【番外編】兄とアリアナ(エリック視点)
ブックマーク、評価、感想ありがとうございます。
なんとかスランプ脱出?です。
皆様のおかげです。ありがとうございます。
番外編続行です。今回もエリック編になりました。
俺とアリアナは馬車で街へ向かう。
「お兄様と二人きりで一緒に出かけるなんて、久しぶりだわ。」
「ああ、いつもクロードが割り込んで来ていたからな。」
そう、クロードはいつも一緒だった。
「そうでしたね。お陰でわたくしは兄が二人いる様で楽しかったですわ。二人ともいまだに過保護ですが。」
「お前がいつも突拍子もない事をするからだろう?俺もクロードもどんだけ気を揉んだ事か。」
そう、気が休まる暇がなかった。
「あら、それは申し訳ありませんでしたわ。」
「お前、普通の話し方に戻せ。気持ち悪い。」
「まぁ、お兄様ったら。わたくしはいつもの話し方ですわ。お兄様こそ、その砕け過ぎた言葉遣い、なんとかなりませんの?」
「外向きにはキチンと話しているから問題ない。」
「クロード殿下の前は崩れていますわ。」
「あいつの前では、普通に話していいと許可はもらっているさ。」
そんなどうでも良い会話が心地よい。
何年ぶりだろうか?と感情に浸っていたら、目的地に着いた。
ここは公爵家の経営するレストランだった。
アリアナがレシピや内装などのアイデアを出した。
貴族や豪商などを客層の中心に捉えている。
一番の売りは、オープンカウンターで目の前で料理してくれる事だろう。
「貴族達は料理がどうやって出来ているかわからない人も多いのです。目の前で肉や魚を焼けば、そのパフォーマンスと匂いで皆、食べたくなると思います。」
「そんな裏方仕事を見て、楽しいか?」
「もちろん、下ごしらえは、裏の調理場を使用しますわ。あくまでも見せるのは、仕上げだけです。」
最初半信半疑だったが、オープン後、あれよあれよという間に、予約が取れない人気店になった。
目の前で料理ができる所を見る事は新鮮だったらしい。
公爵家専用の特別室があり、客をもてなす時や家族の食事会などに利用していた。今日もその特別室に案内して貰う。
熱した鉄板を運び込んで、その場で焼いたステーキは美味しかった。
「やっぱりお肉は焼きたてが美味しいですわ。」
「ああ、そうだな。」
幸せそうに肉を頬張るアリアナに心が温まる。
年相応の笑顔は、今は滅多に見られない。
「お兄様?わたくしの顔に何か付いています?」
「いや、豪快に肉を頬張るなと思って。」
「ひどい!いいじゃない。ここは個室なんだし。どうせお兄様しかいないんだし。」
「いや、アリアナの幸せそうな顔が見れて嬉しい。」
アリアナはメインの後のデザートのケーキまでしっかり食べた。顔に満足と書いてある。こんなところは幼い頃と変わらない。
「アリアナ、お前、イスマエル殿下の事はどう思っているのだ?」
俺は大事な事を確認したかった。
「いいお友達だと。真面目で民の事を考えている尊敬できる皇太子ですわ。」
「異性としてはどう思っているのだ?」
「う〜ん、彼はわたくしには興味ないと思ったから、あんな無謀な事お願いしたのだけど、わたくしがどう思うなんて、考えてもなかったわ。」
「無謀な事っていう自覚はあるんだ。」
「当たり前でしょう?急に恋人のふりをしてくださいなんて、普通は頼まないし、頼まれても断るでしょう?」
そう思うなら、頼むな。
「でも、イスマエル殿下は受けたのだろう?」
「う〜ん。最終的には受けたけど、半分脅迫したかも。」
「脅迫?」
不穏な言葉に驚く。皇太子を脅迫したのか?
