妃教育?(アリアナ視点)
ブックマーク、評価ありがとうございます。
昨日ヨハネス視点の閑話を更新しています。閑話ですので読み飛ばしても本編には支障はありません。
婚約式と婚約披露の夜会は無事に終わった。
多分?
婚約式直前に誓いの言葉を忘れ、慌てて覚え直し、万一に備え、袖の中にカンペをお守り代わりに仕込んだなんて、言えない。
お陰で、クロード殿下の誓いの言葉は、気も漫ろで聞く羽目になったのだけど。
夜会もちょっとしたゴタゴタはあったけれど、取り敢えず、無事に乗り切った。
一番ハラハラしたのは、それぞれの国の大使と共にヨハネス殿下やレオンハルト殿下が夜会に紛れ込んでいた事だ。
クロード殿下が冷ややかな笑みで挨拶していたが、彼等は気にもせず、私に視線を向けていて、私がハラハラしてしまったとか、クロード殿下と離れた隙に、私が二人と話していたら、クロード殿下が無理矢理引き離したりとか…
他にも、私がクロード殿下狙いの貴族令嬢に絡まれたり、側妃狙いの親子に側妃を認めろと言われたりと、小さなハプニングはあったけれど。
あの怒涛の日々はもう十分だと呟けば、これからもっと忙しくなるんじゃないか?と兄がニヤリとした。
婚約に伴う一連の関連行事が終わり、ホッとして、さあこれから家でのんびりできると思ったのに。
現実は兄の言った通りだった。
私は変わらず毎日忙しく過ごしていた。
婚約式の後は、妃教育があるから登城するよう言われていた。妃教育は既にほとんど終わっている。甘く考えていたし、両親も午前か午後のどちらかだろうから、家から通いなさいと言ったので、一度は家に帰ったのだけど……
そう一日だけ。
私は相変わらず王宮に閉じ込められている。
閉じ込めているのは、クロード殿下ではなく、王妃陛下だった。
妃教育という名の元で、王妃陛下に連れて行かれ、毎日忙しく働いている。
教師が付いて行うような教育ではなく、要は王妃陛下の秘書官として働く事が妃教育だった。
王妃陛下は、外交と内政の一部を国王陛下の代わりに執務していた。知ってはいたのだけど、その仕事量に驚いてしまった。
王妃陛下の元に、様々な書類が持ち込まれている。
だが、年配の文官は王妃陛下が仕事をされる事を煙たく思い、若い文官は萎縮し、仕事に支障を来たしていた。
「これだから、益々忙しさに拍車が掛かるのよね…」
と陛下は溜息を吐く。
「アリアナが来てくれて助かるわー。貴女得意でしょう?」
とニッコリと微笑まれてしまい、私は逃げ場を失ってしまう。
「貴女達の婚約で、更に仕事が増えたのよ。期待しているわ。」
「陛下のお役に立てるか、わかりませんが…」
「あら、嫌だ。お義母様とは呼んでくれないの?国王陛下の義娘ならわたくしの義娘だわ」
「まだ結婚式は済ませておりません」
「では、アデールでいいわ。陛下なんて堅苦しくて嫌だわ」
「では、アデール様と呼ばせて頂きます」
そんな会話をした後は、既に準備されていた私の机に案内された。もちろん書類も山積みだった。
チラリとアデール様を見たら、優雅に微笑みを返されてしまう。
積み上がった書類を業務別に仕分けし、優先順位を付けながら、締め切り日のチェックをする。
陛下が判断する為の資料が必要であれば、どんな資料を用意するか、詳しい内容を指示する。
予算の項目は収支に間違いがないか確認する。
外交文書で翻訳が必要な物は翻訳させ、間違いがないかチェックする。
こんな単純な事が何で出来ないのかな?
