私はいつでも責任を取る覚悟がある。今、二人きりで会った事を咎められるのであれば、私が責任を取り、彼女を娶ろう。」
まさか、そう切り返されるとは、思ってもみなかた。
ワザと責任を取らなければいけない状況を作り、アリアナを奪うつもりか?
「責任を取ると仰られるのであれば、アリアナに二度と関わらないと、お約束下さい。今日だけは、見なかった事に致します。今後この様な状況を確認しましたら、アリアナはアカデミーを辞めさせ、実家で花嫁修行をさせる事になります。」
そう、本当なら家に閉じ込めておきたい。
ルーカスは冷笑を浮かべる。
「それは困るな。私はアリアナ嬢とは一生関わりたいと思っている。」
一歩も引く気がない、ルーカスに俺も苦笑していると、アリアナが後ろから俺の腕を引く。
「お兄様、わたくしは花嫁修行なんて必要なくってよ。」
俺はアリアナに向き合う。
「母上が刺繍を教えたいと待ち構えているぞ。」
アリアナは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「一通り習ったわ。」
「もっと上手に出来るように教えると言っていたが。」
「あれ以上はわたくしには無理だわ。」
「まぁそう言わずに、母上にも付き合ってやりなさい。」
そう、母はアリアナが家に寄り付かないので、寂しがっていた。幼い頃から大人びていて、王宮にもよく出入りしていた為、構う暇がないと嘆いていたのだった。
「ところで、ルーカス殿下、少々お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
俺はアリアナ抜きで、彼と話したい事があった。
「ええ、終わったら、アリアナ嬢とまた話すことができるのであれば。」
「私を同席させて頂ければ、構いません。」
「貴殿も一緒で構わない。アリアナ嬢、また後ほど。」
「はい、殿下。」
アリアナも自然な表情で微笑みながら挨拶をしている。全く嫌がっている様子はなく、俺とクロード以外でこんな表情をみせる事が珍しい。
俺は、ルーカスを応接室へと案内し、ソファーを勧める。
「それで、お話とは?」
「まずはお礼を。先日頂いた情報で実行犯達は捕まえる事ができました。それと先程こちらを受け取りました。」
店長から渡された封筒を出す。
「ああ、役に立ったのであれば、何よりだ。そちらの封筒の中身には名前しか載っていない。今証拠になるものがないかと探らせている。それとは別に、我が国の方にも照会しているので、分かり次第連絡しよう。」
名前だけでも、十分有難い。
俺たちも調べているが、なかなか全員を把握することが難しい。しかも彼は名前だけではなく、証拠まで集める事に協力してくれるという。
これもアリアナの為か。
「それはありがたいです。よろしくお願いいたします。」
「貴殿が約束を守ってくれた対価だ。礼はいい。」
「殿下のお国は諜報機関が優秀ですね。アリアナとの連絡はどの様にされていたのですか?」
そう、王宮にいたアリアナとどうやって連絡を取っていたのか。
「さあ、なんの事だか。」
彼は惚けるが、俺は構わないで、話を続ける。
「ところで、アリアナとの事です。先程も申し上げましたが、今後二人きりで会う事はご遠慮頂けないでしょうか。」
「それは難しいな。アリアナ嬢には、彼女を理解できる者が側にいる必要がある。」
理解?どういう意味かのか?
