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悪役令嬢は婚約破棄を言い出した王子様に決闘を申し込む。  作者: 藤宮サラ
第一章 決闘まで

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【番外編】クリストファーとアリアナ2(クリストファー視点)

ブックマーク等、ありがとうございます。


クリストファー視点、前話の続きです。


(11月30日16時〜 最後の方に出てくる所有権の所を少し追加しました。)


「これはこれは。兄上とアリアナが、こんな夜遅くに密会ですか?王宮で堂々と。」


 そう、俺はクロードがアリアナに対して特別な感情を持っているのに気付いていた。だからこそ、アリアナが婚約者である事は、彼に優越感を感じる事が出来る。

 クロードがアリアナと仲良く歩いている事は、許せない。俺にはカーラがいるが、アリアナは俺の婚約者である。

 何より、クロードの澄ました顔を歪ませたい。


「アリアナは私の婚約者だ。勝手な真似は困る。返してもらいますよ。」

 そう言って、アリアナを引き寄せた。


 アリアナの金色の髪から、甘い香りが漂う。アリアナの腕も柔らかく、一瞬ドキッとした。そういえば、最後にアリアナの手を取ったのは、いつだったか? 


「クリストファー!」

 クロードが叫ぶ。


「何ですか?兄上?」


 俺は小馬鹿にした様な笑みを浮かべる。

 クロードが焦るところを見ることは、悪くない。

 奴が俺に手を出したとしても、俺の方が正義になる。アリアナは俺の婚約者だ。さあ、手を出せるものなら出すといい。


 だが、クロードが手を出すより、アリアナが俺に向き合う方が早かった。アリアナはクロードを目で制した後、俺と視線を合わせる。


 アリアナの空色の目が冷たい光を放っている。

 俺は背筋がぞっとした。

 本能が離れた方がいいと叫ぶが、俺のプライドが逃げる事を許さなかった。


「クリストファー殿下、わたくしは確かに貴方と婚約しておりますが、貴方の所有物ではございません。」


 アリアナはキッパリと言い放つ。


「婚約者が夜に他の男と歩いていて、文句言わない方がおかしいだろう?」


 俺もいい返す。


「では、わたくしも殿下に文句申し上げますが?」

 アリアナは口角を上げる。


 その顔は見覚えがある。そう、俺が返り討ちに遭う時のアリアナの顔だ。昔から、言い争いでアリアナに勝った事は無い。


「はっ?」


「アカデミーでは、カーラ様とベタベタされていらっしゃるではないですか?カーラ様と必要以上に親しくされている殿下に、クロード殿下の事をあれこれ言う筋合いはございませんわ。」


「お前、言わせておけば!」

 俺は頭に血が上る。気が付けば、アリアナの両腕を掴んでいた。


 アリアナは怯む事無く俺を見据え、凛として、俺に言い返す。


 アリアナは、この婚約が気に入らないなら、父にきちんと話せばいい、クロードは送ってくれているだけだと言う。普段からアリアナを放置している俺が悪いと言外ににじませた。

 結局、またも言い負かされてしまった。手を離せと言われ、渋々ながら掴んでいた腕を解放した。


「殿下はわたくしの事など興味がないのでしょう?これ以上関わらないでくださいませ。わたくしもこの婚約は不本意ですから、国王陛下と父に申し上げておきますわ。カーラ様の事も含めて。」


「それはやめてくれ!」とアリアナに懇願する。


「では、殿下はカーラ様と別れ、わたくしと真実の愛を育むと?わたくしはお飾りの妃になるつもりはありませんわ。」


 そう言われて、俺は一瞬アリアナとの将来を考えてしまった。将来、彼女が俺の隣に立ってくれたら?俺に優しく微笑んでくれたら?

 そんな夢はもう捨てたはず。首を横に振って、考えを振り払う。


 すると、アリアナはカーラを妃としたいのであれば、彼女を認めてもらえるよう教育すべきだと言う。


 あのカーラに妃教育は無理だ。彼女とは一緒にいて心地良いが、公の場には連れ出せない。連れ出せば、俺が嘲笑される。アカデミーでは問題ないが、社交の場では無理だ。


 では、俺は一体誰を正妃とするのか?カーラをどうしたいのか?