「国の民の為、援助が欲しくないのかと。」
「はあ!」
相変わらず、斜め上からの発想か。
「だって、一番都合がいい方だったのよ。お願いするだけの材料があったし。」
「お前なあ。」
「だってお互いの為になる事じゃない。わたくしの方も交易で採算が取れるようになっているわ。彼の国も援助が入るし、交易で外貨を獲得できる。それが彼の功績になれば、彼にとっても、彼を後押しする皇太子派にとっても、都合がいいわ。」
「やっぱり最終的には彼の国の政変を穏便に済ませたかったのか。」
「さあ?わたくしには何の事だか、さっぱりわかりませんわ。」
「まぁいい。で、レオンハルト殿下の事はどう思っているのだ?」
「レオンハルト殿下はいいお友達ですわ。全力で魔法使って遊べるし。遊び相手?訓練相手?」
「お前、学校で魔法使っているのか?」
「バレない程度よ。全部ではないわ。この間の事故の時に防御魔法使った事がバレてしまったから、防御魔法だけ練習しているわ。彼の魔法力も知りたかったし。」
「ほどほどにしておけよ。で、レオンハルト殿下の事は友達なんだな。」
「ええ」
「レオンハルト殿下は求婚していたじゃないか?」
「殿下はお国に婚約者のご令嬢がいらっしゃいますから。そうでなくとも、あの軽さ、お友達にはいいけれど、夫にしたいとは思いませんわ。」
「そうか。」
「じゃあ、クロードの事はどう思う?」
「クロード殿下?」
「ああ」
ここでアリアナの気持ちを聞いておきたいと思う。
「なぜ?」
「いや…お前の側にいる男の一人だろう?」
男として意識されていないのか?
「クロード殿下は、もう一人のお兄様ですわ。わたくしの事を、いつまでも子供扱いされていらっしゃいますが。」
「そうか…」
残念だったなぁ、クロード。と俺の親友を心で慰める。
「お兄様、クロード殿下に、わたくしを膝に乗せるのを止めるよう、言って下さいませんか。もうわたくしは子供でないのに。恥ずかしいですわ。」
「お前、全くわかってないな。」
あれだけクロードが好意を示しているのに、アリアナは兄妹の親愛の情としか思っていない。
「何を?」
「いや、いい。お前、恋とかした事ないだろう?」
「まぁ、お兄様、わたくしだって好きな人がいた事もあるのに。」
「本当か!誰だ!」
一体誰だと思う。アリアナとずっと一緒にいたが、それらしき者はいなかった。
「言わないといけませんか?」
「ああ、ぜひ教えてくれ。」
「わたくしの目の前の方ですわ。」
「はあ?」
今、何を言った?
「だから、お兄様だったのです。わたくしの初恋。」
「俺か?」
それは驚きだ。
「ええ、わたくしが4歳の時でしたわ。だけど兄妹は結婚できないと聞いて、どんだけがっかりしたか。」
子供の頃の話か。
「わかった。その後はないのか?」
いや、嬉しいが、俺が知りたいのは最近の話だ。
「その後は…そう言えば、クロード殿下だったかも。お兄様の様に優しく、色々教えてくださって。でもクロード殿下もお兄様になるからダメなんだと8歳の時に知って、泣きましたわ。」
クロードが、聞いたら複雑だろう。
「お前、クロードは血は繋がっていないから、諦めなくっていいんだぞ。」
俺はクロードの為に頑張ってみる。
「だってクリストファー殿下の婚約者の立場では無理ですわ。だから8歳からお兄様と思う様にしていますわ。」
「クリストファーとの婚約は必ず潰す。だから諦めるな。」
「何を?」
アリアナは首を傾げる。
「お前はクロードの事が気になるのだろう?」
そう、これが一番大事だ。
「今更ですわ。8歳の時のお話です。わたくしがクロード殿下と婚約する事になれば、クロード殿下に我が家と言う後ろ盾が出来てしまいます。そうなればクリストファー殿下と立場は対等、もしくはそれ以上になるでしょう。立太子にどちらが立たれるか、穏便に済めばいいのですが、わたくしは余計な火種を注ぎたくはありません。」
「そうか…」
そこまで考えなくとも、いいのだが。
「他には気になった男はいないのか?」
「今のところは。」
