【番外編】クロードと彼の母とアリアナ(クロード視点)
ブックマーク、評価等、ありがとうございます。
忙しい中、頑張る気力になります。
番外編、クロード視線です。
私はアリアナと魔法師団の執務室へ転移した。
彼女をソファーに座らせる。
私はその横に座る。
アリアナの髪の色が気になる。
「アリアナ、その魔法解いていいぞ。」
「魔法?」
「髪の色だ。いつもの色がいい。」
「髪の色?ああ、黒のままでしたわ。」
彼女はそう言ってから、手で髪を撫でる。
彼女の髪から光が出て、ふんわりと舞い上がり、漆黒から金色へと変化していく。
「これでよろしいですか?」
「ああ、いつものアリアナだ。」
私はアリアナの髪に手を伸ばして、撫でる。
「殿下、わたくしはもう子供ではありませんわ。」
私はため息を一つ吐く。
「子供でないと言うのなら、少しはレディらしく大人しくしてくれ。」
「十分大人しくしているつもりですが…」
「どの口が言うのか。レディだと言うのであれば、野蛮な男達に腕など取られないだろう?」
あの時はその場で飛び出し、男達を始末しようと本気で考えた。
「仕事ですから、多少は目を瞑っていただきませんと。」
アリアナは私の気持ちを逆撫でする。
「仕事でも許せない。ああ、その服も汚れているし、湯あみでもして、ドレスに着替えるといい。侍女を呼ぼう。」
本当は私の手で綺麗にしたい。だが、お互いの立場が邪魔をする。
「自室に戻ってからで構いませんわ。報告しないといけないのでしょう?」
「報告は後だ。先に湯あみをしておいで。」
私は彼女の体を一刻も早く綺麗にしたかった。
ちょうどノックの音がした。
着いた時に、お茶の用意を頼んでいた従者が入って来た。
「母上から侍女を2、3人ここに借りるよう手配してくれ。それと湯あみの準備を頼む。ああ、隣の客間でいいぞ。」
私はアリアナの為に、魔法師団の客間を用意するよう指示する。
客間は二つあり、応接室と寝室が付いている。が、一つは私の部屋となりつつあった。
王宮の自室に帰る余裕が無い日に使っていたら、最近はこちらにいる時が多い。
準備が出来るまで、アリアナにお茶を勧める。
「で、本当に怪我も無いんだな?」
一番大事な事を確認する。
「はい。二人をお助けいただき、ありがとうございました。」
「礼はいい。本来の仕事だ。」
アリアナが無理をしないよう、街の警備担当は明日締めておこう。
「人攫いは、これでなくなるでしょうか?」
アリアナが思案顔で聞いてくる。
昔の事件の事もあるのだろう。辛い記憶を抑えて、魔法師団に協力する姿は、事情を知っている者にとって見ている方が辛い。
「裏で糸を引いている者がいる限り、難しいだろうな。」
そう、クリストファーを傀儡として、王家を乗っ取ろうとしている貴族の一派が、手を引いている。だが、なかなか証拠が出ない。
「どうにかならないのでしょうか?」
「今、証拠を集めている。ファーガソン公爵も動いているから、アリアナは心配せずとも良い。」
ファーガソン公爵が動き出せば、解決するだろう。
クリストファーを傀儡にさせない為にも、アリアナとの婚約は重要だからまだ解消出来ないと言われている。ファーガソン公爵に表だって盾つく訳にはいかないからだ。
私にとっては歯痒いが、婚約解消後の約束を取り付けている事が救いだ。
そこにノックの音が聞こえた。
「殿下、侍女が参りました。」
入って来たのは、侍女3名と母上だった。
「母上!一体どうされたのです?私は侍女を貸してほしいとお願いしただけですが。」
まさか母が出てくるとは思わなかった。
「アリアナが貴方の所に居て、侍女を貸してほしいと言われたら、黙って見ている訳にはいかないでしょう?アリアナの名誉のためにも、わたくしも同席しなければ。」
だが、母が出て来なくとも。
母自身がアリアナに会いたかったのだろう。
「イネス妃殿下、ご機嫌よう。ご無沙汰しております。」
アリアナは、慌てて席をたち、礼を執る。
「まぁ、アリアナ、綺麗になって。貴女のお母様が羨ましいわ。ああ、このままアリアナを借りてもいいかしら。年頃の娘を持つ母の気分を味わいたいわ。ドレスに着替えるのでしょう?晩餐を一緒にどう?」
母はアリアナの手を取り、目を輝かせている。
「母上、アリアナも私もまだ仕事の途中です。外の仕事でしたので、とりあえずアリアナを着替えさせたいのです。湯あみと着替えが終わりましたら、戻してください。」
「だって貴方達は晩餐はまだなのでしょう?」
「私達は軽食を用意させます。エリックが帰るのを待たなければなりませんので。」
「魔法師団の仕事は貴方の仕事であって、アリアナの仕事では無いはずです。アリアナをこんな夜遅くまで仕事をさせる訳にはいきません。」
母はなかなか引かない。アリアナに会えて嬉しいのだろう。
「アリアナから事情を聞くだけです。確かに夜遅くなりましたので、今から家に帰す訳にもいきません。母上のところに部屋を用意して頂けますか?」
アリアナを母に預ければ、明日も会える。
母もアリアナを一晩預かるならば、納得してくれるだろう。
「ええ、お安い御用よ。では、アリアナ、着替えに行きましょう。」
「はい。イネス様。」
アリアナも嬉しそうだ。さっきまでの硬かった表情から、花が綻ぶような笑顔を見せている。
