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悪役令嬢は婚約破棄を言い出した王子様に決闘を申し込む。  作者: 藤宮サラ
第一章 決闘まで

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【番外編】アリアナとルーカスの再会(ルーカス視点)

ブックマーク等、ありがとうございます。


前話のルーカス視点の続きです。

『』は日本語での会話です。

 アリアナがアカデミーに戻って来て、ホッとした。

 早速彼女と話したいと思うが、彼女は皆に囲まれて、なかなか近づけない。

 彼女がいる中庭には幾重にもの人垣が出来ていた。


 とりあえず、元気な姿を確認できたので、よしとするか、と思いながら、一段高い校舎の回廊からアリアナを眺めていた。

 すると、アリアナがこちらを向いて目が合う。彼女は俺に微笑んでくれた。


 彼女に駆け寄り、抱きしめたい!

 そんな気持ちを抑えていると、俺の頭上に白い鳥が旋回している事に気付く。

 俺が見た事を知ってか知らずか、鳥は人気のない校舎の裏へと、俺を誘導するように移動していく。

 人の気配がなくなった場所に着いた時、俺は手を伸ばす。


『もしかして、君も梨奈からの手紙かい?』


 白い鳥はチュチュと鳴いて俺の掌に乗った。

 いつもの様に、光に包まれた後、折り紙に変わった。俺は慌ててその場で開く。



【ルーカス殿下へ


 色々とご心配をおかけしました。

 兄に掛け合って下さったのですね。


 兄は詳しくは話してくれませんでしたが、ルーカス殿下から、貴重な情報を頂いたとか。ありがとうございました。本当ならアカデミー内でお礼を直ぐに言いたいのですが、二人きりで会う事は難しそうです。


 私は、明日の午後、あの店に滞在予定です。

 お時間あれば、どうぞお立ち寄り下さいませ。


   アリアナ(梨奈)】



 簡単な内容だったが、明日には直接会って話が出来るかと思うと、胸が躍る。


 部屋に急いで戻り、早速返事を書いた。


梨奈(アリアナ)


 手紙をありがとう。

 無事な姿を見る事が出来て安心した。

 本当は近くに駆け寄って抱き締めたかった。

 随分我慢したんだ。褒めて欲しい。


 アリアナの兄君には、嫌われたかもしれないが、梨奈の顔が見れて嬉しいよ。


 情報は兄君の役に立ってくれれば良いと思う。


 明日の午後、あの店に行くよ。

 丁度用事もあったんだ。

 梨奈と二人で話す事が出来ると嬉しい。少しでもいいので、時間を作って欲しい。


 明日、会える事を楽しみにしているよ。


 ルーカス(佐伯和也)】



 簡単な手紙を書いて、鳥を折る。

 窓から放つと、いつもの様に鳥になって、羽ばたいていった。


 俺は、今来た手紙を大事に文箱に収める。

 梨奈からの手紙は何通になっただろう。手紙が入った文箱は、俺の宝箱になっていた。


 翌日、魔法具店へと足を運ぶ。入った途端に、店長がやって来た。


「アリアナ様がお待ちです。」


「ありがとう。一つお願いしたいのだが?」


 そう言って、カタルニア国の紋章の入った封筒を差し出す。封蝋もしっかり押した。


「これをエリック殿に渡して欲しいのだが。」


「承知いたしました。」


 そして、俺はアリアナが待つ部屋へと足を踏み入れた。今までの応接室とは違い、執務室の様だ。


『いらっしゃい!』

 梨奈が微笑みながら、近付いて来た。

 俺はたまらなくなって、腕を伸ばし梨奈の体を引き寄せ、腕の中に収めた。


『梨奈!』


『佐伯くん!苦しい!』


『悪い悪い!』


 俺は慌てて、腕を緩める。

 梨奈は、真っ赤な顔をして、俺を見上げた。


『いきなりビックリするじゃ無い!』


 普通の話し方が嬉しい。

 一月近くの文通の成果なのだろう。アリアナとルーカスとしての距離ではなく、梨奈と和也の距離だった。


『だって梨奈に会えたんだ。我慢なんてできない。もう後悔はしないって言ったろ?』

 そう、昨日どんなに駆け寄って行きたかった事か。


『だからって、急に行動にしなくてもいいじゃない!とりあえず、放して。』

 彼女は腕を突っ張り、離れようとする。


『嫌だ、放したくない。だって、アリアナはモテるし。放って置くと男達が群がるだろう?』


 そう、一体何人の男達が彼女を手に入れようとしているのだろう。


『確かに、私の身分や力には寄ってくる方はいるけれど、私自身を見てくれている訳ではないわ。』


『力って何だ?』


『あっ、佐伯くんは知らないんだっけ。』


『何だよ。教えてくれよ。』


『話すから、とりあえず座りましょう。だから放して。』


『わかったよ。』

 俺はそう言って、梨奈を腕から解放したが、片腕は離さなかった。俺たちは2人掛けのソファーに並んで座る。


『内緒よ。私の魔法力の事よ。この店、私の店だって言ったでしょう?魔法具には私が魔法力を注いで動力にしているの。私はこの世界の女子としては、かなり魔法力が高いの。だから、息子を魔法力の高い私と結婚させれば、その子供は魔法力が高くなるんじゃないかと考える王とか、私の魔法力を軍事的に使いたい王子とか、この力を研究したい王子とか、あげればキリないほど、私の力を欲しがる人はいるのよ。』


