北の国とアリアナ2(ヨハネス視点)
ブックマーク、評価等、ありがとうございます。
なかなか思うように書けず、更新遅くなり申し訳ありません。
両親との話が終わると、一旦自分の部屋に戻り平服に着替える。シャツとトラウザーズと上着の装飾の少ない普段着だ。
アリアナ姫に会うと思えば、正装でもいいぐらいかとも考えたが、彼女に寛いでもらう為には、軽装の方がいいかと思い直した。
侍従のマルコがそんな僕を生暖かい目で見守っている。
『ヨハネス殿下が服装に気を配るなど、考えられませんね。』
『憧れの方をお迎えしたんだ。少しぐらい気を配らなければ。』
放っておいてくれ!と心内で悪態をついておく。
『殿下が仰ると、お迎えと言う言葉が、他の方の誤解を招きかねません。あくまでもお客様ですよ。殿下の婚約者をお迎えしたのではありませんので、他の方の前ではお気を付け下さい。』
痛い所を突いてくる。
たまたま我が国に来ただけだと。僕を選んでくれた訳ではない。それは重々承知だ。
『わかっている。』
今日中に片付けないといけない書類を片付け、昼食に合わせて、姫の部屋を訪れた。
侍女に取り次ぎを頼み、居間で待っていると、アリアナ姫が寝室から出てきた。
湯あみを終え、着替えたばかりだと言う。
彼女は薄い桃色のディドレスで、可愛らしく、今の姿の彼女を引き立てていた。きっとマリーの趣味なんだろう。だけど、彼女の別の一面を見ることが出来て、頬が緩む。
『姫、お疲れのところ、申し訳ありません。出直しましょうか?』
姫は私に礼を執る。
『ヨハネス殿下、色々とご配慮頂き、ありがとうございます。わたくしは大丈夫ですわ。ですが、姫ではありませんので、リナとお呼びください。』
頑なに認めようとしない姫を見ているとつい笑みが浮かぶ。
人払いを命じ、二人きりにしてもらう。ドアは少し開けていたので、防音の魔法をかけた。
『アリアナ姫、我が国へようこそお越しくださいました。歓迎いたします。』
改めて、歓迎の意を示すと、彼女は頬に手を当て、困った顔をした。
『わたくしはアリアナではありませんわ。リナです。』
『無理に隠さずともいいのですよ。私には先見の能力があります。卒業パーティーの朝、貴女にご挨拶をさせて頂いた時に、私は貴女と父が森の出口で並んでいるところを見てしまいました。』
『先見ですか?』
彼女は首を傾げてはいたが、興味津々という様子で、先を促された。
『ええ、触れた方の未来を、突然見る事が出来るのです。ただ自分の希望した時に見れる訳ではありません。突然イメージが頭の中に浮かび上がって来るのです。』
姫は不思議そうな顔をしている。
人に話しても信じて貰えないと思っていたのだが、姫の前だと素直に話してしまった。
彼女はやっぱり首を傾げている。
やっぱり信じてもらえなかったのか?
