【番外編】アリアナの手紙とルーカス(ルーカス視点)
ブックマーク、評価等、ありがとうございます。
ルーカス視点のお話です。
俺は自室の机に向かう。
改めて手紙を書くとなると、なんだか気恥ずかしい。
前世でも書いた事の無い、恋文を書く事になるとは。
自分の気持ちを文章にして書いていくと言う事が、なかなか難しいと改めて思う。
前世には絵文字やスタンプといった、便利なツールがあったのに。
何度か書き直した後、やっと出来上がった。
【梨奈へ
手紙をありがとう。
無事だと聞いて、安心したよ。
梨奈が心配するので、手紙は梨奈から貰った紙を使う事にする。
忙しいかもしれないが、元気にしていると確認したいので、返事を貰えないだろうか。
仕事でアカデミーに戻れないと言っていたけど、いつまでかかりそうなのか?早く梨奈の元気な顔が見たい。
せっかく梨奈と会えたんだ。
俺は前世の梨奈に囚われている訳ではなく、ルーカスとしての俺とアリアナとしての梨奈と二人で、この世界で幸せになりたいと思っている。
ずっと探していたんだ。
梨奈がいないこの世界は灰色だったんだ。それが、あの日、梨奈に会ってから、色が溢れて来たんだ。
梨奈が前世の記憶に戸惑っている事は、理解出来る。だが、今の俺を知って欲しいと思うし、俺も今の梨奈の事が知りたい。
今すぐ国を出て欲しいとは言わないが、俺との将来を考えてみて欲しい。俺はアリアナとしての梨奈でも好きだ。
クロード殿下が俺を梨奈から遠ざけようとしたので、俺もアリアナから離れないと宣言したが、梨奈が望まない事はしない。約束するよ。
だから、手紙のやり取りぐらいは、許して欲しい。
そして、アカデミーに戻って来たら、俺との時間も作って欲しい。
アカデミーで、莉奈は病気が重いと噂になっている。
皆も心配しているので、なるべく早く戻っておいでよ。
俺も梨奈と会いたい。
忙しいだろうけれど、無理をしないで。
次に会える時を楽しみにしているよ。
追伸
折り紙は久しぶりに折ったよ。この紙を折る前に練習した。前世で梨奈に教えてもらった事を思い出しながら。
覚えているかい?梨奈が折り紙を手伝ってくれた時の事を。梨奈の手紙を読みながら、俺は梨奈が一生懸命折り紙を折ってくれた事を思い出したよ。
この手紙が無事に届く事を願って。
ルーカス (佐伯和也)】
俺は手紙を書き上げると、鳥を折った。
鶴を折るつもりだったけれど、難しかったので、その手前で折れる鳥にしたのだ。
折ってみると、これはこれでいいのではないかと思う。尾を引っ張ると、パタパタと羽が動く。
これが本当に鳥になるのだろうか、と思いながら、窓から空へ放つ。するとただの折り紙だった鳥が、光に包まれた後、本物の白い鳥になり、翼を広げて大空の向こうへ飛び立っていった。
無事に梨奈のところへ飛んでいってくれ!
そう願って、姿が見えなくなるまで、見送った。
次の日、白い鳥が、俺の部屋の窓をコツコツと突いている。窓を開けてやると部屋に入って来て、天井近くをグルグルと旋回する。
「君が梨奈からの返事かい?」
そう言って手を伸ばせば、鳥がパタパタと羽ばたきながら、俺の掌に降り立ち、光り輝いたと思ったら、瞬く間に折り鶴に変わった。
凄く便利な魔法だなと感心してしまう。
この世界には、スマホもSMSも無いけれど、こんな魔法があるなら、悪くは無いな。
この世界の者から見れば、スマホの方が魔法に見えるだろう。
そんな事を考えながら、俺は丁寧に折り鶴を開いていく。
【佐伯くんへ
お手紙ありがとう。私は相変わらず、元気に仕事をしています。
この紙を使ってくれて嬉しいです。
折り紙の事は懐かしいわ。
ちゃんと覚えています。私自身が楽しかったから。
佐伯くん、いえ、ルーカス殿下には、色々とご心配をおかけしました。
お気持ちは嬉しいけれど、今の私は、婚約者がいる身です。私だけの問題では無いので、勝手は出来ません。
友人としてのお付き合いであれば、佐伯くんと前世の話が出来る事は、私にとって心強く感じます。
仕事もそろそろ目処が立ちました。
来月には、アカデミーに戻れると思いますが、皆にはまだ内緒にして下さいませ。
佐伯くん、いえ、ルーカス殿下もどうぞご無理なさいません様に。
取り急ぎ。
アリアナ(梨奈)】
梨奈からの返事は、簡単なものであったが、手紙が無事に届いた事と梨奈が元気でいる事に安心した。
アリアナが休んでから、3週間が経つ。
アカデミーでは、重病説や花嫁修行説、凄いものでは、誘拐、殺害説まで飛び出していた。
クリストファーはアリアナは体調不良で療養中と言っているらしい。
これ幸いとカーラと、仲良くしている。
アリアナに心酔している生徒たちの間では、クリストファーの陰謀だと噂されている。
真相は、クリストファーの陰謀ではなく、クロードの独占欲なのだろう。
俺はそんな周囲を尻目に、アリアナとの文通を楽しんでいた。
先日来たアリアナの手紙に対して、返事を書く。すると次の日には、簡単ではあるが、アリアナから返事が来た。
こんなやり取りを毎日続ける。アリアナも返信は必ずくれた。
俺は、毎回少しずつ前世の記憶を書いて、アリアナに確認した。
新人研修の話から、一緒に出席した会議の話、二人で店を見に行った話など、少しずつ書いていった。
文章にすると、恥ずかしいが、素直になれる。
アリアナは、今、王都で横行している人攫いの事件を手伝っているらしい。
俺も色々と探る事はできる。力になると伝えれば、国を跨ぐ事件になるかもしれないので、その時には手伝って欲しいと書いてあった。
アリアナの為に少しでも役に立てばと、この国に潜り込ませている間諜に人攫いの件も調べるよう、命を出す。と同時に国に使いを出し、同じ様な案件を洗い出す様に指示を出す。
我が国でも人攫いは問題になっていた。
攫われた子供達は売られているらしい。実行犯は逮捕できても、元締めや買っていく者を押さえる事はなかなか難しい。最近は国を跨いで犯罪組織が暗躍する事もあり、この問題は対岸の火事では済まなくなってきている。
アリアナ、いや、梨奈が無理しなければいいが。そう心配しながら、また手紙を書く。
梨奈と会えない日が続いていたある日、レオンハルトが俺を探りに来た。
「ルーカス、アリアナ嬢の事について、何か知っているのか?」
彼は焦っている様だった。もしかして、アリアナの生存の確認さえ、できていないのか?
