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悪役令嬢は婚約破棄を言い出した王子様に決闘を申し込む。  作者: 藤宮サラ
第二章 決闘後

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【閑話】アリアナと北の国で過ごした日々(ヨハネス視点)

ブックマーク、評価等ありがとうございます。

今回は閑話になります。


 姫とクロード殿下の婚約式が執り行われる事になり、各国の大使に招待状が送られて来たらしい。


 姫はやはりクロード殿下と婚約するのか…と落ち込んだ。だが、姫の意思ではないかもしれない。

 それにまだ婚約の段階だ。結婚したわけではない。


 姫はどう過ごしているのだろう?

 姫はこの婚約をどう思っているのか?


 姫と二人で過ごした数日間を思い出す。





 初めての二人きりのランチを食べ、姫に王宮の中を案内する。


 二人で歩いていると、すれ違う臣下や使用人たちが、気軽に声をかけてくる。


「ヨハネス殿下、お嫁さんですか!」

「綺麗な方を捕まえましたねえ。頭と一緒たお嬢さんですよね?」


 城の中では、姫はもう婚約者扱いだった。


「すみません。我が国は王族と民の距離が近いのです。無礼に思われるかもしれませんが」


「わたくしはお世話になっている身ですから、お気になさらず」


「姫は馬に乗れますか?」


「ええ。嗜み程度には?」

と、姫は首を傾げる。


「では、お疲れでなければ、明日は遠乗りに行きませんか?川で魚を取っている場所があるのです」


「それは楽しみですわ。殿下にご無理がなければ、是非ご一緒させてくださいませ」


 姫は思っていた以上に気さくな方だった。

 臣下や使用人にも、優しく挨拶を返され、民の暮らしを見てみたいと言う。


 彼女であれば、皆と一緒に作業に参加するかもしれない。フランベールの普通の貴族のお嬢様には無理だろうけれど。


 そんな事を思っていると、侍従が伝言を伝えて来た。

 姫の歓迎の為の晩餐会を開くと父が言うので、嫌な予感がした。


 母が言うのであれば、心配はしなかった。

 だが、父の晩餐会は、野外で豪華に肉を焼き、敷物の上に車座で座って、飲み食いする無礼講の豪快なものだった。


 慌てて母に確認するが、母も諦めていた。

 どうしても我が一族の方法で歓迎したいらしい。姫が驚かなければいいが…


 そして夕方、姫には母が動きやすい我が国の民族衣装を用意してくれた。

 上衣はワンピースの様に足首まで長く、両脇に長くスリットが入っている。その下に足首まであるスカートを一枚穿く物だ。姫はとても動きやすいと気に入っていた。


 晩餐会も驚かなければいいのだが。


 彼女をエスコートしながら、中庭に用意された敷物とクッションが置かれた場所に案内する。


「姫、今日は我が国の歓迎の宴です。他国とは趣きが違いますが姫は敷物の上でもよろしいですか?テーブルと椅子の方がよろしければ、別に用意させますが?」


「わたくしは皆様と一緒に敷物の上かいいですわ。楽しそうですね」


 心配は杞憂だった。

 姫は敷物の上のクッションに喜んで座り、皆と談笑を始めた。

 妹が勝手に隣に座り、色々と話しかけてながら、料理を取り分けている。


 ホッとしながら見守っていると、父が背後に立ち、声をかけてきた。


「いい娘だな。とてもフランベールの公爵令嬢には見えない。あの調子であれば、我が国でもやっていけるだろう。ヨハネス、頑張れよ!」


「父上こそ、いい加減に国王としての威厳を見せてください。いつまで経っても頭では困ります」


「アリアナ姫がそう言ったのか?ハハハ!光栄だな。だが、彼女は全く怖がっていなかったぞ。普通は怖がるはずなんだが?」


「彼女は権力に屈する方ではないですから…」


「お前の嫁さんに来て貰えればいいが、なかなか厳しそうだな。あんなに良いお嬢さんなら、ライバルも多いのだろう?俺の様に力尽くで囲い込むか?」


「私は父上ではありません」


 父は母を攫うように娶ったのだ。

 母は我が国の東にある小国の姫だったらしい。

 父は自分が力尽くで連れて来たと思っているが、母は国から出たくて、父を利用したらしいから、どちらもどちらだ。見た目は美女と野獣だけど。二人は今も仲良くしているので、本当は相思相愛だったのだろう。