話すべきでなかった…後悔の念が浮かんだ。
彼女に視線を合わす事が辛くなり、組んでいた手に視線を落とす。
すると、姫が溜息を吐いた。
ああ、失敗してしまった。そう思った。
『はー。何を言っても無駄な様ですわ。この容姿でアリアナだと見破る方がいらっしゃるとは思いませんでした。先見の力なんてズルいです。』
ズルいと言われ、慌てて彼女に視線を向けた。彼女は両手を口元に当てて、クスクスと笑っていた。
どうやら失敗ではなかったらしい。
彼女が素直にアリアナ嬢だと認める。
『やっとお認めになりましたね。しかし、笑われるとは。』
『ごめんなさい。ヨハネス殿下の事を笑ったのではなく、殿下にバレているにも拘らず、色々と言っていた自分が可笑しくて。』
姫はもう一度溜息を吐く。
『しくじりましたわ。まさかヨハネス殿下にご迷惑をお掛けするなんて、考えてもいませんでしたのに。この姿のわたくしでアリアナだと、お疑いもなく信じられるとは。幾ら先見の能力をお持ちだとしても、この姿では普通は信じないでしょう?』
姫は自分の事をわかっていない。
容姿は変わっても、その意思の強そうな眼差しと、ちょっとした仕草、言動、常に彼女を観察していた僕には、同一人物にしか見えなかった。
先見の能力を打ち明けても驚いたり、否定しないなど、普通では考えられない。姫だからこそ、話してもいいと思ったし、信じてくれると思ったのだ。
『姫こそ、私の先見の能力を疑わないのですね。』
『それは、わたくし自身が信じられない体験をいたしましたから。わたくしのこの姿は意図して変えたのではないのです。転移魔法が失敗して、飛ばされた際、気付けばこの姿に変わっていたのです。自分では変化の魔法を使った覚えはありませんし、そんな余裕はございませんでしたのに。女神の森だからでしょうか?』
そう言って、姫は俯いた。
『わたくしもこの姿に驚いたのです。』
そう呟いた。
ああ、彼女も今の状況は不本意なんだと。
『白薔薇姫としてのお姿はとても麗しく、お美しくいらっしゃいましたが、今のお姿はとても愛らしくいらっしゃいます。ですが、意志の強い瞳は、色こそ違いますが、同じ輝きを秘めていらっしゃる。私は先見がありましたが、普段から姫に接していらっしゃる方であれば、その瞳や仕草やお言葉で、見破る事は可能でしょう。』
フランべールの第一王子や姫の兄君はきっと彼女だと見破るだろう。他国の王子達はどうだろうか?
『わたくしは今の姿のままでも構わないのですが、アリアナだと見破られるのは困りますわ。』
姫は悲しそうに微笑んだ。
本当は帰りたいのではないか?
そんな疑問が頭に浮かぶ。
『姫、ファーガソン公爵家へ連絡を入れておきましょうか?』
母からも連絡をする様に言われていた。
連絡すれば、確実に迎えがくるだろう。彼女の為には連絡をすべきだとわかってはいても、少しでも長く一緒にいたい気持ちが邪魔をする。
『公爵家への連絡は不要です。わたくしは今リナですわ。』
『本当に公爵家への連絡は不要ですか?』
『公爵家へ連絡を入れたとしてもこの姿です。お恥ずかしいのですが、今、わたくしは魔法力がかなり減ってしまい、姿を戻す事が出来ません。ですから、わたくしを保護していると言っても、信じて貰えない可能性があります。それに殿下もご覧になっていたでしょう?わたくし、クリストファー殿下に不敬な事を致しました。もちろん覚悟の上で、公爵家には廃嫡するように伝えております。』
『ですが、フランベール国から我が国へアリアナ嬢を探して保護して欲しいとの依頼がありました。仕事が早いですよね。姫が失踪されたのは昨日だと伺ったのですが。』
フランベール国の意図はわからない。
アリアナ姫を探しているのは間違いないだろう。
だが、罰したいのか?第一王子に嫁がせたいのか?
