クロードの求婚(アリアナ視点)
ブックマーク、評価等ありがとうございます。
前話の続き、アリアナ視点です。
人前での婚約式なんて、何の罰ゲームかと思う。
だけど、帰りたいと言った私に、兄は首を横に振った。
「本当はそうしろって言いたいが……クロードから怨まれる。」
兄は困った様な顔をしながら、私の頬を撫でる。
「今日はおめでとう。クロードはお前を幸せにしてくれると信じている。だけど、辛くなったら、真っ先に俺を頼ってくれ。この間みたいに一人で抱え込むなよ。婚約が嫌になったら、いつでも解消させるから。」
相変わらず兄は男前よね。私が妹じゃなければ、恋人に立候補していたのに。
「お兄様、ご心配をお掛けしてごめんなさい。次からはお兄様を一番に頼るわ。」
北の国での一件では、兄が目の前で溺れている所を見てしまい、心に傷を付けてしまった様だ。
「ああ、そうしてくれ。お前が婚約しようと、嫁に行こうと、俺が兄である事には変わらない。頼れよ。」
「ありがとう。お兄様。」
兄は額にキスをくれ、抱きしめてくれた。クロードが妬くから、今のうちに抱きしめておくと言って。
丁度その時、クロード殿下が入って来た。
物凄く不機嫌な顔をして。
「誰を一番に頼らなければならないか、まだわからない様だな。どうしたら理解できるか、考えなければならないか?」
婚約式当日に、怖い顔をして言う言葉なのだろうか?
そもそも殿下の想う方は私じゃない。
だけど、今まで私が起こした問題にクロード殿下は巻き込まれているのは確かだから、問題を大きくする前に報告しろという事かな?
私が目を見開いていると、クロード殿下は兄を引き離した。
「私のアリアナに手を出さないでくれ。」
兄はニヤリと笑う。
「アリアナは俺の妹だ。それはどんな事があっても変わらない。お前はただの婚約者だ。婚約が無くなれば、他人だよ。」
妹争奪戦なんだ。
ちょっとホッとした。殿下も私のことは妹だから、婚約しても上手くやっていけると思ったんだ。
そう考えると、少し気持ちが落ち着いた。
お兄様、火に油を注がないでくださいませ。と叫びそうになったけれど、何とか思い留まった。
今からの婚約式が頭が痛い…
折角頭に入れた手順や誓いの言葉が、頭の中から逃げ出しそう。
ついでに私も逃げ出したい。
婚約式直前なのに……
笑顔で毒を吐く二人を眺めながら、溜息を大きく吐いてしまった。
「殿下?兄ですよ?家族です。」
「兄だろうが許せない。アリアナは私のものだ。」
えっと…殿下は私も独占したいという事でしょうか?
想う方がいらっしゃるのに?
