【番外編】レオンハルトの焦り(レオンハルト視点)
ブックマーク等ありがとうございます。
レオンハルト視点の番外編です。
レオンハルト視点の前回からの続きでパーティー前後の話です。『』は外国語表記です。
俺は、焦っていた。
あの事故の後、なかなかアリアと過ごす事ができない。
姿を見つけては、話しかけているが、なかなか時間が取れないし、二人きりになろうと誘い出しても上手にかわされる。
彼女に警戒されたか。
俺は昨日手元に届いた書類に視線を落とす。
ファーガソン公爵家についての調査書だ。
この国を支えていると言っても過言ではない、公爵家。長男エリックは第一王子クロードの側近、長女のアリアナは第二王子の婚約者、政治的にもバランスの良い当主なのだろう。
ここ5年ほど、新しい事業を立ち上げ、成功させている。
やり手の当主にアリアナとの婚姻を認めさせるには、どうすればいいか。
アリアナの兄はクロードの側近であり、友人である。
彼も魔法力は高く、その他の能力も優れている。
公爵家は高位貴族には珍しく、家族の仲が良好で、特にアリアナは両親、兄と揃って溺愛しているらしい。
兄がクロードの側近だという事も障害になるかもな。
王家のクロードとクリストファーに関しても、調査書が届いていた。
側妃の子である第一王子のクロード。
魔法師団の団長であり、かやなりの魔法力がある。
そして色々な面で優秀で、政治にすでに参加しており、かなりの発言力を持つ。
正妃の子である第二王子のクリストファー。アリアナの婚約者だ。
彼は兄に比べて、魔法力も勉強も武術もかなり劣る。王妃が溺愛して育ててしまったらしく、かなり我儘に育ってしまい、周囲も困惑していると書いてあった。
アリアナも手を焼いている様だ。
この国では、どちらが跡継ぎになるか、まだ決まっていない。能力の高いクロードを推す一派とクリストファーを傀儡とし、実権を握りたい一派の派閥が出来つつある。それを押さえているのが、ファーガソン公爵らしい。
やはり障害になるのはクロードの方か。
アリアに特別な感情を抱いているのは、明らかだった。
カーラとかいう子爵令嬢については、突然子爵家に迎えられ、令嬢としての教育もそこそこに、アカデミーに入学して来たらしい。このアカデミーに入学するには、それなりの学力は必要だが?
ただの子爵家がコネを使い、入学させる事ができるとは思わない。何か作為を感じる。
カーラに関しては、婚約解消に役だっているから、このまま静観か。アリアに危害を加えるようであれば、別であるが。
正式にアリアナとの婚姻を結ぶ事はなかなか難しそうだ。彼女の魔法力をクロードが知っているのであれば、手放す訳は無い。
となると、攫うしか無いのか?
だが、彼女自身、魔法力が強い。すぐに逃げられてしまうだろう。俺の防御魔法を簡単に抜け出してくれたのだから。
彼女自身が俺の元に来たいと思ってくれれば、何とでもなるのだが…
俺自身を見てほしいと思っても、彼女からは避けられている。話しかけても完璧な令嬢モードで、冷たくあしらわれる。
彼女は常に忙しそうだったが、最近は特に忙しくしている。話し掛ける隙がないほどだ。
もうすぐインターナショナルパーティーだ。
彼女が実質取り仕切っているからだろう。
アリアにパートナーになって欲しいと申し込みたい。そう思っているのに、彼女が捕まらない。
そうこうするうちに、当日になってしまう。
彼女をエスコートして、ファーストダンスを踊ったのはイスマエルだった。
アリアは彼の国の昔民族衣装を見事に着こなし、ファーストダンスだった彼の国の難しいダンスを見事に踊り切った。
本当は俺がエスコートするはずだったはずだ。彼女に我が国の衣装を着せたかった。
それが、イスマエルとは。全くノーマークだった。何処で接点があったのか。
