【番外編】クロードとアリアナと事件(クロード視点)
ブックマーク等、ありがとうございます。
今回はクロード視点です。
少し長くなってしまいましたが、お付き合い頂けますと幸いです。
あのパーティーから、数日経った休みの日の午後、私とエリックは執務室で仕事をしていた。最近は忙しく思うように休めない。そろそろ休憩に入るかと、ペンを置いたところで、エリックに声を掛ける。
「アリアナを呼べるか?」
「お前、この間のパーティーの事、まだ気にしているのか?」
そう、色々と問い詰めたい事がある。特にルーカスと話していた異国の言葉が、引っかかる。
「色々とアリアナに確認したい。」
「色々って、結局アリアナに会って安心したいだけだろう?」
そう、アリアナに会って、安心したい。
目の前の男は、俺の心内を読む事に長けている。
「悪いか?アカデミーは早くやめさせたい。」
あんな男達の側には、もうこれ以上置いておけない。
「それは無理だろう。アリアナはクリストファーのお目付役だ。王妃陛下がお許しにならない。」
それはわかっている。
「一体いつ、アリアナはクリストファーから解放されるのか?」
私はため息混じりで言う。
「まだクリストファーを推している貴族達の尻尾を掴んでいない。だが、親父が動いているはずだ。もう少し待て。アリアナはクリストファーの事は男として見てないさ。心配するな。」
そう、ファーガソン公爵が味方なのは心強い。彼は裏の社会にも睨みが効く。
「クリストファーの事は心配していない。余計な者が湧いて出てきた。あんな中にアリアナを置いておけない。」
一体何人、アリアナに関心を寄せているのか?
「あー、それはアリアナにも責任の一端はあるよな。あいつは外国には興味があるし、変に言葉が出来すぎるんだ。」
そう、彼女は言葉が堪能である。他国の王子達は母語で話せる気やすさで、彼女に引き寄せられる。
「ああ、そういえば、ルーカスとアリアナは不思議な言語を話していたな?お前知っているか?」
そう、あの二人は、私が全く知らない言語を使っていた。西の国の言葉ではなく。それもお互い母語を話すように。
「いや、どこの国の言葉かは知らないが、アリアナの婚約が決まった後だったか、一度満開のリナの花が咲いていた木の下で、あの言葉の歌を歌っていた事がある。どこの国の歌かと聞いたら、東の遠い国だと言っていた。あのパーティーの日にやっぱり遠い東の国だと言っていただろう?だから思い出したんだが。」
「アリアナは旅人から習ったと言っていたが。」
「あれは7歳か8歳だったぞ。あの頃は殆ど俺と一緒にいたんだ。そんな筈はない。」
「出入りの商人とか、あり得るのではないか?歌であれば、幼くとも異国の言葉で歌えるのではないか?」
「そんな機会はなかった筈だが。」
「いずれにしても、アリアナに関心がある男が増えたわけだ。警戒と警護を怠らない様にしないと。」
「普通に動く分には、護衛も付けやすいんだが、転移を使われると、護衛は追う事が難しい。アリアナは護衛を付ける事を拒否しているからな。」
「何か方法はないのか?あれだけ男達に囲まれた生活を送っていると思うと、気が気ではない。」
「心配するな。アリアナはアカデミーの男達の事は、異性として意識していないさ。」
「では、他の誰かを異性として意識しているのか?」
「誰もいない、が正解か。自分の心に蓋をしているんだ。まぁ仕方ないよな。物心ついたすぐに、婚約者は王子だと言われ、妃教育を受けさせられたんだ。クリストファーの事も、異性としては意識していないし、義務だと思っているんだろう。」
「私の事はどう思っているのか?」
つい、呟いてしまう。エリックは聞き逃さなかった。
「間違いなく兄だな。俺と同じ位置にいるはずだ。だから親しくしているだろう?」
「兄か…」
そう思わない訳ではなかったが、実際に言われると、なかなかこたえてしまう。
「まぁガッカリするな。これからだろう?俺と違ってお前は可能性がある。」
