【番外編】レオンハルトが留学した訳(レオンハルト視点)
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その後を今構想中ですが、脇に外れてレオンハルトの話になってしまいました。
王立魔法アカデミー
1年(11歳)、2年(12歳)、3年(13歳)、4年(14歳)、5年(15歳)、6年(16歳)
こんな学年区分です。
俺は、レオンハルト・ヨハン・ベルンブルク。隣国ベルンブルク王国の王太子で、今、このフランベール国の王立魔法アカデミーの最終学年(6年)に、今日から1年間の予定で留学する。
表向きは友好国で魔法を学ぶため、しかし本当の目的は、次期王太子になるであろうクリストファーの婚約者と接触する事である。
彼女は筆頭公爵家の令嬢で、美しく教養もあり、人格も素晴らしいと、選ばれるべくして、王子の婚約者となった令嬢である。
彼女に興味を持ったのは、先にこの学院に入学していた従兄弟ルイスからの情報であった。
我が国もフランベール国も魔法を使えるのは高位貴族がほとんどであり、しかも魔法力がだんだん下がってきている。
フランベール国は一早くその未来を危惧して魔法が使える者の為の魔法アカデミーを開設し、国内外から優秀な教師を集めた。少しでも才能をある者を伸ばし、それを国力へと繋げていくためだとか。
そしてそのアカデミーの評判は高く、周辺国の王侯貴族の子弟も留学生として受け入れている。
ほとんどがフランベール国や周辺国の高位貴族の子弟なので、周辺国との交流という名目で我が国の王家に連なる男子は、短期留学をする事になっている。
我が国の王弟の息子であるルイスも慣例に従って、留学した。
あれは、半年前だったか。
ルイスが冬休みを利用して帰って来た時に、俺を訪ねて来た。
「レオン!元気だったか?婚約者とは上手くいっているのか?」
お前がそれを聞くかと思う。
俺の婚約者のエリスは、このルイスが好きなのだ。
が、ルイスは15歳から諜報部に身を置き、留学と言って諜報活動に夢中になり、結婚など考えられないと言って、フラフラと近隣諸国を渡り歩いていた。
俺と同じ歳のエリスは15歳になった途端、縁談を持ち込まれた為、慌てて俺に期間限定の婚約者となって欲しいと持ちかけたのだ。エリスとは幼馴染みであり、幼い頃からルイスを慕っていたのを知っていたので、応援したいと思った。
エリスは我が国の侯爵令嬢で、家柄を取っても問題ない。俺も纏わりついてくる令嬢達に辟易していたから、渡りに舟とばかりに話に乗った。
エリスには2年内にルイスを何とか落とす様に、出来なくとも2年後には婚約破棄をすると約束している。
「エリスは今でもお前の事が忘れられないってさ。」
「お前の婚約者なのにか?」
「俺たちは兄妹みたいなものだ。昔からお前の事が好きだと聞いていたのに、今更だろう?確かに気心はしれていて、結婚したとしても可もなく不可もなくといった平々凡々の生活は送れるだろう。だけど、妹とは結婚は無理だ。」
「でも婚約してるではないか。」
「15歳のエリスに父親の親友だと言う40歳の色ボケ公爵からの縁談があって、このままだと結婚させられると泣きついて来たんだ。公爵家の方が格が上だ。断れるのは王族しか無い。俺にその気がないから、とりあえず婚約者になれとさ。」
ルイスは驚愕している。自分が留学している間に、エリスが親と同じ世代の男と結婚させられていたらと想像したのだろう。
「お前いいのか?エリスが色ボケオヤジと結婚しても。俺だってそれは嫌だ。だから期間限定で婚約をしたんだ。お前が本気なら、いつでも婚約は解消する。もちろんエリスの評判を落とす事なく。」
ルイスがエリスを意識しているのは知っていた。が、諜報部に籍を置いているのが、躊躇わせているのだろう。
ルイスが何も言わないのを見て、
「この休みはエリスとゆっくり過ごすんだな。エリスを王宮へ呼んでおくよ。お前も一緒に滞在しろ!」
「ああ」
ルイスの顔が和らいだのを見て、安心する。
「ところで、何かあったのか?」
