【番外編】ルーカスと白薔薇姫と記憶(ルーカス視点)
ブックマーク、評価、ありがとうございます。
昨日から引き続き風邪です。薬でなんとかやり過ごしています。
番外編祭り?ルーカス視点、前回の続きです。
すっかり忘れていましたが、『』はルーカス編では日本語表記です。お伝えすることが遅くなり、すみませんm(_ _)m
彼女はその両手の指を唇に当てる。
『聞かれていましたの?』
日本語だ!彼女が日本語で答えてくれた。
俺は次の彼女の言葉が待ちきれない。
『しっかり聞いていたよ。』
『そこは聞き逃してくださいな。』
『無理だね。俺がどんだけ探していたのか、知らないだろう?』
そう、俺は探していた。同じ時に命を落としたのであれば、同じ世界に転生してもおかしくない。いや、そうであって欲しいと、願っていたのだ。
事故の瞬間、俺は
[梨奈と離れたくない。まだ、何も伝えていない。神様、俺たちを離さないでくれ!]
と無意識に願っていた。
記憶を取り戻してから、暫くは、俺の側にきっといるはずと思って、注意深く周囲を探した。
しかし残念ながら、俺の周囲にはそれらしき人物はいなかった。
だんだん探す事を諦め、転生の事実に孤独感と罪悪感を感じる様になった。
梨奈があの後、どうなったのか。
そう、さっきも月を見て、思い出してしまったように、俺が、彼女の未来を奪ってしまったと。
一瞬、俺が感傷に浸っていたら、彼女が口を開く。
『しくじりましたわ。』
彼女はしょんぼりとしている。
普段の凛とした様子とはまた違い、守りたくなる。
こんなやり取り一つでも、嬉しい。
梨奈との会話を思い出す。声が同じなので、日本語で聞くと、ますます梨奈にしか思えない。
彼女も普段しっかりしていたが、時折、可愛らしい言葉や仕草が出てくる。そのギャップがたまらないと、密かにギャップ萌えと男性社員から人気があった。
俺は、懐かしい日本語で話せる事に感動しながら、彼女が佐倉梨奈だったら、と期待を膨らませる。
『転生者…そんな夢みたいな話、信じられる?』
彼女は首を傾げる。
これだけ日本語で話していて、今更それを言うか。
『それこそ、日本語で話している事が、現実だと証明しているだろう?』
『それはそうだけど…自分でも信じられないのに。まさか私以外の人がいるとは、思わなかったわ。貴方も前世の記憶があるのよね?』
彼女の空色の瞳が俺を見据える。
『ああ、俺にはしっかり記憶がある。君もあるんだろう?』
俺は早く彼女の口から、ハッキリとした答えが欲しいと思う。転生者、それも梨奈かもと思うと、焦る気持ちを抑えきれない。
だが、梨奈だったとして、彼女が事故に巻き込まれる原因である俺を許してくれるだろうか?
いや、憎まれても、許してくれなくとも、彼女がこの世界で幸せであればいい。
そう思うが、すぐに首を横に振る。
いや、無理だな。俺は梨奈と一緒にいたい。
早く答えを聞きたい気持ちと、彼女から拒絶されるかもしれないという不安な気持ちがせめぎ合う。
だが、彼女は自分の疑問に答えを出す方が、大事だったようだ。
『ああ、だから貴方は歳の割には、色々な事を知っているのね。国の政策とか、軍の使い方とか。前世を思い出すような政策が度々あったから、不思議には思っていたの。それにここ数年で、西の国は急に発展したわ。』
彼女は知っていたのだ。我が国の事情を。
一体どれだけ情報を集めているのだろう?
