【番外編】アリアナとルーカスと記憶(アリアナ視点)
ブックマーク、ありがとうございます。
やっぱり一つ増えると嬉しいです。
もはや番外編と言っていいのか、疑問ですが、番外編のアリアナ視点です。
短編のつもりで書いた作品だったので…はい、
反省しています。
この回では『』は日本語での会話です。
匿ってとは、言ったものの、私は誰に言ったのかわからない。
匿ってくれればいいけれど、クロード殿下に対抗できるかなあと思いながら、彼の後ろに潜む。
『梨奈!梨奈なのか?』
と日本語が聞こえた。私は耳を疑う。
私の前世の名前を呼ばれた?
この世界で日本語は聞いた事がない。ここは異世界だから、日本語という言語は存在しないと思っていた。
『日本語…なんで…』
と、思わず呟いた。
だが、すぐに人が近付く気配がする。
「来たから、よろしく!」
そうフラン語で言って、魔法のマントを発動させ、気配を消した。
「おい!お前、ここをアリアナ嬢が通らなかったか?」
レオンハルト殿下の声がする。
レオンハルト殿下と彼とのやり取りが聞こえる。どうも、ベンチに座っていたのは、西の国のルーカス殿下のようだ。
なんだか不穏な会話だ。
ルーカス殿下はチャラチャラした軽い王子様だと思っていたが、レオンハルト殿下と対抗出来るとは。
ちょっと驚きだ。
「もういい!お前に構う暇はない!」
レオンハルト殿下が、苛立ちを隠さず言い放ち、立ち去る足音が聞こえた。
「これで良かったのかな?」
彼はそう言ったが、また誰かこちらに向かって来ている気配がする。
「まだ来るわ。」
「まだ?」
次に来たのは、ヨハネス殿下だった。彼とヨハネス殿下との会話は、穏やかに済んだようだ。
彼は簡単に去ってくれた。
「これで終わりか?」
彼はそう聞いてくる。だけど、気配は近付いて来る。私は気配を感じる事には、長けているから、間違いない。
「まだ来るわ。」
ごめんなさいと心で謝る。
面倒な事を押しつけてしまった。
次は何人かの足音だった。
クリストファー殿下と取り巻きだわ。何で私のことを探すのだろう?断罪イベントは卒業式のはず。
彼はクリストファー殿下も、上手に追い払ってくれた。
「これで終わりか?」
「悪いけど、まだよ。」
そう、何で次から次に探しに来るのか。
「まだか…」
彼の呆れたような声が聞こえた。すみません。
次に来たのは、イスマエル殿下だった。
「おかしいな?この辺に気配がするのだが?」
イスマエル殿下の気配という言葉に、汗がでる。
マントの中で髪飾りを外し、息を吹き掛ける。私の気配を付ける魔法だ。
そしてそっとルーカス殿下の足元に置く。
イスマエル殿下は髪飾りに気付いたようだ。
彼はやっと去ってくれた。
ルーカス殿下が前を向いたまま、声を掛けてきた。
「これでいいのか?イスマエルは今日のパートナーだろう?」
そう、彼は恋人役だ。
「彼が悪い訳ではないの。巻き込みたくないだけなの。」
イスマエル殿下をクロード殿下に近付けるたくない。
恋人役なんて設定で、困らせている自覚は多少はある。
「これで終わりか?」
「まだよ。」
「まだかよ。」
はい。まだです。すみません。
「この辺に妹を見かけませんでしたか?アリアナと言うのですが。」
う〜。兄の声だ。これはクロード殿下も一緒だ。きっと。私が息を潜めていると、クロード殿下が恐ろしい事を言い出す。
「おかしいな。この辺から気配がするのだが。」
クロード殿下は私の気配を感じ取れるらしく、幼い頃から逃げ切った試しがない。慌てて、さっき一緒に魔法をかけた髪飾りをベンチに置いた。
するとルーカス殿下は、その髪飾りをクロード殿下に渡してくれる。良く気付いてくれたと思う。
「邪魔して悪かったな。」と声が聞こえた。
彼らも足早に去ってくれた。
「これで終わりか?」
彼はうんざりした声で聞いてくる。重ね重ね申し訳ありません。と、心て謝っておく。
「ええ。多分。」
そう言いながら、私は彼の横に立つ。
「何であんなに追いかけられているんだ?」
「さあ?」と、首を傾げて惚けておく。
ダンスを踊れとか、付き合えとか、何で男と踊ったのかとか、色々と思い当たる事ばかりである。
「気配とか言っていたが、気配なんかわかるのか?」
「さあ?」
他の人はわからないが、クロード殿下だけは、私の気配を察する事はできそう。
「髪飾りに何か仕掛けたのか?」
やっぱり気付いていましたか。
「ああ、さっきはありがとう。髪飾りを渡してくれて。あれは私の香りを染み込ませていたから、納得してくれたのよ。」
本当は香りだけでなく、魔法で気配を纏わせていたのだけど。
ルーカス殿下は香りで納得してくれた。
そういえば、ルーカス殿下と初めて話すかも。
魔法力が低い為、クラスが別で、話す機会が無かったのよね。彼のクラスには女子が数人いるから、任せきりでした。はい。
それから、ルーカス殿下に留学の理由を聞いてみる。
前々から、疑問だったのだ。
すると、彼は突然日本語を話した。
『佐倉梨奈と言う名前に心当たりがあるか?』
何故、彼が私の前世の名前を知っているの?
