【番外編】クロードと兄とルーカス(クロード視点)
ブックマーク等、ありがとうございます。
クロード視点の続きです。
アリアナを送った後、執務室に戻る。
部屋には、エリックは書類を幾つか整理しながら、待ってくれていた。
「遅かったな?アリアナの様子は?」
「ああ、クリストファーのおかげでいつものアリアナに戻ったよ。」
「クリストファー?会ったのか?」
エリックは怪訝な顔で言う。
「ああ、回廊で。」
「アリアナが何かしでかしたか?」
エリックは眉間にシワを寄せている。
「クリストファーが因縁を付けてきたんだが、アリアナが返り討ちにしてくれた。」
「ああ、元気になったのはいいが、大人しくはできないか…」
エリックは頭を抱える。
「お前にも聞かせたかったよ。」
私は思わず口角が上がる。
エリックは眉間に手を当てながら、ため息を吐く。
「問題になる様なら、親父に伝えておくが?」
「クリストファーは問題にならないだろう。それより、ルーカスだ。」
「ああ、絶対何かあった。ほら、これが報告書だ。」
エリックは数枚の書類を出した。
常に、私が必要と思う事を先回りして、出してくれる。掛け替えのない側近だ。
書類は彼がアリアナに付けている護衛からの物と、魔法具店の店長からの報告だった。
「この魔法具店の店長からの報告は、どうやって手に入れた?」
「親父からだ。向こうから報告があったらしい。」
報告書には、ルーカスとアリアナが会っていた時の事が詳しく書いてあった。二人の会話の内容は異国の言語で内容は不明だが、ルーカスが出て行った後、アリアナは泣いていたとある。
「ふーん。店長自ら監視役か。やっぱり公爵家の店か?」
「まぁ、そうだろうな。俺は知らされてないが。あの店長も昔、関連の商社で働いていた人物で、親父の信頼も厚い。」
「で、何で泣いていたかが問題だ。」
「それは本人から聞くしかないだろう。あの店長も周辺国の言語は出来る。だが、知らない言語だと。あの日聞いた言語じゃないか?」
そう、あの言語だろう。ずっと心に引っかかっていた。アリアナがあの言語で話すと、何処か遠くに行ってしまいそうな不安を覚える。
「ああ。だが、聞いてもアリアナが口を割るか?」
「無理だろうな。」
エリックも顔を顰める。
「まずはアリアナが明日から暫く王宮に滞在できるよう、動いてくれ。父上には私から説明する。」
アリアナが目の届くところに居てくれるだけでいい。
「ああ、親父にはもう伝えている。アカデミーにも連絡は入れた。心配ない。」
「相変わらず仕事が早いな。」
「ルーカスにはどう対処する?明日、アリアナの代わりに会うという手もあるぜ。待ち合わせは間違い無くあの店だろう。」
「直接会って問い詰めろと?」
「まぁ、素直に白状はしないだろう。だが話の中で、何かボロが出てくるかもしれない。向こうはアリアナが来ると思っているんだ。お前がいたら、焦るだろうよ。」
「そうだな。」
確かにアリアナに聞いても素直に話してくれないだろう。ルーカスも話すとは思わないが、反応を見る事ぐらいは出来るかもしれない。
「お前はルーカスの事をどれくらい知っている?」
「顔見知りぐらいだ。第一王子とは度々会う事はあったが、彼は第二王子だからな。」
「ほら!公爵家が持っているルーカスについての調査だ。パーティーの後、取り寄せていた。」
エリックは机から紙を一枚取り出して、俺に差し出す。
そこにはルーカスの履歴が書いてあった。
第二王子ながら、15歳から内政に関わり、傾きかけていた国の財政を立て直した実績や、幾つかの国境沿いであった紛争も治めた武功も書いてあった。
魔法以外の才能はあるが、常に第一王子を立てており、兄弟仲は良好。将来の宰相候補であるらしい。
兄弟仲のところでモヤッとするが、特段、野心家では無さそうだ。
「魔法力は低いらしいが、かなりのやり手だな。魔法力に頼っている様に見えないが、何で留学して来たのか?」
そう、そこが引っかかっていた。
「そこは不明だ。一応アカデミーにも探りを入れたが。何も出てこなかった。普通の生徒だと。」
「アリアナとの接点はなかったはずだよな。」
まさか、アリアナに接触する為に留学したのか?