エリックは少し寂しそうに言った。
実の兄であるエリックは兄の立場は変わらない。
彼女を溺愛している彼にとって、彼女が自分ではない誰かの元へ、将来嫁ぐ事を考えただけでも、複雑なのだろう。
「ああ。」
そんな話をしていると、彼に魔法通信が入った。
「悪い。アリアナからだ。」
そう言って、彼は部屋を出ようとするが、アリアナからだと聞いた私は、彼に留まるよう、手で指示を出す。エリックの言葉から、人攫いがまた出たようだ。
「俺もすぐに行くから、絶対一人で動くなよ。」
切迫したエリックの声に、私も身を乗り出す。
彼が通信を終えたと同時に聞く。
「アリアナに何かあったか?」
「ああ、人攫いが出た。アリアナが世話している孤児院の子二人が攫われた。アリアナが今から助けに行くって言い張るから、ちょっと俺は詰所に行ってくる。」
「アリアナもいるのか?」
「あいつも今から詰所に転移するだと。」
「ならば、私も行こう。」
私もエリックと一緒に、街の魔法師団の詰所に転移した。ホールに向かうと、団員の驚いた顔の中から、アリアナが駆け寄ってくる。
エリックがアリアナに声を掛ける。
「アリアナ、状況を説明してくれ。」
アリアナが事件のあらましを説明する。
街の警備が、子供からの通報を取り合わなかったと聞き、怒りが湧く。街の警備は一体何をしているのか。
周囲の団員が息を飲む。
アリアナが、エリックに自分が囮になって、探すと言い出した。そんな事は認められない。
「それはお前を囮にしろと?」
エリックが私の言葉を先に口に出す。
「そう。それが早いわ。」
アリアナはなんでもない事の様に言う。
アリアナが攫われた時の事を思い出す。
あんな思いはもうごめんだ。
「それは絶対ダメだ。」私はアリアナを止める。
アリアナは諦めないで、私にではなく、エリックに頼み込んでいる。自分に頼まないアリアナを見て、口調が厳しくなる。
「ダメだ。」
もう一度、止める。そして理由を説明するが、アリアナは諦めない。アリアナが私の方を向く。
「じゃあ尚更、早く見つけ出さないと。私が囮になる以外に、他に何か手があるのですか?」
エリックが私の代わりに答えてくれる。
「シラミつぶしに探すしか、無いだろ?」
「そんな事していたら、逃げられてしまうわ。私が囮になるから。」
アリアナは頑固に言い張る。
エリックはため息を一つ吐く。
結局、アリアナの護衛として、魔法師団の団員が一人女装して付いて行く事になった。
「やっぱりダメだ。」
私はなんとか止めさせたい。だが、エリックがアリアナの肩を持った。
「クロード、こいつは言い出したら聞かないのは知っているだろう。勝手に動かれるより、監視の上で動かした方がより安全だ。それに大掛かりに捕物ができれば、一石二鳥だ。」
エリックの言葉はもっともだ。
だが、頭で理解していても、感情が許さない。
なんとか、自分の気持ちを抑えようとしていたら、アリアナが更に無謀な事を言い出した。
「お兄様、黒幕の貴族まで捕まえるので有れば、わたくしはしばらく潜入しましょうか?」
黒幕の手ににアリアナが渡れば、何わされるかわからない。人攫いは魔法を使える者はいないと踏んでいるが、黒幕は貴族だ。どんな手を使うか。
「絶対にダメだ!」と止める。
エリックもアリアナを諭し、彼女は何とか納得したようだ。
そうして、アリアナは倉庫街を探し出した。
我々も倉庫街を手分けして、張っている。
女装している魔法師団の団員と手を繋いでいる。
側から見れば、女性同士が身を寄せ合い歩いている様に見えるが、男だと知っているから、腹立たしい。
「お前、顔が怖いぞ。」
エリックが俺の肩を軽く叩く。
「悪かったな。」
「アリアナの事は心配ないさ。お前もアリアナの実力は知っているだろう?」
「それとこれとは別だ。」
「そんな顔していたら、これは見せられないな。」
「それは何だ?見せろ!」
「後でゆっくり見せてやるよ。」
勿体ぶるので、取り上げた。
エリックがこんな反応をする時は、アリアナ絡みだ。絶対に今知りたい。
