【番外編】イスマエルとアリアナの契約(イスマエル視点)
ブックマーク、評価、感想、ありがとうございます。毎回読んでくださる方がいらっしゃると思うと、続けていく気力になります。
番外編、続行です。アリアナのその後もボチボチ書いていますが、王子たちの話が終わらない…反省しています。
『』は外国語として、表記しています。
彼女は私の言葉に、満面の笑みで答える。
『殿下が話がわかる方で助かりましたわ。』
『で、恋人役というが、具体的に私は何をすれば良いのか?』
『ええ、これが契約書ですわ。』
彼女は2枚の書類を取り出す。
そこには、幾つかの契約内容が書いてあった。
恋人として振舞う事、これは契約すると言ったからには問題ない。
週に2回以上一緒に食事を取る事、これはどんな意味があるのか?
『なんで食事を一緒に取らないといけないんだ?』
『打ち合わせを兼ねてですわ。話を擦り合わせなければ、他の方に疑われるわ。』
それはそうだが…
『食事はこの建物で二人だけだから、問題ないですわ。』
学校パーティーや社交界の夜会はエスコートする事。社交界まであると、辛いな。
『学校のパーティーはわかる。社交界はいかなければならないのかい?』
『ええ。わたくしが参加するものはご一緒して頂きたいですわ。わたくしも厳選しますから、そんなには多くならないと思います。』
一緒に外出をする。とある。女性と外出などした事がないが。
『この外出とは?』
『全てとは申しませんが、わたくしが希望した時に一緒に外出をしていただきたいのです。仲の良い事を見せる為に必要ですわ。』
国際交流部に入部するとあるが…
『国際交流部とは?』
『わたくしが主催しております、留学生と一般生徒との交流会でございます。わたくしの恋人であれば、一緒に過ごす時間が必要ですわ。』
社交界だけは大変そうだが、厳選すると言っていたので、何とかなるだろう。
と、書類の先を読む。
彼女は、緊急援助物資を送る事、干ばつ対策の費用の融資の実現、技術者の育成、南の国の経済についてのコンサルティングを、対価として用意するとあった。
これでは、彼女の負担はかなりの量になる。
『これは貴女の負担分が多いのでは?』
『殿下の貴重なお時間を頂くのです。これぐらいの負担は当然です。』
『この契約内容で宜しければ、サインをお願いいたします。ご希望であれば、魔法契約もできますが?』
『いや、貴女を信用しよう。』
私はサインをした。
『それでは、殿下はわたくしのことを、アリアナもしくはアリアとお呼びくださいませ。』
『貴女はどちらがいいか?』
『殿下のお好きな方で。』
『では、アリアと呼ぼう。貴女も私の事はイスマエルで良い。』
『それは恐れ多いので、イスマエル様と。』
彼女は微笑みながら言った。
とんでもない事に巻き込まれているにも関わらず、私はこれから起きるであろう事に期待をしている事に気付く。
そこで、改めて彼女の相手は誰だと考えたが、思い出せない。王子と言っていたか?
『アリアの婚約者とは、誰だ?』
『ふふふ…やっぱりそこからですよね。我が国のクリストファー殿下ですわ。』
『クリストファーか…』
クリストファーも同じクラスだったか?
彼は数回会った事があっただろうか。
私の視界には彼は入っていなかった。いや、今まで誰も視界に入れていなかった。
『申し訳ない。私は誰も視界に入れていなかったようだ。』
そう、素直に謝れば、
『存じておりますわ。だから恋人役をお願いしたのです。』
彼女はそう言って微笑んだ。
『早速ですが、イスマエル様にお付き合い頂きたい場所がございます。一つは明日、町にお付き合いください。もう一つは1ヵ月後のパーティーに、エスコートしていただきたいのです。』
『明日は授業だろう?』
『ええ。なので、殿下は体調不良でお休み頂くのです。わたくしも明日は持病が酷くなるので、お休みします。先生方には話しておきます。』
『は?』
私は彼女の言葉が理解できない。
『それはどういう意味だ?』
『明日は授業を休んで、契約の一部を実行しますわ。明日の朝、お迎えに上がります。』
そう、彼女は言って微笑んだ。
翌朝、私は珍しくスッキリ目が覚めた。
朝食を終え、身支度を整えていると、侍従が来客を伝える。
昨日の狐につままれたような話は、本当だったか。
迎えに来た従僕に案内されるまま、馬車に乗る。
馬車には、アリアが既に乗っていた。
彼女は町娘のような、シンプルな水色のワンピースを着ていた。昨日は女神の様だと思ったが、今日の彼女は妖精の様だと思う。
『ご機嫌よう。イスマエル様』
『おはよう、アリア。昨日の話は本当だったんだな。』
『あら、わたくしが謀ったとも?』
『いや、昨日は狐につままれたかと思った。』
『わたくしは女狐ですか。』
『いや、失礼な事を言った。申し訳ない。』
『ふふふ…いいのです。最高の褒め言葉ですわ。それにしても、殿下は人の良い方ですわ。女狐如きに素直に謝ってくださるなんて。』
『私は女狐とは言ってないぞ。それに自分が悪いと思えば、謝る事は当然だろう?』
『それが出来ない方がどれほど多いか。』
彼女はため息をつく。
『ところで、持病は良いのか?』
『ああ、あれはわたくしが授業を抜ける為のいい訳ですわ。王宮へ呼ばれる事が度々あるものですから。先生方にはきちんと説明しております。』
『王宮?クリストファーはアカデミーにいるのにか?』
『呼び出しは、クリストファー殿下からではありませんわ。クロード殿下や王妃様です。』
『クロード殿下?』
何で第一王子が彼女を呼び出すのか?