「本人もそう言っていたから、間違いは無いと思う。が、アリアナの魔法力を知り、欲しくなったという理由で近付く事はあるかもしれない。」
「厄介だな。」
そう、彼女の魔法力は近隣諸国にとっては、魅力なのだ。
「ああ。だからお前が直接会ってみるのもいいかと思ったんだが、どうするか?」
「会ってみるか。」
「そうしてくれると助かる。お前がいかなかったら、俺がと思ったが、相手が王族だ。お前の方がいい。」
エリックはホッとした様だ。彼もアリアナを大事に思っている。泣いていたなど聞けば、気が気では無いのだろう。
「お前も一緒だぞ。」
「もちろん、そのつもりだ。」
「明日の事はよろしく頼む。話は変わるが、アリアナの周りにいる王子たちの事が知りたい。公爵家で手に入るか?」
そう、先程の魔法も気になっている。
「これか?とりあえず同級生の分はあるが。」
エリックが書類の束を出す。相変わらず仕事が早い。俺は書類に視線を落とす。
「何か気になる事があるのか?まぁ気に入らない奴ばかりだろうが。」
「アリアナに魔法を掛けた奴がいる。もちろん解術したが。」
「はあ!何の魔法だよ。」
エリックの語気が上がる。
「追跡魔法だ。術者にアリアナの居場所がわかる魔法だ。」
「誰だよ。そんな事した奴は。」
「それがわからないから、これを見ているんだろう。ルーカスは魔法力から言ってあり得ない。ヨハネスは性格的にも魔法力的にも無いだろう。考えられるのはレオンハルトか、イスマエルか。」
私は書類を一枚ずつ外し、2枚を手元に残す。
「王子じゃない可能性は?クリストファーを押す一派にとってはアリアナは邪魔だろう?呪術師を雇ったとかは、考えられないか?」
確かにアリアナがクリストファーの妃になれば、思うように動けない。背後にファーガソン公爵が睨みをきかせるからだ。だが、彼らには無理だ。魔法力はそこまで強く無い。
「俺の魔法が一部解術されていた。国内貴族は無理だろう。呪術の類でもなかった。」
「お前の魔法って?もしかしてお前もアリアナに魔法かけていたのか?」
エリックは呆れていた。
「悪いか?アリアナは私のものだ。誰にも渡さない為に必要な事だろう?」
「そこまで執着されると、アリアナを任せていいのか、俺も考え直さないといけないのか?」
エリックは額を押さえる。
「馬鹿な事を言うな。アリアナを一番大事にするのは俺だ。」
「俺だろう?俺はアリアナが生まれた時からだ。それにアリアナの初恋は俺だってさ。」
エリックが自慢げに言う。
初恋と聞いて苛立ちを感じるが、彼は兄だ。
「初恋って、兄妹愛だろう?お前は兄として、可愛がればいい。」
「なんだか、許せないなぁ。だが、アリアナはお前の事も兄と思っているぞ。」
それはわかっている。だが、少しずつ意識してくれればいい。
「これから攻めていくさ。」
そんな事を言いながら、その晩は過ぎていった。
アリアナが近くにいると思うと会いに行きたくなる。だが、今はまだ時期でない。
エリックも私の気持ちを察してくれたのだろう。二人で飲み明かした。
翌日、私は父にアリアナの事情を説明し、許可を貰う。私の気持ちを知る父も、すまなそうな顔をしながら、許可をくれた。王妃には、父から話してくれるそうだ。
その後、エリックと共に、魔法具の店に行く。
店長が出て来て、挨拶を受けた後、応接室に案内された。エリックは昨日の事を店長に確認を取り、これからの説明をする。
「アリアナが今日客が来ると言っていなかったか?」
「ええ、もしお客様がいらしたら、アリアナ様は来れないと伝えて欲しいと仰られて、昨日お帰りになりました。」
「そうか、では、アリアナを訪ねてきた客がいたら、アリアナがいる様に装って、応接室に案内してくれ。」
「承知いたしました。」
暫くしたところで、店長がルーカスを案内してきた。
ルーカスは私達を見て、驚いている。
店長に向かって、強い口調で咎める。