彼らを見ていると、親しげに話している。
許せない。俺の知らない間に、割り込みやがって。
俺の拳に力がはいる。
ダンスが終わると、彼らは人垣に囲まれていた。
アリアを奪還しようと、俺も慌てて駆け寄る。
だが、アリアナはいつの間にかいなくなっていた。
フッと外を見ると、中庭にアリアナが見えた気がした。慌てて外にでるが、そこにはアリアナの姿はなく、男子生徒が一人ベンチに座っていた。
「おい!お前、ここをアリアナ嬢が通らなかったか?」
「挨拶もなしに、お前とは。お国が知れるな。レオンハルト。」
西の国の第二王子のルーカスが、腹立たしげに立ち上がり、俺を睨む。
「お前は…ルーカスか?」
ルーカスは魔法力はあまり強くないが、幅広い知識を活かし、国を立て直したと言われている。
同じ歳の俺たちは何かと比較される事が多かった。
「ああ、お前のそんな態度が、アリアナ嬢に嫌われているんじゃないか?今日はイスマエルと仲良さそうだったし。だいたい男女でパーティー会場を抜け出す事は禁止だろう?」
ルーカスの指摘は、耳が痛い。最近はアリアから避けられていると感じる事が多い。
しかしルーカスに言われる筋合いは無い。
「なに!」
「やるなら正々堂々と剣で勝負してやってもいいぜ。まぁ、その間にアリアナ嬢はイスマエルと仲良くするんだろうがな。」
彼はニヤリとする。
そう、彼は剣術には長けている。ここで挑発に乗る事は得策ではない。
「もういい!お前に構う暇はない!」
そう言って、俺は立ち去った。
結局、彼女は見つからず、ホールに戻ると、彼女がルーカスと踊っていた。
いつの間に。二人は親密そうに話している。
ルーカスもアリアの事を狙っていたのか?ならば先程の挑発も納得できる。
イスマエルといい、ルーカスといい、今までアリアと全く関係なかった二人がなぜアリアに近付くのか。
ルーカスからアリアを奪い返すべく、二人が踊り終わるのを待つ。曲が終わったところで、アリアの手を強引に取り、ルーカスを睨み付ける。
ルーカスも負けじと返してきたが、ダンスが始まり、俺はルーカスを無視して、アリアと踊り出した。
『何でイスマエルなんだ?』
そう、どうして彼をパートナーに選んだのか。
『何の事でしょう?』
彼女は首を傾げる。
『今日のパートナーだ。』
『レオンハルト殿下には関係のない事ですわ。』
俺は彼女の腰に回していた腕を引き寄せる。
『関係ない事はない。私はアリアが好きだ。アリアのパートナーはいつも私でいたい。』
彼女の耳元で囁きながら、俺の気持ちを伝える。
そう、今までの令嬢であれば、これで落ちる。
だが、彼女は違った。反対に嫌そうに顔を顰めた。
『それは無理ですわ。わたくしは婚約しておりますので。』
『何故だ?クリストファーとの間は冷めているのだろう?イスマエルを選ぶくらいなら、私を選べ。』
そう、俺は彼女に選んで欲しかった。
『確かに今日のパートナーは、イスマエル殿下でしたが、恋人としてお願いした訳ではありません。それに、クリストファー殿下との婚約は、政略結婚の為ですから、冷めていようが、わたくしからお断りする事は出来ませんわ。』
彼女の空色の瞳が冷たく光る。
『政略結婚なら私でも構わないだろう?クリストファーより好条件だ。将来の国を背負う事は決まっているし、私の妃になれば王妃になれる。』
そう、私の方がアリアに相応しい。
『わたくしは王妃になりたい訳ではありません。殿下にもお国に婚約者のご令嬢がいらっしゃるではないですか。お戯れもほどほどになさって下さいませ。』
『この間も言ったが、元々2年で解消する約束だった婚約だ。』
彼女は俺の国にいる婚約者の話を出してきた。今頃婚約解消の手続きが始まっているはずだが、エリスに説明して貰わなければ。一度呼び寄せるか?