「アリアナは私がいます。殿下のお手を煩わせる訳には参りません。」
「エリック殿に彼女の何が理解できると。彼女が抱えている悩みも知らないだろう?」
「アリアナの悩みとは?」
一体何の悩みだというのか。そんな素振りは見せた事はない筈だが。
「それは勝手には教えられない。」
「殿下、私はアリアナの兄です。妹が何か悩みがあるのであれば、力になりたいと思う事は当然です。」
そう、アリアナの一番身近にいると自負している。
ほとんどの事は、俺に話してくれていた。
兄としてはアリアナから信頼を得ていると思う。
「では、クリストファーとの婚約の事をどう考えているんだ?」
ここで、クリストファーとの婚約の話が出てくるとは思わなかった。アリアナがクリストファーとの婚約を内心は嫌がっている事は知っているし、クロードと協力して、潰す様手を回しているところだ。
「私からは何も申し上げられません。アリアナの悩みとは、婚約の事ですか?」
婚約の事は嫌がっていたが、悩んでいるという素振りは見られなかった。
「さあ、私から答える事はない。アリアナ嬢とはこれからも会うし、彼女が望むならば、喜んで我が国に迎えるつもりだ。」
彼は挑戦的な言葉を使うが、明らかにアリアナの気持ちを大事にしている事はわかる。
それはそれで、複雑な気持ちになる。
「それは、殿下はアリアナが望まない事はされないと解釈させて頂きますが。」
俺もワザと確認を取る。
「好きに取ればいい。私とアリアナ嬢の関係は変わらない。ああ、そういえば、レオンハルトとイスマエルに注意しろ。彼らの背後の動きが怪しい。」
「それはアリアナに対してですか?」
彼らの事は、俺たちも注意している。今のところ、表だって動きがある様にはなかった筈だが。
「ああ、あの二人はアリアナ嬢を狙っているのだろう?」
「ええ。それは存じております。ですが、妹はお断りしていると申しておりますが。」
「それくらいで、諦めると思うのか?」
彼は冷ややかに言い放つ。
「その点は私も危惧しておりますので、護衛は付けております。」
「その護衛は信頼できるのかね。」
「我が家の精鋭を付けておりますが。」
「それならいいが。ところで、その封筒内のリストにある人物、アリアナの事を邪魔に思っている様だ。まだ具体的な動きは無いが、注意してくれ。」
俺は封筒に視線を向ける。
「この中のリストに載っている人物が、アリアナに害を為すと?」
ルーカスは思案気に口を開く。
「どう動くかまだわからない。だが、彼らはクリストファーを支持している様だ。そこまで言えば、わかるだろう?貴国の内政問題だ。」
全く我が国の内情は筒抜けの様だ。
どちらが王太子になるのか、確かに派閥か出来つつある。我が家は中立派となっているが、実情はクリストファーに見切りをつけた親父が、クロードの後見となる事を、了承している。
ただし混乱を避ける為、明言は避けているが。
「だが、アリアナ嬢に危害が加えられそうになるのであれば、彼女の意思は関係なく、我が国へお連れする。彼女の身の安全が第一だからな。その為に、我が国の護衛も彼女に張り付いている。」
彼も護衛を付けているのか?
我が家の精鋭からの報告には、そんな話は無かっだ筈だが。
クリストファー支持派は、アリアナの代わりに扱いやすい令嬢を、彼に当てがい、自分達の思い通りに政を扱う事を目論んでいる。アリアナがクリストファーの妃となると、親父に実権を握られる事になり、自分達の目論みが外れると焦っており、直接手を出す可能性がある。それは、俺たちも把握している。
そして、カーラという令嬢は、そんな中で選ばれたらしい。クリストファー好みの、何も考えず、言われた通り動く娘。身分が低くとも、養女を何回か繰り返して、身分を上げていく事は可能だ。クリストファーさえ、落とせば、後は何とでもなる。そう考えているのだろう。
「我が家の護衛は、妹を連れ去られるほど、無能ではございませんが。」
それに妹自身の魔法力もある。
「それはどうかな?だが、我等が動く事態にならぬよう、不穏な芽を潰す事が貴殿の仕事ではないのか?」
全く、ルーカスは味方なのか、敵なのか。
アリアナの為に俺たちに動けと言う。
彼は掴み所がない。年下のはずなのに、妙な威圧感のせいか、10歳は上の人物と話している気分になる。
彼がいる西の国は侮れない。世継ぎでないからこそ、自由に動き、彼の国を発展させるのだろう。
「そうですね。せっかく頂いた情報です。有効活用させて頂きます。」
「ああ、頼むよ。話はこれだけかな。そろそろアリアナ嬢のところに戻りたいのだが。」
「ええ、お時間を頂き、ありがとうございます。アリアナをこちらに呼びましょう。」
「ああ、頼むよ。」
あくまでも、アリアナに会いたいと言う彼を、釈然としない気持ちで見てしまう。そんな気持ちを持て余しながら、アリアナを呼ぶ為に、廊下に出た。
お読みいただき、ありがとうございました。
昨日忘年会で、帰って投稿しようと思っていたら、潰れてしまいまい、投稿遅くなってしまいました。
申し訳ありません。はい。今も二日酔いです。反省してます。
これから、プライベートの時間も忙しくなりそうなので、2〜3日おきの投稿とさせて頂きますが、お付き合いいただけますと、嬉しいです。




