【番外編】クロードとアリアナとクリストファー(クロード視点)
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クロード視点、前回の続きです。
私はアリアナに強く言った。
二人きりで、一体何を話していたのか?
「魔法具の話です。」
「それだけではないだろう?言いなさい。」
「これ以上の事は申し上げられません。」
アリアナは頑なに拒む。
表情が硬い。アリアナが何か隠していると確信する。
「それは他に何か重要な話があったと言う事だな?」
「……」
今まで、アリアナがこんなに何も話さない事は無かった。少なくとも、エリックと私にはほとんど打ち明けてくれていた。
「アリアナ、全部話せとは言わないから、何があった?お前、ルーカスが帰った後、涙を浮かべ、部屋に閉じ籠っていたのだろう?」
エリックがまた驚愕の事実を突きつける。
涙?一体何があったんだ?
アリアナは黙ったまま、俯いている。
エリックもアリアナの側に来る。
肘掛けに腰掛け、アリアナの髪を撫でる。
「滅多に涙を見せないお前が、涙を見せて部屋に閉じ籠るなんて、一体何があったかと心配なんだ。俺はお前の味方だ。なあ、教えてくれないか?」
エリックはアリアナにいい聞かせる様に言う。
「アリアナ、私も力になろう。何があってもアリアナを助ける。ルーカスから何かされたのか?アイツを排除すればいいのか?」
私はアリアナの両手を覆う様に、自分の手を重ねる。
アリアナは首を横に振る。
「ルーカス殿下とは、お話をしていただけです。彼のせいではありません。」
「じゃあ何を話したんだい?」
私はアリアナの顔を覗き込む。
「言えません。わたくしの問題だけではないので。」
「また、求婚されたのか?」
エリックがボソッと言う。
「どうしてそれを…」
アリアナがハッとエリックを見る。
「ルーカスが求婚して来たのか?」
私も確認する。
「ええ。」
アリアナは諦めた様に答える。
「で、お前は何と答えたんだ?」
エリックが私の代わりに尋ねる。
「お返事はしておりません。その前にルーカス殿下がお帰りになられたので。」
「当然断るよな。」
エリックが念を押す。
「……」
「アリアナ?」
「ええ、わたくしには婚約者がいるとはお伝えしたのですが、取り合って頂けなくって。」
「それで泣いていたのかい?」
そんな筈はないと思うが。アリアナは、求婚者にはクリストファーの名前を出して、キッパリ断っている。
今回も同じように断った筈だ。
「いえ…」
では、一体何の話で泣く事になったのか。
「アリアナはルーカスの事をどう思っているのかい?あのパーティーまでは、全く接点は無かったはずだが。」
そう、ルーカスには注意を払っていなかった。
クラスも違うし、報告書にも名前が載っていなかった。だからこそ、パーティーの時に驚いたのだ。
「ルーカス殿下の事はよく存じ上げません。急にこのようなお話で驚いていたのです。」
本当にそれだけではないだろう。きっと。
さっきまで、魔法師団でしっかりと対応していたとは思えないほど、不安げな表情をしている。
今までこの様なアリアナを見た事は無い。
「アリアナ、暫くアカデミーを休め。私が陛下に掛け合っておく。その間は母上のところに居るといい。」
「ですが…」
「とにかく、暫く王宮から出てはダメだ。」
「明日、ルーカス殿下がまた魔法具店と街中を案内して欲しいと仰っていて。」
明日の事も求婚の事も腹が立つ。
しっかり断りと抗議の文を送っておこう。公爵家と王家の名で。
「それも断っておこう。いいな。明日から今日の事件の取り調べもある。暫く魔法師団の手伝いをして欲しい。」
アリアナは人攫いの事は特に気にしていたので、ズルイと思ったが、口実にした。
「あっ、それはお手伝いいたしますが、明日は…」
