Track5「俺の歌」
「俺は別に彩斗さんが引き籠ってるのを責めに来たわけじゃありません。メンバーに……ボーカルになって欲しいとお願いしに来たんです」
「無理なんだ……」
「まずやってみましょうよ! やめるのはそれからでも出来ます」
「……ダメだ」
「何がですか?」
「あの日から〝車〟がダメなんだ」
「車?」
「ああ……お前だって知ってんだろ? 24のメンバーは帰る途中トラックに突っ込まれて、俺以外全員死んだ」
「はい」
「俺の目の前で皆、死んだ。それからアスファルトの匂いがダメなんだ。車を見ると身体が……動かなくなる」
こんなことを誰かに告げる日が来るとは思わなかった。それでも、諦めて貰うには全て話すしかない。尤も、一番知られたくない秘密を知られてしまったわけだし、今更、痛くも痒くも無かった。
「なら外に出なくても構いません」
「え?」
「ココ、レコーディングの機材揃ってますよね?」
「あ、ああ」
「なら歌だけ別録りします。ライブとかは、そういうわけにもいかないと思いますが、それまでに克服するってのでどうですか?」
「でも……!」
「俺、ボーカルは彩斗さんが良いんです。俺の歌は彩斗さんに歌って欲しい」
「なんでそこまで……」
囁きを聞き逃すことのない彼が優しく笑む。
「それにニートなら時間の都合もつきますよね! 都合がいいです!」
「お前、最低だろ」
「ひどいなぁ」
少しでも信頼出来るかも、なんて思った自分を恥じる。コイツは単純にデリカシーがないのだ。
「実を言えばメンバーは揃ってるんです。彩斗さんの他に募集を掛けて人数は集まりました。ココに呼んでもいいですか?」
「なんで俺の家なんだよ!? それに俺はやるなんて一言も……」
「まずはネットで活動しようかと思ってるんです! 彩斗さんがライブ会場まで行けるようになったらライブもやりたいですけど……」
「聞けよ!?」
「目指すはメジャーデビュー」
「は?」
「24と一緒です!」
「はぁ!? なんなんだよお前!? 勝手に決めんな!」
「俺は作詞、作曲家兼マネージャーです。あ、彩斗さんと同じ歳だしタメでいいよね!」
「それ訊く気も許可とる気もねぇだろ!?」
「ピチピチの二十五歳です」
「俺と同い年なら知ってるよ!? てか、なんで俺の歳知ってんだよ!?」
「ファンだから!」
「ファンは魔法の言葉じゃねぇよ!」
「まぁまぁ落ち着いて。んで、連れてきていいの? ダメなの?」
「ダメに決まって……」
「じゃあ外に出る?」
「そもそも俺はやるとは……」
「でも歌いたいんでしょ?」
喉に張り付いた言葉が、口を突いて出てこない。本当の心を露わにしてしまいそうな俺は唇を噛み締めた。