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悪役令嬢は婚約破棄を言い出した王子様に決闘を申し込む。  作者: 藤宮サラ
第一章 決闘まで

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【番外編】エリックの葛藤(エリック視点)

ブックマーク等、ありがとうございます。


ルーカスと会った後のエリック視点の話です。

 ルーカスから、呼び出しを受けて、魔法具の店で会って来たら、思ってもいなかった話だった。


 貰った書類に、書いてあった場所を部下に探らせる。すると、彼の言う通り、人攫いの一味のアジトだった。早速、捕らえさせ、今取り調べ中だ。


 話には聞いていたが、彼の国はかなり諜報活動が上手いようだ。これが本物だとすると、彼が持っていた書類は、本当に黒幕の名が書いてあるのだろう。

 捕まえた者から、黒幕の名が出てくるとは、思えない。今まで散々捕まえたが、黒幕に辿り着くことはなかった。だからこそ、解決する事が難しい事件だった。彼の情報は、喉から手が出るほど欲しい。


 同時に、彼がアリアナに直接この事を話さなかった事に感謝する。アリアナが知ると、どんな無理をしでかすかわからない。


 当然の様に、アリアナに伝えてもいいと、言い放ったところを見ると、彼はアリアナと、何かしらの連絡手段を持っているのだろう。王宮内にも、彼の国の間諜は潜り込んでいるのか。厳しくしていたつもりだが、洗い出す必要があるか。


 アリアナは変わらず王宮に滞在して、王妃のところとイネス妃のところを行き来している。

 もちろん魔法師団の手伝いもしてくれているが、外に出す訳にはいかず、彼女も暇を持て余しつつあった。

 そんなところに、この情報が入れば、アリアナは嬉々として、出て行くだろう。

 ルーカスの読みは、悔しいが的を得ている。

 彼はアリアナの事をよく理解している様だ。

 一体どこで接点があったのか。


 アリアナは、王宮に滞在して、そろそろ3週間になる。王妃の元へ通っていると、本格的に妃教育と結婚式の準備が始まったと、噂になり始めていた。

 噂を真に受ける者も増えていく。これ以上噂が広まれば、ますますクリストファーとの婚約解消は難しくなる。

 そろそろアカデミーに返さなければと思っていたところだ。ルーカスが持っていた書類を貰えるなら、今、アリアナをアカデミーに戻すには、いいタイミングだ。王宮にいれば、この事件に首を突っ込むだろう。だがアカデミーであれば、事件から遠ざけることができるだろう。


 悔しいが、ルーカスに踊らされている。

 さすが噂に聞く軍師だ。


 アリアナは彼も虜にしたのか。我が妹ながら、本当に人誑(ひとたら)しだ。これで何人目だろうか。他国の王子を惹きつけたのは。いや、他国だけでなく、この国の王子もか。


 クロードはアリアナと初めて会った時から、ずっと心寄せている。アリアナが自身の弟と婚約しても、諦めていない。


 婚約者のクリストファーだけは、アリアナを避けている。だが、アイツも本当はアリアナをめちゃくちゃ意識している。意識し過ぎて、正反対の行動を取ってしまうのだろう。


 ルーカスの事は、クロードにどこまで話すか、悩ましい。アリアナが絡むと冷静でいられないだろう。やはりアリアナの名は出せないか。


 アリアナは、決してルーカスを嫌ってはいないはずだ。他の王子達には、一線を引いて接している様だが、ルーカスには、素のアリアナの表情を見せていた。親しみと悲しみが現れた様な表情だ。

