【番外編】アリアナとルーカスの再会(ルーカス視点)
ブックマーク等、ありがとうございます。
前話のルーカス視点の続きです。
『』は日本語での会話です。
アリアナがアカデミーに戻って来て、ホッとした。
早速彼女と話したいと思うが、彼女は皆に囲まれて、なかなか近づけない。
彼女がいる中庭には幾重にもの人垣が出来ていた。
とりあえず、元気な姿を確認できたので、よしとするか、と思いながら、一段高い校舎の回廊からアリアナを眺めていた。
すると、アリアナがこちらを向いて目が合う。彼女は俺に微笑んでくれた。
彼女に駆け寄り、抱きしめたい!
そんな気持ちを抑えていると、俺の頭上に白い鳥が旋回している事に気付く。
俺が見た事を知ってか知らずか、鳥は人気のない校舎の裏へと、俺を誘導するように移動していく。
人の気配がなくなった場所に着いた時、俺は手を伸ばす。
『もしかして、君も梨奈からの手紙かい?』
白い鳥はチュチュと鳴いて俺の掌に乗った。
いつもの様に、光に包まれた後、折り紙に変わった。俺は慌ててその場で開く。
【ルーカス殿下へ
色々とご心配をおかけしました。
兄に掛け合って下さったのですね。
兄は詳しくは話してくれませんでしたが、ルーカス殿下から、貴重な情報を頂いたとか。ありがとうございました。本当ならアカデミー内でお礼を直ぐに言いたいのですが、二人きりで会う事は難しそうです。
私は、明日の午後、あの店に滞在予定です。
お時間あれば、どうぞお立ち寄り下さいませ。
アリアナ(梨奈)】
簡単な内容だったが、明日には直接会って話が出来るかと思うと、胸が躍る。
部屋に急いで戻り、早速返事を書いた。
【梨奈へ
手紙をありがとう。
無事な姿を見る事が出来て安心した。
本当は近くに駆け寄って抱き締めたかった。
随分我慢したんだ。褒めて欲しい。
アリアナの兄君には、嫌われたかもしれないが、梨奈の顔が見れて嬉しいよ。
情報は兄君の役に立ってくれれば良いと思う。
明日の午後、あの店に行くよ。
丁度用事もあったんだ。
梨奈と二人で話す事が出来ると嬉しい。少しでもいいので、時間を作って欲しい。
明日、会える事を楽しみにしているよ。
ルーカス(佐伯和也)】
簡単な手紙を書いて、鳥を折る。
窓から放つと、いつもの様に鳥になって、羽ばたいていった。
俺は、今来た手紙を大事に文箱に収める。
梨奈からの手紙は何通になっただろう。手紙が入った文箱は、俺の宝箱になっていた。
翌日、魔法具店へと足を運ぶ。入った途端に、店長がやって来た。
「アリアナ様がお待ちです。」
「ありがとう。一つお願いしたいのだが?」
そう言って、カタルニア国の紋章の入った封筒を差し出す。封蝋もしっかり押した。
「これをエリック殿に渡して欲しいのだが。」
「承知いたしました。」
そして、俺はアリアナが待つ部屋へと足を踏み入れた。今までの応接室とは違い、執務室の様だ。
『いらっしゃい!』
梨奈が微笑みながら、近付いて来た。
俺はたまらなくなって、腕を伸ばし梨奈の体を引き寄せ、腕の中に収めた。
『梨奈!』
『佐伯くん!苦しい!』
『悪い悪い!』
俺は慌てて、腕を緩める。
梨奈は、真っ赤な顔をして、俺を見上げた。
『いきなりビックリするじゃ無い!』
普通の話し方が嬉しい。
一月近くの文通の成果なのだろう。アリアナとルーカスとしての距離ではなく、梨奈と和也の距離だった。
『だって梨奈に会えたんだ。我慢なんてできない。もう後悔はしないって言ったろ?』
そう、昨日どんなに駆け寄って行きたかった事か。
『だからって、急に行動にしなくてもいいじゃない!とりあえず、放して。』
彼女は腕を突っ張り、離れようとする。
『嫌だ、放したくない。だって、アリアナはモテるし。放って置くと男達が群がるだろう?』
そう、一体何人の男達が彼女を手に入れようとしているのだろう。
『確かに、私の身分や力には寄ってくる方はいるけれど、私自身を見てくれている訳ではないわ。』
『力って何だ?』
『あっ、佐伯くんは知らないんだっけ。』
『何だよ。教えてくれよ。』
『話すから、とりあえず座りましょう。だから放して。』
『わかったよ。』
俺はそう言って、梨奈を腕から解放したが、片腕は離さなかった。俺たちは2人掛けのソファーに並んで座る。
『内緒よ。私の魔法力の事よ。この店、私の店だって言ったでしょう?魔法具には私が魔法力を注いで動力にしているの。私はこの世界の女子としては、かなり魔法力が高いの。だから、息子を魔法力の高い私と結婚させれば、その子供は魔法力が高くなるんじゃないかと考える王とか、私の魔法力を軍事的に使いたい王子とか、この力を研究したい王子とか、あげればキリないほど、私の力を欲しがる人はいるのよ。』