「アリアナ、明日は諦めろ。俺も会わせたくはない。それに暫く王宮に滞在する方が安心だ。親父に伝えておく。まぁ、家に帰って来いと言われそうだがな。」
エリックも援護してくれる。
「そこは母上に頼んでおくよ。」
母の嬉々とした顔が思い浮かぶ。母の方は何とでもなるとして、王妃の方は根回しが必要だ。
父を使えば、何とかなるだろう。
「さあ、硬い話はこれくらいにして、何か食べよう。アリアナもお腹が空いただろう?」
「俺も腹減った。何か食わせろ!」
「お兄様ったら!」
アリアナの表情が少し和らいだ。
暫く側にいるのであれば、少しずつ聞き出していこう。
簡単な食事を済ませて、母のいる棟へ送って行こうと、アリアナをエスコートする。
「エリック、もう少しいいか?アリアナを送ったら話がある。」
「ああ、待っているよ。」
王宮の中庭に面する回廊を二人で歩いて行く。何年ぶりだろう。こうやって二人きりで歩くのは。まぁ護衛付きではあるが。
秋の夜は、少し冷える。
「アリアナ、寒くないか?」
「ええ、寒くはありませんわ。」
回廊の中程まで歩いた所で、回廊の壁に寄り掛かる人影が見える。
私も警戒しながら、先に進む。
近くなったら、その人影、クリストファーが進路を遮った。
「これはこれは。クロードとアリアナが、こんな夜遅くに密会ですか?王宮で堂々と。」
「アリアナは私の母に呼ばれただけだ。母のところに息子の私が案内しても構わないだろう。」
「アリアナは私の婚約者だ。勝手な真似は困る。返してもらいますよ。」
そう言って、クリストファーはアリアナの腕を掴んで引き寄せる。
「クリストファー!」
私はクリストファーを睨む。
「何ですか?兄上?」
彼は小馬鹿にした様な笑みを浮かべる。
私の殺気を察して、アリアナが首を横に振る。そしてクリストファーに向き合う。
「クリストファー殿下、わたくしは確かに貴方と婚約しておりますが、貴方の所有物ではございません。」
「婚約者が他の男と歩いていて、文句言わない方がおかしいだろう?」
「では、わたくしも殿下に文句申し上げますが?」
アリアナは口角を上げる。
「はっ?」
「アカデミーでは、カーラ様とベタベタされていらっしゃるではないですか?カーラ様と必要以上に親しくされている殿下に、クロード殿下の事をあれこれ言う筋合いはございませんわ。」
「お前、言わせておけば!」
クリストファーがアリアナの両腕を掴む。
私は慌てて止めようとするが、アリアナから目で制止された。
アリアナはクリストファーを見据える。
「殿下もわたくしとの婚約が不本意であれば、きちんと国王陛下にお話くださいませ。わたくしはイネス妃殿下の元に参上するだけです。クロード殿下は妃殿下の元へと送って下さるだけです。ご理解いただけたら、さっさと、わたくしの腕から手を離してくださいませ。」
アリアナは凛として、クリストファーに言い返す。先ほどの沈んだ顔のアリアナとは別人だった。
クリストファーはアリアナの堂々とした態度に圧倒され、手を離す。
「殿下はわたくしの事など興味がないのでしょう?これ以上関わらないでくださいませ。わたくしもこの婚約は不本意ですから、国王陛下と父に申し上げておきますわ。カーラ様の事も含めて。」
アリアナがクリストファーとの婚約を解消しようとしている事を知り、安堵する。
「それはやめてくれ!」
クリストファーはアリアナに懇願する。
何を今更。
「何故です?カーラ様と真実の愛を育むのでしょう?わたくしはお邪魔でしょうから、婚約はなかった事にするのが、一番良い方法でしょう。」
「母上から叱られる。母上はカーラを毛嫌いしている。」
クリストファーは首を横に振る。
王妃はあくまでもアリアナを望んでいる。婚約解消の一番の障害だ。
アリアナは更にクリストファーを問い詰める。
「では、殿下はカーラ様と別れ、わたくしと真実の愛を育むと?わたくしはお飾りの妃になるつもりはありませんわ。」