人材不足なのか、教育不足なのか…
落ち着いたら、取り掛からなければならない課題よねぇ。
私が一番年下のはずが、一番大きな顔をして指示をだし、書類を片付けていく。
魔法師団でのお手伝いも忙しかったが、ここもかなり忙しい。
そんな中でも、王妃陛下はお茶会を主催したり、各国の大使と面会したり、国王陛下と共に公務に出かけている。お茶会や大使との面会は当然の様に付き添う事になる。
流石に王妃陛下の庇護下でのお茶会は、あからさまに絡まれたり、側妃を薦めるよう強要する者はいなかったけれど、クリストファー殿下の婚約者だった私がクロード殿下に乗り換えたと思われており、言葉の端々に嫌味が込められている。
わかってはいたけれど…
令嬢としての笑みを浮かべながら、嫌味には嫌味で対応するには疲れてしまう。
大使との面会では、旧知の大使からお祝いの言葉と贈り物を頂いた。
「我が国のイスマエル陛下からの祝いの品でございます。代替わりいたしましたので、是非アリアナ様を即位の式典にご招待したいと主は申しておりました」
イスマエル陛下からは婚約式前にも贈り物を頂いていたのだけど…
「お心遣い感謝いたします。イスマエル陛下はお元気でいらっしゃいますか?」
「はい。アリアナ様との再会を楽しみにしていると言付かっております」
「わたくしからも、この度のイスマエル陛下の皇位継承、お祝いを申し上げます。」
イスマエル殿下いえ、今は陛下だった…彼も頑張っていると聞けば、私も嬉しい。即位の式典は行けるかわからないけれど、叶うならば、いつか彼の国を訪ねたいな。
あまり詳しい話は出来なかったけれど、懐かしい大使との面会は嬉しかった。
何も予定がない日は、書類を捌いていく。
結果、私もどっぷりと仕事に嵌る事になり、気が付けば夕闇が広がる時間になっている。
そうしていると、王妃陛下から晩餐を一緒にと誘われ、夜も遅いから泊まりなさいと命じられれば、断る事は出来なかった。
そんな日々が数日続き、とうとう王妃の宮で部屋を賜る事になってしまったのよね。侍女の寮でいいとお願いしたのだけど、強引に客間の一つを私の部屋としてくれたのだった。
気が付けば、一ヶ月、王妃陛下の宮ばかりに滞在し、クロード殿下と会話は数回、廊下ですれ違った時だけだった。兄からも魔法通信が何度もきたが、眠っていたり、仕事中でなかなか連絡出来なかった。
婚約する前より会う頻度は少なくなり、婚約した事を忘れてしまいそう…
クロード殿下が数回押し掛けて来たそうだが、王妃陛下が追い返したそうだ。知らなかった…
いいんだろうか?と思いながらも、余りにも目の前に仕事が積み重なり、考える余裕がなくなっている。他の若い文官はこれでもマシになりましたと遠い目をしていた。
これが妃教育とは思いたくはないけれど、王妃陛下がされているのであれば、次代の王妃に求められる能力なのよね。
普通の令嬢はついていけないと思うけれど。
アデール様は生き生きとしているし。
「アリアナが来てくれて助かったわ。やっぱりわたくしが見込んだ娘だわ。婚約解消して、もうこのままここに就職しない?わたくしの養女にしてあげるから」
「また婚約解消ですか?わたくしお嫁に行き遅れますわ。というか、二回も婚約解消された娘など誰も貰ってくれなくなりますわ」
「結婚だけが幸せではないわよ。仕事も楽しいわよ!」
アデール様、貴女がそれを仰っていいのでしょうか?確かに私も仕事が好きだけど。
でもお城の仕事より、物を作ったり、貿易の仕事をしたりする方が楽しいのよね。
「そうかもしれませんが、わたくし文官には向いていないので、こちらに就職は無理ですわ」
私がそう言えば、同じ部屋にいた文官たちが慌てて首を横に振る。
「貴女が向いていないのであれば、誰も向いていないわよ。わかって言っている?貴女はアカデミー卒業したばかりなのに、すでにベテラン並みに仕事こなしている事を」
「魔法師団でクロード殿下の補佐をしておりましたから、書類の整理ぐらいであればできますが、大した事はしておりません」
「全く自分の能力を過小評価しているのね。文官の仕事はクロード殿下が貴女に教えたの?」
「いえ、だいたいの事は書類を見ればわかりますから」
自分の仕事で書類仕事や指示出しをしていましたなんて、間違っても言えません。
ましてや、前世では働いていましたなんて…
私は微笑んで誤魔化してみる。
「そう、貴女、魔法師団の方は随分前から手伝っていたのではなくって?」
「アカデミーに入学した頃からです。兄から手伝えと言われ、仕方なしに手伝っていたのです。クロード殿下も書類が積み上がっておりましたから」
「そうなの?彼は独り占めしていたのね」
益々クロード殿下に返したくはないわね。何かいい方法ないかしら?
