【番外編】クリストファーとアリアナ1(クリストファー視点)
ブックマーク等、ありがとうございます。
今回はクリストファー視点です。
今日は母上から呼び出しを受けたので、王宮へと滞在している。
母上から先日のパーティーの事とカーラとの仲を叱責された。アリアナを蔑ろにするなと。
確かに公爵家の力は大きい。だが、それ以外の貴族を集めれば、ファーガソン公爵家に対抗できるのではないかと思う。
実際、そう声を掛けてくれる貴族もいる。
だから、アリアナとの婚約は解消したいと母上に願い出たが、聞き入れてもらえなかった。
回廊から空に浮かぶ月を眺めながら、先日のインターナショナルパーティーの事を思い出す。
俺の恋人、カーラには、彼女に似合うドレスをプレゼントし、彼女を飾り立て隣に立たせた。
カーラは、嫌がらせでドレスを破かれたと言っていた。誰かとは言わなかったが、このアカデミーで大きな顔をしているアリアナの差し金だろう。
俺の婚約者だと大きな顔をしている。
彼女のパートナーはいない筈だ。
俺の隣のカーラを見て、悔しがればいい。
そう、ほくそ笑んだのだが、アリアナはイスマエルをパートナーとして現れ、会場の注目を浴びていた。
アリアナは難しいダンスを軽々踊り、会場の皆からため息が漏れる。
俺とカーラの事など、誰も注目しなかった。
カーラは不機嫌になってしまう。自分が一番注目されると思っていたからだ。俺の隣に立つ女性が一番注目される事は当たり前だと思う。
俺はカーラのご機嫌を取らなければならなかった。
それだけでは終わらず、パーティーの最中、母上が現れた。
俺がカーラと一緒にいると叱責され、アリアナを連れて来いと言う。
慌ててアリアナを探したが、見つからない。
やっと見つけたと思ったら、別の王子と踊っている。終わったと思い、近付くが、各国の王子達が取り囲み、俺が入り込む余地が無い。王子達は俺の事など眼中にない様だ。
結局、母上からはアリアナを蔑ろにするなと叱られ、散々な日となかった。
中庭を見ながら、アリアナと初めて会ったのは、この庭だったな。と昔を思い出す。
アリアナと俺の出会いは、6歳の時だった。
中庭にクロードの姿を見つけた俺は、側に行こうと足を向ける。
少し進んだところで、花の妖精のような女の子が、クロードにキスをして、ニッコリと笑った。
俺も彼女にキスをして欲しい、そう思ったが、二人の間に入る勇気がなく、踵を返し部屋へ戻った。
しかし、花の妖精の事は忘れられず、母上に自分も会いたいと打ち明けた。
母上は早速、高位貴族の子供達を集めて、お茶会を開いてくれた。
花の妖精もやってきた。やっぱりすごく可愛い。
「はじめまして、アリアナです。きょうはおまねききただきまして、ありがとうございます。」
そう挨拶した彼女に俺は顔を赤くした。
「クリストファーでんかはなにがおすきですか?」
小さいながらに、俺を気遣ってくれる彼女と、毎日でも会いたいと思ったのだ。そう、あの時の彼女は天使だった。
俺は何とか気を引こうと、努力した。
母に相談して、アリアナに似合うリボンを用意した。アリアナと会った時に、彼女が着けていた物を取って、自分のリボンを着けようとする。
すると、彼女はリボンを返せと言う。取ったリボンがクロードから貰った物だったらしい。
クロードからと聞いて、そのリボンの手を離したら、風で飛ばされてしまった。
アリアナはリボンを追って駆けていく。
そして木に引っ掛かったリボンを取ろうと、木に登ってしまった。子供の背丈にとってはかなりの高さだった。
それを見た家臣が慌てて駆けつけ、理由を聞いた侍従から俺は叱られた。
彼女はリボンを取り戻し、簡単に木から降りて来たが、駆けつけたクロードに叱られていた。
彼女は口を尖らせてはいたが、クロードとの仲を見せつけられ、落ち込んだんだっけ。
そう、あの頃は純粋に、アリアナが好きだった。
母もアリアナの事をとても気に入ったようだ。
彼女がクロード達と勉強していると聞いて、早速俺との勉強に引っ張ってきた。
歯車が狂い出したのは、思い起こせば、この時からだ。
彼女は頭の回転が早く、賢かった。
俺が勉強している事は既に知っていて、教師は彼女ばかりを褒めた。
俺としては、面白くない。
彼女と教師は難しい話ばかりをしている。
教師からの評判を聞いた母上は、俺が8歳になると、彼女を婚約者と決めてしまった。
「アリアナは身分的にも、容貌も賢さも貴方の妃となるには一番ふさわしい令嬢です。今から約束をしておかなければ、クロード殿下に取られてしまいます。ファーガソン公爵が後ろ盾になれば、貴方の王太子になる夢が近くなるでしょう。」
母は満足げに私に伝えてきた。
クロードから彼女を取り上げた事には満足を覚えた。しかし、その日から、クロードばかりで無く、アリアナとも、比べられる毎日が始まった。
勉強ではなかなか勝てない。
それどころか、アリアナから教わるよう、母から命じられる。俺のプライドが許さない。
勉強では敵わないから、剣術ならと誘い出してみる。
アリアナの前をわざとらしく通りかかると、簡単に付いて来た。見学だけと思っている様だった。
彼女の目は喜んでいる。
後で痛い目に合わせてやる。
彼女は普段着のドレス姿のままで剣を取る。
そんな格好では、絶対動けないだろう。俺は密かに笑う。
「いつでも、どこからでもかかってこい!」
「ほんとうに?いいのですか?」
アリアナは首を傾げながら聞く。
「ああ、いいぞ。」
「お怒りになりません?」
「男に二言はない!」
「ほんとうに?」
「うるさい。つべこべ言わずにかかって来い!」
そう俺が答えたと同時に、アリアナが剣を振ってきた。
結果、呆気なく俺の剣は落とされた。
アリアナは剣術もできるのか?
俺が唖然としていたら、騎士団長がやってきた。
「アリアナ様、今日はこんな時間にどうされたのですか?」
「クリストファー殿下が剣術をわたくしに教えてくださると仰られたので、ついて参りました。」
「それで?」
「もう終わりましたわ。」
「ハハハハハ!」
騎士団長はアリアナと親しそうだった。
彼は地面に落ちている剣を見て、納得したようだ。
「アリアナ様、今日はドレス姿で剣を振るわれたのですか?」
(今日は)って、前に来た事があるのか!
「だって、剣はドレスで使えないと意味が無いと思います。わたくし達は戦場で戦う訳ではありませんわ。剣を使うとすれば、急に襲われる時でしょう?その様な時に、いちいち動き易い服装などに着替える暇など無いと思うの。」
普通の令嬢は剣など持たないだろう?
「ハハハ。これは一本取られましたな。我々は貴女様が剣を持つ事など無い様にお守りしなければ。殿下、頑張りましょう!」
そう言って、騎士団長は俺の訓練を倍増した。
おかげで剣は上達したが、今、考えただけでも、腹立たしい。
アリアナとの苦い思い出に浸りながら、王宮の回廊を眺めていた。
するとクロードとアリアナの姿が見えた。
昔の事が蘇ったようだ。
俺は二人の行手を阻んだ。
お読みいただき、ありがとうございました。
次回もクリストファー視点、今回の続きの予定です。明日には投稿出来るかと思いますので、お付き合い頂けますと、嬉しいです。