 私もアリアナ姫と一緒に暮していけたら、どんなに嬉しいか。この一日だけでも彼女の新しい一面を垣間見ることができ、彼女への想いが、憧れから恋情へ変わっていく。


 次の日、朝食を終え、馬に乗って郊外の川に来た。

 護衛の数騎も一緒だ。姫は難なく馬を乗りこなしている。


「ヨハネス殿下、驚きましたね。彼女の乗馬の腕は大したものです」

 側近の一人が話しかけてきた。

 途中、かなり足場の悪い場所もあり、姫一人で乗り切れないだろうから、途中て僕が同乗させると伝えてあったのだ。しかし、姫は一人で軽々馬を走らせ、僕や護衛を驚かせたのだ。

 

「ああ、色々と出来る人なんだ」


 川沿いで、彼女が手を振る。

 慌てて駆け寄ると、彼女は魚が泳いでいると、喜んでいた。


「姫、魚釣りをした事はありますか?」


「いえ、初めてですわ」


 彼女は嬉々として、魚釣りを楽しむ。

 彼女も一匹サーモンを釣り、上機嫌だった。


 釣った魚は、城で料理してもらうよう、護衛の一人に持たせる。


 満足した姫と、持ってきたサンドイッチを食べ、周辺を馬で駆けていく。


「素敵な景色ですわ。心が洗われます」


「何もない田舎ですが、我が国の宝です」


「そう仰る殿下がこの国の宝なのですね。何もない田舎ではありません。こんなに豊かな自然があるのですから。殿下でしたら、この国を豊かに導いてくださるのでしょう?」


「私はまだまだその様な重大な責務は負えません。ですが、民の暮らしを守っていける様、これからも色々学んでいかなければとは思っています」


「ヨハネス殿下らしいですわ」


「姫は田舎暮らしはお気に召しませんよね?」


「あら?わたくしは気に入っていますわよ。流石に何日も食べ物が食べれない様な生活は、自信がありませんけれど…」


「それは私も無理です」


 そう言えば、二人で吹き出した。


 アカデミーでは、高嶺の花だった。

 気安く話しかけてくれたけれど、こんなに人間性がある魅力的な方だったとは。


 どんどん惹かれている自分を止められそうにない。


 そして姫を丘陵地の先にある崖の上に誘った。そこは、見晴らしが良く、遠くまで海が見える。

 北の国では、夏は日の入りが遅い。

 いつまでも明るい空の向こうと海の青が混ざり合い、境界線を曖昧にしていた。


「うわぁ!」


 アリアナ姫が感嘆の声を上げる。


「私のお気に入りの景色です。どこまでも続く空と海を見ていると、落ち着くのです」


 そう、この青はアリアナ姫の瞳の色、空色だった。


 彼女は瞳の中に同じ色の空と海を写し、遠くをみている。一瞬その瞳に寂しさが宿った気がした。

 今、誰を想っているのだろうか?

