川に落ちたアリアナ(クロード視点)
ブックマーク等ありがとうございます。
前話の途中からのクロード視点です。
溺れる場面があります。ご注意下さい。
私達はルーカスの特殊部隊に囲まれたままだ。
この状況を打破し、アリアナを助けに行かなければ。焦りが怒りに変わる。
「エリック、ここは任せた。私は追う!」
馬に飛び乗り、前方の土埃を目指し駆け出した。
間に合うか?逃すわけにはいかないと焦りを感じて、手綱を握る手に力が入る。
前方の川に架かる橋の所に人集りが出来ているのを発見し、その集団の中に、アリアナを拘束したルーカスを見つけた。
その中には住民に混じっている影と、周囲に忍び込んでいる影がいる。
どうやら、影が扇動して、橋を塞いだらしい。
住民の荷車が横倒しになり、進路を塞いでいた。
芋が散らばり、人々が拾う為に屈んで道を塞いでいる。
ルーカスは橋の中央で何か叫んていた。
障害物だけであれば、飛び越えていけるが、人々がいるので、躊躇しているのだろう。
今のうちに追いついて、アリアナを取り戻そうと、手綱に力が入る。
その時、パンと高い音がした。ルーカスの武器の音だ。
誰かあの武器で攻撃を受けたのか?
アリアナじゃないだろうな?
焦る気持ちを押さえながら、馬上のアリアナを探す。
すると、突然ルーカスの馬が暴れ出し、アリアナが振り落とされそうだ。ルーカスは馬を鎮める為、アリアナを支えきれていない。
危ない!と叫んだ時には、アリアナは川に落ちていた。
ルーカスも同時に飛び込んでいる。
慌てて、川下に馬を走らせるが、アリアナの姿が見えない。
護衛で付いてきた者の一部には、橋までの間を探させ、川下に向かい、馬を走らせた。無闇矢鱈に水に入ることも出来ず、川面を注視すると、ブクブク泡が出ている所がある。
あそこか?
そう思い、飛び込もうとしたら、水面にアリアナを抱えたルーカスが浮かび上がってきた。
彼が私を確認すると、こちらに向かい、泳ごうとしたが、意識がなさそうなアリアナを抱えたままの体勢では、川の流れに阻まれ、なかなか辿り着けない様だ。
使える魔法がないかと焦るが、水の流れがあり、対象者が動いている状態では難しい。
手を拱いているより、私も川に入り、彼のところまで行こう。そう思い剣を腰から外そうとすると、エリックから止められた。
「川の流れが早すぎる。お前まで流されたらどうする!誰か!ロープを!」
騎士が慌ててロープを持ってきた。
エリックが呪文を唱え、ロープを自在に動ける様に変化させ、それを川に投げた。
ロープはまるで生きている魚の様に自在に水の中を進んで行き、ルーカスの所迄、辿り着いた。
ルーカスはロープを手に取ると、アリアナの体に巻き付け、手を挙げて合図をした。
エリックがまた呪文を唱え、ロープが戻って来る。
ルーカスもアリアナの顔が水に沈んでしまわない様に頭を支え、岸辺まで運んだ。
私の手が彼女に届いた時、ルーカスは私を見た後、アリアナの体を預ける。
隣で騎士が彼に手を伸ばしたが、彼の腕はもう動けなかった様で、間に合わなかった。
彼は彼で、ギリギリの所だった様だ。私がアリアナを受け取ったと見届けたその時、川に流されていった。
一瞬であるが、アリアナを悲しそうな顔で見つめていた。
アリアナを抱えている為、手を出せない私にも目を向け、頼んだと言ったように聞こえたのだった。
エリックと二人で、何とか彼女を川岸に引き上げ、彼女の状態を確認する。
「クロード、弱々しいが息はあるし、心臓は動いている。間に合ったみたいだ。」
エリックが安心した顔で、彼女の手の縛めをナイフで切る。
私はアリアナの顔を手巾で拭きながら、彼女の顔を横に向け、呼びかけてみる。
「アリアナ!」
そんな時、ルーカスを追わせていた影の一人が彼は水に呑まれた後、見えなくなったと報告して来た。
