【番外編】イスマエルとアリアナの出会い(イスマエル視点)
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伏兵イスマエル編です。何とか今日中に間に合いました。
またまた番外編ですが、お付き合いいただけますと幸いです。
私は南の国、サイード皇国の皇太子、イスマエルだ。
国では高等教育は終わっていたが、フランベール国の高い魔法教育を受ける為、王立魔法アカデミーの最終学年に編入した。
フランベール国には、魔法だけでなく、最先端の技術が色々とあるという。
1年間で、ありとあらゆる事を身に付け、国の為に役立てたいと思う。
我が国は、国土の一部は砂漠である。
痩せた土地が多く、更に干ばつに見舞われる事が多い。国を挙げて、取り組んではいるが、なかなか成果が上がらない。
鉱山から取れる、宝石と鉄鉱石で何とか国は持っているが、食料を自給自足できない国は弱い。
今年も干ばつに見舞われ、飢えて亡くなる民が出ている。
何とかしたいと思うが、若い私の言葉は、父の皇帝に遮られる。父の言葉は絶対だ。
国の政は貧しい者の事など考えていない。
自分達のみの富を追求し、国に無ければ戦で奪い取ればいいと思っている。
父は後宮に何人もの女性たちを囲い、戦以外は後宮に入り浸っている。
辛うじて国が動いているのは、良心のある一部の文官と貴族達のお陰だ。
私も憂慮しているが、皇太子とはいえ、父には逆らえない。そんな時に国の良心と言われる宰相から、提案があった。
『殿下、今は事を起こす事を考えるより、己を高める事が大切です。殿下は武術は十分に身に付けられていますが、これからは知識も必要です。どうか、一時この国を離れ、幅広く知識を身に付けてこられてはいかがでしょうか?』
そうして、宰相は私が留学する手筈を整えてくれた。
その言葉に支えられ、私は今ここにいる。
皆の為に、一秒たりとも無駄にできない。
そう思いながら、私は無我夢中に勉強に打ち込んだ。
授業以外の誘いは皆断り、暇ができれば図書館で本を読む生活だった。
あまりに必死になり過ぎて、限度を超えたらしい。
ある日、図書館で本を読んでいたら、眠気が襲ってきて、気が付いたら、辺りは真っ暗になっていた。
慌てて体を起こすと、オレンジ色の暖かい光が灯った。
『イスマエル殿下、お目覚めになりましたか?』
そこには、女神が佇んでいた。
『私は一体…』
『お疲れの様でしたので、そのままにとわたくしがお願いいたしました。殿下は少々ご無理をされていらっしゃる様でしたので。』
『えっと、貴女は?』
女神はクスッと笑う。
『わたくしは殿下と同じクラスに在籍しておりますアリアナですわ。図書館は閉館になりました。鍵を閉めなければならないのですが…体調はいかがですか?』
『ああ、少々眠かっただけだ。体を休めたので、今はスッキリしている。』
『それでは、殿下さえ宜しければ、夕食をご一緒にいかがですか?寮の夕食の時間が過ぎてしまいましたので。』
彼女はそう言って、微笑んだ。
私のせいで、彼女も夕食を逃したのかと罪悪感から、夕食を一緒にすることを承諾した。
彼女はアカデミー内の奥にある別館へと、私を案内する。
『ここは?』
『貴賓室ですわ。』
『生徒が勝手に使っていいのかい?』
『ええ、わたくしの家が寄付した建物ですから。』
そう言って、彼女はどんどん入って行き、ダイニングに私を座らせた。
彼女は私の斜め横に座り、給仕が料理を運んできた。
『お口に合えばいいのですが。』
それは、私の国の料理だった。
トマトベースの豆と牛肉のスパイス煮込みである。
『わたくしは殿下のお国に行った事はありませんので、本を参考に作ってみたのですが、手に入れられなかったスパイスもあり、上手くできたかどうか…』
『えっ、もしかして貴女が作ったのですか?』
『はい。なので、味の保証は致しませんわ。毒は入っていませんが。』
彼女はニッコリ笑う。
早速、食べてみた。
懐かしい故郷の味だった。
最近、満足に食べず、一心不乱に書物を読んでいた為、最近の一口が身に染みた。
と同時に、満足な食事を食べる事ができない我が国の国民を思い出す。
不覚にも、目頭に涙が浮かんだ。
彼女はそっとハンカチを差し出してくれた。
『ゆっくり召し上がってくださいませ。殿下がお倒れになれば、今までの努力は無になりますわ。』
彼女の言う事は最もだ。
久しぶりの故郷の味は、私に食べると言う欲求を思い出させた。身体に力が漲る。
『大変美味しく頂きました。ありがとうございます。』
『よかったですわ。あちらの部屋にお茶を用意しております。いかがですか?』
『はい。頂きます。』
私達は隣の応接室に移った。
彼女がお茶を入れてくれ、席に着いた。
『殿下はお国を豊かにされたいのですよね。』
『ええ』
『その為に色々と書物を読まれていますが、本当にそれが一番大事な事でしょうか?』
『それは、どのような意味でしょうか?』
彼女は、なんでこんな事を聞くんだ?
