ルーカスの暴走(ルーカス視点)
ブックマーク等ありがとうございます。
ルーカス視点ですが、かなり暴走しています。
溺れる場面もありますので、ご注意下さい。
この回を読まなくとも、前話と次話であらすじはわかります。
梨奈を見失ってから、独自に探していたが、先日北の国に潜らせていた者から、黒髪の少女が王宮で保護されていると報告があった。
何年も前から、梨奈の特徴を伝えていて、見つかったら連絡する様にと伝えていたのだった。
急ぎ、北の国へ行き、その少女が王宮から出て来るのを待つ。今日は王族も民と一緒に作業をする予定があると聞きつけ、待ち伏せしていたのだった。
出てきた少女を見た時は驚いた。
前世の梨奈そのものだったのだ。
衝撃が大きく、その少女が梨奈で、アリアナ嬢は梨奈ではなかったのかと、思ってしまった。
頭の中は混乱するが、よくよく考えると、この世界は魔法がある。アリアナ嬢が姿を変えたとしてもおかしくはない。とにかく、彼女を手に入れる為、部下を動かした。
彼女が向かった作業所らしき建物の近くに行き、部下に通りすがりの者に話しかけさせた。言葉がわからないから、誰か呼んで来ると、彼は作業所へと向かい、作業をしている女性達に声をかけた。
アリアナ嬢だったら、ここまで出てくるだろう。彼女は数ヵ国語ができるのだから。
その間、俺はマントのフードで頭を隠し、木陰で待機する。
少女が側に来て、声をかけて来た。
「何かお困りですか?」
私がフードを外すと、目を見開き、固まっている。
『えっ!ルーカス殿下?本物?』
恐る恐る彼女が尋ねてくる。
俺の名前が出てくるのであれば、間違いなくアリアナ嬢で梨奈だ。
『梨奈、探したよ。アリアナ嬢としての姿もいいけれど、梨奈の姿も可愛いね。高校生の梨奈に会ったみたいだ。さあ、一緒に行こう。』
俺がそう言ったら、彼女は踵を返そうとした。
慌てて腕をとる。
『離して!貴方とは行けないわ。』
『嫌でも来てもらう。』
彼女の腕を取り、このまま連れて帰ろうとしたところに邪魔が入った。
クロードとアリアナの兄が邪魔をしたのだ。
『その娘を放せ。』
何故ここにいる?ここは北の国だ。
それに、彼女の姿は違うのに、何故邪魔をする?
『嫌ですね。彼女は私の婚約者です。行方不明になっていたのをやっと発見したのです。貴殿こそ彼女とは関係無いではないですか。』
彼は剣を抜いた。
私は護衛の騎士に目で合図を送る。
騎士達が剣を抜いて彼等に立ち塞がるが、彼の騎士達も剣を抜いて対峙する。
「彼女は嫌がっているではないか。」
「貴殿には関係ない。邪魔をするのであれば、排除します。」
そう言った俺はは上着の内側から、銃を出した。
この世界では銃は見たことが無い。
だから、自分で設計から始め、試行錯誤の上、やっと去年完成させた物だった。
魔法力の少ない俺にとって、使い勝手が良い武器だったのだ。
俺は腕を上に上げ、銃を上に向け、一発撃った。
パンと辺りに響き、皆が驚いた顔をする。
これがどんな武器なのかと、訝し気にこちらを見る。
俺は銃口をクロードに向けた。
その時、梨奈が叫び、クロードに銃の威力を説明し、注意を促す。
梨奈は銃を知っているから、当然彼等に威力を伝えるだろうと予測していた。
だから、もう一押しと、近くに立て掛けてあった桶に向け、発射する。
ヨハネスも駆けつけて来たが、俺の武器を前に手出しできない。
アリアナは俺を睨みつけていた。
『こんな武器、作ってどうする気?』
『魔法力が少ないならば、補うのは当然だろう?』
『危ない物を作らないで。世界が変わってしまうわ。』
『俺が作らなくともいずれは誰かが同じ物を作るさ。早いか遅いかの違いだ。それに今の所、作ったのはこれだけだ。』
『詭弁だわ。そんな武器、早く仕舞って!』
『梨奈が俺と一緒に来てくれるなら。』
『嫌よ!』
この言葉で、俺の中の何かが壊れた。