『ええ、兄がクロード殿下の政務官をしておりまして。わたくしも幼馴染みですから。』
そんな話をしていると、馬車が止まる。
『着きましたわ。』
彼女をエスコートして、降りると、魔法具の店の前だった。
『ここは?』
『魔法具の店ですわ。入りましょう。』
何で魔法具の店なのかと思いながら、彼女についていく。
「いらっしゃいませ…って、オーナー、どうされたのです?表からいらして。」
「あら、わたくしが表から入ったら何か問題あるのかしら?」
「いえいえ、滅相もない。そちらはお客様でいらっしゃいますか?応接室を用意いたしましょうか。」
「わたくしの執務室でいいわ。お茶を用意して。」
彼女は30代ぐらいの店員と気軽に話している。
しかし、今彼はオーナーと言っていなかったか?
私は訝しげに彼女を見たが、彼女はそんな私の視線をものともせず、
『殿下、こちらへ』
と私を執務室へと案内した。
『ここは?』
『わたくしの執務室ですわ。』
『アリアの?』
『ええ。ここはわたくしの店ですから。』
『君の父上のではなく?』
『確かに最初は融資を受けましたが、今は返済は済んでおります。まぁ父は完全には手を引いてはくれませんが。』
私は驚いた。ただの変わった令嬢だと思っていたが、とんでもない思い違いだったらしい。いや、変わっているのは間違いないだろう。普通の令嬢は店など経営しない。彼女は一体何者だ。
そこへ、先程話していた店員がお茶と共に入って来た。
『イスマエル様、彼はわたくしの右腕のセオドールです。セオドール、彼は南の国のイスマエル皇太子殿下です。』
『お初にお目にかかります、セオドールでございます。殿下の御高名はかねがね承っております。どうぞお見知りおきを。』
驚いたことに、彼も流暢なサイード語を話した。
『殿下、彼が援助の実務を担ってくれますわ。殿下の信頼できる部下の方を紹介して頂けますと、最初の食料援助について、具体的に話を進めますわ。』
彼女は真っ先に私が憂いていた我が国の民の為に動くと言う。
私は驚いた。てっきり援助などの話は恋人役が終わってからだと思っていた。契約の成功報酬だと。
『殿下?』
私があまりにも驚き、言葉を発する事が出来なかったら、彼女が怪訝そうに私に声を掛ける。
私は慌てて
『いや、すまない。ちょっと驚いただけだ。ありがとう。我が国の民の為に。』
『まだお礼は早いですわ。民に届いてから、仰ってくださいませ。で、どなたかご紹介いただけますか?』
『ああ、王都にある我が国の大使館に我が腹心の部下が一人いる。』
『では、今から大使館にお伺いしてもよろしいですか?』
『彼は大使館内にいるはずだから、可能だろう。』
『こちらにいらっしゃる大使は信用に足りる方でしょうか?』
『彼は私が幼少の頃から仕えてくれている忠臣だ。』
『では、大使ご夫妻をわたくしにご紹介くださいな。わたくしも以前お会いした事はありますが、殿下からお口添え頂くと、話が早く済みそうですので。』
そうして、我々は王都に向かった。
お読みいただき、ありがとうございました。
ブックマーク、評価、感想、いただけますと、嬉しいです。
次回はイスマエルとアリアナのデート?場面を書きたいと思います。
明日までに仕上げる予定です。