 あんな顔をするアリアナは、今まで見たことがない。アリアナはルーカスの事はどう思っているのか。


 そう思うと、兄としての俺は、物凄く複雑な気持ちだ。

 いつまでもアリアナを手元に置いておきたい。今でもその気持ちは変わらない。

 アリアナを嫁に行かせず、俺も独身で通せば、兄妹二人で暮らせる。子供は親戚から養子を貰おう。そう何度思った事か。


 それが出来ない事は、頭では理解していても、心がアリアナを求めてしまう。せめて、側にいる事ができ、尚且つ、安心して任せられる男となると、クロードだったのだが。


 俺の気持ちを知ってか知らずか、ルーカスはアリアナの元へ、婿に来ても構わないと言う。

 全く噂に違わず、人の心に入り込む事が上手い。


 俺は複雑な気待ちを持て余しながら、クロードの執務室へと向かう。


「エリック、どうした?」

 クロードはペンを置く。


「ちょっとお前に話があるんだが。アリアナは?」

 俺は妹の姿を探すが、見当たらない。今日は魔法師団の手伝いをしているはずだが。


「ああ、彼女は王妃のところだ。まあ、座れ。」


 そう言って、彼はソファーへ移動した。俺も彼の正面に座る。


「またか。ああ頻繁に王妃陛下の元へ通っていると、クリストファーとの婚約は解消する事が難しくなるぞ。」


 王妃はますますアリアナに入れ込んでいる。アリアナは、娘としての待遇を受けていた。


「それは俺も危惧している。だがアリアナが行くと言うのを止められない。」

 クロードは眉間にシワを寄せる。


 俺は今が言い出すタイミングだと、話を切り出す。

「なあ、そろそろアリアナをアカデミーに帰そう。」


「アカデミーに?」


「アリアナがクリストファーと卒業と同時に結婚すると言う噂が流れ出した。今王宮に滞在しているのは、妃教育と結婚式の準備の為だと。」


 クロードはあからさまに嫌な顔をした。

「結婚式…」


「噂だけで済めばいいけどな。王妃陛下がワザと流しているのかもしれないぞ。」


「クリストファーは嫌がっているのにか?」


「クリストファーだって、アリアナが正妃でいた方が都合が良いだろう?王妃が、カーラは愛妾にでもすれば良いと言えば、クリストファーは従うさ。」


 クロードは黙り込む。

 俺はもう一押しと、言葉を続ける。


「これ以上、アリアナをここに留まらせる事は、得策ではない。アリアナには警護も付ける。だからアカデミーに戻そう。」


「だが、ルーカスとアリアナの関係がはっきりしない。俺は不安なんだ。」


「ルーカスはアリアナが嫌がる事はしないだろう。むしろ、アリアナの意思を無視して行動するとしたら、レオンハルトかイスマエルになるだろう。」


「何故そう思う?」

 彼の目が鋭くなる。


「ルーカスは、俺にアリアナが望まない事はしないと言ってきた。他の二人は、背後に国がいる。何をするかわからない。二人ともアリアナにご執心だ。」


「ルーカスも軍を動かすと言っていたぞ。」


「あれは完全にお前に対する牽制だな。」


「ルーカスと会ったのか?」

 相変わらず、勘がいい。


「ああ、彼から人攫いの情報を貰った。アリアナに渡すと無理をするからとさ。アリアナが大事だから、彼女の為に協力する事は厭わないと。」


「アリアナの為か…」


「彼の本心だと思う。アリアナが望まない限り、ルーカスは攫ったりしないだろう。」


「それはそれで厄介だ。アリアナが惹かれたらどうするんだ?」


 そう、それは俺も危惧している。だが、兄としての立場で言えば、アリアナが本当に好きになった男で、そいつが信用に足りる者であれば、認めないわけにはいかない。アリアナの幸せが一番だ。


「それは何ともしようがないな。お前も兄だしな。」


 クロードは俺を睨む。

「私は兄ではない。」


「アリアナと兄以上の関係になりたいんだったら、まずはクリストファーとの婚約を解消しなければ、始まらない。それはお前もわかっているだろう?」


「ああ。だが、今は難しい。」


 そう、俺たちは婚約解消の為、色々と動いているが、解消する為の決定打が無かった。


「このまま王妃がアリアナを囲い込めば、婚約どころか、結婚まで突き進むぞ。」


「それはダメだ!」

 クロードは、テーブルをドンと叩いて叫んだ。


「だからアカデミーに帰そう。アリアナも自分に婚約者がいる自覚はある。他の王子達とは、今以上の関係になるつもりは無いさ。」


「だが、毎日会えなくなる。」

 クロードらしくない事を言い出す。

 いつも冷静で自信たっぷりのこの男は、アリアナの事になると我を忘れるらしい。


「それくらい我慢しろ!週一回は会っているだろう?」


 彼は、諦めたように、ソファーの背に体を預け、額に手を当てた。

「あーあ。仕方がない。戻すか。だが、必ず週二回は会わせてくれ。」


「二回か…わかった。何とかしよう。」


 俺は、何とかクロードを説得して、アリアナをアカデミーに戻す事に成功した。



 俺は早速アリアナに伝えに行く。


「アリアナ、明日からアカデミーに戻っていいぞ。」


 アリアナは目を見開いた。

「急にどうしたの。」


「ルーカス殿下と約束した。彼は貴重な情報を渡すかわりに、お前をアカデミーに戻せと言って来た。」


「どんな情報?」


「それは内緒だ。」


「じゃあ、ルーカス殿下にお礼しないと。」


 ルーカスから聞き出すのか。


「礼は俺からしておく。だからお前は、他国の王子達と二人きりで会う事は禁止だ。わかったな。ルーカス殿下もだ。」


「何で?」


「お前、自覚ないのか…とにかく王宮にまた缶詰めになりたくなければ、王子達と二人きりで会うなよ。わかったか?」

 クロードは、アリアナが王子の誰かと二人きりで会ったと知ったら、今度こそ、監禁してしまうだろう。


「アカデミーで、二人きりになければいいのね。わかったわ。」


 そう約束して、アリアナは戻っていった筈だが…


 さっき、魔法具店の店長から連絡が入り、ルーカスからの手紙を預かっていると言う。そして、今アリアナとルーカスが会っているとの報告が来た。


 まだ2日しか経っていないが…

 やっぱりアリアナだと思う。


 慌てて魔法具店に足を運ぶ。

 クロードには絶対に教えられない。


 アリアナの執務室近くに行き、気配を忍ばせる。

 ドアは少し開いていて、会話が聞こえた。が、何を話しているのか、わからない。例の遠い東の国の言葉の様だ。だが、アリアナの声は楽しそうに聞こえた。また泣いているのではと心配していた俺はホッとする。


 気持ちを入れ替え、俺はノックをして、二人がいる部屋に足を踏み入れた。



お読みいただき、ありがとうございました。


次回、エリック視点の続きを2〜3日後に投稿予定です。

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