【番外編】アリアナとクリストファーと王妃のお茶会とクロード(クロード視点)
ブックマーク等、ありがとうございます。
番外編ですが、閑話的な話でもあります。お付き合い頂けますと幸いです。
『』はこの回では、受信機から聴こえた会話を表しています。(11月29日2時にこの説明を追記しました。最初に投稿した際に忘れていて、すみません。)
ルーカスが去り、私はソファーに身を預け、息を吐いた。怒りを収めなければ。
エリックは私の対面に座った。
「エリック、あれをどう見る?」
「ルーカスの言っていた事か?」
「ああ。本当に仕掛けてくると思うか?」
「今のはお前に対しての牽制だろうな。本気で軍を動かすとは思わない。だが、彼は軍の中でそれなりの地位がある。」
エリックは冷静だった。
「牽制か。」
牽制だけで済めばいい。王子としては、アリアナと国のどちらか選べと言われれば、国を取らないといけないのだろう。だが、アリアナを手放すことは考えられない。軍が動くとなれば、厄介だ。そう考えていると、エリックは物騒な事を言い出した。
「ただ、あの国には、敵国に潜り込んで諜報活動や、暗殺を得意とする部隊があると、聞いた事がある。その部隊は精鋭が集っている為、一人くらい攫う事は簡単だと侮っているかもな。」
エリックの言葉が胸を締め付ける。
アリアナ自身が警戒してくれるのであれば、心配ない。問題は彼女が気を許している場合だ。言葉巧みに誘導されれば、付いていく事があるかもしれない。
「彼の国の諜報機関にアリアナの力は、知られていないのか?」
「それは何とも言えないが、アリアナの力を知っていれば、簡単に手は出せないだろう?それに彼は魔法に執着しているように見えない。だから、一人の令嬢を攫うぐらい訳もないと、仄かしたのではないか。」
「こっそり攫い、国としては、知らぬ存ぜぬを決め込むか。」
そうなれば、厄介だ。助け出す事が難しくなる。
「ああ、存在自体を隠されれば、手は出せない。彼もはっきりそう言わないところも策士だ。俺たちを動揺させる目的で言ったのだろう。」
「さて、どう対処するか。」
「彼はああは言ったが、アリアナが望まない事はしないだろう。過激な発言はお前に対する意趣返しだな。きっと。」
「ああ、アリアナを閉じ込めておきたい。何でこう男達を引き寄せるのか…」
私は額にてを当てる。
「出来るならとっくにしているさ。アリアナが大人しくしている訳ないだろう?」
「そうだよな。アリアナが全て打ち明けてくれるのならば、対策が取れるのだが。」
ルーカスからも、アリアナが泣いていた訳を知る事が出来なかった。知らない国の話が出て来ると、妙な胸騒ぎを覚える。
「アリアナをいつまで王宮へ留めるのか?」
「王妃がどこまで許すかだな。クリストファーの事があるから、長くは無理だろう。」
「王妃がクリストファーと一緒に過ごせと、いい出すかもな。」
それは一番案じている事だ。
「冗談でもやめてくれ。さあ、アリアナの顔を見に帰ろう。」
エリックは店長に、アリアナ宛に連絡が入ったら、すぐに自分に連絡をする様に伝える。
ルーカスがアリアナに連絡を取るとしたら、一番可能性がある。
それから、王宮に戻り、母の部屋へと急ぐ。
アリアナの顔が早く見たい。
だが、アリアナはいなかった。王妃に呼び出されたと言う。
慌てて取り戻しに行こうと、回廊を急ぐ。
中庭が見えて来ると、侍女達が数人忙しく働いていた。よく見てみると、王妃とアリアナとクリストファーがテーブルを囲んでいる。
踏み込んで、アリアナを取り戻そうとしたら、エリックから止められる。
「今、王妃に悪い印象を持たれるのは困る。アリアナなら心配ない。こっちに来い!」
と引っ張って行かれ、一つの部屋に入った。