 アリアナを正妃とすれば、母も納得し、公の場には相応しいだろう。公爵家の後ろ盾も俺の強みになる。アリアナを正妃に据え、カーラを側妃にすることが理想だが、アリアナと公爵家が許さないだろう。

 お飾りの妃になるつもりは無いと言っていた。彼女が望めば、公爵は俺との婚約を解消するだろう。

 何より、アリアナが正妃になれば、俺の自由は無くなる。側妃どころの話では済まないだろう。


 俺が考えを巡らしていると、アリアナはカーラの事を理由に俺との婚約解消を父と母に申し出ると言う。

 今、それを言われては、カーラとの仲を裂かれるかもしれない。


 気が付けば、アリアナに謝っていた。

 するとアリアナはクロードに謝れと言う。

 俺は嫌々ながらクロードに謝る。屈辱的だった。



 次の日、母から呼び出される。


 お茶の席に着いたら、アリアナがいた。

 母から、パーティーの件でまた叱責される。


「母上、アリアナが嫌がったのです。」とアリアナのせいにした。


 すると、アリアナは自分は誘われなかったと、母に告げる。慌てて誤魔化そうとするが、アリアナは追求の手を緩めない。俺も必死だ。


「お前だって、イスマエルにエスコートして貰ったじゃないか?」


 だが、アリアナが一枚上手だった。

 他国の王子との交流は外交の一環だと言う。

 母に色々と賄賂を送っていたらしく、母はアリアナの言い分しか聞かない。


「アリアナはいい娘よね。ねぇ、お母様と呼んでくれないかしら?」


 母にとって、既にアリアナは娘だった。


「恐れ多い事ですわ。わたくしはまだクリストファー殿下と結婚した訳ではありませんし、殿下はわたくしより大事な方がいらっしゃるようですから。」


 今、ここでカーラと付き合っている事をバラすか!


 俺は慌てて否定する。が、アリアナは止まらない。

 証拠だと、俺がカーラに書いた手紙を出してきた。

 一体どうしてこれがアリアナの手の内にある?

 慌てて取り戻す。

 カーラから借りたと言っていたが、本当か?


 母がアリアナの手を取って、アリアナに謝り、俺を見捨てるなと懇願している。


「陛下、見捨てられるのは、わたくしの方ですわ。」


 思ってもいないくせに。

 アリアナは更に婚約解消を申し出るが、母はなかなか諦めない。 


 気持ちを落ち着かせ、折角の機会だと、私も婚約解消を認めるように、アリアナの後押しする。


 だが母は引かず、俺に、王宮でアリアナと過ごせと言う。これ以上一緒にいると、何を言われる事か。


「母上、私はアカデミーに今日戻らなければなりません。」

 と、断ると、アリアナはその理由を暴露した。

 そう、私はアカデミーの卒業までの単位が危ういのだ。


 母の声が低くなる。

「クリストファー!わたくしは聞いていませんが?」


「アリアナ!貴様!昨日の約束はどうした!」と声を荒げるが、アリアナは動じない。


「わたくしは一言も黙っていますとは申しておりませんし、お約束もした覚えはございません。」


 確かにアリアナは言葉にはしていなかった。だが、俺の我慢も限界だった。


「お前、言わせておけば!」


「クリストファー!おやめなさい。見苦しい!」


 母は俺を叱責する。

 アリアナが退出したいと母に伝えた時は、ホッとした。だが、母は引き留め、妃教育を受けるよう、しきりに勧める。

 だが、アリアナは妃教育は必要ないと暗に伝えていた。彼女の知識や教養、マナーなど、王族に嫁ぐにあたり、十分だった。

 そして、彼女は魔法師団の手伝いがあると、お茶会を辞した。


 魔法師団はクロードが団長を務める。アリアナを側に置きたくて、手伝わせているのだろう。


 結局、その後、また、母に絞られてしまった。


 何でアリアナが絡むと、思うようにいかないのか。

 釈然としない心持ちで、俺はアカデミーに戻った。


 アカデミーでは、カーラが待っていてくれる。


「クリストファー殿下がいなくて、寂しかったわ。」

 カーラはそう言って、腕を絡めて、しな垂れ掛かって来た。


 俺の顔を見て、ニコニコしている。

 やっぱりカーラはいい。

 俺が安心して上に立てる。

 アリアナの様に、強い眼差しで見つめられると、俺はドキドキする。俺の内面を探る様な眼差しは居心地が悪い。


「わたしの運命の相手は、クリストファーだと思うの。」


「そうだな。」

 だが、本当だろうか?カーラは俺の見ていないところでは、他の男子生徒に媚を売っている事は知っている。


「だから、わたしをお嫁さんにしてくれる?」


「出来ればいいな。」

 良くて側妃。愛妾にでもなれれば、いい方だ。


「わたしはいいお妃さまになると思うの。」


 それは難しいだろう。だが、俺の事を想うのであれば、頑張ってくれるのではないか?