そう聞こえたのは気のせいだと思いたい。
「クロード殿下が何か?」
「いえ、此方のことよ。貴女には関係ないから心配しないで頂戴」
「では、わたくしこの書類を陛下に届けて参ります」
そう言って、席を立ったら、文官の一人が血相を変えて、私から書類を取り上げた。
「アリアナはわたくしと休憩しましょう」
そう、ここ一週間はこの宮から余り出る事がない。
だからクロード殿下にも会っていなかった。
兄からとにかく用事を見つけて王妃陛下の宮から出てこい!と言われていたのだけど…
ここは決められた護衛と文官の一部しか入れない。
更に奥にある私の客間は女性しか入れない区域にある。
私は目の前の仕事で手一杯で、これが妃教育と思えば、手を抜けないと頑張っているのだけど、クロード殿下と会わない日々が続くと、だんだんと結婚に不安を感じてしまう。
今日も暗くなるまで書類仕事だった。
最近は晩餐も王妃陛下と一緒の事が多い。
可愛がってくれて嬉しいけれど、国王陛下と一緒に晩餐を取らなくともいいのだろうか?そう疑問に思っていたら、今日は国王陛下も一緒だった。
「アリアナ、頑張ってくれているそうだね」
「勿体ないお言葉でございます」
「何か不自由はないかね?」
ここで婚約者と会えませんと言っていいのだろうか?アデール様の視線を感じ、優等生の答えを選んでしまう。
「お部屋も頂いておりますし、過分なご配慮恐れ入ります」
「ねえ、アリアナは元気でしょう?クロード殿下にはそう伝えてくださいな。当分わたくしが預かると」
「だがなぁ、クロードが返せと煩いんだ。返さないなら、せめて自由に会わせて欲しいと言っていたが、会わせていないのか?」
「アリアナはわたくしを手伝ってくれていますので、忙しいのですわ。クロード殿下にはアリアナの兄が付いているではないですか。わたくしの手足となる文官がいないのです。いずれ妃になるのであれば、わたくしの仕事ができるようになって貰わなければ困ります。数ヶ月会えないぐらい何ですか?多少の困難ぐらい乗り越えなくては愛は燃えないわよ。ねえ、アリアナ?」
数ヶ月は会えない設定らしい。
困難を乗り越える前に愛の灯火が消えたらどうなるのかな?と思ったけれど、口を噤み、曖昧な笑みを浮かべておく。
陛下は憐憫の眼差しを私に向けてくれたが、王妃陛下の方が力が強いらしい。
「アリアナ、わたくしのところで問題ないわよね?」
そう言われれば、是と頷くしかなかった。
もしかして、王太子妃というブラックな職場に就職内定したのかしら?
そう思ったのは内緒だ。
仲の良い両陛下のやり取りを聴きながら、晩餐を終えたのだった。
お読み頂きありがとうございました。
稚拙な文章にお付き合い頂き、いつも感謝しております。
次回、一応最終話の予定です。明日か明後日に更新したいと思います。