「諜報部までは報告してないが、お前には一応耳に入れておこうと思って。」
そう言って、ルイスは話し出した。
「学校恒例の野外活動で海に行った時だった。逗留していた海岸近くに海賊船が5艇現れた。当然生徒も近くの町の住民も、パニックになった。」
「当然だな。」
俺も合意する。
海賊は男は殺し、女子供は奴隷として連れ去られ、金品だけで済む問題ではなかった。
我が国だけではなく、近隣諸国も手を焼いていた。
「そんな中、パニックになった生徒をまとめ上げ、引率の教師に指示を出し、生徒を無事に避難させ、尚且つ海賊船を退治した生徒がいた。」
一体どんな生徒かと思う。
「隣国の第一王子だと言われている。」
「言われている?しかし、一人でそんな事ができるのか?」
いくら魔法が使えても、さすがに海賊船5艇は無理だろう。
「第一王子は学園に在籍こそしているが、すでに国の魔法師団のトップを務めている。海賊退治には魔法師団が出てきたのは間違い無いだろう。あの国の魔法師団は優秀で転移魔法も簡単に出来ると聞いている。」
そして、ルイスは声を潜め、これは報告書にない事だがと、話を繋いで来た。
「第一王子と一緒に一人の女子生徒がいた。俺は海賊についてもある程度情報が欲しかったので、成り行きを見ようと近くで身を潜めていた。もちろん第一王子の魔法力が知りたかったのもあった。」
俺は頷いて、先を促す。
「結果から言って、その女子生徒はかなりの魔法の使い手だった。もちろん第一王子の魔法力もかなりのものだったが、5艇の海賊船に初期対応出来たのは、彼女のサポートがあったからだと思う。」
俺は正直驚いた。
「女子生徒って言っても普通の貴族令嬢だろう?普通海賊船とか見たら、失神するか、泣き出すかだろう?」
「普通ならばな。この時も何人も令嬢達が失神し、泣き叫んでいたさ。男子生徒も腰を抜かす者までいたし。教師でさえ、パニックになっていたんだ。そんな中で彼女が指揮を取った。第一王子はすぐに海賊に対応するため、学生に構う暇などなかったんだ。」
俺は顔をしかめる。
「第二王子もその場にいたんだろう?」
「いるのはいたさ。だが、その場で具体的な指示を出したのは、彼女だ。」
海賊と聞いても動じず、的確な指示が出来るなんて、一体どんな女子なんだと考える。
「それでどんな指示を出したんだ?」
「教師に生徒をまとめて防御魔法を使うよう指示を出したんだ。全員分は無理だから、10人ずつのグループになり、魔法が強い教師と生徒で防御魔法を施すようにと。そして丘の上の領主の居城を目指すように指示をした。」
「的確だな。」
彼女の指示に舌を巻く。
「そして彼女は、狼狽している生徒を叱り飛ばし、男子生徒に女子生徒を守らせ、動けない者を担いで行くようにと。さらに王子付きの護衛に殿を任せた。」
「ちょっと待て!王子付きの護衛は王子が指示を出すのでは?」
「第一王子は海賊船にすぐに対応していた。第二王子はオロオロしていただけだ。結果、彼女が指示を出さなければ、彼らは動けなかった。そして第二王子を叱咤し、指揮権を任せて移動させた。」
「すごいな。」
俺は彼女の手腕に関心した。
俺と同じ世代でこれだけの指示が出せるのであれば、男女関係なく騎士団に推薦したい。
「だろう?でもここからだ。」
ルイスは人の悪い笑みを浮かべる。
「はっ?」
「彼女は生徒の移動が始まると、踵を返して海賊船に向かったんだ。第一王子の元に。そして、第一王子の海賊船への攻撃魔法へ力を貸しながら、海岸線の防御魔法をかけた。」
「は?」
俺は耳を疑った。
攻撃しながら防御とか、普通は無理だ。
ルイスは続ける。
「海賊船との戦いまではわからないが、海賊達は皆捕らえられ、船内にいた奴隷は解放されたと。その中には我が国の者もおり、送り届けられたとの報告書が我が国でも上がっていた。」
と、書類の束を出す。
まさか2人で5隻とは思わないが、冷静な判断ができる第一王子はなかなかの人物と思われる。
「そして、その女子生徒の身元は?」
「それが不明なんだよ。」
「は?」
俺は今日、何度驚けばいいのか?
