【番外編】ルーカスとパーティーと記憶(ルーカス視点)
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今回、ちょっと硬い…
次回頑張ります?
番外編、ルーカス視点続きです。
眩い光が煌めき、着飾った人々が行き交う。
ザワザワとした会場。
そんな中、俺は令嬢達に囲まれていた。
今、俺の周りには令嬢達が群がっている。
見た目は麗しい王子と言われる事が多い俺は、彼女達には絶好の獲物らしい。
今日は家族も招待されているらしく、令嬢の数は10倍ぐらいに増えていた。
俺は周りの令嬢より、白薔薇姫を探す。
彼女の姿はまだ見えない。
突然、周囲が騒つく。
クリストファーがカーラをエスコートして入って来たからだ。
だが、その騒めきは、すぐに感嘆に変わる。
白薔薇姫が入場して来たのだ。イスマエル皇太子と共に。
彼女は彼の国の民族衣装を着ていた。暗緑色のドレスに金色の刺繍とサッシュ、彼女の美しさを際立たせていた。
そう、異国の女神のように美しかった。
二人は目を合わせ、微笑み合う。仲の良い恋人同士に見える。
クリストファーとの婚約は無かった事の様に、二人の様子は親密だった。
俺はイスマエルがアカデミーに在籍している事を知らなかった。彼とは何度か国で顔を合わせた事がある。
白薔薇姫の周囲は2週間ほど見ていたが、イスマエルとの接点はなかった。
一体いつの間に。
周囲の男子は皆、驚愕だったようだ。
白薔薇姫は容姿端麗で、賢く、公爵家の令嬢。王家に嫁ぐにあたって、これ以上の令嬢はいないだろうと言われている。
クリストファーは、あんな完璧な白薔薇姫の何が不満なんだと思う。
皆の話を聞く限り、良い話しか聞かない。
彼女を悪く言うのは、クリストファーの取り巻きと、彼がエスコートしているカーラだけだ。
カーラは俺にも粉を掛けてくる。一体何人に同じ事をしているのか。何度もはっきり拒絶したが、それ以降も何かと寄って来ようとしている。クリストファーの恋人であるにも関わらずだ。
呆れてしまうが、そんなカーラに入れ込んでいるクリストファーは一体何を考えているのか。
クリストファーの方へ視線を向けると、彼は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
今、目の前で繰り広げられているアリアナ嬢とイスマエルのダンスに目を向ける。
彼の国の踊りは難しい。なので国際的なパーティーではほとんど踊られる事はない。
だが、アリアナ嬢は軽々と踊っている。
本当に完璧な令嬢だ。
二人は会話を楽しみながら、自然に体を動かしていた。イスマエルが、彼女の体を引き寄せ踊る。彼女は微笑みながら、彼に目線を合わせる。
恋人同士の触れ合いにしか、見えない。
しかし、彼女の側には、常にレオンハルトがいたはず。何故今日のエスコートはイスマエルなのか。
ふと、レオンハルトの姿が視界に入る。
彼は射る様な視線を向け、下ろした手は拳を握っていた。
俺も他の生徒の大多数は、今日の白薔薇姫のパートナーはレオンハルトだと思っていた。
彼は相当悔しいのだろう。
あまりにも怒りのオーラを発していて、彼には令嬢達は近付けないようだ。
そう思ったところで、白薔薇姫達のダンスが終わる。
周囲から拍手が沸く。
白薔薇姫はイスマエルと華麗なダンスを踊った後、ホールを後にした。
俺は彼女の元に行こうとしたが、周囲を令嬢達に囲まれていて、抜け出せない。彼女達はダンスを踊りたいと、期待した目で誘っていた。
俺は、今日こそ白薔薇姫と話したい。その為にダンスを申し込もうと思っていたが。
今日、彼女と一言でも話す機会があるのだろうか?
前途多難だと、溜息をこっそりついた。
普段色々と教えて貰っている為、彼女達の望みを、無碍にする事はできない。
クラスメイトの女子と順番に踊る。皆、可愛い。だが可愛いだけだ。俺には、どの子も同じに見えてしまう。
それに、前世の記憶が、これ以上親しくなるなと、ブレーキを掛ける。
やっぱり16歳となると、若すぎる。前世は28歳まで生きていたのだ。俺は犯罪者になりたくない。いや、俺は今は16歳なのだが。
バカバカしいと自分で思うのだが、心の奥底で葛藤があり、深く付き合う事ができない。
だが、白薔薇姫は別格だ。彼女には、何故か16歳らしい雰囲気が漂っていない。だからこそ、惹かれたのかもしれない。
4人と踊ったところで、ホールを抜け出した。
ホールには白薔薇姫は見かけない。
俺が踊っている最中は、ホールの周囲で、来賓達に囲まれていたが。
イスマエルは白薔薇姫をしっかりとエスコートし、離す様子は見られなかった。
今、二人は何処にいるのだろう?