それは事件の報告書だった。
街の繁華街から少し離れたところにある、魔法具の店から、子供達が攫われたと通報があったということだった。通報者は魔法具店の店長とある。
男児1名が負傷、その子から頼まれて通報したと。
所謂、普通の報告書だ。アリアナの名は入っていない。
「これがどうした?普通の報告書だろう?」
「問題は、通報よりアリアナから俺に連絡があった方が早い。アリアナは確実に魔法具店にいたのだろう。」
「今日はアカデミーは休みだし、外に出る事もあるだろう?」
「店にいた事が問題じゃない。あの店は親父の息がかかっている。親父とアリアナは口を割らないが、きっとアリアナも関わっているはずだ。頻繁に出入りしている様だし、一日居ようが、問題ない。」
「じゃあ何が問題なんだ?」
「今日この店にルーカスが入って、暫く出て来なかったそうだ。もちろん彼は人攫いには関係ないだろう。だが、アリアナに何の目的があって接触したのか。」
「それはお前が付けている護衛からか?」
「ああ。店の中に彼の姿はなかったそうだ。間違いなくアリアナと会っていたと思う。彼と何を話していたのか、内容まではわからない。が、親父の息がかかっている部下がいるはずだから、親父経由だと何かわかるかもな。」
「通報の時は、ルーカスはいなかったのか?」
「ああ、護衛はルーカスが出て行ってから、かなり時間が経ってから、子供が入って来たと言っていた。」
そんな話をしていたら、アリアナが男達に囲まれたのが、見えた。
男達がアリアナを後ろ手に拘束している。私のアリアナに触れるとは!
「クロード、落ち着け。アリアナの仕事だ。」
仕事と言われても、腹が立つ。
彼からが動き始める。
「おい!行くぞ」
俺はエリックと後を付ける。
アリアナと男達は一つの倉庫に入っていった。
扉が閉まって暫くした後、アリアナからエリックに通信が入った。
アリアナは無事の様だ。
「踏み込むぞ!」
俺は部下達に合図した。
「今から踏み込む」
エリックはそう伝えて、エリックも慌てて通信を切った様だ。
倉庫の中に入ると、アリアナは檻の中に娘達といた。その姿を見ると、賊に殺意を覚える。
「クロード、殺すなよ。黒幕吐かせるまで。」
エリックが私の殺気を感じ取り、諫める。
「ああ」
「お前、アリアナの所を頼む」
アリアナの方を見ると、すでに檻は壊され、ワンピース姿の娘、いや、女装姿の団員が賊を倒していた。
アリアナは防御魔法を使い、娘達を保護していた。
私は魔法師団の団員を数人従え、アリアナの所へ向かう。
「アリアナ、もう大丈夫だ。」
彼女は防御魔法を解く。
私は団員に囚われた娘達の対応について、指示を出す。彼女は二人の女の子を連れて、一人の団員に頼んでいた。二人は孤児院の子らしい。
アリアナがなかなか私のところに来ない事に苛立ち、腕を引っ張った。
「きゃっ!」
アリアナかバランスを崩したところを抱きとめる。
「アリアナ、無事か?」
「ええ。私はなんともありませんから、離してくださいませ。」
「ダメだ。男達が手を触っただろう?マルティンとも手を繋いだだろう?」
本当は今すぐ消毒したい。
「仕事ですから。いちいちそれくらいで、騒がないでくださいませ。わたくしも事後処理を手伝って参ります。」
アリアナはそう言って、私から体を離そうとする。
それは許さない。反対にアリアナの両腕を取り、抱きしめた。私にとってはそれくらいで済む話ではない。
「アリアナは私に報告だ。魔法師団に帰るぞ。エリック!先にアリアナと本部に戻る。後を頼む。」
そう言って、転移魔法で執務室に飛んだ。
お読みいただき、ありがとうございました。
ブックマーク等も大変感謝しています。
ここのところ仕事が忙しく、不定期更新で申し訳ありませんが、今後ともよろしくお願いします。
次回もクロード視点の予定です。明日か明後日には投稿を…と思っているところです。明々後日になってしまったら申し訳ありません。




