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ねぇ、戻りたい【電撃大賞4次落選作】  作者: 衍香 壮
Fourth Single「Rejection」
62/83

Track61「罰」

「幸、ありが……」


「僕、本当はピアノ弾けるんです」


 彩斗さんの声を遮り、僕は固い音で罪を告白した。と同時に、和やかだった空気が凍り付く。僕は、どんな酷い罵倒も受け入れるつもりで頭を下げた。


「本当にごめんなさい。楽器の音が聞えないのは本当です。でも彩斗さんと仲良くなりたくて、僕は、わざと下手くそに弾いてました」


「幸、それは吐いたらいけない嘘だよな」


「……はい」


 極点の氷のように冷ややかな声音だった。これは本当に彩斗さんを怒らせてしまったらしい。僕は震える手で拳を握り、不安を無き物にしようとした。


「罰として、ノアブルを抜けることは許さない」


「へ?」


「あと本気のピアノを聞かせてくれ。いいよな、四季?」


「うん、じゃあレコーディングスタジオに行こうか。合わせもする予定だったしね」


「怒らない、の?」


「怒って欲しいのか?」


 慌てて頭を上げた先には、綻んだ大人達の顔がある。僕の問いに答えてくれた彩斗さんは、優しい眼差しを携えていた。頭を振る僕の旋毛を大きな掌が覆う。見上げた先には、鈍色に映える金糸が在った。


「反省してるんだろ?」


「うん」


「自分で分かってる奴を怒る理由はないよ。その代わりやりたいことがあるんだ。付き合ってくれるか?」


「はい……! あ、じゃあ僕、楽譜取ってきます。皆さんは先にスタジオの方に行っていてください」

「幸君! 隼君も呼んできてくれる?」


「分かりました!」


 踊る心を携えながら廊下を駆ける。エレベーターを待ちきれない僕は階段を駆け下り、ミーティングルームへと走り抜けた。途中擦れ違う人に、ぶつかりそうになりながらも駆ける足は止めない。どんな僕も受け入れてくれた人達に、僕の音を聞いて欲しかった。


「隼さん! 皆さんレコーディングスタジオにいるので一緒に行きましょう!」


 勢いよく扉を開け中の様子を伺う。隼さんは、からし色の手帳を眺めており、僕の姿を確認すると慌てて閉じた。


「何を見てるんですか?」


「なんか置いてあったから。誰のかなって。四季さんのっぽいから返しといてくれる?」


「分かりました」


 にべもなく頷き、受け取ろうとした矢先に手帳を落とす。受け取り損ねたせいでページが開き、挟まっていたものが床に散乱した。


「すみません!」


「いや、俺も手が滑って」


 怒鳴られるかもしれない、と身体が固くなる。急いで膝を折り落下物を拾おうとした僕の頭上に降り注いだのは、やる気のなさそうな声だった。


「なんですかね、これ。写真? と免許証?」


 裏返した先には二階堂さんの証明写真が張り付けてある。けれども書いてある名前は『二階堂四季』ではなかった。

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