婚約式とお祝いカード2(アリアナ視点)
ブックマーク、評価ありがとうございます。
前話の続きです。
カードに目を落とし、やっぱりと思う。
[アリアナへ
クロードとの婚約、おめでとうと言うべきなのか?
せいぜい頑張って務めてくれ。
お前のせいで子爵まで下がり、今は忙しい毎日だ。覚えていろ!いつかお前を見返してやるからな。だから俺を忘れるな。
絶対義姉など呼ばぬからな。 クリストファー]
これは恨み辛みの一種だろうか?
だけど、クリストファー殿下からもカードを貰うとは思わなかった。ましてや装飾品を貰ったのも初めてかもしれない。いや、幼い頃にリボンは貰ったかも。今回は髪飾りだった。
カードの文面には、クスリと笑ってしまった。
さっき思い出した、お飾りの妃と言われた件も、彼の今の状況を考えれば笑い話にしかならないよね。
今は子爵家の当主になり、国王陛下から厳しい指導ができる執事を付けられ、当主として領地経営の勉強をさせられているらしい。
最後の言葉は少しは効果があったと思いたいな。
彼が本気になれば、子爵家の領地経営以上の力を発揮できると思う。決して頭が悪い訳ではない。周囲がチヤホヤし過ぎたせいで、努力をしなかったのが悪かったのだから。
彼が入れ込んでいたカーラは修道院に入れられたそうだ。そこでも魅了のスキルを十分に生かし、信奉者を増やし、寄付を募り、付属の孤児院経営に役立てていると聞いた時は、それ誰の話?と思ってしまった。
彼女は、自分の子供の頃より更に酷い状況の孤児院を見て、色々と考える所があったらしい。そんなに酷い孤児院がまだあったのかと、私の力不足を反省したが、カーラの力が発揮出来る場があって良かったと思う。
孤児達には慕われ、下町の逞しい生き方を教え込んで、本人は生き生きしているとか。元々いい生活をしたいと奮闘していた彼女だから、方向性さえ間違わなけば大丈夫だろう。
しかし、修道院で魅了の力を発揮っていいのかしら?と思ったけれど、院長が監視している中での話だし、孤児の役に立っているのであれば、まあいいかな。それにしても、カーラは魅了魔法を使えたんだ…知らなかった。そのうち聖女様なんて呼ばれているかも。
最後のカードを手に取る。
差出人が書いていないそのカードはアカデミーの同期の友人からのカードに紛れていた。
開くと懐かしい文字が見えた。
この世界にはない文字を見て、まさか?と思う。
そっと開いて見ると、懐かしい文字と筆跡で書いてあるカードだった。
[梨奈へ
おめでとうと言いたいが、まだ心の傷が癒えていない。いつか笑って言えるまで許して欲しい。
梨奈が無事で良かったと思う。
あの時、俺も流されたが、親切な人に助けられて無事だった。暫くは身動きが取れず、療養していたので、行方不明扱いになってしまったが…
暴走したのは反省している。許して欲しい。
梨奈を幸せにしたいと思ったんだ。側にいたかった。もう会えないかと思うと、胸が張り裂けそうだ。
俺がした事は許されないだろう。だが、俺で役に立つ事があれば、いつでも頼って欲しい。
折角、神様から生かされたんだ。俺もこの世界で生きていく意味を見つけてみるよ。
これからの人生、後悔しない様に。
いつかどこかの世界で、また会える事を願う。
ルーカス]
ルーカス殿下のカードを手に取り、日本語の文字を追っていく。
無事で良かった…本当に助かって良かった……
カードにポタポタと涙が落ち、慌ててハンカチで拭う。
行方不明としか聞いていなかったので、もう生きていないのかもと絶望感と後悔に苛まれていたのだから。
元を辿れば、彼の暴走が招いた結果だけど、私が故意に川に飛び込み、彼を危険な目に遭わせた。彼の背負う重い後悔を私も知ってしまった以上、彼を責める事は出来ない。
前世の記憶は、ただでさえ重くのしかかるのに。
前世の私の運命は、事故に遭う事も含めて決まっていたのだと思う。そうでなければ、この世界に私はいないし、皆と会う事もなかった。
前世の記憶を持ちながら転生した事に意味があると思いたい。この世界の中で少しでも役に立てれば、私の存在価値があるはずよね。きっと…
ルーカス殿下にもわかってもらえたらいいな。
生きていれば、また会える。きっとどこかで。
その時には笑って話したい。
甘いと言われても、彼が新しい人生で幸せを掴んでくれます様に願わずにはいられなかった。
なんだかホッとしたのと、前世を含めて色々と思い出して、涙が止まらない。
彼には、助けてくれてありがとう。無事で良かった。と返事を書こう。
届けてくれた友人にもお礼を言わなきゃ。
次から次へと流れてくる涙を拭い、なんとか気持ちを落ち着かせた。
さて、カードをどう隠すか。取り敢えず文箱に入れたけれど、それぞれ個性的な祝いのカードよねえ。
しかもお祝いといいながら、それぞれ自分の瞳や髪に合わせたアクセサリーを送ってくるなんて。
見つかると大変だ。
そんな事を考えていたら、ノックの音がしたので、慌てて文箱の蓋をした。
「アリアナ、今いいか?」
礼装に身を包んだ兄だった。妹の贔屓目でなくとも美丈夫だと思う。加えて、頭脳明晰で、剣の腕は立ち、魔法力も高い公爵家嫡男で、王太子の側近。
なのに、恋人がいないなんて。
「ええ、どうかなさいました?」
兄は私の横に座る。
兄はじっと私の顔を見た後、私の顔に手を伸ばして来た。
そして目尻にそっと手を当てる。
「お前、泣いていたのか?クロードとの婚約も嫌だったのか?」
泣いていたのが、バレてしまう。でも、ここにもう一人、今更な事を言っている人がいる。
もしかして泣くほど嫌だと思われた?