『わたくしの婚約は、解消の予定はございませんわ。』
彼女はサラッと言っているが、俺が不実だと詰られた様に聞こえてしまった。
『では、クリストファーがいなくなればいいのか?』
それが一番簡単な方法に思えてきた。
『まぁ、殿下が仰ると、冗談に聞こえませんから。国際問題に発展する事だけは、お止めくださいね。』
『アリアを手に入れる為なら、それぐらい何ともないが。』
そう、クリストファー一人、亡き者とする事も簡単だし、騙して連れ去る事も簡単だ。そうアリアを攫うよりずっと。
『わたくしは野蛮な事は嫌いですわ。』
『では、大人しく私のものになれ。』
それが俺の本心だった。
『わたくしはものでは、ありませんわ。そんな事を仰る方にわたくしが喜んで付いていくと思っていらっしゃるのかしら?わたくしを見縊らないで下さいませ。』
彼女の空色の瞳が、俺を射抜く。
彼女は怒っている。だが、その事でさえ、俺に感心を向けた事を嬉しく感じる。そう思うと素直な言葉が口から出ていた。
『悪かった。まずは付き合って欲しい。アリアを知りたい。』
『付き合うとはどの様な意味ですの?魔法実技の練習ですか?わたくしは防護魔法ぐらいしか、できませんが?』
そう、アリアは惚けて返して来た。
だが、婚約者がいる身では、これが精一杯の譲歩なのだろう。
『それでもいい。アリアに無視されるのは辛い。魔法だったら、一緒に練習してくれるか?』
『検討しておきますわ。』
そう返事をもらったところで、曲が終わり、アリアはクロードに連れ去られた。
その次の週から、アリアはアカデミーを欠席した。
今までも2、3日休む事はあった。だが、1週間経っても出てこない。
アリアは病弱では無いと言っていたが。
俺は魔法の練習でも、アリアと過ごす時間を持てるかもしれないと期待していただけに、気が気では無い。
部下を使い、公爵家を探らせるが、アリアの姿は見かけないと言う。
続けて見張る様命じ、さらに公爵領まで探りを入れる。しかし彼女の姿は無い。
もしかして、本当に具合が悪いのか?と心配になる。
2週間経った頃、事情を知っていそうな、クリストファーに声をかける。
「クリストファー!アリアナ嬢の具合はどうだ?見舞いに行きたいのだが。」
「ああ、見舞いは必要ない。ゆっくり療養させた方が良いと医師に言われて、少し離れた離宮にいる。気持ちだけ頂いておくよ。」
クリストファーの自分の身内の事を話す様な言葉に腹が立つ。確かにアリアは彼と婚約はしているが、まだ結婚はしていない。
「何処の離宮か?そんなに具合が悪いのであれば、我が国の医師を派遣するが?」
俺は彼を見据える。彼の視点が定まらない。
これは嘘か。
「休養が必要だと言われただけだ。彼女は私の婚約者だ。余計な詮索は無用だ。」
余計な詮索と言われ、腹が立つ。
「お前がカーラとベッタリしているから、疑っているんだろう?アリアナが要らないのであれば、私にくれ。我が国に連れて帰り、最高の治療を受けさせる。」
そう、私はアリアが欲しい。
クリストファーはカーラとの将来を考えているのであれば、アリアは必要ないだろう。
直接クリストファーに掛け合う方が簡単そうだ。
だが、彼は俺の誘いには乗らなかった。
「アリアナは今でも最高の治療を受けている。心配も手出しも無用だ。」
クリストファーはそう言い放ち、まだ話を聞き出そうとしていた、俺の前から去って行った。
クリストファーはアリアの事をどう思っているのか?カーラを侍らせながら、アリアを妃にするつもりなのか。この国では、側妃の制度があり、クリストファーがそう望めば可能だろう。
アリアはそれをどう思っているのか?
俺はアリアの姿を見ることができない苛立ちを抱えながら、クリストファーの背中に視線を送る。
お前には絶対にアリアを渡さない。そう誓ったのだった。
お読みいただき、ありがとうございました。
投稿が不定期になって申し訳ありません。
次回も2〜3日後には投稿出来るよう、頑張りたいと思っています。
寒くなりましたので、皆様もお体に気をつけて、お過ごし下さい。