「クロード、お前、アリアナはまだわかっていないぞ。婚約も義務だと思われている。まだ口説き落とせていないのか?」
「………悪かったな。アリアナが信じてくれないのが悪い。」
「だから婚約式を急いだのか?」
「悪いか?アリアナが婚約解消したと知った各国から縁談の申し込みが来ているんだろう?国内の上位貴族は抑えられても、国外は難しい。それならば早く周知するに越した事はないだろう。」
その話を聞いて、心当たりのある私は、文箱に視線を向けてしまった。
中に入っているカードの差出人が、まさに他国の王子様達で、中に書いてある文面は、攫う、迎えに行く、待っている等、婚約式を前にした女性に贈る言葉ではない。
クロード殿下に想う方がいるのであれば、他国に逃げ出すのもいい方法かもと考えていたなんて、口が裂けても言えません。
「アリアナ?」
そう呼びかけられ、慌てて視線を戻すも、何を見ていたか、バレてしまった様だ。
「その文箱には何が入っているのかな?教えてくれないか?」
「わたくしのお友達からのお祝いのカードですわ。殿下がお気になさる様な物ではありません。」
王子様達もお友達だし。嘘はついていない。
「ふ〜ん。じゃあ私も当事者だから、見てもいいよね。」
ここに婚約式を前にしたとは思えない、ブリザードを含んだ笑みを浮かべた人が…
それは非常に困ります。とは言えないので、引きつった笑みで誤魔化した。
兄に助けて!と視線を送る。
「クロード、そんな文箱の事より、アリアナに自分の気持ちを伝えろ。こいつは鈍いから、お前の想い人が誰かなんて、この場に及んでも聞いてくるんだ。時間はあまり無いが、せめて誤解は解いておけよ。ああ、これは俺が預かっておくよ。公爵家として、返事を出さなければならない文があるからな。」
そう言って、出来る兄は文箱を手に取って部屋を出た。兄が確認しても、怖い結果になりそうだけど…
ルーカス殿下のカードは日本語で良かったと今更ながらに思ってしまった。
部屋には二人きり。
微妙な空気が流れる。
クロード殿下は私の隣に座り、頬にそっと手を当てた。
「アリアナ、綺麗だよ。もしかして泣いていた?」
「ええ、少し感情的になってしまった様です。殿下も素敵ですわ。いつもですけれど。」
王子様の見本の様な殿下が濃紺の礼服を纏うと、周囲がキラキラ光って見える。私が逃げ出したいと思うぐらい綺麗だ。
「まだ私の想い人が誰だかわかっていない様だね。」
「だって、わたくしにも殿下はお優しいですから。」
兄や私に本心を言える訳は無いから、心に留めて、一人で悩むのでしょう?とは、言えなかったけれど。
「誤解させたのは悪かった。私は君が私の想い人だと伝えたかったのだ。誤解は早く解きたかったが、君はクリストファーの婚約者だったし、表だって好意を表す訳にはいかなかった。けれど、信じて欲しい。私が愛しているのは、君だけだ。もう10年以上、君だけを想っている。」
「殿下、無理をされないでくださいませ。わたくしは妹の様な者で、殿下には本当に愛する方がいらはっしゃるのでしょう?10年前はわたくしはまだ子供ですわ。本当は殿下が望む方を正妃にされたらいいのに。」
「だから、その本当に愛している私の想い人がアリアナだ。だからこそ私の側に置いていたんだよ。エリックに頼んでいたんだ。君を連れて来て欲しいと。」
「だって…妹ができた様で嬉しいと。」
「そうでも言わなければ、アリアナは私の側にいてくれなかっただろう?クリストファーとの事もあったし。兄の立場だとしても側にいたかったのだ。だが、だんだん兄の立場を保つ事が辛くなってきていた。アリアナはモテるからな。他国の王子達に取られるのではないかとずっと心配だった。」
何度、閉じ込めてしまおうかと思ったか……
と、呟いている。
今まで、監視付きで閉じ込めていたのは誰でしょう?と、口に出してしまいそう…
いけない、いけない…益々暴走されたら困るし。
「本当にわたくしでよろしいのですか?」
本当に殿下の想う方は私だったの?そう聞きたいけれど、勇気はなかった。
「アリアナが良いのだ。他の誰も要らない。側妃も持たないと約束する。だから私の花嫁になっておくれ。」
殿下はそう言って、私をソファーの横に立たせ、私の前で跪き、私の手を取る。
「誓いは神の前で行うが、アリアナ自身に誓いたい。私の身は国と国民に捧げている。だが我が愛はアリアナだけに捧げる。結婚して欲しい。偽りの無い私の気持ちだ。」
間違いなく殿下の本心なのだろう。
私の心は、混乱の文字が飛び交い、言葉が見つからない。
「困りましたわ。」
出てきた言葉が本心だった。
私の気持ちはどうなんだろう?