そう思ってホールの周囲を探すが、見つける事は出来なかった。
今回も声を掛ける事が出来ないのかと、気分が沈んでしまい、少し頭を、冷やそうと、中庭に出て、会場から死角になるベンチに腰掛けた。
丁度、空を見上げると満月が見える。
ああ、あの時も満月だったなぁと思い出す。
忘れたくても忘れられない記憶を。
あれは、前世の俺が死んだ日。
その日の午後は、開発部との会議だった。
現場の声を開発部に届ける目的で、不定期に行われていた。
俺はその会議に参加する事を楽しみにしていた。
同期で気になる女性、佐倉梨奈がいたからだ。
彼女とは入社後の研修で一緒で、同じ「さ」で始まる名字で、何かと一緒のグループになる事が多かった。
彼女は開発部には少ない女性で、男性も対等に仕事に取り組んでいた。
俺が顧客の要望を男性開発員に伝えても、なかなか伝わらない事が多かったが、彼女も巻き込めば、男性開発員も納得してくれる。
彼女は同僚を叱咤激励しながら、より良い物を作ろうと頑張ってくれた。
そんな彼女に惹かれるのは、時間が掛からなかった。
男女の垣根なく、皆に明るく接してくれる。口は少し悪いが、根はお人好しで、頑張り屋だ。
隠れて彼女を慕っている開発員もかなりいた。
彼女が鈍感だった為、なかなか伝わらないようだったが。
そんな彼女に俺も同期の立場を活かして、度々誘ってみたが、食事に誘えば、後輩を一緒に連れて来るし、デートに誘ってOKを貰えたと思ったら、家電量販店で他社製品を見て回り、周囲の客の反応を見ると言うものだった。
「佐伯くんのおかげで、ゆっくり見れた。ありがとね。」
と言われてしまえば、それ以上を言う事は出来なかった。
そんな状態から抜け出そうと、開発部との会議の後、俺は彼女を会社を出て、少し離れたところで待っていた。
会議の後で誘うと必ず断られるか、誰か連れてくるかだからだ。2人きりで話したかった。
彼女が会社から出てきて、近くの駅に向かう為に歩いて行く。俺は慌てて彼女に声を掛けるが、気付いてくれない。
交差点に差し掛かり、彼女が信号を渡ろうとしたところをやっと捕まえた。
彼女の腕を掴んで、「待ってくれ。」と頼む。
驚いた顔で振り向いた彼女は、
「佐伯君、どうかしました?」と言った。
俺が彼女に答えようとした時、クラクションの音が響き、眩しい光が目に入って来た。そして、彼女が俺に向かって、「逃げて!」と叫んだ。それが彼女の最後の言葉だった。
そう、大型トラックがコントロールを失って、交差点にいた俺たちに突っ込んで来たのだ。
人が死ぬ時はスローモーションの様に周りが見えると言われていた。俺も眩い光と驚いている彼女の顔、そして満月、俺はそれが最後の記憶だった。
俺は満月を見ると、あの日を思い出す。
俺が引き留めなかったら、彼女は事故に巻き込まれる事はなかったのに。
彼女は健気にも俺に逃げろと突き飛ばそうとしていた。俺は彼女の腕を引っ張り、抱え込む様にして、逃げようと足掻いた。が、トラックは容赦なく俺たちを跳ね飛ばした。
そこで俺の記憶は終わっている。
願わくば彼女が助かっていて欲しいと。
だが、あの状況で2人とも助かる可能性はほぼ無いという事も理解していた。
俺がもっと早く告白していたら。
俺があの日あの時に彼女を引き留めなかったら。
何度、そう思った事か。
この世界に転生した事を知った時、今度こそは後悔しない人生を送ろう。そう誓って、今までを生きて来た。
だが、彼女はどうなったのだろうか?と満月を見る度に考える。
万一にでも助かってくれたのであればいい。
もし亡くなっていたら、天国で幸せに過ごせているのだろうか。
俺と同じように、転生して、辛い目に遭っていないだろうか?
いろいろと思い巡らせてしまう。
こんな時は王子の仮面が外れてしまう。なかなか簡単に戻せない。
暫くホールへは戻れないか…と自嘲する。
これから幸せになるはずだった女性の人生を奪ってしまった。この事実は消えないのだから。
やっぱり白薔薇姫と会話なんて、俺には過ぎた望みか。
そんな事を考えながら、冷たい月を見ていた。
俺が感傷に浸っていたら、背後から、ゴソゴソと音が聞こえた。感傷に浸りすぎて、警戒を怠ったか?と慌てて音の正体を探す。
黒い物体が俺の背後に丸まっていた。
いや、黒いマントを羽織った人だった。
「お願い!かくまって!」
その声に驚愕した。
言語こそ違うが、梨奈の声にそっくりだった。
お読みいただき、ありがとうございました。
昨日は一日中、忙しく、空いた時間に焦って投稿しました。今日も何とかこの時間。
朝から頑張りましたが、誤字脱字ありましたら、ご指摘頂けますと助かります。
ブックマーク、感想、評価、お待ちしております。
ルーカス視点がもう少し続きます。
明日、投稿できるといいのですが…
お付き合い頂けますと嬉しいです。