 アリアナのもう一つの面を知り驚いたが、彼女自身は、皆が執着する理由は、自分の力だと思っている事に慌てる。


『王子って…俺は違うぞ!』


『佐伯くんが違うのは、知っているわよ。私の魔法力も知らないみたいだし。』


 俺はホッとした。


『そう言えば、この店の社長ってお父さんか?』


『社長が私よ。父は出資者。』


『てっきりお父さんかお兄さんかと思ったよ。この間魔法具を頂いたけど、良かったのか?代金なら払うぞ。』

 彼女の店とは聞いていたが、まさか社長とは。


『ああ、聞いているわ。美顔器なんて、どなたにプレゼントするのかしら?』

 彼女の目は、ワクワクしている様に見える。


『姉と母だ。国を出る時に頼まれた。綺麗なお姉さんの事が好きだろうって。だから美顔器を買って送れってさ。』


『綺麗なお姉さんって…自分で言えるところは、さすが、お姫様ね。てっきり彼女かと思ったのに。』

 ちょっとだけ、残念そうな顔に変わる。


 彼女の言葉に、慌てて否定する。

『彼女はいない!って、そうじゃなくって、俺の事は今はいい。アリアナの事だ。』


『私?』

 彼女は首を傾げた。


『誰も、アリアナ自身を見ていない事はないだろう。身分や力が魅力じゃないんだ。皆、アリアナ自身に惹かれているんだ。だから俺が不安になる。だいたいアリアナに群がる男達は、身分が高く力がある奴ばっかりじゃないか。』


『何で佐伯くんが不安になるのよ。』


『何度も言っているだろう?俺は梨奈が好きだ。ルーカスとしての俺もアリアナが好きだ。』

 俺はそう言って、彼女の手を握る。


『私は性格悪いはずなんだけどなぁ。 』

 彼女は困ったように呟いた。


『何だよ。それ。』


『ゲームの中の話。だけど今の私も同じかも。』


 まだ彼女はゲームの世界にこだわっているのか。


『だから、この間も言ったろ。ゲームと同じ運命を辿るとは決まっていないはずだと。』


『そうなんだけど…』


『梨奈はゲームの全てのルートを知っているのか?』


『全部は知らないけれど…』

 彼女は首を横に振る。


『じゃあ、ルーカスとアリアナが一緒になるルートの事を知っているのか?』


『アリアナはヒロインじゃないし。知らないわ。』


『ヒロインはカーラとか言っていたな。クリストファーと結ばれて幸せになるなら、アリアナだって幸せになっていいじゃないか?だから俺と幸せになろう。』


『佐伯くんって、そんなキャラだったっけ?』


『キャラってなんだよ。今のルーカスは俺だ。ゲームの世界じゃない。一緒にいたいと思うのは梨奈だけだ。』


『だって、ルーカス殿下はモテるし、女子には甘い言葉を常に囁いているって評判よ。前世の佐伯くんもモテていたし。』


 それを言われると辛い。今になって、自分の行動が恨めしく思う。


『うー。女子の情報力は侮れなくって、情報収集の為につい。梨奈が嫌なら、もう話しかけたりしない。前世では、モテた覚えは無いからな。振り向いて欲しい誰かさんは鈍感だし。』


 そう、前世で何度も梨奈にアプローチしたのに、全く相手にされていなかった。


『誰も話しかけるなと言っていないし。鈍感って…やっぱり私の事?』


『ああ。ものの見事にスルーしてくれたよな。今世でも梨奈に嫌われるのは、堪える。』


『ふふふ…』

 彼女は、我慢出来なかったように、笑い出した。


『何で笑うんだよ!』


『だって、こんなに前世のままで、話せるなんて、思っていなかったから。』


『ああ、梨奈は気を張って暮らしていたんだったな。俺の前では、そのままでいて欲しい。まぁ普段のアリアナも魅力的だけど、梨奈の笑顔はやっぱりいい。』


 俺も素顔の梨奈を見ることが出来て、嬉しい。

 俺と一緒で、彼女も前世の記憶に縛られていたのだろう。


『わたくしだって、努力してますのよ。』


 梨奈が、急にアリアナモードで話し出す。


『その言葉使いも笑える。』


『酷い!せっかく頑張っているのに。確かに日本語で言うと変かも。』


『だから俺の前では、気を張らなくでもいい。俺も梨奈の前では王子の仮面を捨てるから。』


『せっかくの王子様なのに?』


『俺は王子を捨ててもいい。梨奈が逃げるって言うなら、一緒に行くよ。俺は梨奈と一緒なら、どこででも生きていける。』


 そう、2人で働いて、ささやかな家を持ち、幸せな家庭を持てたら十分だ。

 前世の記憶で悩んでいた事も、二人なら乗り越えていけるだろう。


 二人で過ごせるこのささやかな時間がとても幸せに感じた。出来る事ならば、これからもずっと一緒に過ごしたい。


 そんな事を考えていたら、その幸せな時間の終わりを告げる、ノックの音がきこえた。





お読みいただき、ありがとうございました。


次回も2〜3日後には投稿できるよう、頑張りたいと思います。


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