政略結婚は連れ戻された時点で覚悟していたのに。
逃走した私が言っても説得力ないけどね。
「今更、何を仰っているの?お兄様。」
私が伺う様に兄を見たら、兄は苦笑した。
そして、兄は心配そうに私を覗き込んだ。
「いや、クロードが嫌だったから、泣いていたんじゃないのか?」
泣いていたのは、ルーカス殿下が無事だと知ったからです、とは言えない。
だけどクロード殿下との婚約は、手放しで喜んでいる訳でもない。
クロード殿下が嫌なのではなく、私が妹としてしか見られていないんじゃないかと。そして私との婚約は陛下の命で仕方なく従っているのではないかと不安だった。
私自身もクロード殿下の事は兄の一人だと思う様にしていたし、自分の気持ちもよくわからない。
そんな中、気が進まない婚約を殿下が押し付けられているのでは?私は彼の隣に立つべきでは無いのでは?と考えてしまう。
本当は脱走したい気分。何度も繰り返した実績がある私に対して、当然のように対策は取られている。だから私は今ここにいるのだけど。
「いえ、クロード殿下に想う方がいらっしゃると聞いていたので、私がいない方が殿下の為かと。」
兄は訝し気な表情をする。
「それで、クロードの想い人が誰だかわかったのか?」
「それがはっきり教えて頂けないのです。お兄様何かご存知じゃありませんか?もし殿下がその方を望まれるのであれば、結婚式までに何とかしなければなりませんから。」
私がそう言えば、兄は眉間を押さえている。
「あいつ馬鹿か?」
と独り言をぶつぶつと言っている。
「お兄様?」
「ああ、クロードの想い人は本人から聞いてみろ。」
聞いても私だとしか仰られないし。
クリストファー殿下と違い、真面目な殿下は婚約が決まった相手に心配をさせる様な事は言わないと、長い付き合いの私はわかる。
「何度も聞きましたわ。私だって仰って、無理されるのですから、お兄様にお聞きしたのに。」
「………クロードも報われないな。」
兄は凄く残念な子を見る様な目で私と向き合った。
「何が報われないのです?好きな方はどなたなのですか?身分が問題なら何とかできないのですか?」
私は本気で何とかしてあげたいと思っているのに。
悪役令嬢だから、殿下の想い人を知ったら、意地悪か排除すると思われているのだろうか?
カーラという前例があり、信じられないという気持ちはわかるのだけど、私だってカーラがあんな事をしなければ、穏便に済ませるつもりだったのに。
「お前が相変わらずで安心したよ。それと、クロードの想い人は間違いなくお前だよ。初めて会った幼い頃からの拗らせた初恋だ。それくらい信じてやってくれ。」
ああ、肩を持つ気はなかったんだが。
何で俺がこんな事を言わないといけないんだ…
あんまりにも不憫だ。
と、兄はブツブツ言っている。
クロード殿下の想い人が私?
俄には信じがたいのだけど……
本当だったら?私はどうしたい?
考えた途端に、頬に熱が集まる。
でも、兄は何か勘違いしているのではないかな?
ちょっと冷静になれば、クロード殿下が兄にも気を遣っているのではないかと思い当たる。
ああ、婚約者の兄に実は別に好きな人がいるんだとは言えないよね。きっと。兄も怒らせると怖い人だし。
私が勝手に心内で納得していると、兄は感心した様に私のドレス姿を眺めた。
「アリアナ、綺麗だよ。嫁に出したく無いなあ。やっぱりやめるか?」
兄にも随分心配させたんだなと反省した。
兄がいてくれたから、クリストファー殿下からの心ない仕打ちにも耐える事が出来た。
今日は婚約式だけで、終わったら家に帰る予定なのに、凄く寂しい気分になってきた。
「お兄様、わたくしやめて帰ってもよろしくて?」
気が付けば、本音を口にしていた。
お読み頂き、ありがとうございました。
ルーカスは簡単には死にそうではないとご感想を頂きましたが、その通りです。無事でした。
次回もアリアナ視点です。
クロード登場の予定です。