「女子生徒だから探せばわかるだろう?」
「報告書には名前は一切上がらず、功績は第一王子に、アカデミーの避難に関しての功績は第二王子にとだけの記載だった。目撃者が多数いるはずなのですが、女子生徒というだけで、誰かはわからないと皆口を揃えていうのだ。面白いと思わないか?」
「お前は見たんだろう?」
「遠目でな。だから女子生徒だとはわかっても誰だかはわからない」
「で、お前はどう思うのか?」
「かなりの魔法の使い手である女子生徒であるのは間違いない。多分誰もわからないと言うのも、咄嗟に姿でも変えたのだろう。尚且つ第一王子と一緒に連携プレーしていたから、第一王子に近い人物だと思う。」
「パニックにならないだけでなく、咄嗟に姿を変え、避難指示と海賊退治ねぇ。普通の女子生徒にはできるわけないだろ?」
「だから面白いんだろう?学校のクラスは魔法力で決まる。一番上のクラスはA組だ。その中の女子生徒となると数はそんなに多くはない。その中で第一王子に近い人物は限られる。」
「誰だ?」
「5年のアリアナ-ファーガソン公爵令嬢だ。第二王子の婚約者だから、王家とも近い。婚約者なら護衛騎士に指示を出す事も可能だろう。まぁ、皆が保護された時に、彼女もちゃんといたらしいから、あくまでも推測だ。姿を変えたって言うのも、俺の推測だから。戦った女生徒は銀髪、アリアナ嬢は見事な黄金色。だから確証ではない。」
「5年なのか。」
「ああ、だが6年にも魔法力の成績が良い生徒はいる。しかし見た目が全く違うし、魔法力も度胸もそこまでないだろう。性格的にも、我が身の方が大事だというような令嬢たちだ。海賊船を見て、立ち向かう様な事はまずないだろう。」
「それはこの公爵令嬢にも言えるのでは?」
「そうなんだけどさ。ただ彼女は王族に対しても堂々としている。一学年下とは思えないほど、しっかりしているんだ。かと言って、出しゃばるでもなく、身分を鼻に掛ける事もなく…。ただ自然と彼女がまとめ役になる事が普段の学校生活で多く見られる。俺の感だが、彼女だと思う。」
面白い公爵令嬢がいるものだと思う。
「それで?お前の事だから、その彼女のこともしっかりと調べたんだろう?」
「ああ。」
そこで声のトーンが下がった。
「これが報告書だ。結果だけ言えば、普通のご令嬢だ。賢く美しいと言うのは間違いないが、魔法師団との関係もでてこなかった。アカデミーの成績も座学は満点だが魔法は中の上。ちょっと体が弱く、月に何度か寝込み学校を休むほどらしい。王子の婚約者なのに控えめで優しく、婚約者の王子に女子が群がっても微笑んでいるだけだと。俺の印象とは随分違う。どう思う?」
「どう思うって、俺は彼女を知らないが、報告書通りなら彼女ではないんじゃないか?」
「興味はないか?」
「魔法が上手な方は興味があるが、公爵令嬢の方はどうでもいい。」
綺麗で優しいだけなら、何処にでもいる。
「お前が留学して確かめないか?」
「はあ⁈」
正直、今日一番驚いた。何で俺が行かないといけないんだ?
「俺は一度国に戻る。お前は来年の新学期から留学して、真相を確かめたらいい。留学期間があると、婚約破棄もやりやすいだろう?俺はその間にエリスでも口説くさ。」
この年上の従兄弟は、ニヤリと笑った。
「お前、この話、父上にしたのか?」
「ああ、陛下も関心を持たれた。丁度お前も良い年頃だから留学させるとさ。もし、彼女であれば、我が国に是非嫁に来て欲しいだとさ。お前かお前の弟の嫁にと言う事だろう。全く彼女には婚約者がいるのに。」
「婚約者から奪えとも言うのか?父上は?」
父なら間違いなくそう言いそうな気がする。
「俺はその方が都合がいい。まぁ頑張る事だな。」
「他人事だと思って、無責任な。」
そう言いながら、俺は留学は決定事項だと悟った。
だが、その彼女に会ってみたいとも思う。
女性に会ってみたいと思った事自体が初めてだが、魔力が高いのであれば、自分とも話が合うかもしれない。
俺はまだ見ぬ彼女に想いを馳せたのだった。
俺は意識を切り替える。
今日は彼女に会うための第一歩だ。
まずはルイスが言う、アリアナ嬢を探ってみよう。
そう決意して、アカデミーに足を踏み入れた。
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お付き合い頂き、ありがとうございました。
今、レオンハルトの学校生活やアリアナのその後を構想中です。