彼の護衛も救助に向かっていたが、もう難しいかもしれない。季節は春とはいえ、雪解けの水が流れ、水はとても冷たかったのだ。
ルーカスがアリアナを危険な目に合わせた張本人かもしれない。だが、彼はアリアナを大事にしていたし、アリアナも珍しく打ち解けた様子を見せていたのは事実だ。
やるせない気持ちを押し隠し、アリアナに向き合う。呼びかけでも、反応は無い。
「水を飲んだか?」
「とりあえず、癒しの魔法をかけておく。」
エリックが癒しの魔法をかけると、少し息が楽になった様だ。
「アリアナ!わかるか?」
彼女の目が薄っすらと開いた様な気がした。
だが、体が冷えている。急いで温めなければ。
取り敢えず魔法で体と服を乾かし、マントに包み込み抱き抱えた。
「城に部屋を用意し、医師を待機させております。」
「ヨハネス殿下、ありがとうございます。お言葉に甘えさせて頂きます。」
エリックが礼を言うと、北の国の一人の騎士が馬車まで案内してくれた。
エリックに後を任せ、一足先に城に向かう。
本当はアリアナを隠していたヨハネスの世話にはなりたくはなかった。だが、アリアナの体の方が大事だと自分にいい聞かせる。
馬車には毛布も用意されており、体が冷え切った彼女を包み込み、膝の上に抱き抱えた。そっと頬に手を当てる。手元に戻ってきたアリアナに安堵するも、今の状況は決して楽観できるものではない。
アリアナの青い顔を見ながら、早く元気な姿を見せておくれ。そう言って、アリアナの額にキスを落とし、私も治癒魔法をかけた。
アリアナはなかなか意識が戻らなかった。
北の国の医師たちも、ここ数日が山場になるだろうと言っていた。
治癒魔法の一番得意な医師が、毎日魔法を使い、北の国で取れる高価な薬草を使った薬も投与された。
彼女は時折薄っすらと空色の瞳を開けるが、すぐに閉ざされる。
いつ目が醒めるのだろうか?
毎日が気が気ではなかった。
その間にエリックが中心となり、鉱山の交渉や外交の話を進めてくれる。
私はアリアナの側にいて、手を握るぐらいしか出来ない。
ヨハネスとは、あの後、非公式の会談を行った。
「世話になった。しかし、何故あの姿でアリアナだとわかった?アリアナが自分から進んで身元を明かしたとは思えないのだが?」
「父が女神の森で保護したのは本当です。父が彼女の荷物をチェックした際に、私が彼女に差し上げていたお手紙をお持ちでした。それに、私も彼女が身に付けていた指輪などの装飾品は卒業式の時の物でしたから、彼女だと信じたのです。」
アリアナが此奴の手紙をなぜ持っていたんだ?
最初からこの国に逃げるつもりだったのだろうか?
「それで、我が国へ連絡しようとは思わなかったのか?」
「アリアナ嬢がご自分のお姿をご覧になって、この姿でアリアナ嬢だと言っても信じてはくれないから、戻るつもりはないから連絡は不要だと仰ったのです。魔法力が落ちていて、姿を元に戻す事が難しいと。そして数日の内に出て行くと仰るものですから、まず彼女を留めて、身の安全を確保する方が大事だと判断いたしました。」
「アリアナを助けて頂いた事には、感謝する。ただアリアナから止められたとしても、一言無事だと教えて欲しかった。」
「アリアナ嬢が望まれなかったのです。お国であんな事になりましたから、公爵家へ連絡をすれば、連れ戻されるとお考えだったのでしょう。私は彼女の望まない事は致しません。」
「………」
「それとルーカスの件ですが…」
「ルーカスは見つかったのか?」
「今のところ、救助されたとか、死体が上がったとの報告はありません。川の流れが早い事と中心部はかなり深いですから、流されてしまったか、底に沈んでいるか……まぁ彼の護衛もいたので、助け出され国に帰っている可能性も否定は出来ないですね。」
「そうか…」
ヨハネスは私に鋭い視線を向けてきた。