「私はアリアナ嬢に取り次いで欲しいと言ったのだが?」
私は店長が返事をする前に、ルーカスを制する。
「私がそう命じた。話がある。座ってくれ。」
「私は貴方がたと話す事など、ありませんが?」
「アリアナの事だ。」
そう言うと、彼は不服そうに、ソファーに腰を下ろした。そしてエリックに視線を合わせる。
「アリアナ嬢は?」
「体調が悪く、暫く療養させるつもりです。申し遅れました。アリアナの兄のエリック-ファーガソンです。」
ルーカスは怪訝そうな顔をする。
「貴殿が兄君か。私はルーカス-フォン-カタルニアです。彼女は昨日はなんとも無さそうでしたが?」
「元々アリアナは体調が変わりやすいのです。」
「昨日は何を話していた?」
私は本題に入る。
「お互いが知っている遠い東の国の話を。」
「それだけで、何でアリアナが泣くんだ?何を言って泣かしたんだ?」
「私が泣かした訳ではありませんよ。」
彼は顔色を変えず、平然としている。
「では、質問を変えよう。アリアナに求婚したな。」
「ええ、アリアナ嬢からお聞きになりましたか?」
彼の目が、何で知っている?と開かれた。
「アリアナは婚約している。余計な手出しは無用だ。」
「婚約者のクリストファーはカーラ嬢にベッタリではないですか?アリアナ嬢の為になる婚約とは思いませんが?私は彼女を愛しています。ずっと昔から。私としては、彼女の身一つで嫁いで来て頂ければ充分なのですが、国同士の政略的な約束が必要であれば、協議する事は吝かではございません。」
「ずっと昔?いつからなのか?」
ずっと昔とはどういう事だ?アカデミーに彼が入るまで、アリアナとの接触はなかったはず。急に彼とアリアナの話す言語の事が頭をよぎる。
「それは申し上げられません。アリアナ嬢との秘密です。」
彼は口角を上げた。
秘密という言葉を聞いて、私も我慢の限界だった。
「そうか。では、こちらも単刀直入に言わせて貰う。二度とアリアナに近付くな。アリアナを幸せにする相手はクリストファー以外にも国内にいる。彼女を決して国外に出す事は無い。」
「その相手とは、クロード殿下、貴方の事ですか?ご兄弟で女性の取り合いとは、国が乱れる原因になりませんか?」
「何!」
彼は兄との仲が良好だと暗に示し、私と弟の仲の事を指摘され、声を荒げてしまう。エリックが慌てて私を制する。
「私はアリアナ嬢から直接お聞きしない限り、諦めるつもりはありません。いえ、断られたとしても、諦める事は難しいでしょう。その際は我が国の国軍を使うやもしれません。私が欲しいのは、彼女だけです。ご心配なく。国は取りませんから。」
こう、はっきりと宣戦布告されるとは、思わなかった。
「我が国の軍を甘く見ては困るな。」
我が国では、ここ何年も戦は起こっていない。魔法師団を抱えた我が国に手を出す国は無いからだ。
「いえ、十分実力は承知しております。が、言いましたよね。私が欲しいのはアリアナ嬢だけだと。」
そう彼は言って、ニヤリとした。
「どういう意味だ?」
「そのままの意味ですよ。軍と言っても色々ある。貴方は魔法師団を率いていらっしゃいますが、魔法も万能では無い。我が国の軍は確かに貴国の魔法師団には及びませんが、色々と技術を持っています。細かい作戦は得意としています。」
ルーカスは暗にアリアナを攫うと言っているのか?
「それは脅しか?」
「貴方にとってはそうなるかもしれませんが、貴国に敵意はありません。決して軍人以外には手を出しませんし、土地を奪う事も考えていませんよ。」
彼は不敵な笑みを浮かべ、腰をあげる。
「アリアナ嬢がいらっしゃらないのでしたら、私は失礼いたします。彼女にお大事にとお伝えください。本当に体調不良であれば。」
そう言って、ルーカスは部屋を出て行った。
お読みいただき、ありがとうございました。
仕事が忙しく、投稿が遅くなりました。
次回も明日か明後日としか、お約束出来ませんが…
お付き合い頂けますと、幸いです。