三人が良く見える窓際に陣取る。エリックは小さな四角の箱を押し付けてきた。
「ほら、受信機だ。」
「何の受信機だ?」
私は不思議に思いながら、その箱を眺める。
小さな穴が無数に空いている。
「アリアナのピアスに盗聴器を仕掛けている。」
「は?アリアナは知っているのか?」
いきなり盗聴器という言葉が出てきて驚く。
「ああ、昨日の事件用に付けさせた。」
受信機から声が聞こえてきた。
『クリストファー、貴方、アリアナをちゃんとエスコートしないとダメじゃない。何であんな娘をエスコートするの?』
これは王妃か。
『母上、アリアナが嫌がったのです。』
『そうなの?アリアナ。』
『いえ、クリストファー殿下からお誘いがありませんでしたわ。もうここ何回もお誘いはございません。そんな中、わたくしからお誘いする訳にはいきませんし。』
いや、誘ったらダメだ。と呟く。
『何を言っているんだ!』
『事実ですわ。殿下はカーラ嬢をエスコートすると随分前から仰っていましたから。』
『お前だって、イスマエルにエスコートして貰ったじゃないか?』
『あれは殿下がエスコートしてくださらない事がわかったからです。他国の王族の方にエスコートをお願いする事も外交ですわ。王妃陛下にもお試し頂きましたが、彼の国から質の良い美容液が確実に入手出来る様になりましたわ。』
イスマエルという名が出てきただけでも腹立たしい。
『ああ、あれはとっても良かったわ。』
『お気に召しされたのであれば、いつでもお申し付けくださいませ。我が家が持っている商会で取り扱う事になりましたので。』
『アリアナはいい娘よね。ねぇ、お母様と呼んでくれないかしら?』
『恐れ多い事ですわ。わたくしはまだクリストファー殿下と結婚した訳ではありませんし、殿下はわたくしより大事な方がいらっしゃるようですから。』
『どういう事?クリストファー!』
『母上、アリアナの言う事は事実無根です!』
『あら、わたくしは事実を述べたまでですわ。証拠もありましてよ。殿下がカーラ様宛に書かれたラブレターが、…「それを寄越せ!」』
アリアナとクリストファーの声が重なる。
『殿下、それはわたくしがカーラ様からお預かりした物ですから、お返しくださいませ。』
『クリストファー!アリアナ、こんな物が目に入って可哀想に。お願いだからクリストファーを見捨てないで!』
王妃がアリアナの手を取っているのが見える。
『陛下、見捨てられるのは、わたくしの方ですわ。』
『何を言っているの。貴女以上にクリストファーの妃にふさわしい娘はいないのに。』
『いいのです。クリストファー殿下のお心を留める事が出来なかった、わたくしが悪いのです。ですので、クリストファー殿下との婚約を解消する事をお許しくださいませ。心がない結婚はどうしても無理なのです。わたくしの我儘をお許しくださいませ。』
「よく演技できるなぁ」とエリックが呟く。
そう、王妃さえ認めれば、アリアナとクリストファーの婚約は解消できる。
『それは無理です。お願いだから、見捨てないで。クリストファーにはよくよく言い聞かせますから。』
王妃もなかなか諦めない。
『母上、アリアナがこう言っているのです。婚約解消を認めていただけませんか。』
この時ばかりは、クリストファーを支持したくなる。
『貴方は何を言っているのです。わたくしはカーラなど認めませんよ。ああ、アリアナが可哀想だわ。ねぇ、アリアナは暫く王宮に滞在するのでしょう?どう、わたくしの棟にいらっしゃいな。クリストファーも暫くこちらに戻ってらっしゃい。二人で過ごせば、きっと仲直りできるわ。』
それは絶対ダメだ!と、部屋を飛び出そうとするが、エリックに阻まれた。
「大丈夫だ。黙って見てろ。面白いぞ。」
