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悪役令嬢は婚約破棄を言い出した王子様に決闘を申し込む。  作者: 藤宮サラ
第一章 決闘まで

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【番外編】クロードと彼の母とアリアナ(クロード視点)

ブックマーク、評価等、ありがとうございます。

忙しい中、頑張る気力になります。

番外編、クロード視線です。


 私はアリアナと魔法師団の執務室へ転移した。

 彼女をソファーに座らせる。

 私はその横に座る。


 アリアナの髪の色が気になる。

「アリアナ、その魔法解いていいぞ。」


「魔法?」


「髪の色だ。いつもの色がいい。」


「髪の色?ああ、黒のままでしたわ。」


 彼女はそう言ってから、手で髪を撫でる。

 彼女の髪から光が出て、ふんわりと舞い上がり、漆黒から金色へと変化していく。


「これでよろしいですか?」


「ああ、いつものアリアナだ。」

 私はアリアナの髪に手を伸ばして、撫でる。


「殿下、わたくしはもう子供ではありませんわ。」


 私はため息を一つ吐く。

「子供でないと言うのなら、少しはレディらしく大人しくしてくれ。」


「十分大人しくしているつもりですが…」


「どの口が言うのか。レディだと言うのであれば、野蛮な男達に腕など取られないだろう?」


 あの時はその場で飛び出し、男達を始末しようと本気で考えた。


「仕事ですから、多少は目を瞑っていただきませんと。」


 アリアナは私の気持ちを逆撫でする。


「仕事でも許せない。ああ、その服も汚れているし、湯あみでもして、ドレスに着替えるといい。侍女を呼ぼう。」


 本当は私の手で綺麗にしたい。だが、お互いの立場が邪魔をする。


「自室に戻ってからで構いませんわ。報告しないといけないのでしょう?」


「報告は後だ。先に湯あみをしておいで。」

 私は彼女の体を一刻も早く綺麗にしたかった。


 ちょうどノックの音がした。

 着いた時に、お茶の用意を頼んでいた従者が入って来た。


「母上から侍女を2、3人ここに借りるよう手配してくれ。それと湯あみの準備を頼む。ああ、隣の客間でいいぞ。」


 私はアリアナの為に、魔法師団の客間を用意するよう指示する。

 客間は二つあり、応接室と寝室が付いている。が、一つは私の部屋となりつつあった。

 王宮の自室に帰る余裕が無い日に使っていたら、最近はこちらにいる時が多い。


 準備が出来るまで、アリアナにお茶を勧める。


「で、本当に怪我も無いんだな?」

 一番大事な事を確認する。


「はい。二人をお助けいただき、ありがとうございました。」


「礼はいい。本来の仕事だ。」


 アリアナが無理をしないよう、街の警備担当は明日締めておこう。


「人攫いは、これでなくなるでしょうか?」


 アリアナが思案顔で聞いてくる。

 昔の事件の事もあるのだろう。辛い記憶を抑えて、魔法師団に協力する姿は、事情を知っている者にとって見ている方が辛い。


「裏で糸を引いている者がいる限り、難しいだろうな。」


 そう、クリストファーを傀儡として、王家を乗っ取ろうとしている貴族の一派が、手を引いている。だが、なかなか証拠が出ない。


「どうにかならないのでしょうか?」


「今、証拠を集めている。ファーガソン公爵も動いているから、アリアナは心配せずとも良い。」


 ファーガソン公爵が動き出せば、解決するだろう。

 クリストファーを傀儡にさせない為にも、アリアナとの婚約は重要だからまだ解消出来ないと言われている。ファーガソン公爵に表だって盾つく訳にはいかないからだ。

 私にとっては歯痒いが、婚約解消後の約束を取り付けている事が救いだ。


 そこにノックの音が聞こえた。

「殿下、侍女が参りました。」


 入って来たのは、侍女3名と母上だった。


「母上!一体どうされたのです?私は侍女を貸してほしいとお願いしただけですが。」

 まさか母が出てくるとは思わなかった。


「アリアナが貴方の所に居て、侍女を貸してほしいと言われたら、黙って見ている訳にはいかないでしょう?アリアナの名誉のためにも、わたくしも同席しなければ。」


 だが、母が出て来なくとも。

 母自身がアリアナに会いたかったのだろう。


「イネス妃殿下、ご機嫌よう。ご無沙汰しております。」

 アリアナは、慌てて席をたち、礼を執る。


「まぁ、アリアナ、綺麗になって。貴女のお母様が羨ましいわ。ああ、このままアリアナを借りてもいいかしら。年頃の娘を持つ母の気分を味わいたいわ。ドレスに着替えるのでしょう?晩餐を一緒にどう?」