私は一瞬目を見開く。
何で彼は日本語を知っているのか。
私の心臓はドキドキと高鳴る。
慌てて、仮面をつけて知らない顔をする。
「何を仰ったのかしら?どの国の言語ですの?」
すると、彼は驚愕の事実を打ち明けた。
『俺は転生者だ。この国に転生者がいるかもしれないと思って、留学してきた。君も転生者だろう?さっき日本語って聞こえたぞ。』
彼は今、何と言ったのか。
転生者と言った?私以外に転生者がいるとは思ってもなかったので、言葉を失う。
さっき聞こえた日本語は、私の空耳ではなかった。
私は両手を唇に当てる。
『聞かれていましたの?』
私はつい日本語で答えてしまった。あまりにも驚きすぎて、仮面を被る事を忘れてしまったのだ。
『しっかり聞いていたよ。』
ルーカス殿下は嬉しそうだ。
『そこは聞き逃してくださいな。』
もう、私が転生者という事はバレたのだろう。
『無理だね。俺がどんだけ探していたのか、知らないだろう?』
探していた?転生者を探していたと?
やっぱり最初に日本語って言ってしまったのは、迂闊だった。
『しくじりましたわ。』
私自身、嬉しいのか、困ったのかわからない。
彼の目的がわからない。
転生者を探して、何をするつもりなのだろう。
『転生者…そんな夢みたいな話、信じられる?』
私は足掻いてみる。
『それこそ、日本語で話している事が、現実だと証明しているだろう?』
はい、確かにそうです。
『それはそうだけど…自分でも信じられないのに。まさか私以外の人がいるとは、思わなかったわ。貴方も前世の記憶があるのよね?』
『ああ、俺にはしっかり記憶がある。君もあるんだろう?』
彼の目には期待が満ちている。彼もまた前世の記憶と、今の自分の折り合いをつける為、苦しんだのかもしれない。
そう言えば、彼の国は急に発展した。きっと彼の前世の記憶が役に立ったのだろう。
彼は魔法具の店の事を聞いてくる。
ああ、あの魔法具は前世の記憶を元に作っているから、そこから辿り着いたのね。
でも、あの店の事は内緒なの。
『何処の店の事かしら?』と惚けてみるが、彼が留学したのは、転生者を探す為とわかった。
確かに孤独感を感じる事が多々ある。
転生者がいるかもしれないと思うと、会いたくなる気持ちは、私も一緒だった。
『前世の記憶は役に立つ事もあるが、俺を苦しめる記憶もある。』
彼が転生者を探す本当の理由は、苦める記憶のせい?
『苦しめる…確かに混乱する事はありますが。』
私は悪役令嬢とわかった時は、確かにどうしようと悩んだ。けれど、前向きにバッドエンドを回避する為、今まで頑張って来たのだけど。
『俺が死んだ時、俺の大事な人を巻き込んでしまった。おれが彼女を引き止めたばかりに、彼女と俺は事故にあったんだ。』
彼を苦めている記憶はこの事だったのね。確かに辛いかも。
『事故…』
う〜ん。私は自分が死んだ時の事を覚えていない。幸せな事かもしれない。
そんな事を考えていたら、彼が私の肩に手を置く。
私はビックリして、彼の顔を見る。
『君の前世は、佐倉梨奈だったのではないか?俺は佐伯和也、覚えてないか?』
えっ!彼の名前を聞いて、過去の記憶を探ってみる。確かに佐伯くんは同じ会社の同僚だったような。
ああ、彼は私の同期で営業の人だった。
同期の研修でよく同じグループになったのよね。
だから私が開発部に入っても、気軽に声を掛けてくれたのよね。
彼は開発部の事務の女の子達に人気だった。私が同期と知ると、紹介して欲しいと何人もの娘に頼まれたんだっけ。
私も彼と商品開発について意見を交わす事は楽しかったなぁ。販売の現場にいる彼の意見は貴重だったし、時々は現場に連れて行ってもらった。
私が熱心に冷蔵庫などの家電を見ていたら、お店の人から、
(佐伯、お前いつ結婚するんだ?俺に教えろよ。家電ならウチで買え。特別割引使ってやるぞ。)
なんて、揶揄われていた。
あの時は申し訳なかったなぁ。
彼女さんがいたら申し訳ないと、後で私が謝ると、彼女はいないから、気にしないでと言ってくれた。
アラサー女子にも優しかった。
きっと彼は何処でもモテるのだろう。
そんな記憶が走馬灯のように、私の頭の中に蘇った。
私はそんな身近な人が転生者だなんて思ってもみなかった。まだ若いのに、何で転生したのだろう?
私はアラサーまでの記憶しか無い。
だからアラサーで死んだのだろうと思っていたが、彼も若くして亡くなってしまったのか?
それとも、転生には時間がずれていて、亡くなった年は全く違うのだろうか?
魔法が使える世界だから、何でも有りかも。
深く考えることを止めて、佐伯くんに向き合う。
佐伯くん、いや、ルーカス殿下はその綺麗な顔を必死の表情に変えていた。
私が驚いて、彼の名を呼ぼうとした時、
「何をしている!」
クロード殿下の叫び声がした。
ああ、見つかってしまった。
お読みいただき、ありがとうございました。
風邪は快方に向かっています。
また頑張って書いていきたいと思います。
次回もアリアナ視点です。
明日か明後日…には投稿出来るよう、頑張ります。
お付き合い頂けますと、幸いです。
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