『もちろん、書物を読み、新しい知識を得る事も大事です。ですが、折角殿下は我が国にいらしているのです。我が国の者や他国から留学されている方と交流を深める事や、ご自身の足を運んで視察される事も大事では?』
私にはチャラチャラ遊んでいる暇は無い。
勉強をするために、ここにいるのだ。
『私には限られた時間しかなく、物見雄山に来た訳ではない。効率よく知識を身に付ける為には、書物が一番だと思うのですが?』
『いいえ、殿下は今、貴方様しかできない事をするべきです。書物で知識を得る事は他の者でも出来ます。』
『貴女は一体何を仰りたいのか?』
私は自分が一生懸命に取り組んで来た事を否定されて、声に怒りを含む。
『わたくしは、殿下は身を削り書物に没頭されるより、皆と交流を持ち、もっと外に目を向けるべきだと。それはきっとお国の為になりますわ。百聞は一見にしかずと申しますでしょう?』
彼女は怯まない。それどころか、挑戦的な笑みを浮かべる。
『しかし今この瞬間にも、飢えて命を落としている者がいる。』
『ええ、存じております。だからこそ殿下は人脈を作るべきです。この1年は貴重な時間です。アカデミーには我が国の有力貴族や近隣の王族、貴族の方の子弟が沢山います。彼らと交流を持つ事で、得るものは大きなはずです。それに書物だけではなく、実際を見る事は大いに役に立つはずです。』
『しかし…』
私は揺るがない彼女にどう説明するか、言い淀む。
すると、彼女はデーブルをバンと叩いた。
茶器がガチャと音を立てる。
『いいですか、殿下お一人が幾ら知識を身につけても、貴方自身が身体を壊したら、それを役に立てる事は出来ません。知識は専門家に任せてもいいのです。将来、国を背負う立場の殿下は、それらの人々を上手に使う事を学ばなければいけません。考え方は1人だけでは偏ります。色々な意見を聞き、集まった情報を分析し、考え、実行出来る様に人を動かす。それが貴方がするべき事です。』
彼女はそう言って、ニッコリ笑った。
私は知識を身に付けて帰る事しか考えておらず、頭をハンマーで殴られた様な衝撃を受けた。
私が答えられないでいると、
『殿下が憂慮されている件について、わたくしと契約いたしませんか?』
『契約?』
『ええ』
彼女は口角を上げ、何か企んでいそうな笑顔だ。
『一体何を?』
『難しい事ではありませんわ。わたくしの頼みを聞いていただけましたら、殿下のお国への援助の一部をわたくしが引き受けますわ。』
『援助を引き受けるって。貴女は確かにご令嬢だが、自由になる資金などないだろう?』
『わたくしを見縊らないでくださいませ。わたくし自身の資産が少なからずありますわ。ただそれだけではなくってよ。援助もわたくし一人ならば出来ることが限られてきますが、わたくしなら他の方も引っ張り出して差し上げますわ。』
『だが…』
『殿下は一人でも国民を助けたいと思うのですね。』
『ああ。』
『ではわたくしと手を組むべきですわ。』
彼女はニコリと笑うが、空色の綺麗な目の奥が鋭い。
何を考えているのか。
『では、私は何をすれば良いのか?』
『わたくしの恋人役を。』
『恋人?貴女ほどの美人なら私などに頼まずとも、喜んで恋人になる者はいるだろう?』
そう、彼女は美しい。
初めて見た時もそう思ったが、図書館では女神が降りて来たと思ったほどだ。
『わたくしは本物の恋人が欲しい訳ではありませんわ。婚約者がいますし。』
『婚約者がいるのに何故?』
『婚約者は、わたくしより大切なご令嬢がいるのです。わたくしは邪魔者なのですわ。婚約は親が決めた事ですので、なかなか解消できないのです。』
『だから貴女にも恋人がいる振りをすると?』
『ええ。殿下とは仮の恋人なので、アカデミーを卒業するまででいいのです。婚約者は王子なので、それに見合う方で、わたくしに興味の無い殿下が適任なのですわ。』
興味のないか。
よく見ているなと思う。確かに彼女には今まで興味を示したり事はない。いや、誰にも興味を持った事がなかった。
『卒業までに婚約破棄できると?』
『彼ならそうするでしょう。』
『でも、貴方に不名誉な事になるのでは?』
『わたくしの価値は、婚約破棄ぐらいでは落ちませんわ。』
『私が貴女に興味を持つとは、思わないのか?』
私はこの言葉を発しながら、すでに彼女に興味を持ってしまった事を知る。
『思いませんわ。こんな突飛な事を言い出す令嬢なんて、誰も恋人にはしたくないと思いますもの。』
彼女は満面の笑みで言ってのける。
『自覚はあるのか。』
私は脱力する。
『婚約解消は貴女に恋人が無くとも、相手に恋人がいれば、可能では無いのか?』
『わたくしと表面上の婚姻をし、彼女を愛人に置くことが十分考えられます。わたくしはお飾りの妃になるぐらいなら、平民としてでも、愛情のある方と家庭を持ちたいと思いますわ。』
彼女のお飾りの妃と言う言葉が響く。
我が国の後宮には、愛情を受ける事もなく、日々を無意味に暮らしている妃が多い。
母はたまたま私を授かり、それなりの待遇を得られたが、父の訪れは絶えている。
『わかった。契約しよう。』
気がつくとそう答えていた。
お読みいただき、ありがとうございました。
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今日も自分で発見。落ち込みました。
次回はイスマエルとの契約についての話を書いています。アリアナに振り回されるイスマエル。明日か明後日には…投稿できるように頑張ります。