いや、昔から梨奈は色々と熱心に情報を集めていたなと思い直す。
『確かに国を立て直す為に、知っている知識は最大限に活かしたが。君も同じだろう?あの魔法具店に関わっているのは君だろう?』
俺は、知りたい事をもう一度問い掛ける。
もし、もしも、彼女が梨奈なら、家電の要素を取り込んで、魔法具を作ることも容易なはず。その魔法具が前世の物と酷似している事も納得がいく。
あの美顔器を見た時に、もしかしたら、梨奈かもしれない。と思って、無理矢理留学したのは、俺の勝手な希望的観測であった。
梨奈であって欲しい。梨奈であれば、この世界で俺が幸せにしたい。いや、二人でこの世界で幸せな家庭を築きたいと。
そんな感情に浸っていると、
『何処の店の事かしら?』と彼女は言う。
まだ惚けるつもりらしい。
『あの学校近くの魔法具の店に関わっているだろう?俺はあの店の魔法具を見て、この国に転生者がいると確信したんだ。だから留学した。転生者と話してみたいと思ったんだ。前世の記憶は役に立つ事もあるが、俺を苦しめる記憶もある。』
『苦しめる…確かに混乱する事はありますが。』
彼女は魔法具に関しての答えはくれなかった。
『俺が死んだ時、俺の大事な人を巻き込んでしまった。おれが彼女を引き止めたばかりに、彼女と俺は事故にあったんだ。』
『事故…』
俺は彼女が梨奈であると、言質を取りたかった。思わず彼女の肩に手を置く。
彼女はハッとしたように、俺の顔を見る。
『君の前世は、佐倉梨奈だったのではないか?俺は佐伯和也、覚えてないか?』
俺は彼女の顔を覗き込む。空色の瞳が驚きに溢れていた。その瞳は梨奈だと肯定しているようだった。
もう、離さない。離したくはない。あの日の事を詰られても構わない。その分、今世で大事にする。もう後悔はしたくない。
例え、梨奈が白薔薇姫でクリストファーの婚約者の立場にいるとしても。
俺が彼女を幸せにしたい。
彼女が口を開こうとした時、
「何をしている!」
と、声が聞こえ、彼女が離された。
先ほど通り過ぎたクロードが戻って来ていた。
彼女はクロードに抱き締められていた。
「何を話していた?」
「彼女が戻って来たので、髪留めをクロード殿下に預けたと話していただけですよ。」
「何処の国の言葉だ?西の国の言葉ではないだろう?」
「カタルニア語ではありません。遥か彼方にある東方の国の言葉ですが、アリアナ嬢がご存知だと知って、お話させていただきました。この言葉を知る者はほとんどいませんので、つい嬉しくて。」
「だからと言って、肩に手を置く必要はないだろう?」
「ああ、すみません。感動してしまい、つい。ですが、婚約者ではないクロード殿が、アリアナ嬢を腕の中に閉じ込める方が、不適切だと思いますが?」
クロードは俺を睨む。俺も負けじと睨み返す。
彼は、彼女を抱き抱える腕の拘束は緩めたが、彼女を離さなかった。
「アリアナ、本当か?」
「クロード殿下、ルーカス殿下が仰る通りですわ。わたくしも珍しい言葉を使うことが出来て、嬉しくて会話を重ねただけです。だから離してくださいませ。」
彼女はクロードの腕の中に閉じ込められたまま、彼の顔を見上げる。彼は溜息と共に彼女を腕から解放するが、片方の肩に腕は回されたままだった。
クロードには、明らかな彼女に対しての恋情が見える。彼女の方は、親しい者に対する親愛の情のようだが。
彼女の婚約者はクリストファーではなかったか?
クリストファーには見られない執着をクロードに感じる。彼は間違いなくアリアナ嬢に特別な感情を持っている。俺はそう確信した。
だが、俺も負けられない。
アリアナ嬢と俺は前世からの付き合いだ。きっとそのはずだ。
『君はこのままクロードと一緒にいていいのかい?会場に戻るなら、エスコートして行くが?』
クロードにわからない日本語で話しかける。
彼女は目を見開くが、微笑んで言った。
『助け出してくださるのですか?彼は怒らせると後が大変ですの。お気遣いだけ、いただいておきますわ。』
『いや、俺が会場へ連れて行こう。』
「異国の言葉で話す事は止めろ!」
クロードが怒りを露わにする。
「いえ、アリアナ嬢にダンスを申し込んだだけです。彼女も承知していただきましたので、これから私達はホールへ戻ります。彼女を返していただきますよ。」
そう言って、クロードの腕を払い、彼女の腕を取って、会場へ歩き出す。
『君はクロード殿下の事をどう思っているんだ?』
さっきの親密な様子が頭から離れず、そう口にした。
『過保護な兄』
その答えにホッとする。
『お兄さんか。』
『貴方を含めてだけど、何で関わり合いになりたくないのに、私に関わってくるのかしら?』
『それは君が魅力的だからだろう?』
当たり前の事を何で聞く。
『私は悪役令嬢のはずなのに…』
彼女は呟く。
『悪役令嬢?』
前世で聞いた事があるような。
ヒロインを虐め抜く令嬢だったよな。どこが白薔薇姫に当てはまるのか?
『もう、私に構わないで。佐伯くん』
彼女はそう言って、俺の腕を解き、走り出す。
残された俺は、彼女の残した言葉に呆然とする。やっぱり彼女は梨奈だったと。やっと見つけた!と喜ぶ俺と、構わないでと言われた事にショックを受ける俺がいる。
だが、やっぱり諦められない。
俺は慌てて彼女を追いかける。
梨奈、今度こそ離さない。一緒に幸せになろう。
この異世界でも二人ならきっと幸せになれる。
だから、俺のことを見ておくれ。
そう願いながら、梨奈の腕を捕まえた。
お読みいただき、ありがとうございます。
ブックマーク、評価、感想、お待ちしております。
また、誤字脱字もご指摘いただけると助かります。
また、どのキャラが押しなのか、よろしければ教えて頂ければ幸いです。
とりあえず、ルーカス編はここで一旦終了の予定です。続きは気になりますが…
次回はアリアナの閑話か、クリストファーかと思っていますが、風邪で頭がボーとしていて。忙しい上に風邪で書くことが難しかった(T_T)
とりあえず、頑張ってみます。
お付き合いいただけると、幸いです。