「俺はお前の味方だから、何でも相談するんだぞ。まぁ嫁に行かずとも、一生俺が養ってやるから、心配するな。」
「あら、お兄様に養って貰うほど、わたくしは落ちぶれてはいませんわ。わたくし一人ぐらい、自分で食べていけますわ。」
「お前なあ。でも一人には絶対させない。これだけは覚えておけよ。」
「ありがとうございます。でもお兄様こそ、良い方はいらっしゃいませんの?王宮の七不思議の一つで、クロード殿下とお兄様に決まったお相手がいない事が、含まれているそうですわ。」
何だ?聞いた事がないぞ。
「俺はまだいいんだ。」
「まだ遊び足りないって事ですの?」
「そうじゃない!お前が嫁に行ったら考えるさ。」
「いつになるかわかりませんわよ。」
「いつでもいいさ。一生お前と暮らしても悪くはないと思っているよ。」
「わたくしも、お兄様がわたくしのお兄様で良かったと思いますわ。お嫁に行けなかったら、一緒に暮らしてくださいませ。」
「ああ、万一そうなったらな。」
そんな話をしていると、時間が経つのが早い。
帰りは王宮から転移魔法で戻ると言うので、一緒に王宮へ戻る事にした。
馬車の中で、ふと思い出した事を尋ねる。
「昨日孤児院へ寄ったそうだが。」
「ええ、しばらく行けなかったので。」
「まだ気にしているのか?」
「わたくしの中から消える事はありませんわ。」
アリアナが8歳の時、魔力のコントロールが上手く出来ず、暴走した。
アリアナ自身が転移魔法で飛んでしまったのだ。
飛んだ先が、たまたま下町の治安が良くない場所だった事もあり、倒れていたアリアナは、人攫いに連れて行かれた。
人攫いは、5歳ぐらいから20代前半の娘までを、20人ほど拘束していたらしい。
丁度移動させる日だったらしく、娘達が馬車に押し込められた時に、アリアナの魔法が発動された。
怒りから発動した魔法は、強い攻撃力を持ち、犯人達は虫の息で、娘達の乗せられた馬車は大破していた。
娘達はアリアナが無意識に守ったのだろう。ほとんど無傷だったが、中に一人だけ衰弱した少女がいた。彼女は病気だったらしく、助け出した時には、手遅れだった。
決してアリアナのせいではない。
だが、アリアナはその子を助ける事が出来なかったと自分を責めたのだ。
彼女の墓は孤児院に近い墓地にある。
アリアナは時々花を手向けているらしい。
孤児院にはその時から、保護した子供達で帰る場所がない子を引き取ってもらっている。
アリアナはそこに度々通う。
生意気な事を言ったり、とんでもない事をして、皆を驚かせるが、内面はとても優しい娘だ。
きっと心を痛めているのだろう。
何度も気にするなと言ったが、アリアナは聞かなかった。俺にできることは、寄り添うぐらいだ。
「今度は俺も行こう。行く時には声をかけてくれ。」
「はい。お兄様がご一緒してくだされば、心強いですわ。子供達も喜びます。」
そう言って、アリアナは微笑んだ。
その空色の瞳に悲しみの色が浮かんだのを、俺は見逃さなかった。
アリアナのこの優しさと悲しみを引き受けてくれる男が現れるだろうか。
俺はその時、笑って託せるだろうか。
俺は頭を振る。
まだまだ難しいかもしれない。
笑って託せないかもしれないが、アリアナが幸せになるのであれば、送り出すしか選択肢はない。
複雑な感情を飲み込むしかなかった。
(お兄様だったのです。わたくしの初恋。)
アリアナの言葉が蘇る。
俺も初恋はアリアナだった。幼い頃は何度妹じゃなければと思ったか。
だが、妹だからこそ、側にいる事が出来た。
今は兄の立場でよかったと思う。
幸せになってほしい。
「アリアナ、また食事に行こう。」
「はい。お兄様」
二人の時間は穏やかに過ぎたのだった。
お読みいただき、ありがとうございました。
ブックマーク、評価、感想お待ちしております。
毎日書くための活力になります。
次回はルーカス王子編を予定しています。
番外編祭りになってしまい…もう少しお付き合い頂けますと幸いです。
11/10 13:30〜冒頭の「馬車で王宮→馬車て街」に修正しました。うっかりでした。
申し訳ありませんm(_ _)m