ただでさえ、今のアリアナは梨奈の姿だったのだ。
自分の前世の想いが溢れ出し、これ以上彼女と離れる訳にはいかない、嫌と言われても、彼女の本心ではない筈だ、俺と一緒にいる方が梨奈は幸せになれる、梨奈を俺から取り上げる者は皆敵だ。そう思った。
『じゃあ仕方がないな。』
俺は銃を梨奈の顳顬に当てながら、彼女の背後にまわり、拘束した。
そしてクロードに視線を送る。
「彼女の命が惜しければ、剣を捨てて、両腕を上げて下さい。魔法もダメですよ。」
「やめて!クロード殿下と兄を巻き込まないで!」
梨奈が叫ぶ。
だが、目の前の二人は一番の障害だった。
案の定、二人は剣を投げ捨てる。
「クロード殿下、防御魔法は絶対に解かないでください!彼の武器は遠くからでも攻撃できます!」
梨奈が彼等を守ろうとする事に腹を立て、左腕を彼女の首に絡ませた。
彼女の顔が苦痛に歪む。
「彼女は連れていきます。貴方達はそこから動かないで下さい。」
「国際問題になってもいいのか?」
「彼女はリナだ。アリアナ嬢ではない。貴殿から守る為の正当防衛だ。」
「アリアナに武器を当てておいて、何を言っている?ここはお前の国ではないぞ。2ヶ国敵に回す事になる。」
「構いませんね。リナが手に入るのであれば。」
私の特殊部隊の一部が彼等に剣を突きつけるが、梨奈が言った様に防御魔法だけは解いていない様だ。
構わない。
彼等が防御魔法の中にいる間はこちらにも手出し出来ないだろう。
俺はアリアナに武器を当てたまま、後ろに下がっていく。首の縛めは解いていたが、武器はしっかりと梨奈に向いていた。
俺の背後には、護衛がしっかりと守っていて、逃亡の準備を始めている。
俺の行動を見越して動いてくれる優秀な特殊部隊だ。
『リナ、君が大人しく付いて来れば、彼らには手出しはしない。俺も無闇矢鱈に傷つけたくはないからね。』
『どうして?私は貴方と行かないわ。離して!』
『聞き分けがないと、引き金を引くぞ。』
『馬鹿な事言わないで。』
そう言って、梨奈は短剣を俺に突き当てた。
『離して!』
短剣が首元にあるにも関わらず、俺は落ちていた。
『嫌だね。』
『私が刺してもいいの?』
梨奈に刺されても自業自得だ。
今目の前の梨奈の手を離す方が、俺にとっては死に値する。
『そしたら俺も引き金を引こう。君も一緒に死ねば、又やり直しが出来るかもしれない。』
『やり直しではないわ。今の人生は今しかない。この世界の中で、私は精一杯生きている。貴方もでしょう?前の世界でも私の人生に悔いはないわ。貴方が罪悪感に囚われる事はないの。だから、この武器を下ろしてちょうだい。』
罪悪感なんだろうか?
いや、梨奈と一緒に生きていきたいだけなんだ。
『梨奈はどうするんだ?俺に付いて来てくれるのか?』
『私は私がしたい事をするだけだわ。残念だけどこんな事をするルーカス殿下の元へは行けないわ。』
『じゃあ、リナを殺すしかないか。心配しないで。俺もすぐに後を追うから。』
そうだ。一緒に死ねば、また同じ世界に生まれ変わる事ができるかもしれない。
『馬鹿な事言わないで。ゲームの世界とは違うと教えてくれたのは、ルーカス殿下じゃない。死ぬなんて簡単に言わないで。次に生まれ変わるかもわからないでしょう?』
『本気だよ。それともクロードの命を奪う方が先かな?』
『彼は関係ない!私達の前世に巻き込まないで。』
『彼は関係あるみたいだけど。それとこの銃、魔法が効かないんだよね。防御魔法でも防げないかも。』
『嘘!』
『魔法が効かない素材を探してね。時間はかかったけれど、なかなかいい働きをしてくれるよ。先にクロードを片付けよう。』
そう言って、クロードに銃を向けた。
『私も本気で刺すわよ。』
『そうすれば?俺はクロードに向かって撃つだけだ。これでも俺は戦場に出た事がある。銃を使う以上、命がけなのは覚悟しているさ。』
『他の人には一切手出ししないと約束して。』
