Track78「絆」
「もういいよ。好きに話せ」
「笑わなくていいんです。先輩は無理に笑ったりしないでください……俺、知ってます。先輩が〝四季〟に会うまで一回も笑わなかったこと、笑えなかったことを知ってるんです。だから笑えない時は無理に笑わないでください。俺は先輩に無理させる為にココにいるんじゃないんです……先輩が、もう一度心から笑えるようになる手伝いをしたいんです」
そうだ。当初の目的はそうだった。感動の再会を求めていたわけじゃない。あの時「死んでもいいや」って思っていた俺の世界を変えてくれた人に恩返しをしたいと思ったのだ。
曖昧な美しさで象られた世界で生きていくのは難しい。自分という輪郭を保ち続けながら途を歩んで行くのは、とても難しいのだ。けれども、その時、誰かと繋げる手があるだけで〝手〟の輪郭は保たれる。笑い返すことで〝笑み〟という貌が出来る。それらが少しずつ形を為して〝心〟が出来るのだ。時には、それが心無い言葉で歪んでしまうこともあるだろう。けれども唯一無二の〝誰か〟がいたのなら、繋ぎ止めて貰えるのだ。恋人、友人、家族、絆は何でもいい。俺は「死にたい」と思いながら生きるこの人の〝そういう人〟になりたかった。かつての楓先輩がそうであったように。
「だから泣きたい時は泣いてください。笑いたい時は笑って。また24で歌ってた時みたいな先輩になってください。今度は変な女に引っ掛からないでくださいね」
「そんなこと覚えてんのかよ」
「先輩の女の引き、最悪でしたよね。メンヘラにビッチに、あとなんでしたっけ?」
「あー、DVもいたな」
「今度は俺が見定めますね」
「それは頼もしいな」
柔らかい吐息に笑声が混じっている。幾許か軽くなった空気に彼が窒息することは無さそうだ。
「あの時、楓に押された瞬間、トラックが目の前を凄いスピードで通り抜けていった。俺が見てたのは、その時、楓がお前の手を掴んだとこまでだ。多分、お前のことも助けようとしたんだと思う。間に合わなくて、それでも何とか出来ないかってクッションになるような体勢になったんだろうな」
「あの一瞬で、そんなこと……」
「アイツは勘がいいからな。多分、何か異変に気付いてたんだろ。でも、だからって人の為に動けるのがアイツの凄いところだよな。多分、悠を助けられない代わりに自分も一緒に逝ったんだろ……だから、ユヅが責任を感じることはないんだ。お前は、お前の生きたいように生きろ」
だったら俺は彩斗の傍にいたい。ノアブルのメンバーと一緒に24では実現できなかったステージを見てみたいのだ。
「俺が怒ったのはな、やっぱり言ってくれなかったからだ。真実を知りたかった。あの時、聞けなかった言葉の続きを……お前が現れるだけで書き換えられた筈だから。でも、すぐ出て来なかったあたり、シャイなユヅらしいよな」
「すみません、でした……」
「いいよ。さっさと謝ったらいいのに、お前全然分かってねぇんだもん。俺も言葉が足りなかったし、感情的になり過ぎた。ゴメンな。色々協力してくれてありがと。にしても悲しいなー、ユヅは俺に何年も会えなくて平気だったのかー」
「違います!! 違いますよ!?」
慌てて否定を繰り出す俺に「冗談だ」と彼が紡ぐ。立ち上がった彩斗はロフトに上ると、アコースティックギターを片手に階段を駆け下りてきた。




