Track62「正体不明」
「黄瀬 結弦?」
心臓が嫌な音を立てる。慌てて写真へ視線を落とすと、幾許か若い彩斗さんの外に同世代だろう男性が三人写っていた。裏面には「24/7」の文字と、撮影日だろう日付。意味が分からず立ち尽くしていれば、隼さんの溜息で現実に引き戻された。
「はぁ……幸、誰にも言うなよ?」
「これ、どういうことですか? もしかして偽名?」
「だろうな。免許証の生年月日もアヤさんより二歳若い」
彼に言われたことを確かめるべく生年月日の欄を探す。明記されていたのは隼さんの言うように、二階堂さんが口にしていた年齢より二つ若かった。写真の日付は六年前。彩斗さんが語った自身の過去と合致していた。ということは、二階堂さんは何者だ。写真に彼らしい人間は写っておらず、謎は深まるばかり。けれども、これはファンが入手出来る代物ではない筈だ。
「隼さんは知ってたんですか? 知ってたから二階堂さんの手帳を……」
「知ってたよ。だから今がチャンスだと思った。アイツが手帳を置いてったからな。中を見てやろうって」
「二階堂さんの正体は分かったんですか!?」
「いや。とりあえず誰にも言うな。何か言うならアイツの正体が分かってからだ」
彼が僕の手から写真と免許証を抜き取り手帳に挟む。その様をジッと見つめながら、奥歯を噛み締めた。
確かに、その通りである。今はデビューライブに向けて、という大事な時期。ましてや今日いざこざを起こしたのは僕だし、一件落着した後に出すには何とも不可解な難問に思えた。
「分かりました。あの、サヤさんって誰なんですか?」
「……もう、その名前を出すなよ」
「はい」
「兄貴だ。俺にベースを教えてくれたのがサヤ兄なんだ」
「なんだ……ライブの後、呟いてたのは、彩斗さんとお兄さんが被っただけなんですね。僕、隼さんにも何かあるのかと思って勘違いしてました。すみません。お兄さん、ライブ見に来てくれるといいで……」
「死んだよ。何年も前に」
「え……?」
扉の開閉恩に慌てて背後を仰ぐ。そこには二階堂さんがおり、僕の背筋は粟立った。もしかしたら今の会話を聞かれていたのかもしれない。そう思えば思うほど、彼が正体不明の化け物に思えてならなかった。




