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ねぇ、戻りたい【電撃大賞4次落選作】  作者: 衍香 壮
First Single「ラクリマ」
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Track6「四季」

「少しでも歌いたいって思ってくれてるなら歌ってよ。彩斗は歌いたいんでしょ?」


「……勝手に呼び捨てしてんじゃねぇよ」


「俺のことも四季って呼んでいいからさ!」


「そういう問題じゃねぇ」


「あれ? 違った?」


 こんなことを言いたいわけではない。こんな言葉を紡ぎたいわけではなかった。


 何故この男は、こんなにも俺に拘るのだろう。あっさりと諦めてくれたなら、縋りたいなんて感情が芽生えることもなかったのに。


「俺を利用したらいいんだよ」


「え?」


「俺はファンだからさ、彩斗の歌が聞けたらそれでいい。彩斗が元気になってくれたらそれでいい。彩斗が幸せでいてくれたら尚良し。そんな欲塗れで出来てんの。だから、そんな気持ちを利用して社会復帰したらいいんじゃない? 本当は外に出たいんでしょ?」


「そんなこと出来ない!」


「……なんで?」


「人を利用するなんて……そんな……!」


「なにそれ」


 目を剥いた彼が次の瞬間、噴出する。くつくつと漏れる笑声が何を意味するのか、俺には分からなかった。


「出会ったばっかの俺にまで優しいとか、どんだけお人好しなわけ?」


「お人好しとかじゃねぇよ! 人として当然の……」


 言い返している最中、視界が黒暗に染まった。双眸を覆う彼の手に慄きながら、大人しく息を呑む。これから何をされるのか分からない為、下手に動くことも出来なかった。


「なに、してんだよ」


「んー、ちょっとそのままで聞いててね」


「意味わかんな——」


「お願いします。俺の歌を歌ってください」


「……頼み方おかしくね?」


「真面目に、なんて柄じゃないんだよ。だから許して」


「断ったら?」


「一生この手を離してやんない」


「きも」


「ひどいなぁ」


 彼は本当に傷付いているのだろうか。変わらない語調に、俺は今後のことを考えてみた。その結果出た答えは——


「はぁ……俺、お前の曲好きだよ」


「え?」


「歌ってやるって言ってんの」


「ほ、ホントに!?」


 俺の目元に在る手を乱暴に弾き、彼の顏を見据える。吃驚を映し出す様は酷く滑稽だった。


「仕方ねえだろ。お前と一生一緒とかキモくて無理」


「ありがとう」


「その代わり途中で放り出すなよ」


「一度抱えた荷物を放り出すわけないでしょ」


「荷物じゃねぇし!」


「いった!?」


 怒りのままに頭を叩く。彼の旋毛目掛けて撓った平手は、狙い通り乾いた音を鳴らした。


「暴力反対」


「暴言反対」


「暴言吐いてるの彩斗じゃん!?」


「はぁ? 知んね」


「黒髪でもヤンキーのまんまじゃん!?」


「あー、歌うならまた染めなきゃな。金に」


「二十五なのに!?」


「お前だって二十五なのに金じゃねぇか」


「お揃いだね」


「きも」


 決まり文句のように繰り出される「ひどいなぁ」に舌を出す。そんな俺に右手を差し出した彼は握手を求めていた。


「よろしく」


「よろしくな、四季」


 邂逅は俺の日常を変えてしまうのだろう。心を占めるのは恐怖。外の世界は恐らく、もっと……そこまで考えて思惟することをやめた。


 逃げることに慣れてしまった俺は変われるのだろうか。ふと窓へ目を向ける。空を泳ぐ鳥は自由に羽を伸ばし、差し込む陽光を浴びていた。野生の動物は悩みなんか無さそうで羨ましい。そんなことを考えていれば溜息が零れる。少し早まってしまった気がして、訂正しようか否か迷いながら俺は四季を仰いだ。当然、そんなこと言える筈もない。


「どうしたの?」


 そんな俺に笑むのは、金糸の悪魔だった。

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