Track74「卒業」
「あー、なんてか。手荒な真似して悪かったな。ウチ新入部員いなくてさ、焦ってたんだよ。俺達が卒業したらバカ一人になるからさ」
「バカこと七浦悠でーす! よろしくね!」
「悠、もう離してやれ」
「了解!」
この人は〝バカ〟で紹介されて本当にいいのだろうか。寝癖のように撥ねまくりの頭部にも疑問しか湧かない。赤茶色の髪は爆発していたが、前髪だけは綺麗にピンで留められていた。バツを模した留め方が可愛らしい。制服は指定のズボンしか身に付けていない為、着崩しているの域を越していた。解放されたせいで、どことなく手持ち無沙汰になる。先程のやり取りを見ていれば、三人が仲良しであることが伺えた。
「もう七月じゃん? 外バンの方でも抜けた奴がいて、夏休みのライブの問題もあってさ。入らなくてもいいから助っ人頼めないかな?」
「まぁ、新入部員が集まらなかったのはアヤのせいなんだけどねー」
「仕方ねぇだろ! イジメられてんの見たら放っておけないし」
「イジメ?」
「ちょっと聞いてやってよー、コイツ校門前で絡まれてる一年生を助けてやったんだー、でも一年が一年に絡んでるところに蹴りかましたもんだから悪い噂が立っちゃってぇ」
唐突に肩を組まれ驚きで目を瞠るも、〝楓〟と呼ばれていた人は、離してくれそうな気配もない。僕は大人しく耳を傾けていた。
「なんでそれで……」
「人は見た目で人を判断するんだよぉー」
納得してしまった。金髪に金色の瞳では目立つのも仕方あるまい。ましてや悪い噂ほど信じてしまうのが人というものである。かく言う自身も、その一人だった為、何も言えなかった。
「俺、二四岡楓ね。ギターやってんの。悠はドラム。君は何君?」
「黄瀬結弦です」
「助っ人、頼まれてくれない?」
*
「それが彩斗……先輩と俺の出会い。それから俺は結局入部して、外バンのメンバーにもなった」
「外バンって?」
「部活内で組むのを内でやるバンド〝内バン〟、外で組むのを〝外バン〟って言うんです」
透子さんの疑問に答える。成る程、と紡ぐ彼女は僅かながら首を縦に動かしていた。
「先輩と一緒に居ればイジメられることもなくなって、そのうち学校が楽しく思えるようになりました。季節が巡って、彩斗先輩と楓先輩が卒業してからも、俺達はバンドを組み続けていました。
楓先輩はメジャーデビューするってフリーターになったんですけど、彩斗先輩は大学に進学して、それでもライブを一緒にやっていました。事故に遭ったのは高二の夏。あの日はライブ帰りでした」
皆の顔を見渡せば、神妙な面持ちで耳を傾けてくれている。それに申し訳なさを抱えながらも、ほんの少し嬉しかった。