『母上、私はアカデミーに今日戻らなければなりません。』
『あら、いいじゃない。アリアナもお休みするのでしょう?』
『わたくしは単位は全て取れていますので、行かなくとも問題ないのですが、殿下はお休みされると単位が足りなくなるかもしれません。前回の試験も合格点に達せず、再試験が近々あるはずですわ。』
エリックが吹き出しながら言う。
「あーあ、クリストファーは隠していただろうに。」
アリアナの方を見ると、平然とお茶を飲んでいた。
王妃の声が低くなる。
『クリストファー!わたくしは聞いていませんが?』
『アリアナ!お前覚えていろよ!』
クリストファーの語気が荒くなる。
『わたくしは事実を述べただけです。両陛下には、以前からクリストファー殿下のアカデミー内の様子をお伝えする事を約束しておりました。ああ、そういえば、補講をサボってカーラ様と楽しく過ごされた事もお伝えしなければ。』
横でエリックが声を殺して笑っている。
彼にとって、アリアナのやり取りは、いつもの事なのだろう。だが、私はクリストファーが手を出さないか、ハラハラしていた。
『アリアナ!貴様!昨日の約束はどうした!』
ガタッと椅子が倒れる音がする。
『わたくしは一言も黙っていますとは申しておりませんし、お約束もした覚えはございません。』
『お前、言わせておけば!』
『クリストファー!おやめなさい。見苦しい!』
『母上、コイツは…『貴方が悪いのです。アリアナはわたくしの命で貴方の事を報告してくれただけです。わたくしに忠実な家臣を貴方は咎めるのですか?貴方が報告されて困るような事をするからでしょう!』
クリストファーの言葉を王妃が遮る。
『王妃陛下、わたくしが嫌われているのは、存じておりまわ。クリストファー殿下のわたくしに対する態度は、いつも今日のようなものです。わたくしの心中もお察しくださいませ。』
『アリアナ、ごめんなさいね。この子には良くいい聞かせますから。』
『もったいないお言葉ですわ。陛下、わたくしはそろそろ失礼致します。魔法師団の仕事が残っていますので。』
『まだ魔法師団の仕事をしているの?王宮に滞在するのなら、ゆっくりすればよいのに。未来の妃ですから、妃教育を優先していいのよ。』
『お心遣いありがとうございます。妃教育に必要な事はもう学びました。魔法師団は要請がありましたので、ちょっとしたお手伝いだけです。』
『そう?だけど近い内に、また遊びに来て頂戴な。』
『はい。ありがとうございます。では、御前失礼致します。』
アリアナは、そう言って席を立つ。
私は慌てて、アリアナの元へと行く。
エリックには、先に魔法師団に行ってもらった。
「アリアナ!」
「ご機嫌よう。クロード殿下。」
「妃殿下から何か言われたか?」
「あら、殿下はお聴きになっていたのでしょう?」
ふふふ…とアリアナは笑う。
「さっき、ルーカス殿下に会ってきた。」
一瞬、アリアナの顔が曇る。
「それで、わたくしの事を何とお伝えしたのですか?」
「体調不良で暫くアカデミーは休ませるという事と、二度とアリアナに関わるなと伝えたよ。」
私はアリアナに伝える。
「全く関わらない訳にはいきませんわ。」
アリアナの空色の瞳に憂いが浮かぶ。
「アリアナ、ルーカスは何をするかわからない。絶対一人で会わないでおくれ。」
私はアリアナの手を取り、懇願する。
そっと口づけを落とし、自分の魔法を確認する。
このまま閉じ込める事ができたらどんなに安心だろう。アリアナの手を強く握る。
「クロード殿下…」
「さあ、行こうか。」
私はアリアナを連れて、魔法師団へ向かった。
お読みいただき、ありがとうございました。
忙しく、投稿が遅れました。申し訳ありません。
次回も明日か明後日までにはと思っています。