 母はアリアナの手を取り、目を輝かせている。


「母上、アリアナも私もまだ仕事の途中です。外の仕事でしたので、とりあえずアリアナを着替えさせたいのです。湯あみと着替えが終わりましたら、戻してください。」


「だって貴方達は晩餐はまだなのでしょう?」


「私達は軽食を用意させます。エリックが帰るのを待たなければなりませんので。」


「魔法師団の仕事は貴方の仕事であって、アリアナの仕事では無いはずです。アリアナをこんな夜遅くまで仕事をさせる訳にはいきません。」


 母はなかなか引かない。アリアナに会えて嬉しいのだろう。


「アリアナから事情を聞くだけです。確かに夜遅くなりましたので、今から家に帰す訳にもいきません。母上のところに部屋を用意して頂けますか?」


 アリアナを母に預ければ、明日も会える。

 母もアリアナを一晩預かるならば、納得してくれるだろう。


「ええ、お安い御用よ。では、アリアナ、着替えに行きましょう。」


「はい。イネス様。」

 アリアナも嬉しそうだ。さっきまでの硬かった表情から、花が綻ぶような笑顔を見せている。


「ああ、母上、アリアナのドレスは客間のクローゼットに入っていますから。」


「あら、用意がいいわね。わたくしもドレスを用意したのだけど、必要なかったかしら?」


 母は微笑みながら、アリアナを連れて出て行った。


 二人が部屋を出て行った事を確認すると、控えていた従者に軽食を頼む。


 ソファーに座り、一息つく。

 母上が出てくると思わなかったが、任せておけば、安心だろう。

 自分の欲望にブレーキをかけられた気分だが、これで良かったのだ。自分でも自制を保つ事が難しいと思ったからこそ、侍女を頼んだのだから。


 檻の中にいたアリアナを見た時は、怒りに自分を忘れそうになった。エリックに止められなければ、賊を皆殺しにしたかもしれない。

 私がこんなに心配しているのに、当のアリアナは平気な顔をしている。それが余計に腹立たしく、連れて帰ってしまった。


 こんなに側にいるのに、自分の想いが伝わらない事がもどかしい。アリアナさえ私の想いに応えてくるのであれば、私は遠慮なくクリストファーからアリアナを今すぐ奪うだろう。


 そんな考えに浸っていたら、エリックが戻って来た。


「クロード、勝手にアリアナを連れて帰るなよ!」

 疲れた様子で、エリックが言う。


「悪かったな。それでどうなった?」


「アリアナは?」

 彼は周囲を見渡し、アリアナを探している。


「今着替えさせている。心配するな。母上が一緒だ。」


「イネス妃殿下が?」


「侍女を貸してほしいと言ったら、嬉々として本人が出て来た。」


「そうか。アリアナは昔から可愛がられていたからな。」

 エリックも納得したようだ。


「それで?」

 私は事件の事について聞く。


「ああ、賊は連行した。今回は人数が多かったから、かなりの実行犯を捕らえることが出来た。だが、黒幕に辿り着くかは不明だ。」


「そうか。」


「後は明日だ。」


「お待たせしました。」

 アリアナと母が入って来た。


「クロード、どう?貴方の見立ても悪く無いわね。あら、エリックも戻ったのね。今晩はアリアナを借りるわよ。」


「イネス妃殿下、ご機嫌麗しくて何よりです。妹がお世話になりました。」

 エリックが礼を執る。


「あら、私が楽しんでいるのだから、いいのよ。もっと頻繁にアリアナを貸して頂戴な。」


「母上、アリアナは物ではありませんが。」


 アリアナは私が用意していた茜色のドレスに身を包む。シンプルなデザインだが、緑色の刺繍が映える。


「クロード殿下、このドレス、わたくしが着てもよろしいのですか?他の方に誂えた物では?」

 アリアナは申し訳なさそうに、ドレスを見ている。

 空色の瞳が不安げに揺らいでいた。


「あら、クロードはアリアナの為に用意したのよ。だってぴったりじゃない。だから遠慮なく着て頂戴な。」


「母上!」

 アリアナの為に用意していたのが、何故母にバレたのか。そうこの1年、エリックにアリアナが贔屓にしている店を聞いて、私の好みのドレスを作らせていた。


「怖いわ。クロード。では、わたくしは戻りますわ。アリアナ、楽しみにしていますよ。クロード、なるべく早くアリアナを遣して頂戴ね。」


「承知しました。」

 だから、早く出て行ってほしい。


 母は私から返事を聞くと、満足そうに部屋を後にした。


「イネス妃殿下は、相変わらずだな。」


「ああ。」


「アリアナ、今日の事件の事は明日以降、色々と判明するだろう。それよりも、この間のパーティーの件だ。」

 アリアナは後退りし、逃げようとする。


 私は腕を掴み、隣に座らせた。


「何でイスマエルをパートナーにしたのか?」


「話題作りですわ。なかなか印象的だったでしょう?」


 ああ、腹が煮え繰り返るほどだった。


「イスマエルにも近付くなと言った筈だが。」


「わたくしは了承した覚えはございません。」


「アリアナ!」

 私は怒気を隠さず、名を呼ぶ。

 アリアナは驚き、逃げようとするが、私は腰に手を伸ばし動きを封じた。


「ご心配を頂かなくとも、一段落しましたから、今後はそう近くにいる事は無いと。」


「どういう事だ?」


「交易の話がほぼまとまったのです。後は父とその部下に任せていいかと。アカデミー内では、女子生徒が彼の事を放って置きませんわ。わたくしの出番は無くなります。」


「では、ルーカスとは、何を話していた?」


「遠い国の話です。あの時ご説明いたしましたが?」


「今日も一緒にいたのだろう?」


 アリアナは視線をエリックに向ける。


「ああ、お兄様ですか。ええ、午後から一刻ほど。彼は魔法具に興味があるようで、魔法具店を紹介しておりました。」


「本当にそれだけか?」


「ええ。」


「魔法具の話なら、店の奥で二人きりにならなくとも良いだろう?」

 エリックが爆弾発言をする。


 アリアナが男と二人きりでいたと思うだけで、苛立ってしまう。


「本当か?」

 自分でもわかるほど、低い声がでる。


 アリアナが逃げ出そうと腰を浮かしているのを、引き寄せた。


「ちゃんと扉は開けておりましたし、外には店長に控えて貰っていました。何もやましい事はありません。」


「で、もう一度聞く。二人きりで何を話していた?」







お読みいただき、ありがとうございました。


なんとか今日中に投稿できました。

次回もクロード視線、今回の続きの予定です。

明日は一日中、仕事が入っているので、間に合うかお約束出来ませんが… 明日、明後日には投稿できるよう頑張ってみます。お付き合い頂けますと幸いです。

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