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ねぇ、戻りたい【電撃大賞4次落選作】  作者: 衍香 壮
Sixth Single「vague grace」
72/83

Track71「冬色」

 *


 季節は巡る。秋空は、すっかり冬色に染まり、紫と橙に彩られていた街は、クリスマス特有のイルミネーションに表情を変えていた。空は度々、落涙する。月の雫は段々、極点の氷に近付いていくかの如く冷ややかになっていった。


 あれから約二ヶ月。俺は彩斗と顔を合わせてすらいない。正確には会って貰えないのだ。毎日、足を運ぶも、自室から返事が返ってくることは無かった。


 彼の部屋に鍵が掛かっていることはない。今迄、一度たりとも無かった。だからこそ平然と入室し、お道化ていられたのだ。しかし、退院してから捻ったドアノブは何かに阻まれたかのように、回しきることが出来なかった。まるで彼の心の扉も閉まってしまったかのようだ。隙だらけの人間が隙一つ無くなると、こうなるのか、と呆ける。きっと前までの彼は誰かに助けて欲しかったのだ。だからこそ扉には鍵を掛けず、待っていた。


 四季を受け入れてくれたのも、そういった理由からなのだろう。そうでなければ、あんなに怪しい提案に乗るものか。彼はお人好しではあるが、馬鹿では無い。自ら、どうにかしたいと思っていたからこそ、手を引っ張ってくれる人間を待っていたのだ。まるで、あの日の俺のように。










「そんなガッカリした顏しないでよー」


 レコーディングスタジオにはノアブルのメンバーが揃っている。彼らは彩斗が来なくなってからも練習と称し、彼を待ち続けていた。それでも彩斗は姿を現さない。入室すると同時に落胆を瞳に宿すものだから、俺が肩を落とすことになった。


「四季君、彩斗君は……」


「今日も、ね」


 おずおずと口にした言葉を透子さんが呑み込む。それに対し曖昧な笑みを浮かべる俺を、隼君が睨めつけてきた。言いたいことは分かっている。早く真実を話せ、とでも言いたいのだ。彩斗が居る時に、なんて思ったけれど、それも叶いそうにない。俺は覚悟を決め、口を開いた。


「皆に聞いて欲しいことがあるんだ。長くなるからミーティングルームに移動しよう」


 察したらしい隼君が逸早くベースの片づけを始める。皆もそれに倣うよう各々片付けを始めた。


「そうだ。何か飲み物でも買ってこようか。隼君、手伝ってくれるー?」


「分かった」


「皆は先に移動しておいて。えーっと何飲みたい?」


「私はホットコーヒーで」


「僕はブドウジュースがいいです」


「私はコーラ」


「若い子は寒い日でも関係ないねー! コーヒー、ブドウ、コーラね」


 片目を閉じてから退室する。彩斗と歩んだ時、効いていたのは冷房なのに、今はもう暖房が掛かっていた。隼君が何も言わず俺の後を付いてくるものだから気まずさを覚える。緘黙に響くは足音ばかり。革靴の乾いた音が、やけに大きく木霊しているような気がした。

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