誰が好きだと考えない様に生きてきた。とにかくバッドエンドを回避して、田舎で引きこもり生活が出来れば良いと。
私が好きな人が出来れば、それはバッドエンドを引き起こす可能性が高いから。
「何で困るんだ?」
そう聞かれても、本心を答える訳にはいかないし…
頭をフル回転させ、答えを取り繕う。
「だって、将来の国王陛下からの愛情が、民に向かないのは、国として困ります。わたくしはこのお申し出を受けるべきでは無いのかと…」
うん。いい答え。
王妃教育が役に立っている!
クロードは目を丸くした後、スッと立ち上がり、次の瞬間には、獲物を捕らえる様な鋭い目で私を見下ろしていた。怖い!逃げ出したい!
「アリアナ…国民には親愛の情を分け与えるから、よいだろう?」
「ふふふ…殿下、お顔が怖いですわよ。今から婚約式ですのに。」
そう言って、少しでも距離を取ろうと後退る。
でもそれを見逃してくれるほど甘くはなかった。
殿下は私の腕を掴み、益々距離を縮めた。
「アリアナが返事をくれないのが悪いんだ。だが、どんな返事でも、君が私の正妃になる事は決まったんだ。ゆっくり口説き落とすさ。」
いつも冷静沈着なクロード殿下が、自分の感情を露わにし、自分の希望を口にしている。駄々っ子の様な言葉は昔の明るかった殿下を思い起こさせた。
「わたくしもお兄様と思いお慕いしておりましたので、急には難しいですわ。ですから、お手柔らかにお願い致します。」
もう逃げるのは無理だと悟った。
逃げ出すから、周囲に迷惑をかけてしまう。
クロード殿下は私の憧れの人でもあった。二人で幸せになれるはず?バッドエンドじゃないよね。きっと。
「それは了承と受け取るぞ。」
「ええ、よろしくお願いいたしま……」
私がいい終わらない内に、殿下の顔が近付き、次に気が付いたら、私の唇は柔らかいもので塞がれていた。
殿下にキスされたのだと気が付いた時には、もう殿下の唇は離れていたけれど、彼の胸に抱きしめられていた。
自分でも顔が火照るのがわかり、顔を上げる事ができない。殿下の腕の中が心地よいと感じる反面、私の心臓は破裂するんじゃないかと思うぐらいに、忙しい。
さっきお手柔らかにってお願いしたのに!
ゆっくり口説くんじゃなかったの!
そう叫びたかったのに、声にはならず、もう心身共にクタクタだった。
ソファーに座らせてもらった時には、もう恥ずかしくて顔を合わせられない。
折角の化粧も台無しになった。
まあ、その前から泣いていたのだから、やり直しには違いなかったけれど。
隣に座った殿下はそっと私の手を握り、私の耳元で囁いた。
「早く結婚したい。私が愛しているのはアリアナだけだよ。忘れないで。」
更に真っ赤になった私の顔は、両手で塞ぐしかなく、この居た堪れない時間が早く終わる事をただただ願っていた。
願いが届いたのか、私の心臓が壊れる前に、兄が殿下を迎えに来てくれた。
入れ替わりに侍女が入って支度を整えてくれる。ボロボロの顔を見ても何も声にはしないけれど、生温かい視線が辛い。
そんな中、私には新しい気持ちが湧いていた。
殿下の気持ちを信じてみよう。
自分の気持ちにも正直に生きてみよう。
もう、ゲームに囚われるのは止めて、この世界の私の人生を自分の力で歩いていこう。
未来がどうなるか、まだわからないけれど、きっと悪い事ばかりじゃない。楽しい事も一杯あるはず。
さっきとは違う気持ちで婚約式に臨むことができそう。
だけど、誓いの言葉は私の頭の中から逃げてしまった。逃げ切れなかった私はもう一度覚えなおさないと…
覚え書を手にした私は、婚約式を無事に終える事ができます様にと、願わずにはいられなかった。
お読み頂き、ありがとうございました。
次回はクロード視点を予定しています。
完結に向けて頑張っていますが、まだ終わらず…
あと少しお付き合い頂けますと嬉しいです。