 アリアナの言葉が蘇る。真実の愛があれば、何にでも立ち向かう事が出来るのではないかと。


「では、妃教育を受けるか?」


「嫌よ。わたしは勉強は嫌い。」


 やっぱり…


「母上に認めて貰わなければ、妃にはなれない。」

 事実を突き付ける。彼女が少しでもやる気を見せてくれれば、母を説得しやすい。


「クリストファーはわたしと一緒になりたくないの?」


「カーラは私と一緒になる為に、妃教育を頑張ろうと思わないのかい?」


 カーラの本気を見せて欲しいと思う。

 そう言えば、アリアナは幼い頃から、妃教育を文句を言わずに受けていたな。と思い出す。

 王族に嫁ぐには、教養やマナーなど、様々な事を身に付けなければならない。他国との外交に関わる事もあるので、大事な事だ。


「わたしには無理!」


「そうか…」


 やはり、カーラに妃は無理かもしれない。

 俺はため息を吐く。


 アリアナほど完璧な婚約者はいない。それはわかっていた。初めて会った時に戻る事ができれば…いや、無理だな。アリアナには嫌われている。いや、嫌われてはいないのか。呆れられているのか。


 俺は複雑な感情を持て余していた。



 あれからニ週間経つが、アリアナはアカデミーに戻って来ていない。どうも王宮に居るらしい。

 母が妃教育を本格化しているのか?

 アリアナが居ると思うと、王宮へ足を運ぶ気がしない。

 反対にアカデミーは居心地が良い。

 皆、俺の事を敬い、大事にしてくれる。


 そんな中、他国から留学している王子達が俺のところにアリアナの所在を尋ねてくる。


 最初はレオンハルトだった。


「クリストファー!アリアナ嬢の具合はどうだ?見舞いに行きたいのだが。」


「ああ、見舞いは必要ない。ゆっくり療養させた方が良いと医師に言われて、少し離れた離宮にいる。気持ちだけ頂いておくよ。」


 そう、母からそう言う様に、連絡が来た。

 母もアリアナを手元に置きたいらしい。

 今、母に逆らう事は得策では無いと、俺は話に乗る事にした。


「何処の離宮か?そんなに具合が悪いのであれば、我が国の医師を派遣するが?」


 彼は探る様な視線を向けてくる。アリアナの事が気に入っているのか?


「休養が必要だと言われただけだ。彼女は私の婚約者だ。余計な詮索は無用だ。」


「お前がカーラとベッタリしているから、疑っているんだろう?アリアナが要らないのであれば、私にくれ。我が国に連れて帰り、最高の治療を受けさせる。」


 こうもはっきり言われるとは、思わなかった。だが、今応える事は得策では無い。母が許さないだろう。


「アリアナは今でも最高の治療を受けている。心配も手出しも無用だ。」


 そう、アリアナは元気で活きいき仕事をしているだろう。クロードの元で。そう思うと、胸がズキっと痛む。兄に対する劣等感か。


 何か続けて話そうとするレオンハルトを無視して、俺はその場を去る。


 その後も、他国の王子達がアリアナに関して、探りを入れてくる。アリアナは彼らも虜にしているのか?


 ふと、自分の婚約者だから、取られたくないという気持ちがある事に気付いてしまう。

 だが、これはただの所有権を侵害された不快感だと思う。俺にはカーラがいる。アリアナには特別な感情を持つはずはない。


 このところ、俺はモヤモヤした気持ちを持て余していた。この気持ちを消す為に、カーラの元へと向かおう。そして、カーラで癒されよう。

 そう思うと、気分が向上した。



お読みいただき、ありがとうございました。


クリストファー視点は一旦終了です。

次回はルーカス視点を予定しています。


来月(明日?)から、本格的に忙しくなり、適期的な投稿は難しくなるかもしれませんが、なるべく間隔を空けずに頑張りたいと思います。

今後ともお付き合い頂けますと幸いです。





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