「何で俺に聞くんだ?聞くならクリストファーだろう?」
俺は懐疑の眼差しを向ける。
「お前も探らせているのだろう?」
そこは、知っていたのか。
俺はシラを切る事にする。
「何で俺が探らないといけないのか?アリアナ嬢はクリストファーの婚約者で彼が病気療養だと言うのなら、間違いないのだろう?」
彼は眉をひそめる。
「お前、本当にそんな言葉を信じているのか?お前もアリアナ嬢に関心があると思ったのだが。」
ああ、とても関心がある。お前以上にな。
だが、教えてやる筋合いは無い。
「確かに綺麗で優しく、教養もある、素敵なご令嬢だと思うよ。お前こそ、人の婚約者に手を出すなよ。国際問題になれば、周辺国にも影響がでる。」
本当は俺が国に連れて帰るつもりだ。だが、クリストファーの名を出しておく。
「だから、お前と手を組みたいと思って来たんだろう?」
コイツは何を考えているのか?
「何で俺なんだ?」
「西の国の軍師はお前だろう?経済だけでなく、軍も統率している王子って、第一王子ではなく第二王子のお前だ。だからこそ、手を組みたいと思った。」
俺は眉を寄せる。
「それはこの国に何か仕掛けるという事か?」
「そんな大袈裟な事ではない。だが、クリストファーをどうにかしたいと。」
「それで、クリストファーをどうするつもりなんだ?」
「目障りだから、消したい。」
「それはどういう意味だ?」
「そのままの意味だ。何も亡き者としたい訳ではない。アリアナ嬢との繋がりを断ちたいだけだ。ご執心のカーラ嬢とどこかに行って貰いたい。」
彼が言うと、物騒な話に聞こえてしまう。
俺だって、クリストファーをどうにかしたい。だが、本当に障害になるのは、クロードの方だろう。
「それだけでは、俺は手出しはしないな。いくらクリストファーが気に入らないからといって、手出しする事は、この国を敵に回す事になる。この国には、魔法師団もいるし、ファーガソン公爵がいる。彼に睨まれれば、隣国といえど、無傷ではいられない。」
「アリアナの父君か?」
「ああ、お前も知っているのだろう?彼が表だって騒いでいないという事は、アリアナ嬢は無事だという事だ。公爵家公認でアカデミーを休んでいるという事だろう。大方、妃教育でも始まったのだろう。」
ワザと妃教育と言ってみる。
彼は明らかに勢いを無くした。
「そうか。」
あまり彼をイライラさせると、アリアナに危害が及ぶ可能性があると思い、彼女が無事だと匂わせてやる。
「お前は公爵家の周りを調べているのだろう?医師が出入りしたり、特段騒がしくなったりしたか?クリストファーの様子が特段変わったか?」
「いや、その様な報告は入っていないし、クリストファーは変わらずだ。」
「じゃあ、アリアナ嬢は無事だという事だよって、何で俺がこんな事お前に言わないといけないんだ?それぐらい、自分で情報集めて分析しろよ!」
「お前はやけに落ち着いているな?」
「ああ、横から眺めている分には楽しいからな。」
俺はニヤリと笑う。
彼はため息を吐きながら、嫌そうに言い放つ。
「相変わらず嫌な奴だ。隣国ではなく良かったよ。」
「それは俺の台詞だ。アリアナ嬢は問題を起こす事は望まないと思うぞ。お前も良く考えて行動しろよ。」
「ああ、わかったよ。悪かったな。」
観念した様に言って、彼は去っていった。
俺はこの件も梨奈に報告しておこうと、自室へと向かう。もう、毎日の日課になってしまった手紙を書く為に。
梨奈、早く会いたいよ。俺はまた決まり文句を書くだろう。
梨奈の顔とアリアナの顔を交互に思い浮かべながら、俺は長い廊下を歩いて行った。
お読みいただき、ありがとうございました。
不定期になりますが、次回も2、3日毎には、投稿できるよう、頑張っていきたいと思います。
お付き合い頂けますと幸いです。