「ああ、母上、アリアナのドレスは客間のクローゼットに入っていますから。」
「あら、用意がいいわね。わたくしもドレスを用意したのだけど、必要なかったかしら?」
母は微笑みながら、アリアナを連れて出て行った。
二人が部屋を出て行った事を確認すると、控えていた従者に軽食を頼む。
ソファーに座り、一息つく。
母上が出てくると思わなかったが、任せておけば、安心だろう。
自分の欲望にブレーキをかけられた気分だが、これで良かったのだ。自分でも自制を保つ事が難しいと思ったからこそ、侍女を頼んだのだから。
檻の中にいたアリアナを見た時は、怒りに自分を忘れそうになった。エリックに止められなければ、賊を皆殺しにしたかもしれない。
私がこんなに心配しているのに、当のアリアナは平気な顔をしている。それが余計に腹立たしく、連れて帰ってしまった。
こんなに側にいるのに、自分の想いが伝わらない事がもどかしい。アリアナさえ私の想いに応えてくるのであれば、私は遠慮なくクリストファーからアリアナを今すぐ奪うだろう。
そんな考えに浸っていたら、エリックが戻って来た。
「クロード、勝手にアリアナを連れて帰るなよ!」
疲れた様子で、エリックが言う。
「悪かったな。それでどうなった?」
「アリアナは?」
彼は周囲を見渡し、アリアナを探している。
「今着替えさせている。心配するな。母上が一緒だ。」
「イネス妃殿下が?」
「侍女を貸してほしいと言ったら、嬉々として本人が出て来た。」
「そうか。アリアナは昔から可愛がられていたからな。」
エリックも納得したようだ。
「それで?」
私は事件の事について聞く。
「ああ、賊は連行した。今回は人数が多かったから、かなりの実行犯を捕らえることが出来た。だが、黒幕に辿り着くかは不明だ。」
「そうか。」
「後は明日だ。」
「お待たせしました。」
アリアナと母が入って来た。
「クロード、どう?貴方の見立ても悪く無いわね。あら、エリックも戻ったのね。今晩はアリアナを借りるわよ。」
「イネス妃殿下、ご機嫌麗しくて何よりです。妹がお世話になりました。」
エリックが礼を執る。
「あら、私が楽しんでいるのだから、いいのよ。もっと頻繁にアリアナを貸して頂戴な。」
「母上、アリアナは物ではありませんが。」
アリアナは私が用意していた茜色のドレスに身を包む。シンプルなデザインだが、緑色の刺繍が映える。
「クロード殿下、このドレス、わたくしが着てもよろしいのですか?他の方に誂えた物では?」
アリアナは申し訳なさそうに、ドレスを見ている。
空色の瞳が不安げに揺らいでいた。
「あら、クロードはアリアナの為に用意したのよ。だってぴったりじゃない。だから遠慮なく着て頂戴な。」
「母上!」
アリアナの為に用意していたのが、何故母にバレたのか。そうこの1年、エリックにアリアナが贔屓にしている店を聞いて、私の好みのドレスを作らせていた。
「怖いわ。クロード。では、わたくしは戻りますわ。アリアナ、楽しみにしていますよ。クロード、なるべく早くアリアナを遣して頂戴ね。」
「承知しました。」
だから、早く出て行ってほしい。
母は私から返事を聞くと、満足そうに部屋を後にした。
「イネス妃殿下は、相変わらずだな。」
「ああ。」
「アリアナ、今日の事件の事は明日以降、色々と判明するだろう。それよりも、この間のパーティーの件だ。」
アリアナは後退りし、逃げようとする。
私は腕を掴み、隣に座らせた。
「何でイスマエルをパートナーにしたのか?」
「話題作りですわ。なかなか印象的だったでしょう?」
ああ、腹が煮え繰り返るほどだった。
「イスマエルにも近付くなと言った筈だが。」
「わたくしは了承した覚えはございません。」
「アリアナ!」
私は怒気を隠さず、名を呼ぶ。
アリアナは驚き、逃げようとするが、私は腰に手を伸ばし動きを封じた。
「ご心配を頂かなくとも、一段落しましたから、今後はそう近くにいる事は無いと。」
「どういう事だ?」
「交易の話がほぼまとまったのです。後は父とその部下に任せていいかと。アカデミー内では、女子生徒が彼の事を放って置きませんわ。わたくしの出番は無くなります。」
「では、ルーカスとは、何を話していた?」
「遠い国の話です。あの時ご説明いたしましたが?」
「今日も一緒にいたのだろう?」
アリアナは視線をエリックに向ける。
「ああ、お兄様ですか。ええ、午後から一刻ほど。彼は魔法具に興味があるようで、魔法具店を紹介しておりました。」
「本当にそれだけか?」
「ええ。」
「魔法具の話なら、店の奥で二人きりにならなくとも良いだろう?」
エリックが爆弾発言をする。
アリアナが男と二人きりでいたと思うだけで、苛立ってしまう。
「本当か?」
自分でもわかるほど、低い声がでる。
アリアナが逃げ出そうと腰を浮かしているのを、引き寄せた。
「ちゃんと扉は開けておりましたし、外には店長に控えて貰っていました。何もやましい事はありません。」
「で、もう一度聞く。二人きりで何を話していた?」
お読みいただき、ありがとうございました。
なんとか今日中に投稿できました。
次回もクロード視線、今回の続きの予定です。
明日は一日中、仕事が入っているので、間に合うかお約束出来ませんが… 明日、明後日には投稿できるよう頑張ってみます。お付き合い頂けますと幸いです。




