Track72「贖罪」
「えーっと、コーヒー、コーラ、ブドウ。隼君は何飲む?」
「ココアで」
「意外と乙女なチョイスだね」
「別にいいいじゃないですか」
「悪いなんて言ってないけど!?」
「いつ話すのかと思ってました」
「彩斗にも聞いて欲しかったんだけどねー、無理そうだから」
「アヤさんは、もう歌わないんですか?」
「歌わせるよ。俺はノアブルのマネージャーだから。でも今は無理強い出来ない。二度と来んなって言われちゃったんだもん」
排出されたココアをコーヒーと共に彼に渡す。ブドウジュースとコーラは、やけに冷たく、脇に挟んだカフェオレが、やたら温かく思えた。
「さ、行こうか」
「来んなって言われたのに出来るんすか?」
「皆の力を借りて、かな。彩斗にとってノアブルは宝物になってる筈だから」
「ふーん」
エレベーターに乗り込むも、彼が、それ以上口を開くことは無かった。どこか安堵している自分が居る。これ以上、自身の口から己を傷付ける言葉を発しなくて済んだのだ。胸を撫で下ろすには十分な理由だった。
彩斗にとって俺はもう忌むべき存在なのだろう。あの人は楓先輩と親友だった。ただの後輩より彼に戻って来て欲しかった筈だ。贖罪に彩斗を助けたい、なんて思っていたが、とんだ傲慢だ。俺なんかに誰かを助けられるわけがないのに。
「お待たせ―、モモちゃんがコーラで、幸君がブドウジュースね」
二人にペットボトルを渡し、一番奥の席に着く。隼君も透子さんにコーヒーを渡すと、ココア片手に椅子へ腰掛けていた。
皆、いい顔になったと思う。目線は未来に、表情は明るく、生きる為にココいる。そんな彼らに不義を語るのは、ほんの少し恐怖を覚えるものだった。
「じゃあ、ゆっくり飲み物でも飲みながら聞いて貰えるかな?」
「え、一体なんの話よ。まさかデビューがなしになったとかじゃないわよね?」
「違う、違う。皆に関係があるけど、関係ない話だよ」
「それ僕達が聞く必要あります?」
「無いと思ったら退室してくれて構わないよ。でも彩斗を助ける気があるんなら聞いといた方がいいかも。俺が今から話すのはね、彩斗と俺の物語」
各々、疑問符を浮かべている。まぁ当然だ。俺は彩斗のファンであったことしか話していないのだから。
「まず先に謝ります。俺の名前は二階堂四季ではありません。本名は黄瀬結弦。彩斗とバンドを組んでいたメンバーの一人でした」
少し、ほんの少し前の話をしよう。俺が、まだ根暗眼鏡だった頃の話だ。あの時の俺は少し前の皆のように、世界を恨んで生きていた。