 いつも凛としている姫が、儚げに映り、このまま空に溶け込むんじゃないか、精霊に連れ去られるんじゃないか、そんな気がして、思わず手を伸ばし、姫の腕を取った。


「余り崖の近くに行くと、危ないですよ。海の精霊から連れ去られます」


姫は少し驚いた様に僕を見たが、次の瞬間には、いつもの彼女だった。


「精霊信仰が残っている土地ですものね。いえ、本当に精霊が守って下さっているのでしょう。余りにも素敵な景色で、つい引き寄せられた様です。ご心配をおかけしました」


僕は姫の腕を離したくはなかった。

なので、エスコートの様に、自分の腕を出す。


「危ないですので、宜しければ腕に手を置いて下さい」


「ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせて頂きます」


微笑みながら、彼女の手が僕の腕に置かれる。

このまま時が止まればいい…そう思うほど幸せな時間だ。


「心が洗われるようですわ。ありがとうございます。連れて来ていただいて。」


「夕焼けの海も綺麗なのですが、今は日の入りが遅いので。また見に来ましょう」


「楽しみにしていますわ。他にも民の暮らしがみたいです。フワモコのぬいぐるみを作るところもみたいですわ」


「フワモコのぬいぐるみは冬の手仕事ですが、羊毛を刈って、冬に向けて糸を作る作業は近く行う予定です。マリーは参加しますが、姫も見学されますか?」


「ぜひ!」


 花が綻ぶような笑顔の姫に先ほどの寂しさは見られなかった。


 このままこの国で過ごして貰えたらどんなにいいか。いや、僕の隣で一生笑っていて欲しい。


 姫にこの国をもっと好きになってもらえるよう、頑張ろう。そう決意したのだった。





 だけど、早々に姫の迎えが来てしまう。

 しかも姫を攫われそうになり、溺れさせてしまった。

 姫は誰のせいでも無いと、僕だけでなく、攫おうとしたルーカスも悪くないと言って、皆を庇っていた。


 姫を守れなかった…

 自責の念に囚われる。


 姫からは、礼と詫びの手紙が届いた。

 働くと約束したから、これからもアドバイスであれば、手紙や魔法通信で力になりたいと仰ってくれた。


 僅かでも姫との繋がりが残る事に、一筋の希望を見出す。


「お前は黙って見ているのか?」


 父が嗾けてくるが、挑発に乗るわけにはいかない。

 姫が逃げ出したいのであれば、喜んで手を貸すけれど、姫は婚約をどう思っているのか?


「姫の相手の第一王子に、今周辺国から縁談が多数舞い込んでいるらしい。フランベールは大陸の二大大国の一つだからな。王太子として立つ事が決まり、安心して申し込む事ができると踏んでの事だろう」


「彼はアリアナ姫と婚約するはずですが?婚約式の案内が大使に来ているそうです」


「アリアナ姫は所詮自国の貴族令嬢だと侮り、王族の姫である娘を王妃にしろと言っている国もある。あの国は側妃制度があるからな。そうなれば婚約しようが関係ない。他国の姫が嫁ぐまでは婚約状態のまま、結婚は先延ばしにされるだろう」


「クロード殿下が他国の姫を望まずとも?」


「王族の結婚とは本来本人の希望は二の次になる。だから欲しいものは力尽くで奪い、文句を言わせないぐらいの力を付けないと好きな女を手に入れる事など出来ないぞ!」


「それは父上の事では?」


「ハハハ!お前にも俺の血が入っているはずだ。いや、お前の母の方がもっと凄いぞ。喜んでこの俺に付いて来たんだからな。お前も欲しいなら全力を尽くせ。彼女の気持ちを手に入れろ!時間は限られているからな!」


 僕に父ほどの力と行動力があればどんなにいいか。

 だが、嘆いてばかりでは、何も始まらない。


 出来る事から始めなければ。


 クロード殿下とアリアナ姫は婚約は決まったが、まだ結婚した訳ではない。クロード殿下に他国の姫君が嫁ぐのであれば、アリアナ姫を振り向かせる機会があるはずだ。


 そう考えた僕は、姫の婚約披露の夜会に行く為に動いたのだった。






お読み頂き、ありがとうございました。

リクエストがあったので、ヨハネス視点を書いてみたいなと思ったらこちらが先に仕上がってしまいました。

次回はアリアナ視点の本編?になります。

明日か明後日には更新できると思いますので、お付き合い頂けますと嬉しいです。


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