アリアナのもう一つの面を知り驚いたが、彼女自身は、皆が執着する理由は、自分の力だと思っている事に慌てる。
『王子って…俺は違うぞ!』
『佐伯くんが違うのは、知っているわよ。私の魔法力も知らないみたいだし。』
俺はホッとした。
『そう言えば、この店の社長ってお父さんか?』
『社長が私よ。父は出資者。』
『てっきりお父さんかお兄さんかと思ったよ。この間魔法具を頂いたけど、良かったのか?代金なら払うぞ。』
彼女の店とは聞いていたが、まさか社長とは。
『ああ、聞いているわ。美顔器なんて、どなたにプレゼントするのかしら?』
彼女の目は、ワクワクしている様に見える。
『姉と母だ。国を出る時に頼まれた。綺麗なお姉さんの事が好きだろうって。だから美顔器を買って送れってさ。』
『綺麗なお姉さんって…自分で言えるところは、さすが、お姫様ね。てっきり彼女かと思ったのに。』
ちょっとだけ、残念そうな顔に変わる。
彼女の言葉に、慌てて否定する。
『彼女はいない!って、そうじゃなくって、俺の事は今はいい。アリアナの事だ。』
『私?』
彼女は首を傾げた。
『誰も、アリアナ自身を見ていない事はないだろう。身分や力が魅力じゃないんだ。皆、アリアナ自身に惹かれているんだ。だから俺が不安になる。だいたいアリアナに群がる男達は、身分が高く力がある奴ばっかりじゃないか。』
『何で佐伯くんが不安になるのよ。』
『何度も言っているだろう?俺は梨奈が好きだ。ルーカスとしての俺もアリアナが好きだ。』
俺はそう言って、彼女の手を握る。
『私は性格悪いはずなんだけどなぁ。 』
彼女は困ったように呟いた。
『何だよ。それ。』
『ゲームの中の話。だけど今の私も同じかも。』
まだ彼女はゲームの世界にこだわっているのか。
『だから、この間も言ったろ。ゲームと同じ運命を辿るとは決まっていないはずだと。』
『そうなんだけど…』
『梨奈はゲームの全てのルートを知っているのか?』
『全部は知らないけれど…』
彼女は首を横に振る。
『じゃあ、ルーカスとアリアナが一緒になるルートの事を知っているのか?』
『アリアナはヒロインじゃないし。知らないわ。』
『ヒロインはカーラとか言っていたな。クリストファーと結ばれて幸せになるなら、アリアナだって幸せになっていいじゃないか?だから俺と幸せになろう。』
『佐伯くんって、そんなキャラだったっけ?』
『キャラってなんだよ。今のルーカスは俺だ。ゲームの世界じゃない。一緒にいたいと思うのは梨奈だけだ。』
『だって、ルーカス殿下はモテるし、女子には甘い言葉を常に囁いているって評判よ。前世の佐伯くんもモテていたし。』
それを言われると辛い。今になって、自分の行動が恨めしく思う。
『うー。女子の情報力は侮れなくって、情報収集の為につい。梨奈が嫌なら、もう話しかけたりしない。前世では、モテた覚えは無いからな。振り向いて欲しい誰かさんは鈍感だし。』
そう、前世で何度も梨奈にアプローチしたのに、全く相手にされていなかった。
『誰も話しかけるなと言っていないし。鈍感って…やっぱり私の事?』
『ああ。ものの見事にスルーしてくれたよな。今世でも梨奈に嫌われるのは、堪える。』
『ふふふ…』
彼女は、我慢出来なかったように、笑い出した。
『何で笑うんだよ!』
『だって、こんなに前世のままで、話せるなんて、思っていなかったから。』
『ああ、梨奈は気を張って暮らしていたんだったな。俺の前では、そのままでいて欲しい。まぁ普段のアリアナも魅力的だけど、梨奈の笑顔はやっぱりいい。』
俺も素顔の梨奈を見ることが出来て、嬉しい。
俺と一緒で、彼女も前世の記憶に縛られていたのだろう。
『わたくしだって、努力してますのよ。』
梨奈が、急にアリアナモードで話し出す。
『その言葉使いも笑える。』
『酷い!せっかく頑張っているのに。確かに日本語で言うと変かも。』
『だから俺の前では、気を張らなくでもいい。俺も梨奈の前では王子の仮面を捨てるから。』
『せっかくの王子様なのに?』
『俺は王子を捨ててもいい。梨奈が逃げるって言うなら、一緒に行くよ。俺は梨奈と一緒なら、どこででも生きていける。』
そう、2人で働いて、ささやかな家を持ち、幸せな家庭を持てたら十分だ。
前世の記憶で悩んでいた事も、二人なら乗り越えていけるだろう。
二人で過ごせるこのささやかな時間がとても幸せに感じた。出来る事ならば、これからもずっと一緒に過ごしたい。
そんな事を考えていたら、その幸せな時間の終わりを告げる、ノックの音がきこえた。
お読みいただき、ありがとうございました。
次回も2〜3日後には投稿できるよう、頑張りたいと思います。