それは止めろ!と心が叫ぶ。
本気でないとわかっていても、心臓に悪い。
「馬鹿な!」
「ですわよね。では、殿下はカーラ様を教育し、王妃陛下に認めていただけるよう、努力すべきではないですか?真実の愛が有れば、何でもお出来になるのでしょうから。」
「それは難しい」
「何もしないで、諦めますの?」
「カーラに妃教育は無理だ。」
「やってみなければ、わからないのでは?わたくしだって、努力いたしましたわ。家庭教師であれば、ご紹介致しますわよ。ああ王妃陛下にも申し上げておきますわ。わたくしはクリストファー殿下から、お役御免になりましたと。」
「頼む。それだけは。カーラは無理なんだ。」
クリストファーはだんだん声が弱っていく。
「殿下が今の様な振る舞いをされるのであれば、今すぐ国王陛下の元へお願いに参上いたしますわ。」
「悪かった。もうしない。だからもう少し待ってくれ。」
「謝罪はわたくしにではなく、クロード殿下になさってくださいませ。」
「うー。兄上、悪かった。」
クリストファーは嫌々ながら私に謝る。
アリアナの手腕に関心する。
クリストファーを任せたいと思う王妃の気持ちが改めてわかるが、アリアナは渡せない。
「もういい。二度とアリアナに構うな。」
私は冷たくいい放って、アリアナの腕を取る。
「では、クリストファー殿下、ご機嫌よう。」
腕をワナワナ震わせているクリストファーを置いて、私達は歩き出した。
「アリアナ、無理するな。クリストファーの事なら、私でも何とかなる。さっきは肝が冷えた。」
だが、アリアナは笑みを浮かべている。
「ご兄弟での言い争いは、お国の為になりません。臣下の口に登れば、要らぬ火種を撒く事になりますわ。わたくしとクリストファー殿下であれば、ただの痴話喧嘩ですみますわ。」
「だが、アリアナを危険な目に遭わせたくはない。」
「クリストファー殿下だけでしたら、わたくしにとって、危険な事はありませんわ。でも、今日は少し言い過ぎましたわ。わたくしの事でしたら、自制が効いたと思うのですが…」
「あれくらい、言われて当然だ。だが、アリアナが私を庇ってくれるのも、新鮮で良かったな。」
そう、私は嬉しかった。アリアナを危険に晒したくないとハラハラしたが、アリアナが私を庇ってクリストファーに立ち向かってくれた事が。
「クリストファー殿下があんまり理不尽な事を仰るので、つい。」
月明かりに照らされた庭園が幽幻に私を誘う。
アリアナと一緒に夜の庭園を散策したいという欲望を抑える事が苦しい。
腕にかけられた、アリアナの手を取り、手の甲にキスを落とした。
瞬間、自分が掛けた魔法が綻びている事を感じる。と同時に別の魔法がかかっている事を知った。
驚いたが、後で全て解術し、私の術をもう一度かけよう。
アリアナは空色の目を見開いている。
「お姫様、参りましょうか?」
「ふふふ。昔はよくそう言ってくださったわ。」
「今も君はお姫様だよ。」
そう、君と会った時からずっと、私だけの姫君だ。
そんな話をしていたら、母の住む部屋に着いた。
母が笑顔で迎えてくれる。
「母上、アリアナを暫くこちらに置いて頂く事は出来ますか?魔法師団の仕事を手伝って貰いたく、王宮にいて欲しいのです。」
「わたくしは構わなくってよ。」
と、母は快諾してくれた。
「ありがとうございます。」
そして、私はアリアナに向き合う。
心内で術を詠唱し、アリアナの額にキスを落とす。
これで安心だ。
「おやすみ、アリアナ。良い夢を。」
「おやすみなさいませ。クロード殿下。」
アリアナはふんわりと微笑み見送ってくれた。
お読みいただき、ありがとうございました。
昨夜遅くまで書いていたので、誤字脱字があるかもしれません。一応見直しましたが…お昼だと余裕がなく。
次回は明日か明後日にはと思っています。