「彼は今回暴走しましたが……私達同期の王子達は、誰が暴走してもおかしくはないでしょう。アリアナ嬢が、一生懸命に皆の為に働くところを見ているので。それに貴国のクリストファーが彼女にした仕打ちの数々をこの目で確認しています。貴殿が幾ら守ると仰っても今まで出来なかった事ですよね。公の場で、アリアナ嬢が自らの手でクリストファーを断罪し決闘をされる状況に追い込んだ貴国の王族や貴族達を、我々は信用出来なくとも当然なのです。それは理解していただきたい。彼女が国を出たいと考えるのであれば、私だけでなく、皆幾らでも手助けするでしょう。」
「………………」
正論だった。アリアナから、国内の派閥争いに発展させたくはないので手出し無用と言われ、クリストファーの子供じみた嫌がらせは放置して置いた。もっと幾らでも対処の方法はあった筈と言われれば、反論のしようがない。
「アリアナ嬢が頼らなかった方々を我々が信用を置けるとは思いません。だからこそ、彼女が連絡しないで欲しいと言われれば、当然従いますし、彼女を庇います。これからも。」
背中がゾクリとする。
目の前の男はあまりにも中性的で幼く見えたので、油断していた。
目の前の男も、アリアナを狙う一人だと認識を改めた。
「アリアナは私の婚約者になった。これからは私が守る。心配は無用だ。」
「アリアナ嬢次第ですね。まだ婚約だけですよね。クリストファーが婚約解消した様に貴殿もするかもしれない。私もまだ諦めませんし、他の王子達も同じでしょう。アリアナ嬢が貴殿を望むのであれば、私は諦めなければならないでしょうが……」
私も婚約解消すると思われているのだろうか?
この場に及んでも諦めない王子達がいるのか…
結婚するまでは、気が抜けないな。
「忠告感謝する。アリアナは私が幸せにするよ。貴殿には良い友人として見守って欲しい。」
「私は諦めませんが、今回は引きましょう。次回はもっと上手に匿います。」
ヨハネスは微笑みながら、毒を吐く。
全く、アリアナの周囲には、力がある者が集まってくる。油断も隙もない。
会談を終え、アリアナの側へ行き、手を握る。熱は今日は下がった様だ。
口が乾くからと、湿らせた布を口に時々含ませる。
「早く元気になっておくれ。私のアリアナ」
彼女が意識を取り戻したのは、一週間経ってからだった。
彼女が目を開けた時には、神に感謝した。
私手を握っている事に驚いた様で、何か言いたそうだったが、声にならなかった。
「水でも飲むか?」
そう声をかけ、アリアナの上半身をお越し支えてやる。そして水の入ったコップを口元に運んでやる。
コクリと飲んだアリアナは、ふぅーと息をした。
そして、自分の髪の色と私を交互に見ていた後、思い詰めた顔で私を見る。
「わたくしが川に落ちてからの事を伺ってもよろしいでしょうか?」
「ああ、アリアナが大人しくしてくれるのであれば。その前に、気分は悪くないか?痛い所は無いか?」
「体が少し重く感じるだけですわ。それより皆無事でしたか?」
「我が国の者と北の国の者は皆無事だ。」
「ルーカス殿下は?」
「彼はアリアナを助けた後、力尽き川に呑まれた。現在行方不明になったままだ。」
アリアナは真っ青になっている。
横になる様促し、順番に説明をする。
彼女は聞き終わると「そうですか…」と呟いた。
「ルーカスはアリアナが助かる事を優先したんだ。君は彼の気持ちを考えて、しっかり前を向いて生きて欲しい。戻っておいで。君の居るべき場所はフランべールにある。君の家族も待っているよ。」
そう言って、彼女の目尻に指を当て、涙を拭う。
ルーカスに対してどんな感情を持っていたのか?
問い詰めたい気持ちに蓋をしながら、彼女に微笑んだ。
「落ち着いたら、一緒に国に帰るよ。帰ったら直ぐに私との婚約式だからね。」
そう言って、彼女の手を取りキスを落とした。
お読み頂きありがとうございました。
次回はアリアナ視点の予定です。
お付き合い頂けますと嬉しいです。




