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ねぇ、戻りたい【電撃大賞4次落選作】  作者: 衍香 壮
Seventh Single「24/7」
82/83

Track81「リスタート」

「皆、お腹空いたってよー、どっかの誰かさんが失踪するから」


「いつものことだろ」


「たしかに。それで皆が待ってるのもいつものこと、だもんね」


 幸せは有限だと誰かが言った。青春を駆け抜けた日々も、現在進行形の日々だって幸せだったなら、俺の人生には、この先不幸しか待っていないのかもしれない。自身も随分と変わったな、なんて思う。目の色を馬鹿にされて髪を染めた学生時代、俺はこんな風に後ろ向きの考え方をしていなかった。


「かっこいい」と言われるだろう。驚く顔が見られるだろう。そんな無謀な自身も嫌いではないが、歳を重ねるごとに臆病になっていく自身も嫌いではなかった。嫌いでない、と言うには語弊がある。けれども、今この瞬間を愛しいと思えるようになったあたり、大人になった証拠なのだ。


「先輩『24/7』気に入りました?」


「気に入ったも何も愛してるよ」


「愛の言葉頂きましたー!」


「うっせぇ、にしても、よくやろうと思ったよな。ライブ直前に新曲出来ましたってふざけてんのかよ」


「そこは、ほらポテンシャルの高いウチのメンバーを信じてってやつ?」


「ぼっさぼさの髪で申し訳程度にスーツ着て『この歌やりたい!』ってガキかっての」


「あー! もう! それは忘れてって言ったでしょ!?」


「あ、おい!? 前見ろ馬鹿!」


 ユヅの感情を表すかのように車が蛇行する。次の瞬間クラクションの合奏が始まっていた。


「お前なぁ」


「先輩、俺24大好きですよ。今でも先輩のファンです」


「なんだよ突然」


「なんか言いたくなっちゃって」


〝24/7〟は〝24 hours/7 days a week〟の略語である。意味は〝常に〟〝いつも〟バンド名にした時は、楓が「俺達はいつも一緒だー、常に楽しいことを追い続けるぞー」なんて、やる気のない口調で豪語していた。意味が分かっていない悠が合いの手を入れるものだから安定のグダグダ感で、それが凄く楽しかった。


 メンバーもバンド名も変わってしまったが根底にある想いは変わらない。久しく忘れていたが、ユヅが言いたいのもそういうことなのだろう。


「また弾いてくれよ。俺もユヅの演奏好きなんだ」


「あはは、日本一のボーカルが歌ってくれるなら」


「じゃあ、まず日本一にならなきゃな!」


「彩斗ならなれるよ!」


「はい、ダメ―」


「え?」


「日本一になるのはノアブルだろ。俺は日本一のボーカルになるんじゃなくて、日本一のバンドのボーカルになんの。そこ間違えんなよ」


「先輩……男前!」


「だからお前は、安全運転心掛けろって言ってんだろうが!? また車恐怖症なったらどうすんだよ!?」


「その時は俺がまた治してあげますよ!」


「嫌な頼もしさだなぁ!」


 ハンドルを握りながら鼻歌を歌い出すユヅに苦笑を返す。


「おい、モモから催促のメッセがきてるぞ」


「じゃあ飛ばして帰る?」


「安全運転だって言ってんだろ、鳥頭が」


 俺達は、いつでもやり直せる。常にリスタートの分岐点に立っているのだ。踏み出すか、踏み出さないかは自分次第。けれど、少しでも前を見据えることが出来たなら、立ち上がってみてほしい。きっと()のようなお人好しが手を引っ張ってくれる筈だから。

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