『それは大人しく一緒に来てくれるって事?』
『………』
『まぁいいや、梨奈が大人しく来てくれれば。悪いけど、手は縛らせて貰うよ。途中魔法を使われても困るからね。』
俺は彼女の短剣を取り上げ、首に巻いていたスカーフで彼女の手首を縛る。
本当はこんな事はしたくはなかった。
でもここで彼女を逃すわけにはいかない。
そうして、騎士が連れてきた馬に彼女を乗せて、私も後ろに乗る。
銃は牽制の為に出したままだ。
さあ、彼女を連れて帰ろう。
クロードの実力があれば、直ぐに追い付かれるだろう。なるべく足留め出来る間に逃げ出した方が良い。
片腕を梨奈の腹を支えながら、銃を持つ。
片手で手綱をしっかりと握って、馬を走らせた。
暫く走った橋の上で、先導の護衛の騎馬が止まってしまう。一体どうしたんだと先頭に出てみると、橋のたもとで荷車が横転し、荷物であろう芋が散乱していた。それを拾おうと人々が屈んで、道を塞いでいる。
「どけ!」
護衛が叫ぶが、皆芋に夢中だ。
後ろから、追手が来ている。こんなところで足留めなど御免だ。
手にしていた銃を空に向けて撃つ。
パンと甲高い音がした後、乗っていた馬が暴れ出してしまった。
片手で手綱、片手に銃を手にしていた為、梨奈を支え切れなかた。馬が前脚を高く上げた時、梨奈の体が馬上から放り出される。
慌てて手を差し伸べたが、間に合わなず、彼女は川に真っ逆さまに落ちていった。
『梨奈!』
俺も迷わず飛び込んだ。
梨奈の体は水流に流されながら、川底へと向かっていく。やっと手が届いたと思った時、梨奈の周囲が光り出した。
一瞬驚いたが、今はそれどころではない。
自分の息も後少ししか持たないだろう。
掴んだ手を力任せに引き寄せ、川面に向けて梨奈を引っ張り上げる。
やっと水面から顔を出し、息をしたが、腕の中にいる梨奈は意識が無い。
こんなところで梨奈を失うわけにはいかない。
やっと会えたんだ。
梨奈だけでも助けないと、また同じ後悔をするだろう。
梨奈の頭が沈まないように支えながら、川岸を目指す。だが流れが早く、意識の無い梨奈を抱えながらは難しい。
岸辺を見たら、一番近い所にクロードがいた。
梨奈が助かるには彼に引き上げてもらうしかない。
そう決断した俺は、クロードに目を合わせる。
すると、ロープが魚の様に泳いで、手元まで届く。
手にすると、普通のロープだ。梨奈の上半身にくくりつけ、片手を上げると、ロープが岸に向かって引っ張られる。俺は梨奈の頭が沈まないように支えながら、岸まで辿り着いた。
クロードとエリックが梨奈を引き上げてくれる。
彼等なら梨奈を助けられるだろう。
それを見たら、力が抜けてきた。
騎士の一人が俺にも手を差し伸べてくれたが、手を掴む力が残っておらず、あと少しのところで離れてしまい、川に流されてしまった。
最後に梨奈を見ると、青白い顔をしていた。
梨奈を頼んだ。そう叫んだが、水音にかき消されていく。
神様、梨奈を助けてください。
頭の中には、自分が岸に上がる事より、梨奈の真っ青な顔で一杯だった。
俺のこの世界での人生はこれで終わりか…
また後悔ばかりだな。
梨奈と一緒に生きていけるのであれば、この世界で生きていく意味があると思った。
自分でも梨奈に執着し過ぎだと自覚はある。だけど前世の記憶が余りにも重かった。
前世では、梨奈を引き留めたばかりに、彼女も一緒に事故に巻き込まれ、死んでしまった。
何故、あの日、あの場所で声をかけてしまったのだろう?機会はもっと前にあったんじゃないか?
何度も後悔したのだが…
今世でも俺のせいで溺れさせてしまった。
どこで間違ったのだろう?
また転生する事ができるだろうか?
梨奈に会って謝りたい。
流されながら、そんな事を考えていたら、意識が朦朧としてきた。
梨奈……
そう呟いた後、完全に意識を手放した。
お読み頂き、ありがとうございました。
次はクロード視点です。