『全く。困りましたわ。ですが、わたくしの今の姿でしたら、アリアナだとは誰も考えないでしょう。フランベールへの連絡は必要ありません。ただ、わたくしの兄は情報を得る事が得意ですので、油断は出来ないかと。』
『素性は両親にしか明かしておりません。城の者には遠い国からの客人だと伝え、昨日父と一緒だった者には父から私の知り合いの遠い異国の者だったと伝えています。』
『恐れ入ります。ですが、フランベール国から連絡があったのであれば、王宮ではなく、孤児院など市井で保護して頂く方が、身を隠すためには都合が良いのですが。』
『姫を市井で保護など出来かねます。姫を危険に晒すわけには参りません。フランベール国からの問い合わせは、アリアナ嬢は我が国にはいらしてはいないとお答えします。』
『ですが、万一フランベール国と揉める事になれば、ご迷惑をお掛けする事になりますわ。』
『ご心配には及びません。姫がお戻りになりたいのであれば別ですが、我が国は姫を歓迎いたします。ずっといてくださって構いません。それとも何処かへ行く予定、もしくはどなたかとお約束をされているのですか?』
そう、リナと呼んでいた男のところへ行くつもりだったのではないか?そう思うと、胸がチクチクと痛む。
アカデミーでは手の届かない高嶺の花だった姫が、手の届く所にいる、それだけで、彼女が僕のことを意識してくれるのではないかと期待してしまうのだ。
『いえ、特に予定はございません。やっと自由になれたのですから、これからのんびり過ごそうかと、国に家は用意しておりました。ですが、全く違う所に転移してしまったのです。まだまだ修行が足りませんでしたわ。』
彼女は首を横に振りながら、否定をしてくれた。
だけど、修行って…令嬢がする事ではないと思う。
だが、ルーカスと約束していた訳ではないと知り、ホッとする。
『安心しました。リナと仰られていたので、ルーカス殿とお約束でもされているのかと。』
『リナはわたくしの昔の呼び名ですわ。ああ、でもルーカス殿下はわたくしの今の姿をご存知です。彼と約束などしておりませんが、わたくしがこの国に滞在していると知られると、何かと問題になりそうですね。』
ルーカスが今の姫の姿を知っているとは。
それだけでも、二人の関係を邪推してしまう。
『何故、ルーカス殿が姫の今の姿を知っているのですか?』
『以前この姿でルーカス殿下とお会いした事があるので。これ以上詳しくは申し上げられませんが。』
姫は困った様に目を伏せた。
『そうですか。でしたら、ルーカス殿下とフランベール国の動向は注意しておきましょう。ですので、姫には好きなだけゆっくりなさってください。父も喜びます。』
『そう言えば、陛下とは存じ上げず、わたくし、ご挨拶もしておりません。どういたしましょう?』
『山賊だと思われたのではないですか?父はあの見かけと一緒で細かい事は気にしません。両親には晩餐の際にご紹介致します。』
『ふふふ…とても頼もしい頭でしたわ。』
『さあ、難しい話はこれくらいにして、食事にしましょう。お口に合えば宜しいのですが。』
そう言って、食事を準備させた。
二人きりの食事は楽しかった。
姫はサーモンや卵を使ったサンドイッチを美味しいと頬張り、笑顔を見せてくれる。
『北の国のお料理は美味しいですわ。昨日の晩に頂いた、サンドイッチも美味しかったのです。』
昨日って、父が野外で肉を焼いただけじゃないのか?
素朴な料理でも、嬉しそうに食べてくれるアリアナ姫にますます惹きつけられてしまう。
こんなに姫を独占できるなど、思ってもみなかった。
姫を引き留める為には、どうすれば良いだろう?
少しでも長くいて欲しい。
姫を保護したと連絡を入れるべきだとは、わかってはいても、このまま知られずに済めばいいと思ってしまう。
姫を留まらせておく方法を考えながら、何か手掛かりになるものがないかと姫の話を注意深く聞いていて、ふと思いついた事があった。
昼食が終わり、お茶を飲んでいた時に、姫に提案する。
『姫、我が国で働いてみませんか?』
『働く?わたくしがお役に立てますでしょうか?』
『我が国には無い斬新な発想をお持ちですから、アドバイスを頂けるだけでも、有難いです。もちろん謝礼も致します。』
『謝礼など…では、お世話になった分のお礼を兼ねて、可能な限りお手伝いいたします。』
『良かった!実は姫からアドバイス頂いた羊毛製品以外に輸出できる様な産業がないかと考えています。詳しくは明日以降、お話しさせてください。』
『わたくしでお役に立つ事ができれば、嬉しいですわ。』
姫がニッコリと笑ってくれた。
これで、暫くは姫を引き留める事ができそうだ。
これから先、フランベール国への連絡をどうするかや、姫の身の安全の確保など問題は山積しているが、目の前の姫を守る為であれば、全力を尽くすしかない。
頑張っていこうと決心したのだった。
お読み頂き、ありがとうございました。
アリアナの姿が変わった理由は本人もわからない何かの力が働いたというご都合主義ですみませんm(__)m
アリアナ視点でもう少し詳しく書けたらいいなとは思っています。
今回、ヨハネスの妹マリーを登場させたかったのですが、そこまで行き着かず…
次回も不定期更新とさせて頂きますが、お付き合い頂けますと嬉しいです。




